今年の夏は、とにかく凄まじい暑さでした。頻発するゲリラ豪雨は、日本にいながらまるで亜熱帯地方にいるような感覚を覚えたものです。

一方で梅雨明けが早かったこともあり、大規模な範囲での水不足が懸念されてもいました。生活になくてはならないだけに、水が絶たれるとその影響は甚大です。何とかして、安定した降雨量を保つことができないものでしょうか。

IBMのWebメディアMugendai(無限大)では、人工降雨研究の最先端の現場が紹介されていました。人が天気をコントロールするというその技術と、待ち受ける意外なリスクとは。

人工降雨の歴史は戦後から。50カ国が研究中

ロングインタビューに登場していたのは、気象庁や世界気象機関で仕事をしてきた、名古屋大学特任教授の村上正隆さん。夏の水不足が懸念される関東などをターゲットに人工降雨の研究を行い、低コストでほぼ期待通りの効果を出す天気のエキスパートです。

国連によると、2025年までに世界人口の3分の2が水不足に陥る危険性があるとのこと。生活、それに生命そのものにとって最も重要といえる「水」が不足することは、人類にとっての一大事です。

そこで注目されているのが、安定的に雨量をコントロールする人工降雨。意外にもその歴史は戦後に始まっており、すでに研究を進めている国は、タイ、北米、中東など50カ国

2018年3月には中国がチベット高原で史上最大の人工降雨システムを建設中というニュースも流れています。

どうやって人工的に雨を降らせるのか

大きな恩恵と意外なリスク。天気を操る「人工降雨」の最先端に迫る
Image: Mugendai(無限大)

それにしても気になるのは、どうやって雨を降らせるのかということ。村上さんの説明によると、人工降雨の発見は何と偶然の産物だそうです。

あるとき、0℃以下でも凍っていない過冷却状態の水滴の中にドライアイスの破片を落とすと無数の氷の粒ができることが偶然発見されました。そこで0℃以下の冷たい雲に飛行機でドライアイスを散布したところ、同様に氷の粒ができ、雪が降ったことが人工降雨の研究のきっかけとのことです。

今では、雲に向かって散布する物質はヨウ化銀塩化ナトリウムなど、それぞれの国の気候と発生する雲の温度に応じて、氷の粒ができやすいものが使われているのだそう。

国内における人工降雨の研究の成果

人工降雨研究に積極的に取り組む世界各国に引けを取らず、国内でも村上さんらが多くの成果を残しています。

WMO(世界気象機関)によると、人工降雨には山から沸きおこる「山岳性雲」という雲が最も適しているとされます。

新潟・群馬県境の地域は、世界でも屈指の山岳性雲が発生するエリアだそうで、水不足に悩むことの多い関東地方にとってまさに「恵みの雨」となる存在とのこと。村上さんは以下のように語っています。

冬季の利根川上流の越後山脈では、水源地(八木沢ダムなど)の風上側に、人工降雨・降雪に適した山岳性雲がひんぱんに発生することが分かっています。その雲を利用して冬に雪を多く降らせ、その雪解け水をダムに溜めておけば、夏の渇水を防ぐことができます

大きな恩恵と意外なリスク。天気を操る「人工降雨」の最先端に迫る
Image: Mugendai(無限大)

「水が貴重」ゆえに懸念される、人工降雨のリスクとは

意図的に雨を降らせることができれば、水不足に悩むこともなくなり、いいことづくめのような気がします。しかし村上さんは、この研究を進めることの難しさも語っています。

日本では10年に1度の割合で大規模な水不足が発生しますが、大雨洪水はそれ以上の頻度で起きています。仮に人工降雨で水を降らせても梅雨時に雨が十分降れば意味はなくなり、万が一洪水でも起きれば「余計なことをした」と非難されるでしょう。

さらに、人工降雨の研究には特有の「リスク」もつきものだといいます。何よりも貴重な資源である水の不足が今後さらに深刻化すれば、国家間で水を奪い合う争いに発展する可能性もあるというのです。

ある地域で水資源確保を図れば、隣接する地域では逆の効果が生じる可能性があるからです。ですから各国の研究には透明性が必要になり、1国だけで閉鎖的に事を進めるのはよくありません。お互いにオープンにしてWin-Winの関係になれるよう努力すべきです。

ただ「雨を降らせる」だけではない、奥深い人工降雨の世界。他にも、そのメカニズムの詳細など盛りだくさんな内容のロングインタビューは、Mugendai(無限大)より続きをお楽しみください。


Image: Mugendai(無限大)

Source: Mugendai(無限大)