メモ

ベーシックインカム実験の中止に対してCEOグループが存続を求めて立ちあがったわけとは?

By Steven Depolo

政府が全ての国民に対して最低限の生活を送るために必要なお金を支給するベーシックインカム制度は世界各国で社会的実験が進められており、実際にポジティブな結果を出している例も確認されています。そんな中、カナダのオンタリオで実施されていたベーシックインカムの実験が中止されることが決まると、制度を支持する企業のCEOがグループを結成してプログラムの継続を訴える行動に出ています。

'CEOs for Basic Income' Ask Doug Ford to Save Ontario Basic Income Pilot
https://motherboard.vice.com/en_us/article/kzj959/ceos-for-basic-income-ontario-doug-ford

ベーシックインカム制度の歴史は意外と思えるほど古く、その原点は1957年にイングランドで制定された救貧法にさかのぼることができるとのこと。その背景には、誰もが人間らしい最低限の生活を送ることを補償するため、または社会に貧しい人が増えることで起こる混乱を避けるためなどの理由が存在しますが、その一方で「労働意欲失われて怠惰な考え方がまん延する」などの批判的な見方も示されており、それらの弊害を含めた効果を確認すべく社会実験が行われています。

そんなケースの一つが、カナダのオンタリオ州ハミルトンで2017年6月から実施されています。このプログラムでは約4000人の住人が毎月約2000カナダドル(CAD:約17万円)の支給を受けています。その詳細は以下の記事で紹介されていますが、プログラムに参加している住民の一人は「生活が一変した」と語っています。

働かなくても生活に必要な最低限のお金がもらえる「ベーシックインカム」を導入したオンタリオの住民たちは何を感じているのか? - GIGAZINE


この実験は当時のリベラル寄りの政権によって進められたのですが、2018年7月末になってプログラムが中止されることが発表されました。その背景には、同年6月に実施されたオンタリオ州議会選でダグ・フォード党首率いる「進歩保守党」が大幅に議席を伸ばし、15年ぶりに政権を奪還したという大きな変化が存在しています。フォード氏は新たにオンタリオ州の州首相の座に就いています。

オンタリオ州議会選、進歩保守党が15年ぶり政権奪還 | ビジネス短信 - ジェトロ
https://www.jetro.go.jp/biznews/2018/06/f3f73dee2826ed08.html

新たに誕生したフォード政権がベーシックインカムの試験プログラムの中止を決めた理由には「費用がかかりすぎる」、そして「オンタリオの住民に対する答えにはならない」という、反ベーシックインカム派がよく用いる理由が示されていたとのこと。これにより、実験に参加してお金を受け取っている4000人の被験者は2019年3月で支給をストップされることとなります。


しかし、この政策の転換に待ったをかけたのが、オンタリオでビジネスを展開している100人のCEOのグループ「CEOs for Basic Income」でした。同グループは試験プログラムの継続を求め、ウェブサイトを立ち上げてフォード首相への公開質問状を示しています。

CEOs Message: Save the Ontario Basic Income Trial
https://ceosforbasicincome.ca/


グループはベーシックインカム実験の存続を求めているのですが、その理由として同実験が「非効率的な福祉プログラムを置き換えて勤労意識を高める」こと、そしてその結果、CEOの企業が提供している商品やサービスがより多くの商品が購入されることになるという点を掲げています。また声明の中では、押し下げられた賃金や中産階級の消滅によって「『福祉制度の再編vs怠惰』という、左派と右派による対決姿勢」はもはや古くさいものになった、という見方が示されています。

グループの一員で、C4MediaのCEOであるフロイド・マリネスキュー氏はグループの活動の意義について「進歩保守党はこの公開質問状を読み、ベーシックインカムは経済に良い結果をもたらすものであることを知って欲しい。そしてそれは、保守寄りなアプローチでもある」と地元のToronto Star紙へのインタビューで語っています

オンタリオ州が進めてきたベーシックインカムのプログラムは、同州が実施している「月額343CAD(約4万円)」の福祉政策に比べて支給が厚くなっており、独身で年収が3万4000CAD(約290万円)以下の住人に対して年間で1万6989CAD(約150万円)を支給する内容になっているとのこと。また、パートナーと一緒に暮らしている人には別の基準が設けられるほか、身体障害者には月額500CAD(約4万3000円)が追加されます。生活が厳しい所帯にとっては大きな進歩ですが、収入額の50%に相当する額がベーシックインカムから差し引かれるなどの制限が存在しています。

Ontario Basic Income Pilot | Ontario.ca
https://www.ontario.ca/page/ontario-basic-income-pilot

また、プログラムへの参加者は身体障害者への補助を含む社会的支援プログラムから離脱する必要もあります。既に障害者補助プログラムを利用している住人の場合、支給額そのものは増加するものの医療費支援などがカットされるため、トータルの出費額がどのように変化するのかが重要なポイントになってきます。

オンタリオでこれまで続けられてきた福祉プログラムは「悲惨なもの」で「威圧的すぎる」という見方も存在しており、ベーシックインカムの実験をキャンセルして元に戻すことについて否定的な見方も示されているとのこと。CEOグループはそのような旧来の方法に戻すべきではなく、新しくも「保守的な」方法であるベーシックインカムの実験を続けることを求めています。

この記事のタイトルとURLをコピーする

・関連記事
ベーシックインカムとして国民2000人に毎月7万円を与えたフィンランドではストレスや仕事のモチベーションはどうなったのか? - GIGAZINE

働かなくてもお金がもらえる「ベーシックインカム」を導入すると何が起こるのかをアニメでわかりやすく解説 - GIGAZINE

働かなくても最低限のお金がもらえる「ベーシックインカム」構想が実現すると何が起きるか現実の都市でテスト - GIGAZINE

「仕事の有無に関係なく政府は住民にベーシックインカムを与えるべき」とリチャード・ブランソンが語る - GIGAZINE

働かなくても生きていける「ベーシックインカム」の大規模な実験を「Yコンビネータ」が計画中 - GIGAZINE

in メモ, Posted by darkhorse_log

You can read the machine translated English article here.