新潟県の大きな離島、佐渡島。そこに私が初めて渡ったのは2011年の秋。
その旅で佐渡島の人、食、自然がとても気に入り、それ以降は毎年必ず(多い年は3回とか)訪れているのだが、今年はどうも都合が合わず、まだ行けていない。すべて自分の都合なので100%私が悪いのだが、これは誠に深刻な佐渡不足である。
だめだ、その辺を飛ぶカラスやハトがトキに見えてきた。
そこで少しでも佐渡の成分を体内に採り込み、心と体を落ち着かせようとやってきたのが、西浅草にある「だっちゃ」である。ここは佐渡島出身の女主人がやっている、佐渡の酒と食材にこだわり抜いた居酒屋なのだ。
▲浅草のメインストリート、国際通りのすぐ近くにあります。
▲「だっちゃ」は佐渡の方言で、語尾につけたりする言葉だっちゃ。『うる星やつら』のラムちゃんとは関係ないよ。
元々は浅草地下街にあったのだが、漏水などの影響で数年前にここへ移転。初めて佐渡旅行へ行くちょっと前に、少しは佐渡のことを調べようと同行メンバーによる決起集会で訪れたのが地下街時代のだっちゃ。この店には佐渡の食材と地酒がギュッと集まっていて、佐渡の食文化を知るのにはもってこいなのだ。
▲店主のきたむらさやかさん。
きたむらさん:「ここは大変なことをわざわざやっている佐渡の専門店です。かつて金の採掘で栄えた佐渡島は、鉱山のあった相川地区の人口密度が江戸と同じくらいだったといわれています。そこからだいぶ廃れてしまったけど、行くと今もいいところじゃないですか。教科書にも出てくるし知名度もあるけれど、なかなか行きたがってもらえないんですよね。沖縄とか屋久島とかリゾートっぽい南の島に負けるんです。そんな佐渡の魅力を紹介する店ってなかなかないじゃん、じゃあ私ぐらいはやるかと!」
▲落ち着いた雰囲気の店内には放し飼いのトキが飛ぶ。いや作りものですね。
▲佐渡乳業のチーズとかへんじんもっこのサラミとかがあるんですよ。
▲こういう地物食材のポスターもじっくり見ちゃうんですよね。牡蠣の時期もいいなー。
移転により店が一回り大きくなって前よりもお品書きは増えたのだが、佐渡純血度は相変わらずなので、結果としてより多く佐渡の魅力が集まっているようだ。
店内は360度どこを見渡しても佐渡島の要素だらけ。貼られているメニューやポスターがすでに楽しい。すでに行ったことがある人は、「そうそう、これうまいよねー」と思いだし、まだ行ったことのない人は、「これってどんな味なんだろう?」と想像する楽しみがあるのだ。
佐渡には個性的な日本酒の蔵が5つもある
米どころ、そして酒どころである新潟、その離島である佐渡もその点は同じ。トキが安心してエサをついばめる有機栽培の田んぼも多く、日本酒を作る酒蔵が5つもあるのだ。
「真野鶴」の尾畑酒造、「金鶴」の加藤酒造店、「天領盃」の天領盃酒造、「真稜」の逸見酒造、「北雪」の北雪酒造。銘柄と酒蔵名が異なる場合があってややこしいが、そこはしっかり暗記していただきたい。同じ佐渡でも、酒蔵ごとにその個性は全く違うのだ。
▲店内に置かれたこういうガイドブックを見ながら酒を注文できる贅沢。
だっちゃにはこの5つの酒蔵が作る主要銘柄が揃っており、そのラインナップは圧倒的だ。酒蔵のこだわりが詰まった渾身の酒から、主に島内で飲まれている地元民向けの気楽な酒まで、絶対に一回の来店では頼みきれないだけの種類が揃っている。
もちろん佐渡島内の酒屋さんやお土産物屋さんに行けばいろいろな佐渡の地酒が売っているけれど、これだけの種類が飲める店というのは私の知る限り存在しない。ここは佐渡にあるどの店よりも、佐渡の酒が飲み比べできる店なのである。
▲日本酒のメニューは飲み方ごとや酒蔵ごとにまとめたページがあり、ものすごい情報量となっている。注文したらすぐ出てくるカタログショッピングみたいだ。
▲日本酒以外にも、佐渡のどぶろくや焼酎、梅酒や日本酒のカクテルなども揃っている。浅草らしくアサヒの生ビールやキンミヤ焼酎も。
その紹介文やスペックから自分好みの酒を選ぶも良し、きたむらさんに好みを伝えてオススメを教わるも良し。量は1合だけでなく半合からでも注文可能となっている。
▲佐渡に興味があるという近所に住む友人に来ていただいた。
▲まず私が頼んだのは、佐渡で地元の方に勧められて飲んで美味しかった逸見酒造の「至」。どのへんが至っているのかは、実際に飲んで確かめていただきたい。至ってるから。
▲ワイングラスで提供してもらうと、その香りがよくわかる。
▲尾畑酒造の日本酒度+21という超辛口真野鶴。すっきりの極致という味わい。
▲加藤酒造店の上弦の月。ゆっくり大事に飲みたい一杯。
▲おちょこでシェアする場合は、こんな徳利で出てくる。マーライオンみたいだ。
佐渡産にこだわったつまみの数々
もちろんお酒だけではなく、食材も佐渡産にこだわっている。これも日本酒と同じく、佐渡のどの飲食店よりも名物が揃っていると言いきって間違いないだろう。
きたむらさん:「魚は佐渡の現場と朝に打ち合わせをして、夕方までに出してもらえば翌日の朝一には届きます。それでも時化(しけ)でフェリーが止まったら魚は来ない。違う産地のものをだして佐渡の看板を掲げたくないから佐渡産にこだわる。それをやろうとするととても面倒臭いことになるんですけど、あえてやっている。自分ってバカじゃないかなーと思うこともあるんですが」
▲本日のおすすめだけでこの多さ。こちらは9月上旬で、内容は時期によって変わります。
これらを佐渡で全部食べようとすると、広い島内を延々と走りまわなければならない。それもまたおもしろいし、できれば佐渡に渡って食べてほしい食材も多いのだが、まずはどんなものが食べられるのかを知ることが大切だ。
本当に食べたいものは、佐渡に行く日までとっておくという作戦も可能。この日は食べたいものを好き勝手に頼んじゃったけど。
▲さらに佐渡の定番珍味やら焼き物やら刺身やらご飯ものやら。来るたびにメニューが増えている気がする。
▲まず出てきたのは本日のお通しであるナスの味噌炒め。一見すると佐渡と全く関係のない料理だが、このナスもわざわざわ佐渡から運ばれてきているそうだ。そう、佐渡は野菜もうまいのだ。
▲初めて食べる人は必ず驚く、「へんじんもっこ」という島内にある食肉加工店のたまとろ生サラミ。初体験の同行者によると「生ハムで作ったタルタルステーキ」とのこと。
▲同じくへんじんもっこの貴腐サラミ(通常版とはちょっと違うサイズ)。白カビで発酵させてあり、カマンベールチーズのような香りがする。
▲エゴノリという海藻で作ったいごねり(名前がややこしいですね)。ところてんのように食べるのが佐渡流。
▲本日のおまかせ三点盛りは、佐渡で島民に愛されているメバルにキジハタ、そしてサザエ。
▲サザエのグルグルした部分が好き。
▲塩や醤油も佐渡産です。これを舐めて酒が飲めるな。
▲メニューに「死にません!」と書かれた料理も珍しいね。
▲プチプチした食感が楽しいふぐの子粕漬け。意外と塩辛くなく、酒の味を邪魔しない。
▲佐渡といえばイカも有名。個人的にこの日一番のヒットだったつまみが、肝醤油で食べる真イカ(スルメイカ)の刺身。
▲生臭さのまったくない肝がねっとりとした刺身に絡んでうまいんですよ。
▲店内で手作りしている、イカの卵のかまぼこなんていう珍味も。
▲ミソがたっぷりの紅ズワイガニの甲羅盛り。佐渡と新潟の海峡ではカニやエビが豊富に獲れるのだ。
まだまだあるよ、佐渡の魅力的な酒と名物
佐渡、そしてだっちゃ、やっぱり楽しいな。
頼みたい料理が多すぎるし、飲みたい酒も多すぎる。
きたむらさん:「ネットで佐渡のことを調べた人が来てくれたり、おじいちゃんおばあちゃんを引き取ってこっちで一緒に暮らしていて、たまには佐渡のものを食べさせてあげたいと連れてきたり。佐渡の人って意外と佐渡のものを知らないから、出張で佐渡から来た人が『こんな日本酒あるんだ!』とか『へんじんもっこを初めて食べたよ!』って喜んでくれたりもします。佐渡って東京23区の1.4倍の面積がある大きな島で、外周する国道は全長210キロ。観光しながら一日で回れるような広さじゃないんです。だから旅行スケジュールの相談とかもよくされますね」
▲天領盃酒造の辛口原酒。新聞紙のパッケージが良い。
▲ロバート・デ・ニーロも愛する北雪酒造からは「甚九郎」をセレクト。
▲氷を入れたロックで飲むように設計されたお酒、尾畑酒造の「真野鶴 大吟醸無濾過生酒」。
▲この加藤酒造店の「本醸造 金鶴」は、基本的に島内でしか流通していない島民向けの酒。実に日本酒らしい味。
▲佐渡のおばあちゃんが漬けた梅干し入りのチューハイなんていうのも。「この梅干し一個で8杯おかわりできます!」とのこと。
▲正式名称はホッコクアカエビ、通称アマエビ、佐渡では南蛮海老と呼ばれるエビのお刺身。
▲佐渡の漁師がおすすめする食べ方だという南蛮海老の塩焼き。殻ごとバリバリいける。
▲まだまだ気になるお酒がありますが、そろそろおしまいにしましょうか。
▲国仲平野の名産品だという佐渡番茶。知らない名物がまだまだあるなー。
このようにたっぷりと味わった佐渡の味覚。
これで佐渡欲が満たされるかと思ったら、やっぱり海を渡るべきだという想いが強くなってしまった。ここで食べたものを本場でもう一度食べたいじゃないですか。さすがのだっちゃでも出てこない佐渡乳業のコーヒー牛乳とかも飲みたいし。
やっぱり今年中に佐渡島へ行こうかなー。
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