サイエンス

人には不要だとされている内臓がパーキンソン病の発症に大きく関わっていることが判明


大腸の端に位置する「虫垂」は、現代のヒトが生きる上で特に必要不可欠な器官とは考えられておらず、虫垂内で何らかの理由で細菌が繁殖して虫垂炎を引き起こすと、重症化する前に切除されることもあります。そんな虫垂がパーキンソン病の発症率に大きく関わっているという研究結果を、ヴァン・アンデル研究所(VARI)が報告しています。

The vermiform appendix impacts the risk of developing Parkinson’s disease | Science Translational Medicine
http://stm.sciencemag.org/content/10/465/eaar5280


Parkinson’s disease could originate in appendix, study finds | Society | The Guardian
https://www.theguardian.com/society/2018/oct/31/parkinsons-disease-could-originate-in-appendix-study-finds


パーキンソン病は、神経伝達物質であるドーパミンが脳内で分泌されなくなることによって、運動の調節がうまくいかなくなり、体の動きに障害があらわれる病気。映画「バック・トゥ・ザ・フューチャー」で主演を務めたマイケル・J・フォックスや、プロボクサーのモハメド・アリが患っていたことでも知られています。2018年現在では、いまだパーキンソン病に対する根本的な治療法は見つかっていません。

VARIの研究チームは、スウェーデンの100万人以上の健康記録を分析し、虫垂炎などによって虫垂を切除した人のパーキンソン病発症リスクが、切除していない人に比べて19%低いことを発見しました。論文の責任著者であるVARIのヴィヴィアン・ラブリー助教授は、「虫垂はほとんど不要であるといわれていましたが、実際は腸内の善玉菌の構成を制御することで免疫系の主要部分を担っています。私たちの今回の研究では、パーキンソン病にも関わりがあることがわかりました」と述べています。


また、虫垂が、変異したα-シヌクレインと呼ばれるタンパク質を貯蔵していることも判明。このα-シヌクレインはいまだ機能が不明なタンパク質。何らかの原因で構造が変異した異常なα-シヌクレインは、パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患を引き起こすと考えられています。そのため、異常なα-シヌクレインを貯蔵する虫垂がパーキンソン病の発症と密接に関連していることが明らかになりました。

ただし、この異常なα-シヌクレインは、パーキンソン病を発症していない人の虫垂にも確認できるそうで、α-シヌクレインだけがパーキンソン病の原因となるわけではなく、あくまでも複数ある病因の一つであると研究チームは論じています。

ラブリー助教授は「虫垂の切除はあくまでもパーキンソン病の発症リスクを減少させるだけで、完全な予防法ではありません」とコメントしています。また、ユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学研究所のトム・フォルティニー教授は「これは腸の病理とパーキンソン病の発症リスクに関連性をもたらす、価値ある疫学的証拠です。虫垂に異常なα-シヌクレインを貯蔵するとなぜパーキンソン病を発症しやすくなるのか、そして発症しない人はなぜ抵抗性を持っているのかというのが今後の研究課題です」と述べています。

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in サイエンス, Posted by log1i_yk

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