グーグルらの「世界の漁業見える化プロジェクト」急拡大。日本に不都合な真実とは

グーグル 漁業 データ

グーグルらが運営する「グローバル・フィッシング・ウォッチ(GFW)」のサービス画面。青白く光るのが漁船。クリックすると船籍や船舶のタイプが表示される。

出典:Global Fishing Watch

グーグル、海洋保護団体オセアナ、環境保護団体スカイトゥルースが運営する、世界の海洋漁業を見える化するプロジェクト「グローバル・フィッシング・ウォッチ(GFW)」は12月18日、2018年を「漁業の透明化元年」と位置づける声明を発表した。

3週間にわたる「密漁船の大脱走事件」の教訓

日本ではほとんど知られていないが、2018年4月、アフリカ南東部のモザンビークに拘留中されていた国籍不明の密漁船が脱走し、国際刑事警察機構(インターポール)や環境保護団体シーシェパードなどの追跡から3週間逃げ回り、最後はインドネシア海軍に拿捕されるという大事件が発生した。

「このケースは、各国政府と非政府組織、国際組織がかつてないレベルで協力し、いわゆる『違法・無報告・無規制漁業』に対抗した素晴らしい例だ。ただし、カネがかかるし、いつも成功するとは限らない。それに、世界規模でそうした違法漁業を撲滅するための手法としては再現性に乏しい」

GFWのトニー・ロングCEOは冒頭の声明でそう指摘し、「密漁船を一隻ずつ追い回すのではなく、スマートな方法でやろう」と各国政府に呼びかけている。

インドネシア 海軍 拿捕

2018年4月、インドネシア海軍に拿捕された漁船「STS-50」の乗組員たちと、銃を持って監視する海軍の兵士たち。

Antara Foto/Ampelsa/via REUTERS

GFWは、人工衛星などから取得した漁船の位置情報を分析してグーグルマップ上にその動きを表示するサービスを2016年に開始。操業海域を特定するだけでなく、機械学習を活用して漁船や漁具のタイプを判別したり、洋上での積み荷の移動を監視したりすることで、違法操業はもちろん、密輸や人身売買など犯罪行為の発見や予防にも一役買っている。

2017年6月にはインドネシア政府が、自国の船舶監視システム(の取得データ)をGFW経由で公開することを発表。同年10月にはペルーがこれに続き、コスタリカやパナマ、ナミビアなどとも基本合意に至っている。

現時点で、GFWは6万5000隻以上の漁船の位置情報を捕捉しており、各国政府とデータ提供での協力関係を今後も広げ、10年以内に世界の漁獲高の4分の3を占める約30万隻の大型漁船を対象にする計画という。

データから明らかになった「漁業の独占」

中国 漁船

モーリタニアのヌアディブ沖に停泊する中国の大型漁船。漁獲は近隣に建設された中国資本の加工工場で魚粉に。

REUTERS/Sylvain Cherkaoui

ロングCEOの声明で明らかにされた事実のうち、特に注目すべきは、データ分析から見えてきた世界の漁業の実態だ。

2018年2月に米科学誌サイエンスに掲載されたGFWの論文では、世界の海洋面積の半分以上で漁業が行われ、農業が行われている面積の4倍以上にもなることに加え、公海(※)で行われている漁業の85%は、中国と日本、スペイン、韓国、台湾の5カ国によるものであることが、すでに明らかにされている。

※公海とは……陸地内の河川や湖沼、領海、排他的経済水域(EEZ)などを除く、国家が領有したり排他的に支配することのできない海域。国際法で言う「公海自由の原則」が適用され、あらゆる国が自由に使用できる。

アフリカ 漁業

モーリタニア・ヌアディブ海岸の漁村。中国漁船を沖に眺めながら、地元漁師たちは小さな船に乗って漁に出る。

REUTERS/Sylvain Cherkaoui

アフリカ 漁業

セネガルの漁村で干した魚に塩を振る地元民たち。モーリタニアにある中国資本の加工工場とは似ても似つかない、手作業がひたすら続く。これが低収入国の漁業の現実だ。

REUTERS/Sylvain Cherkaoui

さらに、2018年中にGFWのデータを使って進められた研究分析によって、以下のような漁業の実態が明らかになったという。

  • 高所得の国々が、低所得の国々の犠牲のもとに漁業を独占していること(※)
  • 公海で行われている漁業の半分以上は、政府の補助金あるいは(時に奴隷的な)低賃金の労働力なしでは赤字操業になること
  • 海洋保護区(MPA)への指定が想定される海域に、駆け込み需要を狙う漁船が集中していること
  • (遠洋はえ縄漁船の動きを分析した結果)マグロなど遠海に棲む魚種が減少していること

※豊かな国々による漁業独占……カリフォルニア大学サンタバーバラ校などの研究(2018年8月発表)によると、公海における漁獲量の97%、さらに低所得の国々の排他的経済領域における漁獲量の78%が、高所得の国々の漁船によるものであることが判明している。

違法漁業の規模は、年間3兆円弱にも

レオナルド・ディカプリオ

GFWの資本提供者に名を連ねるレオナルド・ディカプリオ財団。ウェブサイトには本人からのメッセージも掲載されている。

出典:Global Fishing Watch

GFWには2016年の設立当初から、レオナルド・ディカプリオ財団やブルームバーグ・フィランソロピーズなどが資金を拠出している。

加えて、2018年9月にはG7ハリファクス環境・海洋・エネルギー大臣会合に際して、カナダ政府が違法漁業の根絶のために1160万ドルの拠出を約束。同サミットの直前にも、日本やオーストラリアの海洋関連研究機関との協力を進めるための覚書を交わすなど、各国政府からの資金獲得や協力関係の拡大が急速に進んでいる

GFWの調査によると、違法・無報告・無規制漁業によって生み出される水産関連製品は年間235億ドル(2兆6400億円)相当で、さらにユルい規制や科学的根拠にもとづかないマネジメント、不十分なガバナンスのせいで失われる世界のそれは830億ドル(9兆3200億円)相当に達するという。

ロングCEOは、グーグルが使命に掲げる「世界中の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする」をイメージしてか、声明の最後をこう締めくくっている。

「海洋で何が起きているかをもっと知ってもらうために、我々は考えられる限りのあらゆる手段を用いねばならない。そして、その取り組みはオープンかつパブリックでなくてはならない。しかも、その成果は誰もがアクセスできるものでなくてはならない」

(文・川村力)

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