・「できない」ことが「できるようになる」こと

・心に優しい方法で「できるようになる」こと

・「できるようになる」ことで幸せを感じること

(「はじめに」より)

これらが本書の目的だと語るのは、『できるようになる! ~心に優しい「能力UP法」』(柳沢大高著、ぱる出版)の著者。

サン・マイクロシステムズ株式会社をはじめとする外資系IT企業に勤務後独立し、「ITで人類に貢献しよう」と意気込んでいたものの、その困難さを痛感して挫折。

以後は「直接人のためになる仕事がしたい」と思い、弁護士を目指したという異色の経歴の持ち主です。

ある日、勉強中に「法律家の論理的思考方法は、プログラミングのオブジェクト指向と同じ」だと気づいたことがきっかけで、IT技術と文系学問を混ぜた能力開発法の研究に専念。その結果、独自の学問「Abilt習得工学」を形成したのだとか。

筆者は長年、人が成長するのはどうすればいいのだろうか? を考え続けてきました。その過程で、自分自身が必要とされるスポーツや仕事だけをこなし、なんとか現状を「しのいで」成長してきただけだと気づきました。

しかし、しのいで生きていくのは疲れます。ですので、積極的に「できるようになる」本質的な方法を研究し続けてきたのです。

そして、さまざまな学問(心理学、行動科学、脳科学、論理学、コンピュータサイエンス、情報工学 etc…)を研究し、「人が成長するため」にしぼって融合した結果生まれたのが、「Abilt理論」(能力習得理論)です。

そして理論を実践してサポートする「Abiltシステム」も開発し、自ら実験し結果を出しました。(「はじめに」より)

きょうは第3章「『やればできる!』を現実にさせる思考 ~【思考する方法】作戦を立てよう~」のなかから、「効率的に能力を引き出す思考を持つ」に注目してみたいと思います。

そのベースになっているのは、自分が決めた期間と時間で、できたことを習得する「プチ習得」。たとえば、1週間に3日だけ1時間ずつできることを「プチ習得」と設定。

ギターが弾けるようになりたいのであれば、1曲まるまる弾けるようになる状態を習得と定義するのではなく、数秒のフレーズができたところで「プチ習得」とするという考え方です。

能力を具体的にする

・その能力は何ができるのか?

・どうすればその能力を習得できるのか?

(92ページより)

思考プロセスの目的は、この2つを明確にすることなのだそうです。たとえば英語力を習得したいという場合であれば、一般的な英語力として、

・英語で書かれている文章を読んで理解することができる

・英語を発音する(相手が理解できるように)

・英語の文章を書くことができる

などが挙げられるはず。しかし著者は、英語力を習得したい人は、本当にこれらを習得したいのだろうかと疑問を投げかけています。そして、ここで注目しているのは「3つの『分ける』」

(1)分解する(ばらして分ける)

(2)分割する(割って分ける)

(3)分類する(同じような集まりに分ける)

(93ページより)

(1)「分解する」とは、複数の部品で成り立っている1つの物事をバラバラにすること。たとえば車を分解すると、タイヤ、ハンドル、ボディなどに分解することができます。ピザは、生地、ソース、具などに分解可能。

英語の例では、「読んで理解する」「発音する」「書く」の3つに分解しているわけです

<能力開発における分解の例>

・英語試験TOEICをリーディングとリスニングに分解する

・コミュニケーションにおいて、話しかける相手を、異性(性別で分ける)、上司・同僚・後輩(身分で分ける)、に分解する

・上半身の筋肉を三角筋、大胸筋、上腕二頭筋に分解する

(94ページより)

分解の目的は細かくすること。細かくすることで具体的になり、特化した方法によって習得できるようになるということです。

「上半身を鍛える」というように大雑把に考えてしまうと、どのようなトレーニングをするのかが曖昧になってしまうもの。

しかし筋肉の部位で分解すれば、それぞれに特化したトレーニング方法を適用できるわけです。また分解することで、必要ない項目を排除することも可能になるということ。

(2)の「分割する」とは、(1)の塊を複数に切断すること。「ピザを食べやすいように8つに分割する」「車をスクラップにするため4つに切断して分割する」など。

<能力開発における分割の例>

・腕立て伏せ100回を20回のセットに分割する

・問題集100問を20問の5セットに分割する

・勉強時間を休憩をはさんで3回に分割する

(95ページより)

分割する目的は「小さく」すること。小さくすることで心にやさしい量にでき、効果が高まることがあるというのです。

たしかに腕立て伏せを100回連続で行うよりも、20回を5回に分けたほうが気持ちは楽になるはず。問題集の場合も同じで、連続100問やるよりも20問を5回やったほうが効果が高いこともあるわけです。

(3)「分類する」とは、複数ある物事を1つの基準で分けること。車をメーカーで分類すると、「トヨタ」「日産」「フォード」などに分けることが可能。

ピザを具の特徴で分類すると、「トマト系ピザ」「キノコ系ピザ」「ミート系ピザ」などに分類できるということです。

<能力開発における分類の例>

・英単語を品詞(名詞、形容詞、副詞)で分類する

・身体能力を筋肉の部位(腹筋、背筋、上腕二頭筋)で分類する

(96ページより)

分類の目的は、同じ特徴を集めて区別すること。能力を分類すると、似たような能力を同時に習得できるため効率が高まるということです。

普段から、無意識のうちに「分ける」を使いこなしている可能性は多いにあるでしょう。しかし改めて3つの「分ける」を意識することで、より具体的になり、それが効率化につながるという発想。また、3つの「分ける」を使いこなすことは、思考能力を高めることにもなるといいます。(92ページより)

WH(WhatとHow)

著者いわく、物事を具体的にする2つ目の手法は「5W1H」や「6W2H」。情報伝達や文章読解に使われるこれらの手法は、物事を具体的にするときにも役立つそうです。

5W1Hとは次の項目の頭文字の数です。 What 何か どういうことか? Why なぜか? Who 誰が? When いつ? Where どこで? How どのように?

6W2Hは5W1Hに次の2つを追加します。 Whom 誰に対して? How much、How long どれだけ? (97ページより)

多くの人がすっかりご存知のことであり、物事を考えるうえではとても重要でもあります。しかし、5W1Hも6W2Hも多すぎて、すべてを一度に習得するのは難しいと著者は言います。そこで本書においては、WhatとHowの2つに絞っているのだそうです。

What どういうことか?

How どうすればいいのか?

(99ページより)

これが、What(具体的には?)、How(習得のためにどうすればいいのか?)につながるということ。WhatとHowの2つにしぼることで習得も深まるということで、つまりはこれが「プチ習得」の考え方だというのです。(97ページより)




著者によれば本書は、大きな理論のなかから、わかりやすく、シンプルに実践できる考えを選んだ入門書なのだそうです。

Abilt理論に基づいて「できるようになる」方法を学べば、さまざまな能力を向上させることができるかもしれません。

Photo: 印南敦史