Netflix社員は毎日がバトルロワイヤル

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Netflix社員は毎日がバトルロワイヤル
Image: Ernesto S. Ruscio/Getty Images Entertainment/ゲッティ イメージズ
CEOのリード・ヘイスティング

過労やパワハラとは次元の違う地獄がここに。

Netlflix(ネットフリックス)の現社員と元社員総勢70人以上の取材をもとに、The Wall Street Journalがそのベールに包まれた職場環境をレポートしています。自己啓発本、ビジネススクール、シリコンバレーの破壊文化、ニューエイジの透明性至上主義を寄せ集めて煮詰めるとこうなるんでしょうかね。

いろいろおかしなことになっているようです。

Netflixウェイ

社員が語った「Netflixウェイ(Netflix way)」は次のようなものです。

・隠しごとを極端に嫌う
・落ち度は全社で共有、糾弾
・首にされる恐怖

アメリカ企業ではおなじみの要素もあります。ただ、海外進出先の国々ではいろいろ軋轢も生んでいる模様ですよ?

首にしないと首にされる

まず一番怖いのがこれ。できない社員はバンバン首にしなければならないということです。上司は「キーパー・テスト」、要するに「自分の首をかけてでもキープしたい部下かどうか」を自問することでIN/OUTを判断します。答えがYESならキープ、 NOならクビです。わかりやすいですね。まかり間違って、このキーパー・テストを甘く見て、できない社員を群れから間引く手入れを怠ると、今度は自分が俎上にあがってクビにされるのであります。ご~ん。

広報VPだった元女性社員の場合、クビを言い渡されたのは、週末返上で人気ドラマ『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』シーズン2のキャンペーンの準備をしている最中でした。「月曜の朝一でミーティングにこい」と上司から連絡が入り、出社したらクビを言い渡されたのだといいます。理由は「社風になじまないから(カルチャーフィット切り)」 。

採用最高責任者のTawni Nazario-Cranzさんの場合、もっと早く部下をクビにすべきだったと経営陣に後日語っただけで「キーパー・テスト」失格とみなされ昨年クビになりました。こんな調子なので、上司は常に、クビにしないと甘い上司と見られてしまう恐怖の中で生きているのだと管理職数名はThe Wall Street Journalに語っていますよ。

懺悔の儀「サンシャイニング」

突然クビにするのは褒められたことではありませんけど、洗いざらい情報を共有することで社員も自分の立ち位置が確認できる、というのがNetflixの発想です。情報共有の進め方もラディカルで、役員会議でも経営陣は互いに悪いところを批判し合うし、社員同士も批判し合うよう推奨されています。まるで共産主義の自己批判ですな。

で、誰かがヘマをやると、みんなの前で原因を説明し、許しを請う儀式もあるんです。これが「サンシャイニング(sunshining)」。 罪を白日のもとに晒して昇華するっていうイメージなんですかね…。アセンションみたいな宗教っぽさがあり、これはこれで怖いものがあります。

クビになった理由を全社メール

誰かが会社をクビになると、クビになった理由を事細かに書き記したメールが全社に送信されます。解雇理由は、全社ミーティングで長々と説明されることもあります。他山の石としようということなんでしょうか…。

この首切りレースは、創業者のリード・ヘイスティングCEO自身も実践しています。いい意味で氏は「感情で流されない人」なんだそうでして、創業当時からの社員で個人的に親しい元プロダクト責任者Neil Huntさんのことも「キーパー・テスト」でNOになったため昨年クビを言い渡しました。 理由は経営多角化で「Greg Petersさんの方が適任になったから」。Huntさんの方も後腐れなく会社を去っていったそうですよ。

カルチャーフィット切りの比重が高い

世の企業の人事評価では通常、スキルとカルチャーフィットの比率が8:2ですけれど、Netflixは5:5。「社風になじまない」という理由でクビになるケースがとても多い、という特徴があります。これについてNetflix本社広報に取材してみたところ、次のようなコメントをいただきました。

生産性の高い社風を守り、最高の仕事ができる自由を与えるのがわれわれの役目です。コントロールは減らして、責任は増やす。そうすれば社員のやる気は向上し、もっとスマートでクリエイティブな判断ができ、メンバーにもっと質の高いエンターテインメントを提供できるでしょう。記事内容にはNetflix社員の状況が正確に反映されていない部分もありますが、学ぶべきところは学んで常に向上を図っていきたいと思っています。

さすが自己批判のNetflix、打たれ強い。新聞で叩かれた傷口にはサンシャインをたっぷり当てて自己再生し、またズン、ズンと前に進んでいくんでしょう。

「殺すか殺されるか」の社風はもはや当たり前と受け入れられている節もあります。毎日クビになる恐怖の中で生きるのはおかしいじゃないかと、ある社員が経営会議で問題提起したときにも、「いいんじゃない。恐怖で働くんだから」 とKaren BarraganさんというVPにあっさり言われて終わりだったそうですよ(Barraganさんは否定)。

待遇は破格

面白いのは、いろいろ納得いかない点やひどいと思うところはあっても、誰も声高には会社の悪口を言ってないことです。なにしろNetflixはべらぼうに待遇がいいですからね。The Hollywood Reporterが社員に取材したところによると、マネージャークラスで年棒15~40万ドル(1700万~4500万円)、ディレクタークラスは40~80万ドル(4500万~9000万円)で、ほかの映画会社の25~50%高給取りなんだそうですよ? そりゃみんな角がとれて丸くなりますわ。

まあ、それでも、不満がゼロというわけではないようで、同紙には次のような不満の声もあがっています。

・「キーパー・テスト」なんてものは都合のいい建前で、内実はどこにでもある出世争いだ。
・透明性もいいけど、単に恥ずかしいだけだ。
・解雇理由の発表も、社内では格好のゴシップネタになっている。

海外進出先でカルチャーショック

海外進出、大型出資、競争が加速するにつれ海外では軋轢も生まれており、シンガポール支社では、採用から解雇までのスパンがあまりにも短いことに当初、社員の間に動揺が走ったそうです。また、オランダなどでは法律違反になってしまうため、本社みたいな生存競争のシステムは導入できていない模様です。日本オフィスはどうなんでしょね…。

ダブルスタンダード

あと線引きがあいまいなところもあって、ある元役員は、社員のプライバシーを思って病気のことを会社の人たちに伏せていただけで、「社員の大問題を会社に報告しなかった」という透明性のレッドカードが上がって会社をクビになりました。そうかと思うと、元広報最高責任者のJonathan Friedlandさんはあまりにもバカ正直に問題を説明したばかりに、透明すぎるレッドカードが上がって会社をクビになってしまいました(社内ミーティングでNGワードを説明するときに黒人差別用語を使って社員に通報された)。

後者の解雇については、リード・ヘイスティングスCEOが何カ月も遺留にしていたのですが、最終的にはリトリート合宿の席で、判断を遅らせた自らのミスを詫びる「サンシャイン」をやったんだそうですよ(でました、サンシャイン!)。

なんでもステージに登ってレモンをやおら半分に切ってグラスに絞り、ぐっと飲み干して、こう言ったのだとか。

When life gives you lemons, you make lemonade.

(人生、レモンが与えられることもある。黙ってレモネードにして飲め)

これは「人生、時には辛いこともある。しかしそれを飲み下してこそ成長できるのだ」という英語の格言です。でもただ絞って飲むだけじゃ、それレモネードじゃないし。ゲッとなって終わりだと思う…。

Source: The Wall Street Journal