詩人ウィリアム・ブレイクは、「人と山とが出会うことで、偉業が為される」と書いています。山登りは人生について多くのことを教えてくれますが、なによりも時間管理について学ぶことができます。
時間は貴重です。誰にとっても一日は24時間です。それ以上でも以下でもありません。この24時間への取り組み方次第で、一日を無駄なものにも、誇るべきものにもすることができます。
朝、目覚めた瞬間から夜、眠りにつくまでの時間をどのようにマネジメントするかは、山登りと似ています。私は山登りをしながら、数々の教訓を大変な苦労とともに学び、それを人生に適用して、成功を収めてきました。
今回は、私が学んだ教訓のいくつかをシェアしたいと思います。これから紹介する学びをあなたの人生に適用するのに、わざわざ山に登る必要はありません!
ポイント
1.最短距離が最も早く行ける道とはかぎらない
2.晴れていても、雨具を持っていく
3.山を過小評価しない
4.長距離走のペースで
5.山全体を意識しすぎない
6.靴の中の小石を取り除く
7.回復するための時間をとっておく
1. 最短距離が最も早く行ける道とはかぎらない
山は錯覚に満ちています。山頂へ至るルートがいくつかあるとき、そのなかの最短距離の道を行きたくなるかもしれません。それがもっとも早く山頂にたどり着けるルートだと考えるわけです。
これは、アマチュアの登山者によくある間違いです。初心者は地図上の標高線を無視してしまいます。
妻(当時はガールフレンド)と私は、マサチューセッツ州西部の山頂で一泊のキャンプを計画したときに、この教訓を大変な苦労とともに学びました。そのとき私たちは、キャンプ予定地まで「最短で」行ける3マイルのハイキングルートを選んだつもりでいました。ところがフタを開けてみると、3マイルのほぼ全行程が急勾配の斜面だったのです。
荷物でいっぱいになったバックパックを背負った私たちは、山頂に到達するのにほとんど丸一日を費やしました。あとで地図をよく見ると、尾根に沿ってゆるやかな坂を登っていける5マイルのルートがあったことに気がつきました。その道を行けば、同じ場所に2時間早く到着できたはずです。
時間管理における「長い道のり」
この教訓を時間管理に適用するのは簡単です。たとえば、プロジェクトをスケジュールするとき、「タスクの複雑さや困難さを考慮せず、やっていくうちにわかるだろう」といういいかげんな気持ちでスケジュールを決めてしまっていませんか?
それは間違ったやり方です。山登りで言えば、山頂までに巨大岩が100ほどもある登山ルートを、1回のセッションで登りきろうと計画するようなものです。
山頂に至るまでの過程を「長い道のり」だと考えてください。最初に少し時間をとって、困難で複雑なプロジェクトを、小さな一口サイズのタスクに分解するのが賢いやり方です。そして、それぞれのタスクにどれだけの時間がかかるかを慎重に見積もります。
一日の計画を立てるときは、このタスクリストから1つを取り出し、達成可能だと合理的に判断できる時間枠に配置していきます。
プロジェクト達成までの道のりを、細かなパートに分解することで、プロジェクトの複雑さや困難さに圧倒されてパニックになるのを避けることができます。
プロジェクト達成までの道のりを余計に長くしているように感じるかもしれませんが、実際には、そうしない場合よりもずっと早くゴールに到達することができます。
2. 晴れていても、雨具を持っていく
あなたがハイカーであれば、暖かい日差しの中でハイキングを始めたのに、「気がつけば木の下で激しい豪雨を震えながらしのいでいた」という経験があるのではないでしょうか。
天気予報も雨のことを何も言っていなかったので、あなたはレインコートどころか、ビニールのポンチョさえも持っていかなかったというわけです。
こうした体験は楽しいものではありません…。
天気予報を鵜呑みにしてはいけないということです。この教訓は、一週間の作業計画を立てるときにも適用できます。
スケジュールにも雨具を持ち込む
週のはじめにスケジュールを組もうとするときに最もやりがちな間違いは、すべての日程にタスクを隙間なく詰め込んでしまうことです。心穏かやで、この先天気が荒れるなんて想像すらできない日曜日の夜に、よくこうした間違いが起こります。
いざ週が始まると、何事も予定通りには行きません。この場合、雷雨に備える「レインコート」にあたるものは何でしょうか? それは、「時間クッション」です。
Entrepreneurののインタビューで、時間管理の専門家であるJulie Morgenstern氏が、この時間クッションについて次のように説明していました。
過密すぎるスケジュールを組むべきではありません。分刻みでタスクを詰め込んだりしないでください。想定外のことが必ず起こります。それだけが唯一、確かなことだとも言えます。ですので、スケジュールに時間クッションを組み込む必要があります。
Julie氏は、交互にすることを推奨しています。
1時間の作業時間のあとに、1時間の計画外作業の時間をスケジュールしておくのです。この計画外作業の時間が、急用の電話がかかってくるなどの「雨」を吸収する時間クッションの役割を果たしてくれます。急場の危機を時間クッションで吸収しながら、タスクをスケジュール通りにこなしていきましょう。
もし危機が何もなく、タスクが早く終わったときは、次のタスクに前倒しで取り掛かればOKです。
3. 山を過小評価しない
ニューイングランドで最も高い山々をハイキングしているとき、テニスシューズを履き、水筒だけを持って山道を歩いている週末ハイカーを必ず見かけます。
ときどき、彼らが脱水状態に陥り、どうしてこうなったと頭を抱えているところに、あとどのくらいで通りかかることになるだろうか、と考えたりします。
山を過小評価すれば悲惨な結果が待っています。言ってもなかなかわかってもらえないことなのかもしれません。それがどれほど危険なことかは、自分で体験するしかわからないことなのでしょう。
スケジュールが守れなくなる最大の原因は、プロジェクトやタスクの所要時間を、きちんと見積もれていないことです。
タスクにかかる時間を正確に見積もる
上記のアドバイスに従って、巨大なプロジェクトを「一口サイズ」のタスクに分解したのなら、こんどは、それぞれのタスクの所要時間を正確に積もるようにしてください。
そうしなければ、思ったよりずっと時間がかかって、スケジュールが完全に狂ってしまう危険があります。
では、どうすればいいのでしょうか?
信じられないかもしれませんが、この問題に関する最善のアドバイスをもたらしてくれるのは、時間管理のグルたちではありません。Microsoftです。それは、Microsoft Officeのサポートサイトに載っていました。
タスクの所要時間を見積もるために、Microsoftは、次の4つのうちの1つ、あるいはいくつかの情報ソースを参考にするとよいとアドバイスしています。
- 自分自身の経験:過去にそのタスクを何度も達成している場合は、そのとき費やした時間を参考に、タスクの所要時間を見積ります。
- チームメンバー:多くの人は、他のチームメンバーも自分と同じタスクをこなさなければならない環境で働いています。ほかのメンバーがそのタスクにどれだけ時間を費やしたのか聞いて回り、集めた結果の平均をとって、タスクの所要時間を見積もります。
- 過去のプロジェクト:過去にチームが取り組んだプロジェクトに関する資料を調べれば、そのタスクにどれだけの労力が必要かを推測することができます。
- 業界標準とベンチマーク:Googleはあなたの友人です。そのタスクがごく一般的なものならば、Googleに「XXにはどのくらいの時間がかかる?」と尋ねてみましょう。
こうした事前調査は重要です。
時間管理でやりがちな最大の過ちは、困難なタスクの所要時間を過小評価してしまうことです。
2、3時間でできると思っていたタスクに丸一日かかってしまえば、スケジュールが大幅に狂い、軌道に戻すのに長い時間がかかることになります。
4. 長距離走のペースで
スケジュールにしたがってプロジェクトを実行する際は、マラソンと同じアプローチで取り組んでください。マラソンを走る時、スタートから全力疾走はしないですよね?
頑張り屋の人は、山登りを始めた頃にこの教訓を学びます。裾野までの3マイルを全速力で歩いてしまえば、ルートの最もハードな地点に差し掛かるまえに、エネルギーが枯れ果ててしまうでしょう。
人生で大きなプロジェクトに取り組む場合にも同じことが言えます。自分のペースを保つことが重要です。
ビジネスウーマンで作家のMarissa Mayerさんは次のように書いています:
4カ月ごとに1週間の休暇をとることで自分のペースを保っています。
これは、シンプルで完璧なペース管理のやり方です。
同じアプローチを、もう少し短い期間に凝縮して、自分のスケジュールに適用してみましょう。 たとえば、4カ月間働いて1週間休む代わりに、6日間働いて1日休むのはどうでしょうか。あるいは、3時間働いたら、1時間の休憩や「自由時間」をとるようにしてもかまいません。
25分作業して5分休憩する、ちょっと過激なポモドーロテクニックを試すこともできます。
1日8時間、休憩なしに全力疾走で作業できるとは考えないでください、ということです。
それでは途中で燃え尽きてしまいます。
5. 山全体を意識しすぎない
これまでしたハイキングのなかで、最も忘れられないものの1つは、友人と連山を縦走したときの体験です。私たちは、最初の山の頂きに登るのに、実に9時間を要しました。
最初の山頂に到達するまでの間に、私はすっかり疲れ果ててしまいました。ももの筋肉は痙攣し、エネルギーは枯渇しています。頭の中は自己疑念の思考が駆け巡るばかり。準備が足りなかった。きっとうまくいかないだろう。踵を返して下山すべきだ…。
山頂にたどりついた私の目に、これから登る予定の、ほかの山々の頂きが飛び込んできました。私は口を開けたまま立ちすくみ、頭の中が真っ白になってしました。これからまだ3つの山頂に登る必要がありました。
私は崩れるようにしゃがみ込むと、両手で頭を抱えました。そのとき、友人がとなりに座ってかけてくれた言葉を、忘れることができません。
山全体を見ちゃだめだよ。目の前の山だけを見るんだ。その山に登れたら、次の山を見る。そうしていけば、いずれはゴールにたどり着く。大丈夫、時間はたっぷりあるんだから!
私は、この言葉のおかげで、元気を取り戻し、再び立ち上がることができました。先のことは忘れて、全行程を小さなパートに分解して一度にひとつずつ取り組み、最後にはゴールに辿り着くことができました。これと同じことが人生にも当てはまります。
目標を設定したら忘れる
世の中には、最新の時間管理システムを見つけると、全速力で突っ込んでいって、しゃかりきになって実践しようとする人たちがいます。
彼らは人生の目標をいくつか決めると、それを無数の小さなパーツに分解し、さらにそれぞれのパーツを無数のタスクに分解します。
この作業をすべて終えると、タスクリストには、どんなに我慢強い人でも逃げ出したくなるくらい、とてつもない数のタスクが並ぶことになります。そして、とてもじゃないがやり通すことなどできないと落胆するのです。
こうした事態を回避するには、目標を「設定したら忘れる」というアプローチを採用することです。半年、あるいは一年ごとに目標のレビューをする必要はあります。しかし、目標を決めたら、いったん頭から追い出し、目の前のタスクにだけフォーカスするようにします。
タスクをさらに小さなセクションに分解し、タスクリストには一年以内に達成する予定のタスクだけを載せるようにしてください。残りのタスクは来年以降に計画すればOKです。
ここまでくると、タスクの量はかなり絞り込まれます。続いて、1年分のタスクリストをさらに月ごとのタスクリストに小分けします。今月のリストを取り出したら、残りはしまっておきましょう。いかがですか?
これで、目の前にあるタスクリストは手に追える感じがしてきませんか?
このテクニックの背後にある心理学は非常に強力です。このテクニックを使うと、想像もしていなかったようなことを達成することができます。
6. 靴の中の小石を取り除く
靴の中に小石が入っている。森林トレイルを歩くときに、最も気をつけなければならないことの1つがこれです。平坦な道を歩くのであれ、ゴツゴツした岩山を登っていくのであれ、靴の中に小石が紛れ込むと、ハイキング全体に壊滅的な影響が及ぶことがあります。
悪くすれば、皮膚が炎症を起こしたり、水ぶくれができたり、足首を捻挫する危険もあります。
モハメド・アリはかつてこう言いました。
疲れるのは山登りそのものではない。やっかいなのは靴の中の小石だ。
私はこの言葉を忘れることができません。
不要なタスクを取り除く
時間管理でいうと、何が靴の中の小石に該当するでしょうか?
最初にブレインストーミングして設定したタスクのなかには、実際には不必要なものが含まれています。ToDoリストに書き込んだからといって、タスクを再評価してはいけない理由はありません:目標を達成するのにこのタスクは本当に必要だろうか?
もし必要でないなら、あるいはほかのもっとシンプルなタスクで代替できるなら、不要なタスクは削除してください。
7. 回復するための時間をとっておく
登山をする人は通常、登山のあとに数日間、「回復」のための休暇をとっておきます。ハイキングはハードです。翌日はベットから起きれないほど体が痛いかもしれないのに、仕事を入れておくなんてナンセンスです。
休憩時間をスケジュールする
自分のペースを保つのに加えて、主要なマイルストーンごとに、ハードワークで消耗した心身を回復するための十分な時間を必ず確保しておきましょう。
バケーションは重要です。体を休めるためだけでなく、マインドをリセットして、新たな気力と情熱をもってプロジェクトに戻るためにも、休憩は不可欠なものとなります。
この教訓を軽視してはいけません。おそらく、ほかのどの教訓よりも重要です!
あなたは山登りをしますか? 山登りで学んだ教訓を時間管理や生産性向上に適用したことはありますか?
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Image: Dudarev Mikhail/Shutterstock.com
Source: Entrepreneur, Microsoft
Original Article: 7 Time Management Lessons I Learned from Mountain Climbing by MakeUseOf