津波による被害をなくすため、エンジニアたちはこんなアイデアに取り組んでいる

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  • author Robin George Andrews - Gizmodo US
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津波による被害をなくすため、エンジニアたちはこんなアイデアに取り組んでいる
津波にによる被害(インドネシア・スラウェシ島)

2018年9月28日にインドネシアのスラウェシ島を襲った津波では、少なくとも1400人が亡くなりました。しかし、津波は再び発生するものです。これからも世界的にみて地質構造が活発な地域である沿岸に人々は暮らし続け、津波は発生し、また犠牲者が出る日が来てしまいます。

だからと言って、ただ傍観して何もせずにいるべきということではありません。こういった恐ろしい自然の大災害から、物理的に我が身を守る方法があると分かったのです。既に存在するアイデアから、今はまだSFの領域にあるアイデアまでのほんの一部をご紹介します。

壁を建設する

海を水平に伝播する大波である津波は、特定の種類の地震や火山噴火、地滑りといった大量の海水を変位させることが可能なあらゆるものによって引き起こされます。防波堤は少なくとも古代ローマの時代から存在しており、津波の破壊的な威力から沿岸部の住民を守るローテクな選択肢でした。

津波がよく起きる東日本の海岸にはしばらく前から、同じような規模の防潮壁とともに、強い波から沿岸を守るように設計された小さな防波堤が並んでいました。残念ながらこういった防御物は、およそ18万人が亡くなった2011年の東北地方太平洋沖地震での津波においては無力だったのです。震災以降、約1.35兆円の資金が投じられ、それらは長さ395km、高さ12.5mのコンクリート壁に取って代わられました。

最大で39mの高さに達した2011年の津波は、その新しい壁をも簡単に越えてしまいます。しかし、津波のエネルギーの偏った部分においては、この壁がある程度の防御となるのです。

突き詰めていけば、津波はどんな物理的なバリアにも勝り、沿岸部の住民を危険にさらしてしまうもの。ウェスタンオンタリオ大学の准教授で、マルチハザードのリスク評価におけるカナダ・リサーチ・チェアである合田 且一朗氏は「居住者が津波の高さより低い場所にいたら、彼らの命はとてつもない危険にさらされる」と言います。

津波を海中で始末する

オタワ大学の非常勤教授であり、International Tsunami Societyの副会長であるタッド・マーティ氏は、壁は部分的な防御にしかならないことも強調していました。全体的な防御を実現するべく、この分野に新たなアイデアが持ち上がっています。 同氏は「津波は、海の中にいる間に始末せねばならん」と語りました。

津波はバネのおもちゃスリンキーのように、海岸に向かって水平に突進してきます。もしそのスリンキーを、移動中にバラバラに切り分けることができるなら、到着する前に弱らせて消散できます。これは適切な配置に島があれば実現できると分かりました。

どのように機能し得るかを示す自然界の実例として、2004年のインド洋大津波を見てみましょう。この大災害では広範囲にわたって何百、何千もの人々が犠牲になりましたが、インド南部のカンニヤークマリでの死者数は驚くほどわずかでした。その地にあるラーム・セートゥ浅瀬を含む島とサンゴ礁が、やって来る波の方向を変えていたのです。マーティ氏いわく「それらが津波を切り分けた」とのこと。

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インドとスリランカの間(ポーク海峡)にある、石灰岩でできた砂州と浅瀬の連なり「ラーマズ・ブリッジ」
Image: PlaneMad/Wikimedia

近年、中国がやってみせたように、資源さえあれば人工島を建設することは難しくありません。どの海岸線も異なるので、襲ってくる津波を妨害するには室内実験とコンピューターシミュレーションで人工島の正確な配置を導き出すことが必要になります。このアイデアはまだ実践されなければならないものの、理論上は機能し得るのです。

マーティ氏は、こういった人工島を建設するのに海中にあるプラスチックゴミを使うという議論もあると語っており、そうなれば一石二鳥を得るということになりますね。

超巨大砲を使う

人工島以外にも、将来使えるようになる津波を始末するアイデアがあるようです。2017年にHeliyonに掲載された、カーディフ大学で応用数学の講師をしているウサマ・カドリ氏による論文は、いつの日か対津波大砲が現実になり得ると示唆しています。

それは一言で言えば、音響重力波のことです。これら超低周波の音波は、地震のようなものによって自然に発生し、既に津波の早い段階での警報としての機能を果たせると提案されています。

カドリ氏の推測は、音響重力波は津波を鎮めるために使えると提案するもの。向かってくる波に対して強い音響重力波を放てば、その形状を変えることができ、その総エネルギーをより広い範囲に分散させて、海岸への影響を減らせます。こういった大砲は、理論上は津波が完全に散らされるまで撃ち続けられるとか。

この案は、今はまだ不可能です。強力な音響重力波を生成するためには大量のエネルギーが必要となり、その重力波はすぐさま適切に調整されなくてはなりません。「エンジニアリングの大きな挑戦」と表現するカドリ氏は、概念実証デザインを準備するため研究所での実験が進行中だと語っていました。

垂直型&で浮揚型のシェルター

沿岸部に住む人々が津波に襲われる恐怖から解放されて生活できるようになるまで、まだだいぶ時間はかかります。それはつまり、シェルターが極めて重要ということですが、他の国々よりもその配備に熱心な国々もあるようです。さらにシェルターのデザインは、硬質な防水バンカーから、内部で人々が数日~数週間も生きていけるような高地に設置されるシェルターまでかなり異なっています。

マーティ氏は、インド沿岸の大半には何千もの「非常にしっかりと建てられた」対熱帯低気圧シェルターが最高水位線より高くに設置されていて、大波に覆われるのを防いでいると説明。数百人を収容でき、シェルターとしてのみならず、学校やコミュニティーセンター、間に合わせの病院など多くのことに使われるとか。

いつか巨大な津波に襲われるであろうアメリカ合衆国の太平洋側には、このようなシェルターのシステムが配置適所にありませんが、物事は徐々に変わってきているようです。2014年、合衆国初の津波専用シェルターがワシントン州の学校内に建てられました。建物はコンクリートと鋼鉄で強化され、そして体育館は下階を通過する強い津波から1000人を守れるよう2階に上げられたのです。

この垂直型のシェルターは世界の他の地域でも見られます。日本の三重県度会郡大紀町にある錦タワーは上階に250人以上を収容できる避難所を備えており、人々が津波に飲み込まれるのを防ぎます。2011年以降、沿岸部では建物を建設する前に数メートルかさ上げするようになったところもあります。

民間企業もまた、シェルターのプロトタイプを建設しています。STATIM(Storm, Tornado and Tsunami Interconnected Modules/嵐、トルネードと津波相互連結モジュール)は、本質的にはインドのサイクロンバンカーの小型バージョンといえるシェルターデザインの特許を申請。建設が簡単で安いことが特徴となっています。ここでの決定的な違いは、地面につながれるものの、これらシェルターは浮くことができ、屋内の人は文字通り、波を乗り切ることができるということ。

専門家らは皆、物理的な防波堤やシェルター(いずれも国に建設する資源があった場合に限り可能)よりも遥かに多くの命を救うものがあると言います。最新の大規模な早期警報システムや世間への教育もまた重要なのです。

それに、今はまだ津波を制することができませんから、合田氏いわく「多くの人々の命を救う総合的に最良の解決策」である効果的な避難行動もまたそうなのです。同氏いわく「どんな物理的な防御も失敗し得る」とのこと。

Source: the Washington Post, USGS, BBC(1, 2), 国総研 , the New York Times(1, 2), Reuter, Live Science, Western University, University of Ottawa, Heliyon, Cardiff University, MIT, the Times of India, the New Yorker, Wired, Science Direct, ICHARM, STATIM, New Scientist