『ゴキブリ』は嫌われ虫の代表格と言っても過言ではないだろう。確かに、あの色と動きの不気味さといったら筆舌に尽くしがたい。見つければ新聞紙、もしくは殺虫剤を手に「悪・即・斬!」だ。しかし、ゴキブリであると言う理由だけで殺生はいけない。

むしろゴキブリ側から見れば、姿を見ただけで殺そうとする人間のほうが恐ろしい存在だろう。大小、種別にかかわらず命は大切にしなければならない。今回はひとつ、そのことが良くわかる実話をお届けしたい。ゴキブリが耳の中に入ってしまった哀れな少年の話である。

・少年Kとゴキブリの出会い

これは30代男性(Kさん)が、子どものころの体験を聞き取ったものだ。少年のちょっとした悪戯(いたずら)が引き金となった、ゴキブリによる逆襲譚。ある日のこと、ホースで水を撒いていた少年Kくんの視界にゴキブリ入ってきたと言う。

そこで、追い払ってやろうと水をかけたそうだ。子どもゆえの、ちょっとした出来心だったのかもしれない。エイヤッと水をかけ続けているうちにゴキブリは姿を消した。「どっかに行ったぞ~」と気を緩めていたK君。そのあと大変になることも知らずに……。

・耳から出てきたのはゴキブリ

ほどなくして、K君の耳の奥でガサゴソという音がし始めたという。いまだかつてない状況に少年は焦った。耳をふさいでも頭を振っても鳴り続ける激しいガサゴソ音。「ナンジャコリャー」と言ったか言わずか知らないが、母親に相談。取り急ぎ耳鼻科に行くことになったそうだ。

不安でいっぱいになりながら、耳鼻科で耳を差し出す少年K。すると医者はCD-ROMのような形をしたライト越しに、ピンセットを持ち出してヒョイっと耳の中から何かをつまみ出した。

出てきたものはそう、ゴキブリだ。茶色の、羽を持たないタイプのものだったようで、体長が2センチ弱あったように記憶しているとのこと。「お医者さんが簡単に取り出したのですごいと思った」とKさんは当時を振り返る。記者としては、ゴキブリが耳に入るほうがすごいと思うのだが。

・ゴキブリや小さな虫は耳に入りやすい? 

しかしながら、どうやら寝ている間などにゴキブリや、そのほかの小さな虫が耳に入るケースは少なくないようだ。けれどK君の場合は寝ていた訳ではない。ホースで水を撒いていた隙に耳に入ったと考えられる。しかも飛べないゴキブリだ。K君の体を這ってわざわざ耳の穴に入ったとでもいうのだろうか。

一体全体、どうしてそんなことが起こったのか……真実は誰にもわからない。K君はその後、消毒のために数回に分けて耳鼻科に通ったそうだ。「ゴキブリに水をかけたせいかも」とKさんは気に病んでいたが、その気持ちもわからないではない。

確かにこの話を聞いた後では、ゴキブリの姿を見ても対峙するのに躊躇(ちゅうちょ)してしまいそうだ。皆さんはいかがだろうか。万が一、耳にゴキブリそのほか、虫が入った場合は焦らず耳鼻科で診てもらってくれよな。

執筆:K.Masami
イラスト:稲葉翔子