エネルギーを限りなくタダに! 自律ヨットで水素を運ぶという人物がブッ飛んでた

  • 19,053

  • author 西谷茂リチャード
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
エネルギーを限りなくタダに! 自律ヨットで水素を運ぶという人物がブッ飛んでた
Image: everblue technologies/Mistletoe

海に戻ろう。

エネルギーさえあれば生存に困らない時代になりました。はフィルターを濾せば飲めますし、農作物はLEDの光で育ちます。でもそのエネルギーの源流として石油を使い続けてしまうと、酷暑のなか沈みゆく海岸を眺め続ける未来がやってきてしまいますよね。

そこで、もっといい未来を作ろう! と立ち上がったのが、「everblue technologies(エバーブルー・テクノロジーズ)」の野間恒毅さんと「Mistletoe(ミスルトウ)」の仲間たち。エコで楽しい未来を実現することを目指し、自動操船ヨットeverblue sailing boat(仮)」で再生可能エネルギー由来の水素を我々に届けようとしているのです。

そしてその見据えた未来では光熱費や燃料費がほぼタダになり、海上都市が実現できているかも?というブッ飛びぶり!

「everblue sailing boat(仮)」とは

Video: ever blue/YouTube

・AIで自律的に無人で航行できる全長約9mのヨット

・水素自動車40台分の水素を一度に運べる70Mpaボンベを積載

水中翼で船体を浮かせて最速50km/hで航行

・船団を組みながら5G通信分散ネットワークを構築

今回はそんなヨットを作っている野間さんに取材する機会があったので、船 × エネルギー × AIでいったいどんな未来を描いているのか、いろいろ深々と聞いてみました!

電池は安全性やコストの面から現実的じゃない

181009_everblue_sailing_boat-1153085
Photo: 山本勇磨
野間さんが持ってきてくれた、ヨットのプラモデル。凄まじいクオリティーでした…

──なぜ水素をヨットで届けようと思ったのですか?

17・18世紀に走っていた帆船の航路をビジュアル化したメディアアートを見ていたときにMistletoeの孫泰蔵さんがね、失礼なことをポロっと言うわけですよ。「EVには未来があると思うんだけど、あの水素の自動車? あれは全然イケてないと思うんだよね」って。

で、そのとき自分ちょっとカチーンってきて、「なに言ってんですか」と。「EV、EV言ってるけど、それを充電するための電気をどうするかという問題がまったく解決できてないですよ」と。いま発電所はほぼ100%で稼働しているのに、みんなEVにしちゃったら発電量を150〜200%にしなきゃいけない。

でも、そのキャパはないんです。

なので、国外、洋上にある地熱、潮流、風力、波力とか、まだ発掘されていない再生可能エネルギーがたくさんあるから、それで水素を作ってヨットで持って来ましょう。そしたら水素発電で街の電力も賄えるし、水素自動車も走る…。

という構想をその場で3分で思いついて、泰蔵さんにバーッって言ったら「それいいじゃない。やって」って言われて、「えぇー、俺がー?!」みたいな。

──そのまま受けたんですか?

うん(笑)。暇だったしね。

181009_everblue_sailing_boat-1153022
Photo: 山本勇磨
水素ボンベのモデル

──では、なぜ水素で、なぜヨットなんですか?

さっき再生可能エネルギーを海から持ってこようと言ったけど、実は電気って簡単に運べないんですよ。たとえばモバイルバッテリー程度の容量だと電池でも有効なんですが、じゃあこの東京都全体を電池で賄えますかっていうと、安全性やコストの面から現実的じゃないと言われているんです。

でも水素はボンベさえ用意すれば貯蔵できて、貯蔵ができれば運搬もできる。そして、電池よりエネルギー密度が高い。ということで洋上で集めたエネルギーを水素にして持って来ればいいと。でも、石油タンカーみたいに動力を使う船だと水素のエネルギー密度が石油より低いので、目的地に届けられるエネルギーが輸送にかかるエネルギーに対して小さすぎて、ペイしないんですね。

体積エネルギー密度:水素はリチウムイオン電池の約7倍あって、石油は水素の約5倍ほどあるみたい)

って考えたときに、海には風が吹いているんだからそれを使えば輸送エネルギーはタダじゃない、と思ってヨットですよ。

──なるほどっ!

それも17・18世紀の人たちは帆船というローテクノロジーで自由に行き来できたんだから、21世紀の科学ならもっとうまくやれると思って。

AI(人工知能)で自動操船ですよ。で、なおかつDecentralization(非中央集権的)でインターネットのパケット通信みたいにしたかったんです。

たとえば、そのへんに水素ボンベを載せた小型ヨットがプカプカ浮いていて、ここに電気が欲しいってなったら近くのヨットがシューッと来て、水素を補充してくれる。これをAIが自律的自動操船でルートを決定する。要は水素の生産地消費地もバラバラに分散していてよくて、ヨットがそのあいだを結ぶ、というわけです。Uber(ウーバー)と同じ

デザインで振り向かせたい

181009_everblue_sailing_boat-intro02
Image: everblue technologies/Mistletoe

──CGのヨットがとても先進的なデザインに見えますが、なにを意識しましたか?

まずこのかっこいいシースルー的なデザインは、ビジュアル的に機能を見せて説明するためのもので、ボンベは本来は見えなくていいんだけど構造を分かりやすくする為にこういうふうにしているんです。

まさにコンセプトデザイン

なので、車業界でもコンセプトカーと実際に出てくる製品がぜんぜん違うみたいに、次の段階のヨット、いわゆるプロトタイプのデザインはハイドロフォイル(水中翼:下画像に説明)が付かないかもしれません。

20181022-sailboat-hydrofoil-vif
Image: everblue technologies/Mistletoe
水中翼:船体を水面から浮かび上がらせることで、水の抵抗を少なくして速度を出すというもの。コンセプトモデルだとこの羽がそうです

──それはなぜですか

今って「はいはいCG乙。プラモデル乙」状態なんですよ。だからまずは走らせることが大事だと思っていて、専門家に言わせると水中翼のあるヨットは姿勢制御が難しいらしく、オイルタンカーの20ノット(約37km/h)より速い速度が出せるんであれば水中翼にはこだわっていないんです。

で、2020年に水素推し日本・東京で五輪があるんで、これちょっと水素の波くるよね、俺たちもその波に乗ろう、ということで2020年に実際の全長10mのやつを作ろうと。

──水中翼なしでも速度が出せるんですか?

テクノロジーがあれば!

ウェーブピアサー(波浪貫通型)っていうのがあって、普通の船は波に煽られて上下するのが結構抵抗になってるんだけど、ピアサーは波を貫通してくイメージで進むんです。これを使ってるオーストラリアのカーフェリーは70km/hから90km/h出るんですよ。早くないですか?

──めちゃくちゃ早いですね! でもこれ、動力がないヨットでも大丈夫なんですか?

まだ分からない。「なんとかならないか」って専門家に振って、意見を仰ぎつつ現実的なヨットのデザインにしていきます。ここでね、大事なポイントがあるんですよ。普通のヨットの形だとつまらないんです。

everblue sailing boat(仮)もね、人にこのプラモデルを見せることで、「え? スペースシップ?」って興味を持ってくれたわけで、実物大のプロトタイプでも、見た目からしてこれまでのものとは違うというデザインで振り向かせたい。

で、最終的にはやっぱり水中翼のヨットにチャレンジしたいね。

181009_everblue_sailing_boat-vif
Photo: 山本勇磨
上下に展開するプラモデル。帆も回転するんですよ

発想はエネルギーなんだけど、これインターネットサービスなんです

──ビジネス的にはどんなことを考えていますか?

実はね、水素は限りなくタダにしようと思ってる。

──え? 限りなくタダ? ですか?

うん。なんでかっていうと、水素を作るもとのエネルギーがタダだから、運用のコストタダなんですよ。

水素を作るときには再生可能エネルギーを使うけど、太陽光や風力、潮力にしたって、全部タダじゃないですか。で、そこから作った電気で、水を電気分解をして水素作っている。水もそのへんの海水を使ってるからタダ。てことはこれ、タダで水素が作れるんですよ。

──おおぉぉ! ではヨットの建造費など、初期のコストはどのように?

ICO(株式みたいなもの)にしたいなと。

たとえば船を一隻作るにあたり、投資家を募るんです。一株いくらで、10人が投資しますとか。で、そのお金でヨットを建造して、運用して、利益が上がったらお金を返しますよ、っていうような感じ。

──あれ? でも…その利益はどこから出るんですか?

広告をやろうと思っています。

このヨットの帆は広告スペースなんですよ。まぁ、ほとんどのあいだ洋上にいるんで見られないんだけど、でも人間が住んでいるところに必ず来るわけです。で、来たときに「へぇ、エコな会社があるんだな」って見えるイメージ。

電気って見えないから広告もしにくかったけど、物理的なものになった瞬間に広告価値が出てくるわけです。そこを狙っているのと…あともうひとつ。

181009_everblue_sailing_boat-network
Image: ever blue/YouTube
バラーッと展開するヨットたち

──もうひとつ?

実はね、通信インフラにしようと思っています。ヨットは一隻じゃなくて複数あちこちにバラバラーってやるから、それらを全部テザリングして、5Gネットワーク通信でつなげようと思っているんです。

──なるほど! ヨットが海上移動基地局になるんですね。となると、同時に海洋のデータも収集できそうな印象を受けます。

そうそう。気候気象、あと水産系も水質とか魚群とか、一応全部データを取って、それをリアルタイムで送るとビッグデータになって、それを販売するっていう。だから発想はエネルギーで水素なんだけど、これインターネットサービスなんです。

──ほかにも考えていることはありますか?

もちろん。お金になることはなんでもやるよ。

AIがヨットの運用に慣れてくると、この水素ボンベは大体いつまでにあそこに着きそうだよね、っていうのが分かってくるはずで、そうなったら貨物をやるかもしれない。これ、スゴいのは輸送費かからないんですよ。風で走るから燃料代ゼロだし、無人で走るから人件費もなし。

181009_everblue_sailing_boat-1153134
Photo: 山本勇磨
棒の先端にある黒い箇所は、コンセプトデザイン的にセンサー群を表しています

海の上で生活したいなって思うんです

──貨物を見据えているとのことでしたが、人が乗る可能性もありますか?

あのー、「宇宙を開発だー」とかイーロン・マスク言ってるけど、自分はまだまだ海に出ていったほうがいいと思っていて。

免許持ってるんでたまにモーターボート乗ったりするんですけど、みんな一回ヨットに乗るとヨットがいいっていうんですよ。理由は簡単で、ヨットは静かなんです。振動がない。動力船って常に動力でワーッてやってないと走んないだけど、帆船っていうのは一回風を受けれっばサーッと走っていくわけです。風の音しかしない。それが気持ちいいっていうんだよね。

──あぁぁ、ですよね!

でね、海の上で生活したいなって思うんですよ。

メガフロートとか無人島・離島とかね、海上都市の構想があるんだけど。水素を活用することによってエネルギーのマイクログリッド化(地産地消)ができるんです。それができると海洋・海上都市が現実化していくので、まぁ海の上に住めばいいよね。

181009_everblue_sailing_boat-megafloat
Image: The Seasteading Institute
メガフロートの勝手なイメージ。素晴らしき開拓

──ちょっ、それ行きたいっす。めちゃくちゃ行きたいっす。

こういう未来像はいろいろ考えていて、ヨットの発展形のひとつとしてボックス型ユニットの生活空間を備えた海上生活仕様を作ろうと思っている。

どういうものかっていうと、ヨットにの中にテーブル、椅子、Wi-Fiとかがあるオフィスを作ります。で、別のヨットにはキッチンだったりバーカウンターがあって、また別のヨットには寝室がある。

それらを連結したいなと。

──おぉぉぉ。海上で連結するんですか!

そう。これをいろいろな規模で連結して、必要なときはたくさん繋げればいいし、必要ないときは少なくすればいいし、長くなったときは海上でグルーっと円状に合体させて、真ん中はプールみたいになってるからそこで泳いだりとかして。そういう海上都市を作りたいわけですよ。

──いいですねぇ…。

名前もつけてるんだよね。「無限航海999」。

パクリじゃん! みたいな。

──(笑)。あと、渡り鳥じゃないですけど、洋上に住んでいたらいつも理想の気候の場所に移動できますよね。

そうそう、いけますいけます。移動可能なんです。で、そのロジックでいうとMisletoeは「リビングエニウェア」っていう、インターネットさえあればどこに住んでてもいいよね、っていう生活の仕方を提唱していて、季節が良いときにその場所に行こうっていう考えがあるんですよ。

暑いときは涼しいところ。寒いときは暖かいところ。海の上だと移動しやすいっていうのはあるし、別にそれ自体が移動しなくても、そういう生活拠点が海にポツンポツンとあって、そこにピューっと行ってAirbnbみたいな感覚で「しばらくここに住みまーす」みたいな。

181009_everblue_sailing_boat-sea-life-calls-me
Image: ER_09/Shutterstock
海上ライフの勝手なイメージ。「今日の朝ごはん釣っといたよ〜」

──ワァ…。自由を感じますね。

いいでしょ。海の上ってほぼほぼ無法地帯なんですよ。いやほんとに。簡単にいうと海は自己責任なんです。だからなにもなければ黙認っていうか、まぁ自由度が高いんですよね。一番わかりやすい例をいうと、陸の上は制限速度があるじゃないですか。海の上はないんです。

──え、ないんですか?

一あるのは港の中では徐行しろっていうぐらいだね。

──ではもう海に行くのは必然ですね!

うん。ほんとにね、海に制限速度がないって聞いた時のこの目からうろこ感だよね。そういえばオービス(自動速度違反取締装置)とかもないし速度取締とか聞いたことない。

だから出せるだけなんですよ、あそこは。出せるだけ出して良いんです。その瞬間に、あ、海だな。自動運転は海だな。って思って。

ぶっちゃけ水素にはまったくこだわっていない

──最後に、このヨットを通じて実現したい水素社会はどんな未来ですか?

ぶっちゃけ水素にはまったくこだわっていなくってこだわっているのは地球環境なんです。今の状況っていうのは石油使って地球温暖化につながるガスを出して、明らかに気候変動に繋がっていて、このままで行くと良からぬことが起きるわけ。

で、それを止めなきゃいけない、ってときに、日本は本当は原子力によってCO2出さない予定だったのが、震災の影響もあって使えなくなっちゃった

じゃあ太陽光かっていうと、可住地面積(人が住める面積)が少ない日本において太陽光っていうのはあんま機能しなくって、今なにが起きているかっていうと山林を切り崩してソーラーパネルを立てて「メガソーラー!」って……センスないなっていう。

181009_everblue_sailing_boat-solar-over-trees
Image: Soonthorn Wongsaita/Shutterstock
山に立てられたメガソーラーの勝手なイメージ。個人的には…結構好きです

──確かに、木のほうがエコですよね。

そうそう、木ってさ、CO2吸ってるんだよっていう。分かってるの君たちっていう。

──それで、海で発電してヨットで持ってくるという構想に行き着くわけですね。

そう。ただそうはいってもヨット乗ったことないんだけどね。あとこんだけエコエコ言っといて、私が大好きなのはガソリン車です(笑)。

──ええぇぇぇ!! ここに来てそれですか(笑)。

うん、まぁ、ガソリン車とかは趣味の世界なんですよ。だけど実務や実業、社会をまわしていくときは趣味じゃだめで、ちゃんとサステナブルなところをやっていかななきゃいけない。

より良いエコな未来を、楽しみながら作っていきたいよね。


確かに、気候変動は真剣な課題ですが、マジメに考えすぎたら長続きしなさそうですよね。エコが楽しければ自然と未来を良くしていける。

そしてエネルギーが限りなくタダになって、海上の生活が成り立って、メガフロートも浮かび始めて…。そんな未来、最高じゃないですか?

野間さん、ありがとうございました!

ちなみに、everblue technologiesは2019年の夏自動操船ヨットレースイベント「hydroloop challenge(仮)」を開催するという目標を立てています。エンタメ性の高いイベントを目指していて、これから企業や研究機関・大学・高専などに参加を呼び掛けていく予定とのこと。

僕もどこかのチームに参加したいな(チラッ)。

Mistletoe, Wikipedia, 経済産業省