都会での生活に疲れると、誰でも気分転換に出かけたくなるもの。観光ガイドブックをめくってみたり、パワースポットを探してみたり、いざ「自分探しの旅」へ…。

あれ、そもそも旅で自分探しなんてできるんでしょうか?

今回は、海外でプロのバレエダンサーとして働き、現在はフリーランスとしてエンジニアリングや雑誌制作などにも携わる筆者が、これまでの旅の工夫や海外生活の経験から『自分を探さざるをえなくなる旅』をするための4つのステップをご紹介します。

ステップ1:縁もゆかりもない異国の地を旅する

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Image: Sun_Shine/Shutterstock.com

あなたがいま街中にいるなら、あたりを見回して、少し想像してみてください。

もしも目に入る看板や標識が、すべて見たこともない文字で書かれていたとしたら、あなたはどう感じるでしょうか?

きっと、あなたは本能的に身構えて、その文字の一つ一つをじっと見つめなおすことでしょう。違和感だらけの風景に驚きもしない街の人たちを見返しては、なにか自分だけが置いてけぼりにされているようにさえ感じるかもしれません。

私の場合、ポルトガルに移住したときがそうでした。

ただ単に知り合いが少なかっただけでなく、ごった返す人ごみのなかで、一人取り残されたような時間が永遠に続く…これが、初めての海外生活です。それはちょうど、厳しい寒さが肌を刺す真冬の世界に、夏服で飛びこむようなもの。

そんな経験の中、自力で毎日を生きのびる必要に追われると、一人で生きていく難しさを実感できます。

言葉も文字も違う国を旅すること。これが、自分自身を信頼し、他人のありがたみを実感するために欠かせない自分探しの旅のエッセンスです。

ステップ2:知人と地図に頼らない

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Image: everst/Shutterstock.com

文化も習慣も異なる世界に来た、あなた。ポケットから現地のSIMカードが入ったスマホを取り出し、Googleマップを見て行き先を確認。さあ、自分探しの旅の始まり始まり…おっと、バレエダンサー流の自分探しはそんな甘くはありません。

せっかくの異国の旅。異国の風景を脳裏にくっきりと焼きつけるには、どうすればいいでしょうか?

私はヨーロッパ各国やトルコ、イスラエル、ヨルダンなどの国を旅したことがあります。その時まず意識したのは、一人で旅に出ることです。

一人でいる時間というのは、孤独なもの。一人になって初めて、現地の人間と交流できればいいな、という他人への関心も生まれるのではないでしょうか。

さらに、一度試してほしいのは、地図を見ないこと

友人について行ったり、地図を見たりしながら歩いたりすると、周囲への注意力が散漫になり、場所を記憶する能力も低下します。

地図に頼りっきりでは、自分がどこを歩いてきたのか、どんな人とすれ違ったのか、それを考える旅にはなりにくいと思うのです。

そもそも、地図アプリを見て目的地に着けるのは当たり前。

自分探しの旅では、観光ガイドに頼らず、全て自分で決めていく。自分だけの道を進んで行くのはどうでしょう。

(もちろん、治安の良し悪しだけはあらかじめ把握しておいてください)

ステップ3:普段考えつきそうなアイデアをあえて選ばない

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モンペリエの街並み
Image: RossHelen/Shutterstock.com

普通の観光客とは一味違う旅ができるようになると、だいぶ自分探しの旅らしくなってきてきます。 ですが、旅は何も現地に着いてから始まるものではありません。

家を出てから家に帰るまでの間、どうせなら、移動手段や日常にありふれた道具の使用も見直して、旅を楽しみたいものです。

ここでオススメするのは、飛行機を使わない旅、あるいはイヤホンを使わない旅です。

普段の生活でもそうですが、いつもならバスを使う道を歩いてみると、見落としていた店や空間に出会うことってありますよね。飛行機をやめてバスや電車に乗ってみると新しい発見があるかもしれません。

10代で南欧を旅したときのこと。

マルセイユからバルセロナに移動する際、飛行機を使わずローカルの電車を使ったのですが、たまたま途中で乗り換えたモンペリエという街が想像以上にシックな雰囲気で、あっと驚いたことが今でも記憶に残っています。

また、海外では、日本ではどこでも買えるような食品や雑貨が手に入らなかったり、突然停電や断水に見舞われたりすることも。私自身、こういった経験やハプニングがなければ、普段なら気づきもしない困難を乗り越える方法や生活のヒントを見つけられなかったはずです。

飛行機やイヤホンは、ほんの一例にすぎません。たとえばWi-Fiを使わない、スーツケースを持っていかないバックパックの旅などにもぜひ挑戦してみてください。

普段の自分が考えそうな、ありきたりのアイデアに、ちょっとした「揺れ」や「ノイズ」を加えること。これが、自分探しの旅の隠し味です。

日本と海外の違いを知るプロバレエダンサーが教える、すぐできる生活改善4つのヒント

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ステップ4:赤の他人と旅をする

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Image: franz12/Shutterstock.com

ここまでのいろんな工夫を試してみても、まだ自分の殻を破りきれなかったら。

あくまで私の想像ですが、自分探しの旅をしたいという方には、感情面で内に秘めた思いや長期間にわたるストレスを溜めこんでしまっていることが多いのかもしれないと仮定して…。

そんな方にとって、もっとも勇気が必要で、そしてもっとも効果のあること。それは、旅先で出会った人と一緒に出かける(旅に出る)ことではないでしょうか。

私がジョージアの首都トビリシでバレエダンサーとして働いていた頃のこと。スケジュールは大抵、翌日のものまでしか発表されず、次にいつ休日がとれるのかも定かではありませんでした。

当初は、決められないことがストレスに感じることもありましたが、次第に慣れ、その経験が今のフリーランサーとしての働き方にも活きています。

一方、日頃ガチガチのスケジュールを組んで仕事をしている方は、その日の「偶然」に振り回されるのをストレスに感じるはず。

そんな予期しない出来事によるストレスから解放されるためには耐性をつけること。予期しないことが起きる状況に身を置き、まずは経験してみるのも必要だと思うのです。予期しない出来事が起きない、なんてことはありえないのだから。

また、旅先で出会った赤の他人と時間を共有するという経験は、キャリアの面でもメリットがあります。

外の世界の人の人間性や文化について知る貴重な材料になります。もしかすると忘れかけていた夢や希望を掘り出してくれる大事なヒントが得られるチャンスになるかもしれません。

無論、中には旅行者をつけねらう人間もいるので、安易に気を許してはいけません。ときに自分を防御しすぎるあまり、自分自身を痛めつけるのが人間というもの。

「それもいいね」という寛大な心を持てるようになる旅ができれば、それは唯一無二の自分探しの旅といえるでしょう。


survival(生存競争)よりも、performance(仕事ぶり)にフォーカスできるほうが、人生は楽しいものです。旅をすることは人生の縮図そのもの。そう思えるような旅ができれば、その旅の記憶のなかに、きっと探したい自分が見つかるのではないでしょうか。

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鷲見 雄馬(すみ・ゆうま)

開成高校卒。東京藝大中退。オランダ国立バレエ学校を経て、ジョージア(旧グルジア)国立バレエ団に入 団。プロのバレエダンサーとして、モスクワ・ボリショイ劇場など世界各国で踊る。2018年3月に帰国し、現在フリー。ダンサーとしての活動のかたわら、雑誌編集や執筆、チラシデザイン、新規プロジェクトの企画・運営を手がけるなど、多彩な分野で活躍中。

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