それをするたびに私たちは「もう絶対にしない!」と誓います。ところが、ほぼ間違いなく、同じことをまた繰り返している自分に気づきます。

誰もが、先延ばしは良くない習慣だとわかっていますが、結局、重要な仕事を徹夜でなんとか間に合わせるということを、繰り返しているのです。

先延ばしはさまざまな形で行われ、副作用として、不安、ストレス、欲求不満を引き起こします。長期に渡って先延ばしが繰り返されると、心の健康や人間関係、ウェルビーイングに破壊的な影響が及ぶこともあります。

先延ばしをやめる方法があるとしたら、素晴らしくはないですか? あなたが信じても信じなくても、数々の心理学的研究により、先延ばしグセを克服するのに役立つ、いくつかのルールがあることがわかっています。

先延ばしの心理学

Video: Piers Steel/YouTube

先延ばしは、個人的な欠点ではありません。人間の脳が持つ自然のメカニズムのひとつです。辺縁系は、脳の非常に原始的な領域で、私たちの基本的な情動や反応に関わっています。

脳にとってネガティブだと感じられる状況(努力が必要、楽しいことができなくなる、一時的な痛みがあるなど)に直面すると、辺縁系が「嫌だよ、ほかのことをしようよ」と声を上げます。

その声に従い、楽しい気晴らしに走り、先延ばしの当然の結果として、脳は「闘争か逃走か」モードに追い込まれることになります。そして、アドレナリンを放出させることで、ようやくタスクにかじりつくのです。

しかし、辺縁系がこうした反応をするからといって、先延ばしから永遠に逃れられないというわけではありません。脳には、前頭前野と呼ばれる、推論や計画のような、より複雑な脳機能を担当する領域があります。適切な戦略を立てれば、前頭前野が司る高次の思考スキルを使って、先延ばしをしようとする本能的な衝動に打ち勝つことができます。

これから紹介する、先延ばしを打ち負かすためのシンプルな「ブレイン・ルール」はどれも、脳科学に裏付けられたものです。このルールを活用すれば、最も困難なタスクでさえ、時間に余裕を持って完了させられるようになるでしょう!

ブレインルール #1:ツァイガルニク効果

未完了のタスクのほうが、記憶に残りやすい

やる気がまったく湧かなくて、そのタスクについて考える気にもならないときは、この効果を活用してみるといいでしょう。研究により、人は、まったく手を付けていないタスクよりも、途中まで取り組んだタスクのほうが、はるかに意欲がわきやすいことがわかっています。

脳に少しだけ情報を与えておけば、つまり、タスクやプロジェクトに少しだけ取り掛っておけば、脳はそのタスクのことが気になって、締切に追い詰められる前に、続きをやろうと舞い戻ってくることになります。

Video: tarasearle3/YouTube

試してみよう

  • タイマーを5分にセットする。その短い時間で、できるだけ多くの作業をこなすべく努力し、時間になったらそのタスクから離れましょう。
  • 複数のタスクを抱えているときは、マルチタスクやタスクスイッチングは避ける。脳は未完了のタスクを手放すのが苦手なので、タスクを切り替えても、新しいタスクにすぐには集中できません。

ブレインルール #2:ヤーキーズ・ドットソンの法則

適度なストレスと、適度な課題を組み合わせると、脳を最も効果的に働かせることができる。

ストレスと脳は複雑な関係にあります。

ストレスが少なすぎると、脳は関心を失ってしまいます。逆にストレスが多すぎると、脳はストレスホルモンでいっぱいとなり、機能を停止します。一方、脳が理想的なレベルで活動できていれば、適度なストレスホルモンが放出され、パニックに陥ることなく、集中力と注意力を保つことができます。

心理学者たちは、理想的な精神状態を「フロー」と呼んでいます。フローは、楽器の演奏など、好きなことをしているときによく経験される現象です。脳機能イメージングの研究により、フロー状態になっているときは、脳の働きも活発になっていることがわかっています。

人がプロジェクトを先延ばしするのは、そのプロジェクトに難易度が足りないせいで、やる気が湧かないからだというケースも少なくありません。しかしその一方で、締切が目前に迫ると、脳がパニックに陥り、タスクに効果的に取り組めなくなります。その場合は、タスクの難易度を調整するか、自分のストレスへの反応の仕方を変えるようにします。

Video: Paritosh Shukla/YouTube

試してみよう

  • タスクを調整して、難易度を上げる(締切を早めてみる)、または下げる(タスクを分割してみる)。
  • マインドフルネス瞑想をすると、脳の回路が調整され、高ストレス状況でも静けさを保てる能力が高まることがわかっています。

ブレインルール #3:パーキンソンの法則

仕事の量は、完成のために与えられた時間をすべて満たすまで膨張する。

このブレインルールは、『4 Hour Work Week』のおかげで、人びとの知るところとなりました

パーキンソンの法則について、わざわざ研究成果を調べる必要はありません(こちらにありますが)。

きっと多くの人が身に覚えがあるはずです。ひとたび締切が設定されると、何時間もかかると思われたタスクが、30分で片付いてしまうことがあります。逆に、タンスの靴下を整理するのに、午後いっぱいかかってしまうことも。

このブレインルールが、先延ばしグゼのある人を助けることもありますが(多くのエッセイが締め切り前夜に書かれている)が、生活の質を著しく損なう可能性もあります。

1つのプロジェクトを何日、何週間、何カ月も頭のなかに置いておくと、しだいに気分がふさぎ込んでくることがあります。心と体の健康のためには、タスクは適切な時間内に片付けられなければなりません。長すぎても短すぎてもよくありません。

Video: Practical Psychology/YouTube

試してみよう

  • プロジェクトを完了させられるだけの現実的な時間を自分に与える。長すぎても短すぎてもいけない。
  • 重要じゃないタスクに時間を費やさない。かわりに、ポモドーロ・テクニック(25分の作業と5分間の休憩を繰り返す)を使って、生産性の高い作業を、リズムよく繰り返すようにします。
  • 自分にプレッシャーを与える。小説を書くために自分に2年間を与えたとしたら、与えただけの時間を使い切ってしまうでしょう。締切を6カ月(あるいは1カ月)に設定して、様子を見てみてはいかがでしょうか?

ブレインルール #4:プレマックの原理

好ましい行動は、あまり好ましくない行動に対する報酬として使うことができる。

脳科学の初歩の初歩?

私たちの脳は本当に報酬が大好きです。大きなものでも小さなものでも、物理的なものでもバーチャルなものでも、偶発的なものでも意図的なものでも、どんなものでも、私たちの脳は報酬を常に欲しがっています。

もし報酬がもらえることがわかっていたら? 人は、言われたことをほとんどなんでもやる可能性が高いことを研究結果は示しています。

このルールは当たり前のことのように思えますが、つい報酬を欲しがってしまうことが、あなたの個人的な欠点ではないことを示すものでもあります。報酬への欲求は生物学的起源を持つものです。ありがたいことに、ほとんどどんなものでも報酬として使うことができます。

お菓子、トイレ休憩、ストレッチ、Twitterを5分間スクロールする。

こうしたシンプルなものでも十分に仕事の報酬として機能します。こうした報酬なら、ほかの人の手を煩わすこともなく、大金を費やすこともありません。

Video: Neuroscientifically Challenged/YouTube

試してみよう

  • タスクに取り掛かる前に、タスクの各ステップを完了するごとに自分に与える報酬を考えておく。
  • どうしてもモチベーションが上がらないときは、「魅惑的な抱き合わせ」を検討する。本当にしたくないこと(レポートを書く)と、大好きなこと(新しいカフェを開拓する)を結びつけます。大好きな活動が賄賂として働き、大嫌いな活動もそれほど悪いものではないと脳を説得することができます。
  • このルールを反転させて使うこともできる。研究により、ついやってしまう行動を抑制するには、それを楽しくないものにするのが有効であることがわかっています。

ブレインルール #5:自我消耗

自制心や意志力に使える精神的リソースは限られている

常識のように聞こえるかもしれませんが、多くの人はこれが事実であることをきちんと理解していません!

したくないことを自分に強制するたびに、精神エネルギーが枯渇していきます。

研究により、先延ばしをしようとする本能に打ち勝つために、意志力を使えば使うほど、ほかのタスクに使える意志力が少なくなることがわかっています(注:この理論は現在、異議が唱えられており、心理学界で議論が続いています)。

残念なことに、先延ばしの克服に取り組むためには、いくらかの意志力を使わざるをえません。良いニュースもあります。タスクの優先順位をうまく設定すれば、意志力を戦略的に使うことができます。

Video: Nick Michelioudakis/YouTube

試してみよう

  • タスクを小さなパーツに分割する。脳から見て、そのタスクが恐ろしいものでないほど、取り掛かるのに必要な意志力も少なくなる。
  • 最も恐ろしいタスクを最初にやる。ストレスが少ないほかのタスクを先に取り組むと、その分だけ意志力が減り、重要なタスクをやり遂げられるだけの意志力が残らなくなる。
  • 魅力的でないタスクを習慣に変える。タスクを習慣にすれば、必要な意志力は減ります。

完璧な人などいない

こうしたブレインルールはどれも素晴らしいものですが、ルールを理解するだけでは、習慣を変えることはできません。

私がいい例です。

興味深いことに研究によると、私のような先延ばしの常習犯にとって最も重要なのは、ここまで先延ばしをしてきてたことを許すことだそうです。

先延ばしに罪悪感を感じたりせず、先延ばしは生物的本能に過ぎないことを理解すれば(個人的な欠点ではない)、罪悪感が引き起こすサイクルに陥らずにすみます。

この記事で、先延ばしを克服するための科学的方策について学んでくれたとしたら素晴らしいことです。次はそれを実践に移す番です。 1つ(またはそれ以上!)の戦略を試し、辺縁系を言い負かすことができるかを、見てみてください。

たとえ失敗したとしても、先延ばしが世界を変えることもあることを思い出して、自信を失わないようにしましょう。

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Image: NakoPhotography/Shutterstock.com

Source: YouTube(1, 2, 3, 4, 5, 6), Wiley Online Library, Psycology Today, NCBI(1, 2), Management Science, Inside Higher ED, University of Washington, The Wall Street Journal

Original Article: Stop Procrastination in Its Tracks With 5 Proven Brain Rules by MakeUseOf