Googleストリートビューで3年かけて米国を“横断”、仮想の長旅から見えてきたこと

アフリカに住む米国人が「Google ストリートビュー」を使って、米国の東海岸から西海岸まで3年もかけて“横断”した。裏路地に入り込み、ときには迷いながらの長旅から見えてきたのは、報道やソーシャルメディアでは得られない本当にリアルな米国の姿だった。いったいどんな「旅」だったのか。
Googleストリートビューで3年かけて米国を“横断”、仮想の長旅から見えてきたこと
ヴィンテージ・カーが緑のなかを走り抜ける。ヴァーモント州ピッツフィールドにて。IMAGE CAPTURE COURTESY OF ©2018 GOOGLE

トランプ大統領のツイートからキム・カーダシアンのInstagramまで、インターネットは米国について多くのことを教えてくれる。ただし、この国を本当に理解するには、ソーシャルメディアからログオフして、道路を走るほうがいい。しかも、それには自宅のソファーから離れる必要はない。

マシュー・マスプラットは、全米各地を巡る3,700マイル(約6,000km)の旅をした。だが、そのすべては「Googleストリートビュー」を使ったものである。

しかもマスプラットは、ルワンダのキガリに住んでいる。それでいて、米国最東端であるメイン州ウエスト・コディ・ヘッドからワシントン州オゼットまで、16州を通って米国を東から西へ横断する放浪の旅を始めたのだ。

「これは実験であり、演習でした」とマスプラットは語る。「デジタルツールを長期にわたって使うことによって、米国について、そして米国内で何を見つけることができるかを試したのです」

マスプラットは、それを実行した初めての人物かもしれない。もちろん、クリックの速さを競って、サンフランシスコからニューヨークまでを90時間で走り抜けた若者たちもいる。しかし、本物の「道路の旅」とはレースではない。実のところ、その対極にあるものだ。

ゆっくりと裏街道をゆく旅路

速度を落として、裏通りをゆっくり進む。たぶん、少し道に迷うこともある。「リズミカルなペースでクリックして道を進みながら、ヴァーチャルな世界に没頭していました」とマスプラットは語る。「ひとつの場所が次の場所に変わっていき、すべての風景がつながっていくのを感じることができました。まるで本物の旅のように」

米国出身のマスプラットがこのアイデアを思い付いたのは、キガリで開発コンサルタントとして働いていた2015年2月のことだった。ホームシックになったマスプラットは、Googleストリートビューを開いた。

マスプラットは以前、ジャック・ケルアックの小説『オン・ザ・ロード』を読んだことがあった。さらに、『ナショナル・ジオグラフィック』誌の探検家であるマイケル・フェイが1999年に中央アフリカで行なった、「メガ・トランセクト調査」にも興味をそそられていた。これはコンゴ川流域を通る2,000マイル(約3,200km)の直線を徒歩で進み、地域の野生動植物を調査した旅だ。同じようなことをオンラインでやってみたらどうだろうか?

Googleマップのルート検索によると、米国の東海岸から西海岸までの道路をクルマでたどる旅は、ノンストップであれば2日強で完了する。しかし、マスプラットの旅は3年かかった。平均時速20~30マイル(約32~48km)で移動したことになる。

快適な自宅のオフィスにいる状態で、すべての道をゆっくりとたどった。例外は、ワイオミング州の岩山「デヴィルスタワー」の近くを通った数分間で、このときは時速150マイル(約240km)まで加速した。

理由のひとつは、契約していたルワンダのインターネットプランの制約だ。通信量が1日に1GBを超えると、普段でもどうにか我慢している1.5Mbpsの速度が、ゼロ近くまで急激に下がってしまうのだ。

一方でマスプラットは、主要なハイウェイを避けることによって、わざわざ旅を難しいものにしていた。道路がストリートビューの対象になっているかどうかは事前に確認しているが、やむなく引き返すこともある。地図上を飛び越えることを自ら禁じているからだ。

マスプラットは頻繁に停まっては、自分の周囲にあるものに関する情報をWikipediaで検索したり、スクリーンショットのかたちでスナップ写真を撮影したりした。

メイン州にあったトウモロコシを宣伝する看板や、ヴァーモント州の緑の山々を走り抜けるヴィンテージ・カーなど、地元の特色を反映する風景を撮影した(写真家のジャッキ・ケニー、ジョン・ラフマン、マイケル・ウルフなども、同じ目的でGoogleストリートビューを利用している)。マスプラットはこれらの画像を、道中で感じたさまざまな想いとともに、「Medium」に定期的に投稿した

荒廃した街が続くという現実

マスプラットの旅は2018年8月で終了した。彼はこの旅によって、故郷であるボストンとは大きく異なる米国の各地に対して目を向けるようになったという。それらは、自分がこれまで住んだことのあるすべての場所とも違う世界だ。

滅びつつある中西部の町についてはもちろん聞いたことがあり、数カ所を訪れてきた。しかし不思議なことに、何時間も費やして、ひとつの荒廃した町から別の荒廃した町へとクリックを続けていると、そのことが痛切に感じられたという。

「ストリートビューの地平線に見える隆起が、さらに別の荒廃した町になることが絶対確実だとわかっているのは、とてもむごいことです」とマスプラットは言う。

マスプラットの試みは、ソーシャルメディアやオンラインニュースに特有の、絶え間のない冗談やおざなりな反応とは違う新鮮なやリ方で、インターネットを使う方法を表している。もっともっとスローダウンすれば、有意義な出会いがあることを示しているのだ。

「外国に住んでいるときに、これほど米国の姿を見せてくれるものはほかにありません」とマスプラットは述べる。「CNNでもなく、『ニューヨーク・タイムズ』紙でもなく、Foxでも、Facebookでも、Twitterでもないのです」


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TEXT BY LAURA MALLONEE

TRANSLATION BY MAYUMI HIRAI/GALILEO