レビュー

実は貴重な“大人向けBluetoothヘッドフォン”、B&W「PX」を海外に連れ出した

Bluetoothヘッドフォンが人気だ。あるメーカーの調査では、2018年4月~8月の販売金額ベースのシェアでは、ワイヤレスの製品が62%、有線接続製品が38%と逆転。iPhoneに代表される、アナログ3.5mm出力の無いスマホも珍しくなくなった。「ヘッドフォンと言えばBluetoothが当たり前」な時代はもう到来している。

Bowers&Wilkins「PX」

それゆえ、2,000円以下の低価格品や、重低音をウリにしたハードなデザインなど、Bluetoothヘッドフォン市場には大量の製品が溢れている。だが、「大人が通勤や出張、趣味の時間などに落ち着いて使えるデザインのヘッドフォン」となると、実は意外と少ない。そんな中、ピュアオーディオスピーカーの人気ブランド英Bowers&Wilkins(B&W)が投入したのが「PX」というヘッドフォンだ。

B&Wが手掛けた、初のノイズキャンセル+ワイヤレスヘッドフォン

B&Wの設立は1966年。これまで様々なスピーカーを手掛けているが、代表格は1993年に登場したオリジナル「Nautilus」だろう。巨大な貝のような、強烈なインパクトのデザイン。単に奇抜な形を狙ったのではなく、スピーカーの理想形を技術的に追求した結果生まれたもので、“美しいと同時に説得力のあるデザイン”がB&Wの特徴と言える。

オリジナル「Nautilus」

1998年には、Nautilusの技術を導入してした「Nautilus 800 Series」を発表。以降も、ピュアオーディオのスピーカー市場を牽引するメーカーとして活躍しているのは、オーディオファンにはお馴染みだろう。

そんなスピーカーのイメージが強いB&Wだが、2010年に「P5」という製品でヘッドフォンにも参入。シンプルながら高級感のあるデザインや、イヤーパッドの機構などで話題を集め、以降もコンスタントに有線/無線ヘッドフォンを投入している。

今回の「PX」は、同社初のノイズキャンセリング&ワイヤレスヘッドフォンだ。カラーはスペースグレーに加え、ヘッドフォンでは珍しいゴールドを取り入れたソフトゴールドも用意する。価格はオープンプライスで、店頭予想価格は54,000円前後だ。

やや高価に感じるが、触ってみると、質感が高くて説得力がある。ハウジングやアームには金属パーツがふんだんに使われ、イヤーパッドやヘッドパッドの食感も上質。ヘッドフォンと言うより、貴重品というオーラが漂っており、触ってるだけでニヤニヤしてくる。
バンドからハウジングへと伸びているケーブルが、アームに沿いつつも、大胆に外に露出しているのもカッコいい。装飾をゴテゴテにして覆い隠すのではなく、オーディオ機器っぽさを少し出しながら、シンプルなデザインにまとめている。機能美を大切にするB&Wらしいデザインと言えるだろう。

ヘッドバンドやイヤーパッドの肌触りも上質だ。側圧はやや強めで頭部をしっかりホールドしてくれるが、質感が良いため、不快感は少ない。ハウジングは平らにして収納しやすくできる。

これならば、スーツ姿にもマッチする。特にソフトゴールドモデルはエレガントさもあるので、大人な女性にも喜ばれそうだ。通販でヘッドフォンを買うと「なんかプラスチックっぽくて写真で見たより安っぽい」とガッカリする事もあるが、PXの場合はその逆だろう。

何もしなくても快適に使えるヘッドフォン

デザインばかり紹介すると“見た目だけか”と思われそうだが、実は機能も豊富だ。

電源ボタンは右ハウジングの側面にあり、スライドさせると自動的にペアリングモードがスタート。スマホなどのプレーヤー機器側でリストから「Bowers & Wilkins PX」を選び、ペアリングが成功すると確認音が鳴る。このあたりは普通のBluetoothヘッドフォンと同じだ。

便利なのが、ユーザーの動きを検知して自動的に再生/停止をしてくれる事。ヘッドフォンを外して首にかけると、それを検知し、再生が自動で停止。また装着すると、自動で再生が再開される。いちいちスマホやプレーヤーを操作したり、ヘッドフォン側のボタンを手探りで押さなくていいのは快適だ。

それ以前に、電源がOFFの状態で持ち上げると電源が入り、装着すると音楽再生が再生される。音楽を停止した状態で2分過ぎると自動で電源がOFFになる。つまり、机の上に置いてあるヘッドフォンを手に取り、頭に装着して音楽を楽しみ、外して使うのをやめる……という一連の動作を、何もボタンなどを押さずに完結できるわけだ。

後述するアプリで、センサーの感度調整もできる

多機能なBluetoothヘッドフォンも増加しているが、“ユーザーが何もしなくても快適に使える”事を念頭に開発されているのは好感が持てる。

側面に各種ボタンを備えている

多彩なNC機能とサウンド

ノイズキャンセル機能を試してみよう。まずヘッドフォンを装着すると、パッシブのノイズキャンセル性能、つまり遮音性がかなり高い。側圧がやや強く、しっかりと頭部にイヤーパッドを固定しているため、アクティブノイズキャンセル機能を使わなくてもかなり静かになる。

多機能を活かすためには、スマホ向けアプリの「Headphones」を使う。アプリからアクティブNC機能「環境フィルター」をONにする。モード「オフィス」を選ぶと、エアコンやPCの「ウィーン」という継続するノイズが少なくなり、集中しやすくなる。ただ、すべてのノイズが完全に無くなって静寂になるほどではない。

スマホ向けアプリの「Headphones」
アクティブNC機能「環境フィルター」をONにしたところ

「シティ」を選ぶと、さらにNC効果がアップ。残っていたPCの駆動音やファンノイズも綺麗に消えて、「そういえばPCの電源ONになってたっけ?」と意識していないとわからなくなる。ただ、アクティブNC機能の動作によるものか、静かになった空間にわずかに、聞こえるか聞こえないか程度のレベルで「サーッ」というホワイトノイズが聞こえる。個人的には完全な無音よりも、ほんの少しそノイズがあった方が集中できる気がする。

「フライト」モードにすると、NC機能が最大になる。「シティ」で残っていた騒音も消えた。前述のホワイトノイズは大きくなるかな? と心配したが、逆に減ってた。鼓膜への圧迫を少し感じる。

なお、3モードを選択すると、その下にある外音取り込み機能「ボイス パススルー」バーの選択ポイントが動くのがわかる。3モードに対応するよう、外音取り込みの量が増減しているわけだが、このポイントを自由に移動させる事もできる。駅や飛行機のアナウンスを聞き逃したくない時などに活用するといいだろう。

「シティ」モード
「フライト」モード。モードにあわせ、下部にある「ボイス パススルー」バーの選択ポイントが動くのがわかる

ユニットは40mm径で、再生周波数帯域は10Hz~20kHzだ。入力インピーダンスは22Ω。BluetoothのコーデックはSBC、AACに加え、aptX HDにも対応している。プロファイルはA2DP v1.3、AVRCP v1.6、HFP v1.6、HSP v1.2、GAP、SDAP、DIPをサポートする。

ユニットは40mm径

再生音はモニター寄りのシャープ&クリア系ではなく、音の広がりを重視し、音場がフワッと広がるタイプだ。音楽を分析的に聴くというよりも、ゆったりと、長時間リラックスして楽しむタイプのヘッドフォンと言えるだろう。ただ、全体のバランスもしっかりとしていて低音も過不足なく出ている。

NC機能をONにすると、音楽の輪郭がよりハッキリする。「オフィス」から「シティ」、「フライト」と強めていくと、その傾向がより強くなっていき、メリハリが聴いた迫力のあるサウンドになる。だが、ズンドコ低域を強調するまではいかず、節度は守っており、デザインと同様、大人なサウンドは維持されている。

アプリを使わず、本体のボタンでNCモードのON/OFFも可能だ

有線接続も可能で、有線/無線時の音の変化は少ない。なお、有線接続の状態で電源OFFでは音は出ない。音質面では、有線接続有線の方が情報量は増加するが、前述のようにむき出しサウンドではなく、心地よく音を広げて楽しませるタイプなのでそこまで違いは大きくない。有線/無線をあまり気にせず使えるヘッドフォンと言えるだろう。

さらに、PCとUSB接続すると、USBヘッドフォンとしても動作する。端子はヘッドフォンではまだ珍しいUSB Type-Cだ。スマホでもType-Cのモデルが増えているので、端子が共通化できるのは嬉しい。充電もUSB端子から可能だ。

Windows PCと繋いでUSBヘッドフォンとして聴いてみたが、音質的にはこのモードが最高だ。有線時よりもさらに情報量が増加。気持ち良い広がりの中にも、細かい描写がよくわかるようになる。カフェでPCを開いて、仕事をしながら音楽を楽しむなんて時にはUSBヘッドフォンとして使うのがいいだろう。

USB Type-C端子を採用している

飛行機の騒音を効果的に削減、街中や仕事中にも

NC機能の実用性をさらにチェックするため、PXを海外取材に持ち出して、飛行機の中などでも使ってみた。ドイツ・ベルリンで8月31日~9月5日(現地時間)に行なわれた「IFA 2018」への出張は、10時間を超えるフライトになるため、NCヘッドフォンは欠かせない存在。機内や現地の街中などで、PXのスペースグレーモデルを使用した。

飛行機の中でスペースグレーモデルを使用。プレーヤーはウォークマンのNW-ZX300

NCを「フライト」モードにすると、飛行中の轟音が大幅に削減。低い帯域の騒音がカットされるため、音楽を気持ち良く聴かせるベースやドラムの量感も損なわれずに聴こえる。手嶌葵が歌う「The Rose」のウィスパーボイスも、吐息にこもった温もりまでしっかりと伝わる。音楽だけでなく、録音しておいたラジオ番組のトークの内容もはっきり聞こえたのも良かった。

強力なNCのため、鼓膜への圧迫感は少しあるものの、周囲の騒音に悩まされることに比べると、NCはONにした方が断然リラックスできる。なお、機内でBluetooth機器が使用できるかどうかは、航空会社や機体によって異なるため、事前に確認しておくといいだろう。

PXはロングバッテリも特徴。Bluetooth接続のNC ON時で22時間、Bluetoothのみの場合は29時間、有線接続でNC ONでは33時間、有線接続のみでは50時間利用できる。今回の搭乗時間は片道約13時間で、飛行中はほとんどBluetoothとNCがONの状態で音楽などを聴いていたが、到着後にバッテリ残量をスマホアプリから確認すると、まだ51%残っていた。NCをONにしたまま、充電の心配をせずに目的地まで行けるのはうれしい。

ベルリンの街中では、歩きながら「シティ」モードのNCを使った。NCを強めにしたかったので、アプリの「ボイス パススルー」で、デフォルトよりもNCが強く効く(オフに近い位置)へ調整。周囲の音を全く塞がないようにしながら、音楽へなるべく入り込めるようにカスタマイズできたのが便利だった。また、IFAの展示会場では、マスコミが集まるプレスルームで記事を書いていた時も「オフィス」モードを使って仕事に集中できた。

ベルリンの街中で使用
NCで作業に集中

音楽を聴いていないときも、首にかけておいて、時にはカバンに入れたり、取り出してすぐ聴いたりと、ワイヤレスならではの取り回しの良さも重要なポイント。特に、頭から外すと再生が一時停止する機能は便利で、空港などでアナウンスを聞きたいときもボタン操作などは不要。自動電源OFFにより、無駄にバッテリを消費するのも防げた。強力なNC機能とワイヤレスで、自由なスタイルで音楽を聴けた。

デザインと機能性がちょうど良い。日常使いにも

Bluetoothヘッドフォンが日常に近い存在となり、製品のバリエーションも増えてきた中で、機能の豊富さ、デザイン重視などメーカーによって様々な個性が生まれている。今回使ったB&W PXは、強力なNCやアプリによるカスタマイズなどの便利さだけでなく、デザインにも妥協したくない人にとって、その両方がちょうど良いバランスに仕上がったモデルといえる。

長時間の移動に必要な人だけでなく、通勤や作業など幅広い場面で活躍し、飽きの来ないデザインで長く使えることを考えると、約54,000円という価格も納得できる。長時間バッテリの便利さもあって、普段の生活と旅行、どちらのシーンにもフィットするヘッドフォンだと実感できた。

(協力:ディーアンドエムホールディングス)

山崎健太郎

中林暁