イギリスの経済誌「エコノミスト」は、成功した大金持ちへの手放しの礼賛に冷水をあびせかけてきたことで知られています。

同誌は9月27日号で、「メディア(とその受け手)は、成功したビジネスパーソンの仕事術に不健全なまでに心酔している」という内容のコラムを掲載しました。

特に、長時間労働や、早朝からの労働をいとわない姿勢への賞賛を疑問視しています。これらの人たちが金銭的成功や権力を手にしたのは朝5時半に起きていたからだという理屈を信じ込むことで、我々は、ある自明なことを見ないようにしている、とエコノミスト誌は指摘します。

社会の実態を見ろ、というのです。

結局のところ、仮に長時間労働が成功へのカギだとするなら、2つの仕事をかけもちしているダブルワーカーや、緊急救命室の担当で夜勤がある看護師は、今ごろ大金持ちになっているはずです。

著名なビジネスパーソンの生活習慣として挙げられる他のよくある例には、「瞑想をしている」とか、「強制的に『オフタイム』を設けている」、「パソコンやスマホを見る時間を制限している」といったものがあります。

こうした習慣は一見、「長時間労働」とは矛盾するところがあるようにも思えますが、実はすべて、同じ物語の中に含まれています。

それはつまり、成功した経営者たちが現在の地位を得たのはそれにふさわしいからだ、という物語です。彼らが並外れた富を築いたのは、私たちのような一般人よりも「高潔な」暮らしを送ってきたからだ、というわけです。そしてこうした物語に対して、エコノミスト誌は異を唱えます。

実際は、金曜日の夜には家でピザをドカ食いしながら人気ドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のボックスセットを一気見しているとしても、そのことを自ら認める企業のリーダーなどいないはずです。

実態は隠して、瞑想をしているとか、自己啓発本を読んでいる、とか答えるでしょう。

多くのビジネスパーソンが表向きに公表しているあり方は、中世の「聖人の生活」に近いものがあります。人々のお手本のような生活を送るビジネスパーソンは、中世のように聖人として公認されるかわりに、ストックオプションを手にする、というわけです。

エコノミスト誌のコラムでは、高い地位にある人が得ている多くの特権についても触れています。

「あなたもビヨンセも1日が24時間なのは同じ」という文章が刻まれたマグカップがありますが、本当に自由にできる時間を比べたら、かなりの差があるはずです

もちろん、本人の努力の末に得られた特権もあるでしょうが、その一方で、その人が成功できたのはそもそもその特権のおかげ、というケースもあるのです。

ティム・クック氏は、早起きしたから成功したわけではありませんし、あなたのうだつが上がらない理由が、朝が苦手なせいとは限りません。

早起きができるかどうかは、「成功を呼び込む仕事術」とは全く関係ありません。

実際、ライフハッカーの「HOW I WORK」シリーズでも、最も面白い記事は得てして、成功を収めた人が自分の失敗や欠点について正直に語ってくれた回、しかも、「私はこうして失敗から学んできたんです」といった謙虚な口調で語っているわけではない回です。

たとえば、ベストセラー作家のロクサーヌ・ゲイさんのケースでは、

「日常のことで、『これはほかの人より得意だ』ということは何ですか?」という問いに「私は締切破りが実に得意です。Noと言うことがほとんどできないタチで、いろいろな仕事を引き受け過ぎてしまうせいです」と答えています。

こうした人こそ、私たち一般人にとってお手本となる存在ではないでしょうか。

ということで、ここはひとつ「お金持ちを聖人扱いするな、社会の実態を見ろ」と訴えるエコノミスト誌の指摘に従い、ビジネス界の成功者たちの「あと2時間早く起きれば、君もいつかは私たちのように金持ちになれる」というささやきには耳を貸さないことにしましょう。

誰もが自分なりの生きる道を見つけなければなりません。

人生は、お金を稼ぐ能力ですべてが決まるわけではありません。それに、成功を収めた中でも一番偉大な人たちは、決して聖人のふりなどしないものです。


The annoying habits of highly effective people | The Economist

Nick Douglas - Lifehacker US[原文