ジム・ジャナードって面白い人ですよね。
大学を中退してバイクで放浪し、モトクロスの大会で部品を売る移動販売の店をひとりで立ち上げて、ゴーグルとサングラスに進出。愛犬の名前をつけた会社は25年で世界のトップブランド「オークリー」になって、2007年の売却で21億ドル(約2378億円、ヴェルサーチェと同じ)が懐に。その同じ年、もうひとつのベンチャー「Red」で世界初の4Kカメラを発売し、映画撮影レベルのクオリティで世界に衝撃を与えました。
この超人的なツキのすべてを賭けた携帯進出では、未曽有の携帯ということでホログラフィックスマホを目指したわけですが、現実に出てきた3Dスマホ「Red Hydrogen One」で編集部が受けた印象は、異次元からテレポートした物体のような違和感だけでした。2度あることは3度ある、とはいかなかったようです。
米GizmodoのSam Rutherford記者のまとめで、どうぞ。
Red Hydrogen One
これは何?
Redカメラ開発チームがつくった3Dホログラフィックスマホ
価格
1,295ドル(約13万6000円)から
好きなところ
めちゃ頑丈なボディ、専用カメラボタン、イヤホンジャック
好きじゃないところ
ひと昔前のスペック、高すぎる値段、パッとしないカメラ、使えないモジュール、革命的と言うほどでもない画面
これは戦車だ
「Hydrogen One(ハイドロジェン・ワン)」のボディはアルミのフレームとKevlarのパネル(チタンもまもなく発売)で、まるで戦車です。実測より重く感じるほどの存在感。波打つグリップは、いざとなればチーズもおろせるんじゃないかというほど波打ってます。背面には赤のどでかいエンブレムで、「Red Media Machine」の文字入り。「ケース要らないよねこれ」と思った携帯は本当に久しぶりで、のっけから予定調和を拒むアンチテーゼマシンきましたね、という感じです。
未来に逆らうポートたち
データ転送&充電用のUSB-Cポートもヘッドフォンジャックも温存です。microSDカード専用トレイも普通についていて、これはなんと指で出し入れできます。開封した瞬間に付属のリリースピンが消えてなくなる、なんてこともありません。指さえあれば開きます。サイドにはボリュームボタンが大小、別々についています。右のロック用ボタンは指紋センサ入り。もちろんカメラ専用ボタンもあります。そりゃカメラメーカーのREDですからね。
肝心の3Dは任天堂と大差ない
ボタンより注目は4Viewホログラフィックディスプレイですよね。「4View」とはなんぞや?と思ってREDのウェブサイトも見てみたんですが、あまりよくわかりませんでした。いちおう「世界初のホログラフィックスクリーン」という触れ書きで、今どきのバズワードがいろいろ並んでいます。要はナノテクノロジーのライトフィールドディスプレイで実現した裸眼の没入型3D体験です(技術の詳細は、開発者インタビュー参照)。
動画・写真は記事に貼り付けても対応端末がないと立体再生できないので割愛しますが、実物を見た印象ではNintendo 3DSに手の生えた程度のディスプレイでした。裸眼でも画像が飛び出ることは飛び出るんですが、1年以上待たされている間に勝手に期待が膨らみすぎていたようです。
動画よりは写真の方がきれいだと思います。4Viewで特に飛び出て見えるのは、ラインがはっきりした彫刻とかそういうものですね。ただ、解像度は極端に低くなります。2Dモードで使用中は5.7インチの4View画面も比較的高画素な2560 x 1440ピクセルなのだけど、これが3Dモードに切り替えた途端、 低画素になって、粒子が見えるぐらい粗くなります。ボケボケで背景にはなんか虹色の影まで写り込むのでまったく実写に見えません。ぼんやりした夢みたいです。僕が辛口なだけかもしれないので、編集部のみんなにも見てもらいました。上に貼っておきますね。
対応端末同士ならHolopixアプリと数種類のツールで写真は共有できますが、携帯に入っている3Dコンテンツはとても少ないです。Hydrogen Networkアプリに短い動画が20件、Red Leia Loftアプリではゲームもできるし、米電話会社のAT&TはHydrogen One買うと無料で4View対応版のReady Player OneとFantastic Beastsを配布してますが、まあ、それぐらいです。
前面は縦、裏面は横でしか撮れない
REDもさすがにこの4Viewディスプレイとコンテンツだけじゃ売れないと思ったんでしょう。見るだけじゃなく撮れる機能も装備しました。カメラは表も裏も2個ずつついているので、写真も動画も3D撮影が可能です。ただ制限もあって、前面は縦でしか撮れません。どっちみちポートレートなのでこれはいいのだけど、問題は裏で、こっちは横でしか撮れないので、ちょいと不便です。あと開発初期にありがちなバグもあって、たとえば動画撮影が途中で勝手に止まったりもします。野外で明るすぎるとスマホが勝手にストップかけちゃうんですね。それを解決できたとしても、この画質はちょっと厳しいものがあります。
写真そのもので太刀打ちできない
明るいパン屋さんの写真で比べても、Hydrogen Oneのカメラはぱっとしません。かぼちゃを撮ったら、ダイナミックレンジのトーンマッピングがうまくいかなくて、白とび黒つぶし感が。夜景はもっと差がついて、ちょっと流れてしまうんですよね。カメラアプリのUIも使いにくくて。3D写真を撮るときには2Dボタンを連続押しでモードを切り替えなきゃならないし、動画を撮るときにはカメラボタンを押さなきゃならないので、こんがらがってしまいました。 グリッドラインも表示できない感じでした。ヒストグラム搭載してくれたのはうれしいですね。でもカメラでおっと思ったのはそれぐらいです。
スマホのカメラって本当に大変で、新規参入メーカーはEssentialもRazerも軒並み最初これで苦戦しています。REDだから期待はしたのですが…。
モッドのないモジュラーフォン
Hydrogen Oneはモジュラー型携帯なので、アドオンで問題は解決できることになっています。いずれはREDの超高級カメラにドッキングできたり、別売のセンサ、他社のレンズ(ニコン、キヤノン、ソニー、ライカなど)を組み合わせて使える…というロジックなのですが、そういうモッドはまだ出ていないし、発売予定という確かな情報もありません。
値段の割には低スペック
気になるお値段1300ドル(約14万7000円)。中身は昨年モデルのSnapdragon 835チップです。 メモリーは6GB、ストレージは128GBで申し分ないのだけど、OSはAndroid 8.1。2019年までAndroid 9対応版は出ないというお話でした(レビュー時点ではセキュリティパッチは7月段階のものでした。11月2日発売までには間に合わせると言ってましたが…)。LCD画面も鮮度が今ひとつで、最新の有機ELみたいなコントラスト比もありません。
Hydrogen Oneはバッテリー容量もド~ンと4,500 mAhです。ケチケチしていないのは評価できるんですが、なぜかバッテリー駆動時間は11時間51分で、iPhone XS Max(13時間7分)、Galaxy Note 9(14時間11分)より短くて、Pixel 3 XL(11時間24分)にやっと勝てるレベルです。
以上です。Hydrogen Oneは筋肉だけで、中身はひと昔前のスペックだし、防水でもないし、ワイヤレス充電もできなくて、呼び物の飛び出る3D画面も任天堂3DSでもういいじゃん、というレベルだし、2D写真にいたってはカメラメーカーの名折れです。REDの神通力もこれまでなり。いつか巻き返しを図る可能性はありますが、それにしたって売れないことにははじまりません。今のままでは、本当に喜んで買うのはジム・ジャナードぐらいじゃないかと。
5秒でまとめると
・ホログラフィック画面は任天堂3DSに毛の生えたレベル。
・3Dイメージは送れるけど、相手が4View非対応だと2Dでしか見れない。
・バッテリーは大容量の4,500 mAhなのに、駆動時間はiPhone XS Max、Galaxy Note 9より1.5~2時間短い。
・値段は1,300ドル~。チタンモデルはもっと高くなる。
・モジュラー式携帯なのにアドオンがまだない。
・実寸より大きく、重く感じる。
スペック
・Android 8.1
・Qualcomm Snapdragon 835
・メモリ6GB
・ストレージ128GB
・microSDカード用スロット
・2560 x 1440 5.7インチLCD画面
・正面は8MPデュアルカメラ
・背面は12MPデュアルカメラ
・Bluetooth 5.0
・USB-C
・3.5mmヘッドフォンジャック
・4,500 mAhのバッテリー
・6.48 x 3.37 x 0.39 インチ
・263g
・米国ではAT&TとVerizon
・アルミモデルは黒とグレイの2色、チタンモデルも近日発売