iPhone XSの「A12 Bionic」はSkylake世代のIntel CPUをメモリ並列処理性能で凌駕していると判明

スマートフォンの進化を支えるのはプロセッサの急速な進化です。飛躍的に性能が向上し、PC向けプロセッサに肉薄し、部分的には超えているとの評価を受けているiPhone XS/XRで採用されたプロセッサ「A12 Bionic」や新型iPad Proのプロセッサ「A12X Bionic」について、メモリレベルの並列処理という要素について、Intelの「Skylake」世代のCPUと比較するテストが行われています。

Memory-level parallelism: Intel Skylake versus Apple A12/A12X – Daniel Lemire's blog
https://lemire.me/blog/2018/11/13/memory-level-parallelism-intel-skylake-versus-apple-a12-a12x/

カナダのケベック大学でコンピューターサイエンスを研究するダニエル・レミア教授は、AppleがiPhoneやiPadで採用するプロセッサが、IntelのCPUに肉薄する性能を持ちつつあるという現状を踏まえて、Appleの「A12 Bionic/A12X Bionic」プロセッサと、Intelの「Skylake」プロセッサの処理能力を比較することにしました。

レミア教授は、プロセッサの並列処理の中でも「メモリレベルの並列処理」について比較したとのこと。メモリレベルの並列処理性能は、一つのパスをたどったり、複数の異なるメモリ・レーンをたどったりすることで、アレイをランダムにトラバースすることで測定できると述べています。

レミア教授はキャッシュ外メモリへのアクセスに関するメモリレベルの並列処理に関心が高いため、メモリブロックを256MBというキャッシュメモリに到底収まりきらないサイズに指定していることが多いそうですが、仮想メモリ関連の障害が発生する可能性があるとのこと。iPhoneやiPad Proではページサイズを容易に変更できないため16kBの設定を使い、Intelプロセッサでは4kBと2MBのそれぞれのページサイズを指定して、1つのレーンを使った絶対的なタイミングを調べると以下の表のとおりの結果となりました。

IntelのSkylakeプロセッサは、AppleのA12 Bionic/A12X Bionicプロセッサを上回ることがわかりましたが、これはあくまで1レーンの条件であり、レミア教授はレーンを増やして実験を継続しました。

複数のレーンを使った結果は以下のグラフの通り。縦軸がアレイのトラバースにかかる時間、横軸がメモリのレーン数のグラフは、下に行くほど処理が速いことを示しています。レーン数が小さいうちは優勢だったIntel Skylakeプロセッサに対して、レーン数が20を超えるとAppleのA12 Bionic/A12X Bionicプロセッサが逆転するという結果になりました。

さらにメモリレベルの並列処理による「高速化」を測定するために、「1レーンでアレイをトラバースするのにかかった時間」を「複数レーンを使ったときにかかった時間」で割ったのが以下のグラフ。Intel Skylakeプロセッサが10倍から11倍で頭打ちになったのに対して、A12 Bionic/A12X Bionicプロセッサは20倍を超える場面もあり、並列化によっても高い効率性を維持できることがわかりました。

レミア教授はメモリレベルの並列処理に関しては、AppleのA12 Bionic/A12X BionicプロセッサがIntel Skylakeプロセッサを上回ることを確認しましたが、プロセッサが消費する電力はモバイル用プロセッサの方が圧倒的に小さいことを考えると、効率性では比べるべくもないと述べています。そして、iOSでのページサイズを増やすことができるならば、A12 Bionic/A12X Bionicプロセッサの処理速度はさらに良い結果が得られるはずだと述べています。

なお、レミア教授が今回の比較実験で用いたC++コードは、GitHubで公開されています。

GitHub - lemire/MemoryLanes: iOS app to test memory-level parallelism
https://github.com/lemire/MemoryLanes