期待以上に人を動かす伝え方』(沖本るり子著、かんき出版)の著者は、年間約200件のセミナーや企業研修を行い、経営者やリーダー、マネジャーなどに対して「伝え方」をレクチャーしているという人物。

そのような機会において常に主張しているのは、「伝わるだけでは意味がない」ということなのだそうです。相手が話を聞いてくれて、その結果として意図が伝わったとしても、期待どおりに相手が動いてくれなければ意味がないということ。

そこで本書では、人を「動かす」ための伝え方を紹介しているわけです。

本書には、人を動かしたい方のために、ちょっとした伝え方のコツをまとめています。そしてさらには、“期待以上”に動いてもらえることを目標にした伝え方のコツも載せています。(中略) 簡単に言うと、「1割の値引きを目標に値引きをお願いしていたら、相手から3割値引きをしてもらえた」ということです。(「はじめに」より)

「そんなことができるのだろうか?」と感じたとしても、それは無理のないことかもしれません。

しかし著者は、「“期待以上”に人を動かす伝え方」を身につければ、それが実現すると断言するのです。それは、ちょっとしたコツを意識するだけで、誰でもできるようになるのだとも。

そんな本書のなかから、きょうはCHAPTER 3「人が動き出す伝え方」に焦点を当ててみたいと思います。

人が動き出す3つのコツ

相手にこちらの期待どおりに動いてもらうためには、次の3つのコツを意識するといいそうです。

1. 言いたいことは濁さない

2. 言葉の使い方を工夫する

3. 相手の感情をマイナスにしない

(72ページより)

理由は簡単で、つまり話し手の言葉にあやふやな部分があると、聞き手は話の内容を自分の都合のいいように解釈してしまうものだから。聞き手が、話し手の意図した動きとは違う方向に動いてしまう可能性が高くなってしまうわけです。

話し手と聞き手の解釈の違いを軽減させる必要があるわけで、ここではそのためのコツが紹介されています。

コツ① 言いたいことは濁さない

日本には、遠回しに謙虚に長々と話す“お察しください”という文化が定着しています。

しかし、本当に言いたいことをあえて濁すと、聞き手にさまざまな解釈の選択肢を与えてしまうことになります。そのため、言いたいことは濁さないことが大切だということ。

コツ② 言葉の使い方を工夫する

たとえば次の場合、本当に一緒にお昼ごはんを食べたいと強く願っている言葉はどれでしょうか?

「もしよろしければ、お昼ごはん、一緒に食べに行きませんか?」 「もしよろしければ、お昼ごはん、一緒に食べに行きましょう!」 「お昼ごはん、一緒に食べに行きませんか?」 「お昼ごはん、一緒に食べに行きましょう!」 (74ページより)

みんな同じようにも見えますが、ここには話し手の「本気度」が反映されているのだそうです。上はもっとも本気度が低く、下がもっとも本気度が高いというのです。

コツ③ 相手の感情をマイナスにしない

「なにが言いたいのかわからない」「話が長いなぁ」と思い始めると、相手はイライラしてくるもの。

それは、聞き手の気持ちがマイナスになっている証だと著者は指摘しています。しかし気持ちがマイナスの状態では、聞き手が話し手のために動く気にならなくなっても無理はありません。

たとえば、上司からの命令を思い浮かべてみてください。 信頼できない上司に対する感情はマイナスです。すると、命令されても必要最低限の働きはしますが、それ以上の動きは期待できません。

一方、信頼する上司への感情はプラスなので、期待以上に動く可能性が高まります。(76ページより)

人を動かしたいのなら、まずは相手の感情をマイナスにしないような工夫とすることが大切だというわけです。(72ページより)

「動きの1文」を最初に発信する

「どうしてほしいのか」を明確に言葉で表さないと、相手はどうしたらいいのかわからなくなります。その結果、こちらの期待どおりに動いてくれなかったり、好き勝手に都合のいい解釈で動いてしまったりするわけです。

そこで、「相手にどうしてほしいか」という動きの一文を最初に発するといいそうです。

[NG]

「最近、蒸し暑いよ~。汗ダラダラで寝苦しくて食欲もないし…。 こういうときって、あっさりしたものが食べたくなるよね。 駅の裏側に先週オープンしたビルに、行列のできるお蕎麦屋さんがあるでしょ?

あそこの店長が高校の同級生で、昨日、会社帰りにバッタリ会ってさ。 ほら、これ、割引券をもらったんだ。 普通はランチは予約できないんだけど、知り合いだから予約もきくんだよ。(76ページより)


[OK]

「明日のごはんは、お蕎麦屋さんに一緒に行こう。 場所は、駅の裏側に先週オープンしたビルで、行列のできるお店。 割引券もあるし、ランチの予約もできる。最近、あっさりしたものが食べたくなると言ってたよね。 お蕎麦屋さんに一緒に行こう」(79ページより)

このように、「お蕎麦屋さんに一緒に行こう」という「動きの一文」を最後に繰り返すと、なおよいというのです。(78ページより)

短く話す

話が長いということは、それだけ相手の時間を奪っているということ。もちろん、それが有益な話であれば問題ないでしょうが、意味もなく時間を奪われたとしたら、聞き手の気分はどんどん悪くなっていきます。

そのため無駄なことは言わず、短く伝えることを意識すべき。

ちなみに、「無駄に話が長い」ということがよく起こるのが、セミナーや講演会後の質問コーナーだそうです。「残り時間が少ないため、質問は手短にお願いします」と言われているにもかかわらず、「自分語り」をしてしまう人が少なくないということ。

しかし、「人の時間を奪わない」ことを意識して、必要なことだけを手短に伝えることが大切。

(セミナーなどの最後のシーンで) 「残り時間がないため、ご質問は1名のみとさせていただきます。ご質問のある方はどうぞ」

[NG]

「本日は貴重なお話をありがとうございました。 広島から来ました沖本るり子と申します。 菓子製造業のおきもとやを経営しております。 昨日から東京に来ておりまして…(延々と続く) …(5分経過)ということでよろしくお願いします」(95ページより)

POINT:「自己紹介」「経験」「意見」を語り、肝心な「質問」がない

[OK]

「本日は貴重なお話をありがとうございました。 広島から来ました沖本るり子と申します。 では、質問です。○○○については、どのようなお考えでしょうか? よろしくお願いします」(95ページより)

ところで、「自分語り」といえば自己紹介。しかし自己紹介も、相手のことを考えれば、聞き手をイラつかせる自分語りから抜け出すことができるそうです。

[NG]

「株式会社ハチオウの森裕子といって、化学系廃棄物の処理に取り組んで48年になりますが、最近は、『捨てるをサポートする。』ということで、使用済みの化学薬品の無害化処理で、安心安全な世界にするために、チームケミカルウエストリスクマネジメント、『TEAM CWRM』という商標を登録しましたので、化学系廃棄物の情報があったら教えてください。よろしくお願いします」(96ページより)


[OK]

「私の名前は、森裕子です。今、行っていることは、人生を賭けて『捨てるをサポートする。』ことです。私が目指しているのは、使用済みの化学製品の無害化処理で、安心安全な世界を実現することです。

そこで、皆様にもご協力いただきたいことがあります。化学系廃棄物の情報を見聞きしたら、どんなことでも教えてください。 そして、私が皆様に貢献できることは、ご期待に添える方とのご縁つなぎ。

なぜなら、これまで多くの経営者と関わったからです。 以上、株式会社ハチオウの『捨てるをサポートする。』森裕子でした。よろしくお願いします」(97ページより)

伝えたいことを頭のなかで簡潔にまとめてから話せば、要点が伝わりやすくなるということなのでしょう。(94ページより)




著者のアドバイスはどれも具体的で、すぐに活用できそうなものばかり。「伝え方に自身がない」「うまく伝えているつもりなのに、思うように相手が動いてくれない」と悩んでいるという方にとっては、きっと役立つはずです。

Photo: 印南敦史