ミニレビュー

ライブ配信の声をいい音で。4つの録り方ができる本格USBマイク「Uber Mic」

パソコンから手軽に録音やライブ配信を始めたいときに使えるUSBマイク。その名の通り、USBケーブルでパソコンに繋ぎオーディオデバイスとして使用できるマイクのことだ。配信に使うPCデバイスというと、USBヘッドセットなどを思い浮かべるかもしれないが、今回紹介するのはDTM製品を手掛けるM-Audioによる本格派コンデンサマイク「Uber Mic」だ。

Uber Mic(右)

M-AudioはDAW向けの音響機器を開発しているメーカーであり、オーディオインターフェイスやMIDIキーボードなどが主力製品だ。Uber Micは、16mmの大型振動板によるマイクカプセルを3つ搭載。集音範囲を決めるマイクの指向性は、単一指向性、無指向性、双指向性、ステレオの全4パターンから切替えできる。オリジナルADCを搭載し、最大48kHz/24bitまでの録音に対応する。周波数特性は30Hz~20kHz。8月に発売され、実売価格は12,800円前後。

今回は「音声録音と生放送」にスポットを当てることにした。筆者は音響エンジニアでもあり、2003年頃から録音を始めWebラジオも制作・配信してきた。ネットTV、Webラジオ、公開録音、ボイスサンプルといった一連の制作経験の中で時代の変化を肌で感じてきた1人として、Uber Micは非常に興味をそそられる製品。今回は音楽寄りの記事にはならないが、YouTubeなどでライブ配信をしたい方に、参考にしていただけたらと思う。

もちろん、本機は歌の録音やアコースティック楽器の収録にも活用できる。卓上スタンドはベースを外してマイクスタンドに接続することもできるし、付属のマイクスタンドエクステンダーを使えば、マイクのみをブームスタンドに直結するようなスタイルも実現可能だ。

主な使用イメージ

ProToolsなど、すぐ使えるバンドルソフト

Uber Micの外形寸法は約11.4×27.3cm(直径×高さ)、重量は約0.7kg。箱から出すと、まず非常にガッシリとした作りに価格を超える物を感じた。スタンドは重量級で机に置くと十分な安定感がある。マイクの角度はスタンド左右のネジで調整・固定が可能だ。

Uber Mic

付属のUSBケーブルはマイク側の端子がmini-BでL字型タイプとなっており専用仕様だ。接続はマイクの底面に挿し口がある。コードのメッシュ加工はノイズ対策だろうか。ヘッドフォンは同じ底面側に3.5mmのステレオミニ端子を設けている。

背面には、電源ランプ、指向性切替えノブ、録音レベルノブがある。前面には、ヘッドフォンボリュームノブ、Mic-USBのブレンドを調節できるノブ、さらにミュートボタン、ディスプレイを装備している。各種ノブは摘まみやすい適度な大きさだ。ディスプレイは視認性がよく、ヘッドフォン音量/録音レベル/指向性の状態が一目で分かるのが嬉しい。

背面
前面のボリュームノブなどの部分
Mic-USBブレンドの調節ノブ

Uber Micは、バンドルソフトも充実。業界標準のDAWであるPro Toolsの無料版「Pro Tools|First M-Audio Edition」が使えるのだ。他にも音楽制作に役立つ、アンプシミュレーター「Eleven Lite」エフェクト・プラグイン、約2,000のプリセットを収録した最大64ボイスの4系統マルチティンバー音源モジュールプラグイン「AIR Xpand!2」がバンドル。さらにアンビエントサウンド、シンセ、パッド、ループからドラムのワンショットまで収録した 2GBのサウンドライブラリまで付属している。

オーディオインターフェイスにバンドルされているDAWとして、Pro Toolsが選ばれているケースはそう多くはない。ただ、M-Audioは元々Pro Toolsにゆかりがあるメーカーだ。振り返ると懐かしいのだが、今から10年以上前Pro Tools 8以前はDigidesign製のオーディオインターフェイスがないとPro Toolsを起動することすらできなかった。なので、Pro Toolsを始めたい一般ユーザーはDigidesignのインターフェイスを買うことでPro Tools(厳密にはPro Tools LE)を始める人が多くいた。ただ、もう一つの選択肢としてM-Audioのインターフェイスを購入するという道があった。それは知る人ぞ知る「Pro Tools M-Powered」だ。当時、宅録デビューにあたりDigidesign のM-BOXシリーズを買うかM-Audioを買うかで迷った方も多いのではないだろうか。そんな訳で、M-Audioが業界標準のPro Toolsをバンドルに選ぶのは自然なことと筆者は受け止めた。

なお、今回はアカウント登録の関係で、バンドルのPro Tools|Firstではなく、手持ちの有料版であるPro Tools 11を使用している。Pro Tools|Firstは、最大トラック数や入力数が有料版に比べて少ないものの、16トラックが使用でき、4ch同時録音ができるなど、録音に関する基本的な機能はカバーしており、今回のようなライブ配信の使い方では大きな差はなさそうだ。

普段はMacでPro Toolsを使っている筆者だが、今回は本マイクのユーザー層を考えてWindowsで試すことにした。メインのノートPC(CPU:Corei7-4710MQ メモリ:4GB×2)にPro Tools 11をインストール。ラインセンス認証のためのUSBドングルiLok2を挿して準備OK。Uber MicをPro Toolsで使うには専用ドライバーが必要。本国のサイトからドライバーをダウンロード&インストールした。

Pro Toolsは「セッション」と呼ばれる楽曲作成のためのファイルを元に録音編集を行なう。そのセッション作成時にサンプリング周波数や量子化ビットを選択するのだが、なぜかサンプリング周波数がグレーアウトして44.1kHzから変更できなかった。どうやらPro Toolsを立ち上げる前にコントロールパネルの「M-Audio Uber Mic」から目的のサンプリング周波数を選んでおくことが必要なため、今回は48kHzを選んだ。録音場所は自宅の防音室に併設された簡易録音ブースで行なった。普段は防音室側にMacとオーディオインターフェイスがあり、通線口を介してブース側のマイクやヘッドフォンアンプを使えるようにしている。トークバック回線も準備しているが、今回はそれを封印。PCも含めて録音ブースに持ち込み、システムを一部屋で完結させた。PCは、設置スペースの関係で、床の絨毯にオーディオボードを敷いて置いた。

録音ブースの構成

セッションにモノラルとステレオのオーディオトラックを立ち上げて、Uber Micの録音を準備。録音レベルノブを上げると自分の声が聞こえた。本機はマイクで拾っている音を直接聞くのはもちろん、マイクからPCへ行ってDAWから戻ってきた音だけを聞いたり、双方を任意にブレンドして聞くこともできる。Mic-USBノブを回すことで、そのバランスを調整可能だ。

PCからの戻り音だけを聴いてみると、最初はレイテンシーが気になった。自分の喋った声が少し遅れて聞こえる状態だ。そこで、Pro Tools側のH/Wバッファサイズを初期値から2桁の小さい値にするとほぼ気にならないレベルまで抑えられた。しかし、PC負荷が高まるため冷却ファンが大きな音で回っていた。この辺りは、マシンスペックごとにバランスのよい値を探って欲しい。単にトークやセリフを録るだけならPCからの戻り音を聞く必要はないので、Mic-USBノブは最大までMic側に回しておいて(ゼロレイテンシーモニター)問題ないだろう。この設定で録音を行なった。

本マイクの魅力的なところは指向性を4パターンも切り替えられることだ。USBマイクにおいて指向性変更機能は決して珍しくないが、4パターン装備しているのは数えるほどしかない。せっかくなので、筆者がお喋りした音声を公開したい。

4モードの音の違いは?

まず、素の音を聴いていただくべく、挨拶などを録音してみた。指向性は単一指向性を選んでいる。セッションは、48kHz/32bit浮動小数点数で作成。書き出し(バウンス)は48kHz/24bit。Pro Tools側でEQやComp処理をしていない完全な素の音を用意した。波形編集ソフトでノーマライズ(音が歪まない限界まで音量を上げる)だけは行なっている。

録音時の様子

【録音サンプル】
あいさつ(48kHz/24bit)
※音声中では「ハイレゾではない」と言っているが、実際は生データをそのままアップしたハイレゾ音源
aisatsu_onshitsu.wav(19.79MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
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続いて、指向性の変化を確認していきたい。こちらも同じく素の音になる。まず単一指向性を聞いていただこう。マニュアルでの名称は「カーディオイド」となっている。

【録音サンプル】
単一指向性/カーディオイド(48kHz/24bit)
cardioid.wav(20.02MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
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多少マイク正面から外れても音の芯がちゃんと録れているのが分かった。シビアな指向特性ではないようだ。ある程度身体を動かしながら喋るネット生放送などの配信にも適当だと思われる。

次に双指向性を録ってみた。マニュアルには「フィギュア8」とある。

【録音サンプル】
双指向性/フィギュア8(48kHz/24bit)
figure8.wav(13.41MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
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こちらは、向かい合ってのトーク収録で活用できる。宅録で自主制作のラジオなどを録音するときに、マイクスタンド・マイク・ケーブルといった機材を2セット以上用意するのはスペース的に大変なことも多いだろう。双指向性を使えば、机にUber Micをポン置きするだけで終わりだ。なお、音声では真後ろに移動したときの声が大きく太いが、スペースの都合でマイク距離がどうしても近くなってしまうのでこのような音になっている。

続いて、無指向性。マニュアルには「オムニ」とある。

【録音サンプル】
無指向性/オムニ(48kHz/24bit)
omni.wav(18.40MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
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本当に360度、音の隙間がないことに驚いた。内蔵のマイクカプセル3つでこれを実現しているわけだ。例えば、テーブルの真ん中にUber Micをポン置きすると、クロストークの多人数番組を録音できる。その場合、録音レベルは話者に関係なく一定なので、声が大きい人は離れて座るなどの配慮がいる(その逆も然り)。マイクを何本も設置するのが難しい宅録では嬉しい機能だ。

最後にステレオ。マニュアルでの名称も「ステレオ」となっている。マイク正面に向かってステレオの音場を録音可能。小規模会場でのライブ録音(あるいは配信)やギターの弾き語りなどでも活用できるだろう。

【録音サンプル】
ステレオ(48kHz/24bit)
stereo.wav(23.18MB)
※編集部注:48kHz/24bitの録音ファイルを掲載しています。
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ライブ配信に使ってみた。聞き取りやすい音質

マイクの基本性能や機能を実感したところで、ライブ配信も試してみた。SHOWROOMのブラウザ配信で使ってみると問題なく使用できる。音飛びやフリーズなども起きなかった。

SHOWROOM配信中の様子

見栄えとしては、マイクの寸法的に配信映像に映り込むのはほぼ確実と思われる。しかし、背面にはUBER MICの青いランプがクールに光っているし、シルエットもプロっぽくてカッコいいので遠慮無くカメラに映して、むしろ見せびらかすくらいでいいかもしれない。同時並行でiPad mini 4から視聴してみたが、声の特徴や言葉の立ち方がよく映える「声に向いたマイク」だと思った。ミュートスイッチは、急な咳払いや離席の時にとても役に立った。マイク表面にあってミュート時には青点滅しているので一目で分かるのが素晴らしい。

録音の音質については、まず声の輪郭や特徴が非常に分かり易いマイクという印象だ。高域(耳の感度が高くなる数kHz付近)に適度なピークがあるので、音量をそれほど上げなくても喋っている内容が聞き取りやすい。低域はEQ(ローカット)未使用にもかかわらず、声に重苦しい感じがほとんどなく意外だった。録音する場合は、後から適切にイコライジングした方がよりよい結果にはなるだろう。一方、ネット生放送ではPCに直付してそのまま配信するため、素の状態でもこのくらいスッキリした声が録れるのは魅力的だ。帯域バランスは価格相応といった印象で、原音そのままとはいかないものの、声をちゃんと伝えるマイクとして的確な性能を持っている。S/Nやレンジ感は必要十分と感じた。

一つ付け加えておくと、添付の取扱説明書がとても丁寧で分かりやすかったのも重要なポイントだ。DTMユーザーなら同意をもらえると思うが、海外メーカーの機材は初心者にとって使用のハードルが高い製品が多い。経験上、日本語マニュアルが無かったり、あったとしても現地のマニュアルの直訳で説明も適当であり理解に苦しむケースも珍しくなかった。Uber Micの取説は、日本人が読んでも、初心者にとってもすんなり理解できる言葉で書いてあるのは信頼できる。

マニュアルも分かりやすい

Uber Micは、PCと直結して手軽に使えるマイクとしてぜひ注目して欲しいアイテムだ。デザインやノブの配置、ディスプレイの搭載など使い勝手や機能性は優秀で、初心者にも優しいマニュアルもあり安心して導入できる。これからライブ配信やWebラジオをやってみたい方、シンプルなシステムで音楽制作を始めたい方、Uber Micで一歩踏み出してはいかがだろうか。

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Uber Mic

橋爪 徹

オーディオライター。ハイレゾ音楽制作ユニット、Beagle Kickのプロデュース担当。Webラジオなどの現場で音響エンジニアとして長年音作りに関わってきた経歴を持つ。聴き手と作り手、その両方の立場からオーディオを見つめ世に発信している。Beagle Kick公式サイト