今年一番ゾッとした写真

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今年一番ゾッとした写真
Image: ENFOQUE / BBC

これ、何かわかります…?

ネットのデマ炎上で人が本当に炎上している写真です。それをスマホで撮っているのは善意の村人およそ100人。見た目ふつうの子すぎて背筋が凍ります。

「子どもの臓器売買をしている連続誘拐犯2人がSUVで村に来た」というネットのデマを信じ、ちょうど村にSUVでたまたま買い物に寄った法学部学生Ricardo Floresさん(21)と叔父のAlberto Flores さん(43)に殴る蹴るの暴行を加え、「誘拐犯じゃないよ」と警察が保護したら、署から引きずり出してその場で燃やしてしまったんです。8月29日の出来事でした。

すっかり黒焦げになってからデマと判明。警察は殺人煽動犯5人と殺害実行犯4人を手配し、下記3人を逮捕しました。残り6人は逃走中です。

Francisco Martinez :FacebookとWhatsappでフェイクニュースを拡散し、リンチをFacebookでネット生中継

Manuel:市庁舎の鐘を鳴らし、村人を緊急招集

Petronilo Castelan:2人を焼くガソリン代をメガホンで募金

焼かれたRicardoさんは、弱者のために戦う弁護士になって、アメリカに出稼ぎに行った母親をメキシコに呼び戻すのが夢でした。でも母親のMariaさんが異変に気付いてFacebookにアクセスしたときにはもう手遅れで、息子が焼かれる動画のライブストリーミングが始まっていたのです。コメントで「あの子がそんなことするわけない。何かの間違いだ」と言っても、誰も止める人はいませんでした。

叔父Albertoさんも妻と3人の女の子を残して亡くなってしまいました。ガソリンをかけられて点火されたときRicardoさんはもう動かなくなっていましたが、Albertoさんのほうはまだ生きて動いていたことがわかっています。2人を焼く黒い煙は村中から見えたといい、「みな忘れ去りたい記憶だ」と、BBCにタクシー運転手は語っていますよ…。

WhatsAppのデマを間に受けて、村人みんなで幼児攫いの嫌疑をかけられた人を殺す類似の事件は今年、インドでも多発しました。上の動画で紹介されているのは、犠牲になったNilotpal Dasさん(29)。

愛と平和を愛するミュージシャンだったのですが、6月8日、友人Abhijeet Nathさんと滝見物に行った帰り道で襲われました。7時半ごろに通りかかった小さな村で、ちょうど子どもたちが「ホパドラ(人攫い。臓器をくり抜いて売る都市伝説)」の噂で集団パニックに陥っていて、「村に来た」という噂がWhatsAppでわっと広まって、棒や刃物を手に手に持って集まった村人200~250人にあっという間に襲われてしまったのです。警察が駆け付けたのは1時間後。病院に運ばれたときにはもう息を引き取っていました。

あとでデマとわかり、抗議デモに発展し、実行犯40人以上が逮捕されましたが、残された父親は「棺を開けて息子の変わり果てた姿を見る勇気はどうしても出なかった」と動画で語っていますよ…。

メキシコもインドもデマ炎上リンチで亡くなった人の数は今年、2桁に達しました。どちらも警察がだらしなくて自衛の精神が旺盛な国という下地があり、これがネットのデマと結びつくと、あられもない方向に天誅の矢が飛んで、誰も止められないという、リーサルな状況が生まれるようです。

本当は拡散をトラッキングして、責任もトラッキングできないといけないのですけど、WhatsAppの完全暗号化が生んだ負の側面ですよね…。こんなもののために完全暗号化を作ったんじゃない、言論弾圧されている国の人たちのために夜も寝ないでプラットフォームつくったのに、ってエンジニアたちは思ってるんでしょうね。そんなこと言ったら、Facebookだってリンチストリーミングをホストするためにコード書いているわけじゃないけど…。

もっと規模の大きなものでは、ミャンマーが記憶に新しいですよね。2017年9月から軍部が根も葉もない噂をFacebookで組織的に広めて集団殺戮と民族浄化を煽動し、善意に駆られた仏教徒までもが平然とロヒンギャを殺し、死者の数は6,700人にも達しました。軍部の道具にいいように使われるままになったという十字架をFacebookはこれから一生背負っていくことになります。

日本はいくらネットで炎上したって、警棒や拳銃持った警官が自転車ですぐ飛んでくる安心感がありますけど、怖いですね、善意の顔した悪意。地獄への道は善意の石で敷き詰められているというように、石ころがつながればあっという間です。他山の石としたいですね…。

Sources: BBC