2階の壁が崩れ、室内がむき出しになった「管理不全状態」とみられる空き家(京都市東山区)

2階の壁が崩れ、室内がむき出しになった「管理不全状態」とみられる空き家(京都市東山区)

 京都市をはじめ全国の自治体が、老朽化した空き家の解体を迫られている。掛かった費用は空き家の所有者に請求するのが基本だが、登記に不備があって所有者が分からなかったり、亡くなっていたりする場合もある。人口減少で空き家のさらなる増加が見込まれる中、一層の対策が求められている。

 新旧の民家が立ち並ぶ東山区の住宅密集地。2階の壁が崩れ室内がむき出しになった、トタンでできた家屋がある。接する路地は近くの児童館を利用する子どもが歩くため、同館職員は「早く何とかして」と訴える。

 総務省の住宅・土地統計調査によると、2013年時点で市内の総住宅数81万4400戸のうち、空き家数は11万4290戸に上り、空き家率は14%だった。市は、空き家活用適正管理条例を14年に施行し、対策に乗り出している。

 市はこれまで、15年と17年に上京区と東山区の老朽化した空き家2戸を強制撤去した。上京の住宅兼工場の持ち主は韓国在住の韓国人だったが、所在を突き止められなかった。東山の長屋は法人所有で、市の指導中に役員の最後の一人が亡くなった。それぞれの解体に掛かった約470万円と約390万円は回収できずにいる。

 空き家問題が深刻化するにつれ、管理不全状態の空き家に関する市民からの通報も増加。市は昨年度末までに、対応が必要な1722件について指導などを行ったが、このうち972件は未解決のままだ。

 市まち再生・創造推進室によると、うち「1割弱」は、調べても所有者が判明しないとみられ、対処に苦慮する。ある木造家屋の登記は大正時代で止まっており、所有者の欄には約100人の名が連なる。同室の矢田部衛空き家対策課長は「法定相続人をたどれば、現在は千人以上になっているのでは。多すぎて解決策が見通せない」と、危機感を抱く。

 空き家の発生を防ぐには、居住者がいる時からの対策が重要だ。東山区の今熊野学区自治連合会は、地元の空き家問題に取り組むNPO法人「京都泉山」を15年に設立。住宅の相続をテーマにした講演会や相談会を区内各地で開催し、学区内の大多数の空き家情報を管理している。

 理事長の石井良之さん(73)は「空き家の管理や情報収集は、地元に密着した学区が担うべき」と強調。市も地域主体で対策に取り組む学区を、15年度末時点の33学区から、23年度末までに全学区に広げたい考えだ。

 土地政策を専門とする立命館大政策科学部の高村学人教授は、不動産登記が任意である現状の制度を踏まえ、「マイナンバーで登記情報を管理できれば、空き家の持ち主が不明という事態は減らせる」と提言する。

 高齢化による「多死社会」の進展で、所有者不明空き家の大量発生が懸念される。老朽化した空き家が増えれば地域の活力が失われ、都市空間の有効活用にも支障が出る。解決に向け、住宅や登記に関する制度改正が急務となりそうだ。