日本で「ブラック保育所」が次々と生まれる絶望的な構造

見学シーズンのいま知っておきたいこと

秋の保育所見学シーズンがやってきた。

来年4月に保育所に子どもを預けるには、今年11月から年末にかけて申し込みの締め切りとなる。

子どもを預けたい保育所かどうか。保育士の労働実態に目を向けなければ、その保育所の真実の姿は分からない。保育士にどれだけきちんと人件費をかけているかで保育内容が左右されると言っても過言ではない。

ここでは、「やりがい搾取」を許してしまう、保育所の運営費用の使途制限を緩和した「委託費の弾力運用」という制度に着目。『ルポ 保育格差』などの著者でジャーナリストの小林美希氏による短期集中レポートをお届けする。

〔PHOTO〕iStock

「大手で安心」から地獄へ…

「あんなに憧れていた保育士なのに……。働けなくなって今、生活保護を申請するような状況になりました」

保育所を運営する株式会社の大手に就職した斉藤理香さん(仮名)は、過酷な労働環境に耐えられず、わずか2年の間にメンタルヘルスを崩し、働くことができなくなってしまった。

新卒年目、理香さんは1歳児クラスの担任になった。約20人の園児に担任は3人。1歳児の保育士の配置基準は子ども6人に保育士1人のため、パートの補助がついた。担任のうち1人が秋口から産休に入ることが分かると、8月から「早く仕事を覚えて」と、業務を詰め込まれた。

連絡ノート、クラスだより、保育計画の作成。日々の書類業務のほか、数え上げればきりがない。まだ慣れないなかで時間もかかり、プレッシャーを感じた。

毎日夕方になると先輩の保育士が、残っている子どもの人数計算をする。シフトの勤務時間が終わっていても配置基準通りの保育士が足りないと「今日は1時間残って!」と言われるがまま残業することとなる。

 

保育室を出ると、いったんタイムカードを切って着替えもせずに残った仕事に取り掛かり、翌日の保育の用意をする。21時に閉園になるため、それでも仕事が終わらなければ持ち帰った。タイムカードを切ったあとの残業代はいっさい支払われない。

働く保育士にとってブラックな環境なら、同時に子どもにとってもブラック保育所となる。

業務が増えた夏、理香さんは先輩保育士から理不尽な指示を受けた。たらいで水遊びをしていた子ども5人を一人で見ろという。

子どもの一人が別のクラスの園児の方に向かって歩いていってしまうと先輩は、「(ほかの4人を置いて)あの子を追いかけて連れ戻して」と命令する。「目を離した隙に溺れたらいけないので離れられません」と理香さんは譲れなかった。

理香さんの判断は正しかったが、その後、先輩からいじめに遭うようになった。9月には吐き気や立ち眩みがおこるようになり、心療内科にいくと「適応障害」と診断された。

担任のひとりが産休に入っても代替職員は配置されなかった。保育中はパートの保育士がついたが、主な業務は担任2人でこなさなければならない。

クラス全員の連絡ノートを書き、行事の準備をする。仕事が倍になり、4時間も残業する日が増えて疲労困憊した。

土曜保育もほとんど出勤。保育中は子ども同士の噛みつき、ひっかきが起こらないように神経をすり減らす。

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