医療分野では、常にイノベーションが求められています。とはいえ、そのイノベーションは、必ずしも医療の進歩から来るものではありません。

たとえば世界を変えるといわれているブロックチェーン。このテクノロジーの重要性に、医療の世界も気づきはじめています。

その証拠に、巷には、ブロックチェーンベースの医療系スタートアップが増えています。

その多くが、プライバシー、セキュリティ、トラッキング、健康記録へのアクセスなどを扱う会社です。技術の進歩が目覚ましいこの時代に、ブロックチェーンはどのように医療分野で使われているのでしょうか。

ヘルスケアとブロックチェーン

ブロックチェーンといえば、お金の取引の文脈で語られるケースがほとんどです。

不変で分散型、連続的かつ透明性のある取引記録という、輝かしい機能が注目されています。その一方で、医療技術の提供者や開発者からも関心が寄せられています。

ブロックチェーンとヘルスケアの最初の接点は、患者のカルテでしょう。

あなたのかかりつけ医でも、カルテが電子化されているのではないでしょうか。歯科医や整形外科、産婦人科などはいかがですか?

とはいえ、これらのデータはあちこちに分散しているだけで、このデジタル化の時代においても他機関のデータにアクセスすることはできません(もちろん、リスクを考えると現在の状況も理解できます)。

ボストンにあるBeth Israel Deaconess Medical Centerの最高情報責任者であり学術誌「Blockhain in Healthare Today」の編集長を務めるJohn Halamka氏は、Forbesのインタビューにこう答えています。

単にかっこいいからという理由でブロックチェーンを医療に用いるのでは意味がありません。ブロックチェーンは、大きなデータセットを保存するための技術ではありません。

また、分析プラットフォームでもありません。取引のスピードも決して速くありません。それでも、改ざんできない公開台帳として、作業証拠の記録には適しています。ブロックチェーンは、非常にレジリエントなのです。

医療分野への適用アイデア

医療分野でブロックチェーンが活躍できる領域はたくさんあります。

カルテ:各カルテが、医師による署名付きでブロックチェーンに追加されます。ブロックチェーンが記録へのアクセス履歴や変更履歴を正確に示します。患者の健康情報が安全に保たれるため、患者と医療提供者の双方が守られます。

医療データの共有:ブロックチェーンを使うことで、医療データの共有から第三者を排除することができます。医療提供者がブロックチェーンを用いることで、移行中のデータ検証や臨床研究結果の完全性証明が可能になり、業界全体のデータコンプライアンスが保たれます。

データ共有の同意:医療機関や第三者機関の間でのデータ共有に関し、患者の意思をブロックチェーン上の患者記録に記録できるので、混乱や誤用が発生しません。

医薬品モニタリング(社内):製薬会社が、プライベートな社内ブロックチェーンに製品を登録。メーカーから患者までの薬の動きをトラッキングし、チェーン全体の検証と安全保障が可能になります。

保険:保険会社と患者が、改ざん不能、つまり信頼できる健康イベントをもとに保険契約ができます。保険会社は、確実に患者が支払いを受けられるように、スマート契約を作成できます。

健康へのインセンティブ:ブロックチェーンテクノロジーに関連付けられたヘルスケアアプリやサービスが、トークン化されたインセンティブを提供することで、運動、食事、健康促進法などの健康的なアクティビティを促すことができます。

これらは、医療分野におけるブロックチェーンの使用法として考えられるものの一例に過ぎません。実際は、ボールが転がり続けることで、ブロックチェーンテクノロジーの応用範囲は広がり続けています。しかしながら、既得権益のある団体からの強い反発も予想されます。

医療へのブロックチェーン適用事例

医療業界ではまだ歴史が浅いものの、すでに目覚ましい成果が表れています。

Medicalchain患者と医師の間での透明な患者記録の交換を実現する、ブロックチェーンヘルスケアのスタートアップです。

同社のブロックチェーンは、2018年7月に試験運用が始まりました。患者が医療データを保持するためのウォレットを作成すると、権限を持つ医師のみがその患者記録を「読み書き」できるようになります。医師はオンライン診察時にも患者記録にアクセスできるため、遠隔医療への応用が可能です。

MyPCR:企業ブロックチェーンを開発しているGuardtimeとInstant Access Medical、Helathcare Gatewayが共同で、MyPCRを立ち上げました。

MyPCRは、ブロックチェーンベースの患者記録アクセスシステムで、英国の国民保健サービスの利用患者3000万人以上に使用されています。このプラットフォームは、患者自身によるカルテへのアクセスや、スマホを使ったアドヒアランスサポートも可能です。Guardtimeの見積もりでは、これだけでNHSにとって8億ポンド以上の節約効果があるのだとか。

The MediLedger Project:サプライチェーンコンサルティンググループThe LinkLabとスマートサプライチェーンソリューションプロバイダーのChronicledが主導するプロジェクト。製薬会社、卸、ドラッグサプライチェーン向けのブロックチェーンテクノロジーを開発しています。具体的には、偽造医薬品をサプライチェーンから孤立させ排除することや、血液や臓器といった「生きた」薬剤のトラッキングなどにブロックチェーンの技術が使われています。

EncrypGen:個人のDNA検査やルーツを探るウェブサイトの台頭により、21世紀ならではの問題が発生しています。それは、DNAが個人情報の塊であるということ。DNA検査の結果を、どう扱えばいいのでしょうか。

EncrypGenは、Gene-Chainという巧いネーミングのブロックチェーンを使い、ゲノムデータの保存とアクセスを実現しています。

個々人の希望により、科学者、政府、大学、企業などによるアクセスを個別に許可することができます。同時に、それらの関係者が特定の遺伝子情報を要求する際、Gene-ChainプラットフォームのトークンであるDNA(これまたナイスなネーミングでは?)を用いて個人に支払いができるようにもなっています。

Clinicoin:ここまでに紹介した会社とはちょっと違うサービスを提供しているブロックチェーンヘルスケアスタートアップ。

エクササイズやウォーキングなどの運動、栄養の高い食事など、健康的と考えられるほぼすべての活動に対して、CLINというトークンが受け取れます。健康なユーザーは、同社が実施する調査、特別なタスク、その他のリサーチ活動に協力することで、さらにトークンがもらえます。

人道的なブロックチェーンヘルスケアスタートアップ

医療系スタートアップのブロックチェーンが活躍しているのは、「通常の」医療機関だけではありません。

適切なカルテの保持が極めて難しいが、それがあることで人々の生活が大きく変わるような場所でも、ブロックチェーン技術が利用されているのです。

ブロックチェーンヘルスケアスタートアップのIyroは、ヨルダンの難民キャンプで、難民や移民の電子カルテを試験導入しています。

難民や移民の多くは、恒久的なコンピューターにアクセスができません。しかし、大半はスマートフォンを持っているので、それを使って自身のカルテをコントロールしています。

Iyroは、シリア、イラク、エジプト、ジブチ、ヨルダンのその他の場所などでも、移民や難民向けの「グローバルヘルスケア」商品を展開する計画を立てています。

医療分野におけるブロックチェーンの今後

米国市場は、ブロックチェーンヘルスケアスタートアップにとって参入が難しいことが証明されています。その理由は明らかで、既存の医療提供者が、自身の持つ医療機関とそこで使用するテクノロジーから利益を得ているから。

規制が厳しく金銭的なインセンティブがある米国の医療制度は、ブロックチェーンによる大革命の主要ターゲットの1つでありながら、患者にとっての直近のメリットがありません。

既存の医療提供者が、現在の医療環境の中でブロックチェーンテクノロジーからの利益を最大化する方法を見つけると、加速度的に進化が進むでしょう。

導入はまだまだ先?

ブロックチェーンヘルスケアスタートアップの進化を妨げているのは、官僚主義だけではありません。一部のスタートアップにとっては、商品を最終的に仕上げるためのインセンティブが欠けているのです。

Gem Healthは、医療費払戻の非効率を減らすため、医療機関、患者、保険会社の境界を動かすアイデアで注目を集めていました。

しかし同社は、主要な医療機関が導入している電子カルテシステム(Epic、Cerner、Meditech、Allscriptsなど)を同社のGemOSプラットフォームで置き換えることは、現実的に極めて困難なタスクであると悟ります。

Gem社は、米国以外の医療市場でも参入の難しさを経験しています。つまり、新しいテクノロジーの実装を試すことすらできていないのが現状です。

このように、金融系テクノロジーからの飛躍を目指しながら、医療業界があまりにも広大で、ベンチャーキャピタルの支援を得ても挑戦できずにいるブロックチェーンヘルスケアスタートアップはたくさんいます。

ブロックチェーンが医療業界に強力な未来をもたらすことは間違いありません。しかし、Clinial BlockchainのEdward Bukstel CEOはこう語っています

ブロックチェーンソリューションで医療分野に臨むには、ありったけの支援とイノベーションをかき集める必要があります。これ以上、企業を失うわけにはいかないのです。

あわせて読みたい

仮想通貨は誰だって自作できる、あなたも含めてね

仮想通貨は誰だって自作できる、あなたも含めてね

多様化する「キャッシュレス決済」は今後どうなっていく? 10年後の「お金」を考える

多様化する「キャッシュレス決済」は今後どうなっていく? 10年後の「お金」を考える

Image: ESB Professional/Shutterstock.com

Source: Forbes, Medical Chain, Gurdtime, MediLedger, Encrypgen, Clinicoin, Iryo, Gem, Medium

Original Article: How Blockchain Technology Is Being Used in Healthcare by MakeUseOf