実録:Twitterを“脱出”して「Mastodon」に移行したら、デジタルライフに活気が甦った

荒らしや中傷が多く、複雑になってしまったTwitterに嫌気が差したって? それなら「Mastodon」がある。非中央集権のオープンソースSNSであるMastodonは、Twitterユーザーの受け皿として2017年に話題になった。このMastodonに『WIRED』US版のエディターが“引っ越し”をしたところ、デジタルライフに活気が甦ったのだという。いったいどういうことなのか。
実録:Twitterを脱出してMastodonに移行してみた結果
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わたしがかつて愛したTwitterは、ひどい場所になってしまった。いまやTwitterは、政治的な話題でタイムラインを荒らしたり、陰謀ネタを広めたりするためのツールと化している。こんなふうになったのは、ごく最近のことだ。

Twitterでは、世界中の暗いニュースがひっきりなしに流れてくる。それだけではなく、自分のお気に入りの人や意見の合う人が陰口をつぶやいたり、誰かを攻撃したりしているのを目にすることにもなる。そんな状況が、わたしの精神状態や心の健康をむしばむようになった。こんな思いをするためにTwitterに参加したのではない。

いまのTwitterは、映画『ゴーストバスターズ2』のストーリーを思い起こさせる。わたしたちの誰もが、ネガティヴという名のスライムが流れるデジタルの川沿いを歩いているのだ。

だが、企業としてのツイッターの経済的な成功は、ユーザー数に大きく左右される。このため、無作法なユーザーを排除しようというインセンティヴが生まれることは、ほとんどない。Twitterのルールを破っている人たちでさえ、追い出されることはないだろう。彼らが有名な人物であれば、なおさらだ。

そこでわたしは、ゴーストバスターたちがするであろうことを実行した。古い建物を壊し、自分の運命を自分の手に取り戻すことにしたのだ。こうしてわたしはTwitterの利用を(ほぼ)やめてしまい、「Mastodon(マストドン)」に参加した。

中央集権ではないSNS

Mastodonは、Twitterに代わるソーシャルネットワークサーヴィスとして人気が高い。少なくとも、ファシストがほとんどいないソーシャルネットワークを好む人たちの間では、だ。Twitterにうんざりした人たちが試しに使ってみたことがきっかけとなって、2017年のマスメディアで大きく取り上げられた。

まず、Mastodonとは何なのかを説明しよう。Mastodonは、コミュニティによって運営されるオープンソースのマイクロブログサイトだ。ユーザーは、「トゥート」(Twitterの「ツイート」に相当)したり、ほかのユーザーの投稿を「ブースト」(Twitterの「リツイート」に相当)したりできる。

Twitterとよく似ているが、1つのサーヴァーで運営されているのではない。「インスタンス」と呼ばれる複数のサーヴァーで運営されており、インスタンスごとに独自のルールと管理者が存在する。そして、これらのインスタンスが「連合」を形成することで、サーヴィスとしての一体性が確保されている。

すべてのインスタンスを管理する中央サーヴァーは存在しない。このため、あるインスタンスの管理者がインターネット接続料金を払わなくなったり、ドメインの更新を忘れたりしても、ほかのインスタンスはそのインスタンスから半ば隔離された状態にあるため、影響を受けることはない。

シンプルさを台無しにしたTwitter

17年には一部のTwitterユーザーが一斉にMastodonに移ったが、これを一時的なブームにすぎないと見る人もいる。また、すでに絶滅した大型哺乳類を名前の由来とするMastodonを、同じように絶滅する運命にあるソーシャルネットワークだと切り捨てる人もいる。

だが、自分の運営するインスタンスを維持するためにお金を払い続ける管理者がいる限り、Mastodonのネットワークは、どれほど拡大や縮小を繰り返しても停止することはない。またオープンソースであるため、その気があれば個人で独自のインスタンスを立ち上げることもできる。

メインのインスタンスは「mastodon.social」で、新参者はここを利用するのが無難だろう。わたしの新しいハンドルネームは「@bnys@mastodon.social」だ。

ここまで挙げてきたような点が、わたしにとってはたまらなく魅力的だった。Twitterがやっていることには、こうした魅力はない。それどころかTwitterは、シンプルさが売りだったプラットフォームを、この数年間で台無しにしてしまった。「お気に入り」の変更も文字数の拡大も、わずらわしい「おすすめユーザー」機能の導入もそうだ。

また、ツイートの表示順を時系列からアルゴリズム優先に変更し、タイムラインをわかりにくいものにしてしまった。極めつけは、ユーザーに不便をもたらすAPIの変更を実施し、サードパーティーのTwitterクライアントを破滅に追い込みかねない状況にしたことである。忠誠心の高いユーザーでさえ、うんざりしたとしても不思議はない。

Mastodonでは、このようなことはまったくない。メインのインスタンスは、投稿内容がTwitterより厳しいルールで管理されており、ホロコーストを否定する文章やナチスの画像などを投稿することは禁じられている(ただし、記事執筆時点では、メインのインスタンスでの新規ユーザー受け付けは再び中止されている)。

別のインスタンスに友達がいたり、メイン以外のインスタンスに参加したかったりする場合は、新たにホームグラウンドとするインスタンスを簡単に探せるツールを利用すればいい。「スタートレック」やアニメといったニッチなテーマのインスタンスもあるため、メインのインスタンスが新規ユーザーを受け付けていなくても、Mastodonのネットワーク(「Fediverse[フェディヴァース]と呼ばれる)に参加できる。

うまくつくられたMastodonのシステム

Mastodonに参加すれば、いろいろなことに気づくだろう。Mastodonのユーザーは、いい人たちだ。連合を形成しているネットワークには、英語、日本語、スペイン語のインスタンスがあり、テクノロジーやオープンソースが好きな人たちがさまざまな投稿をしている。

同性愛者やトランスジェンダーの人たちに対してもとてもフレンドリーだし、どのような神経学的特性をもっている人でも気兼ねはいらない。ファーリーズ(擬人化された動物のキャラクターを好むファンダム。日本でいう「ケモナー」)も、もちろん歓迎だ。

見たところ、有能なアーティストが自分の作品を公開する例が増えている。ほかのソーシャルメディアから追放された性産業従事者も、Mastodonのインスタンスをホームグラウンドにしている。もちろん、可愛いネコの写真もたくさん投稿されているから、心配は無用だ。

さらに素晴らしい機能もある。微妙な内容を投稿するときに警告タグを付け、その内容が表示されるには承認が必要と設定できるのだ。このためほかのユーザーが、あなたの長ったらしい愚痴や、政治的な話や、新作ドラマのネタばらしなどを思わず目にしてしまうことがない。

Mastodonのシステムは、よく考えてから投稿することをユーザーに奨励するようにつくられており、自己中心的な考えや、何の根拠もない話を投稿しにくい仕組みになっている。視覚に障害がある人のために、投稿する画像に説明文を付けるのも実に簡単だ。Twitterはこの機能をデフォルトで有効にしようとさえしない。

新しい街に引っ越してきたような気分

わたしが昔のホームグラウンドを心から懐かしむ唯一のもの、それは友達の存在だ。

MastodonにはTwitterの友達を探すためのツールが用意されているが、Mastodonを使っている友達はまだ多くない。注意深く手間をかけてつくってきたTwitterのフォローリストも無用になってしまった。数人の友達をMastodonに誘うことはできたが、Mastodonでのやり取りはまだ限定的だ。

だが何よりも素晴らしいのは、ソーシャルネットワークを変えたことで、わたしのデジタルライフに活気が甦ったことだ。不安や苛立ちを感じながら自分のツイートをチェックし、自分のパーソナルブランドを維持しようと努めていた数年間が終わったいま、まるで、自分を知る人が誰もいない新しい街に引っ越してきたかのような気分を味わっている。

そしてこの街では、誰もが新しい友達をつくろうとしているのだ。こうした感覚こそ、われわれがもともと、こうした場所に参加しようと思った理由だったのではないだろうか。


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TEXT BY BRENDAN NYSTEDT

TRANSLATION BY TAKU SATO/GALILEO