奇妙なカガクニュース2018:ラリったタコから宇宙船まで

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奇妙なカガクニュース2018:ラリったタコから宇宙船まで
Image: Getty via Gizmodo US

事実は小説より奇なり珍なり摩訶不思議なり。

米Gizmodoに掲載された2018年の北米を中心としたサイエンス系の変なニュースまとめ、いってみましょう。なかにはギズモード・ジャパンでも未翻訳の記事もありますよ。まったく世の中はいつの時代も奇妙なことが起こり得るものです。


2018年もわたしたちをぽかんとさせた奇妙キテレツなニュースがてんこ盛りでしたね。ネットで大流行した奇行に、こわーい奇病。世界をあっと言わせたサイエンス系ストーリーのうちで、最高にインパクトがあったものを集めてみました。

Tide Podはちゃめちゃチャレンジ

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Image: Kyle T Perry/Shutterstock.com

変なミームが流行。2018年には「Tide Podチャレンジ」という、奇妙なインターネットチャレンジがソーシャルメディアを席巻しましたね。

Tide Podというのは、アメリカを中心に販売されている洗剤ポッド(日本でいうジェルボール洗剤)。見た目がかわいくお菓子のようなので、未成年らの間でこの洗剤ポッドを「食べてみせる」ことが爆発的に流行し、誤飲や成分摂取による中毒が大きな懸念となりました。ミレニアル世代の奇行と書いたメディアもありましたね。いまやミレニアム世代(1980年代から1990年代生まれ)はとっくに30過ぎてるいい大人なんでティーンではないですが…。

この件は、アメリカ毒物管理協会が警告を発する事態にもなりました。アメリカ毒物管理協会の調べによれば、13歳から19歳の「ティーンエイジャー」の間で意図的に洗剤ポッドを摂取したことによる中毒についての報告が2018年1月時点で、すでに39例も報告されていたそう。これは2016年1年間での件数に匹敵します。

そもそもこれは、ティーンがYouTubeの視聴率を獲得するために、Tide Podチャレンジと題した面白おかしい投稿を行なったのが大流行したもの。その発祥はアメリカ発の風刺サイトOnion。また公衆衛生学に詳しい専門家によれば、幸いなことに洗剤ポッドによる中毒事故は最近では減少傾向にあるとのこと。

これを受けて巷のスーパーでは洗剤を鍵付きのケースに入れ、危険物ばりのセキュリティで販売したり、議会では洗剤ポッドのデザインについての規制法案が提出されたりと、アメリカの2018年を騒がせてくれました。

異星人のスペースシップではなかった物体

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Image: ESO

みんな心の中では、実はエイリアンに存在してほしいって思ってますよね。だからこそ、はじめて太陽系外から侵入した天体「オウムアムア」について、ハーバード大学の科学者たちが「異星人のスペースシップの探査船かもしれない」なんて言い出したときには、上を下への大騒ぎになったもんです。

ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの研究者たちは(ピアレビューありの学術誌ではないですが)11月に論文も書いてます。オウムアムアは2017年10月に太陽系に突入し、地球のすぐそばを通過し、宇宙のかなたへと消えていきました。オウムアムアが引力の法則を受ける典型的なの彗星や隕石だとしたら、太陽系に来ることは決してなかったとしています。それゆえ、太陽放射エネルギーを動力とする異星人のスペースシップではないかという結論に至ったわけです。

間違いなく葉巻型のオウムアムアは奇妙な物体です。別の宇宙空間から太陽系に侵入した初の天体です。そしてまだ誰も、どうやってこの太陽系に来たのかを説明できていないのです。で、結局のところ、科学者たちは誰ひとりとしてエイリアンの存在を証明できていないのですよね。

奇妙な狂犬病レメディー

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Image: Oli Scarff/Getty Images News/ゲッティ イメージズ

「毒を以て毒を制す」が処方の基礎。自然治癒を治療の中心に据える「ホメオパシー」は代替医療とも呼ばれる、いわゆる民間療法。病気の元となる元凶のウィルスを希釈したものを投与する疑似医療行為です。効能のほんとうのところはどうあれ、プラシーボと同じくらいの効果しかない、という論文もあるようで…。

カナダで、このホメオパシーの施術師として活動するジマーマン氏の治療がソーシャルメディアで大炎上、ひと悶着起こしました。

それは2018年4月のこと。発端はジマーマン氏のホメオパシー治療の記録についてのブログでした。とある4歳の男の子ジョナーくんは、テーブルの下に隠れて出てこなかったり、人に吠え掛かったりと、行動障害や睡眠障害に悩む問題児でした。また暗闇や狼男、幽霊やゾンビに異常におびえたりと、普通でない状態に。ジマーマン氏がジョナーくんの家族からいろいろ話を聞き取ったところ、どうやら狂犬病のワクチンを打った犬に噛まれたから犬っぽい行動に駆り立てられているのでは?という、2018年なのにまるで中世のような仮説に至ります。狂犬病の「瘴気」にあたったというのです。そしてその治療法として、狂犬病にかかった犬のヨダレを原料とするホメオパシーレメディー(病の元凶を希釈したもの)を処方するのですが…。

ジマーマン氏のこの治療法についてのブログにはたくさんの科学者や医師から大きなブーイングと批判が寄せられ、ソーシャルメディアでシェアされまくったあげくあちこちで大炎上。またカナダ、ブリティッシュコロンビア州の公衆衛生長官ボニー・ヘンリー氏が「大きな懸念」を公式表明する騒ぎにまで発展。狂犬病にかかった犬のヨダレが曲がりなりにも医療行為としてカナダ国内で処方されたので、放ってはおけないということなんですが…。

ホメオパシーは近年では誰からも相手にされていない擬似医療のひとつです。その「レメディー」と呼ばれる擬似薬品は、毒素成分を水で薄めることにより希釈に希釈を重ね、ほとんどその成分がなくなるまで薄めることにより作られます。症状を引き起こした原因となるウィルスを希釈したレメディーを摂取することにより、その反応が治癒につながるのだとか。しかしジマーマン氏は批判を受け、反論としてこの男児に与えたレメディーには狂犬病のウィルスは存在しなかったと発言。その上でそんなレメディーでこの男児の奇行は症状がおさまったのだとも発言したので、さらに状況ははちゃめちゃに

産婦人科医でありホメオパシー懐疑主義者であるジェン・ガンター氏は米Gizmodoのインタビューに、論理がそもそも破綻しているといい、「ウィルスがないというなら、それはただの水ですよね」とばっさり。「希釈した狂犬病ウィルスに危険がないなんて馬鹿げてる」とお怒りのご様子。「ウィルスがいるということなら危険きわまりないし」「水を与えていただけということなら、詐欺ではないですか」。これを受けてジマーマン氏は最終的にブログの投稿を編集しています。もともと掲載されていた内容は削除され、攻撃されたかわいそうな自分を主役に全編書き直されています。「わたしの死亡記事には、“真実のために死す”と書いてもらいたいものね。メディアや公衆衛生機関の発言によってわたしは殺されたも同然」と、くやしまぎれの発言が今でも綴られています。

かわいいリスとプリオンの謎

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Image: Pixabay

米Gizmodoでも数回とりあげていますね「プリオン病」。2018年に至っても決定打となる治療法や治療法がまだ見つかっていない恐ろしい病気です。「狂牛病」という名前は聞いたことがあると思いますが、これもプリオン病の一種。プリオンという感染性因子により脳に異常をもたらすこわーい病気です。原因も未解明でミステリーに包まれたこの病気。これだけでも十分におどろおどろしいのに、2018年10月に発表された報告書は、さらに耳を疑うものであったのです。

その発端はニューヨークはロチェスターの病院。61歳の男性が奇妙な症状で入院します。この男性は痴呆症と統合失調症のような症状に数カ月苦しんだ後、看病のかいなく死亡してしまいます。

2015年に死亡したこの男性、後にどうもクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)にかかっていたらしいということがわかります。CJDはプリオンが原因で人間に発症する病で、非常にまれな病気とされています。さらに奇妙なことには、この男性の症状はふつうのCJDではなく、どうもプリオンに冒された牛の肉を食べることにより伝染する変異型。つまり、かつて全世界を震撼させた通称「狂牛病」から感染したというのですから、びっくり仰天。 狂牛病は正式名称を牛海綿状脳症(BSE)といい、これがヒトに感染したものを「変異型CJD」と呼びます。

過去に全米で発症が記録されている変異型CJDは4例あるそうです。これらのケースはいずれもアメリカ以外の場所で数十年前に感染した後に罹患者がアメリカに来てから発症したもので、BSEに感染した肉がアメリカの食品サプライチェーンに入ってきたという記録はありません。ところが家族の話から驚愕の事実が浮かび上がるのです。この男性は狩猟を趣味としており、たびたび捕獲した野生の「リス」を食べていたというのです。

研究者たちはこの男性が本当に変異型CJDに感染していたのかどうか、いまだに調査中とのこと。ですが、公衆衛生に詳しい専門家によれば、アメリカで人気の狩猟動物であるヘラジカや鹿のプリオンの感染因子が人間に感染する可能性はすでに指摘されており、その因果関係はいまだに調査中であるとのこと。

タコたこあがれ〜天までハイに〜

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Image: Jim Cooke/Gizmodo US

かわいい動物が人間におそろしい事態をもたらすなんて、暗い気分になってしまいましたね。でも次は気持ち悪い風貌の動物がかわいくなっちゃう奇妙な実験のお話。

2018年9月、ある研究者チームがトンデモ論文を発表。それは、7杯のタコに通称エクスタシーと呼ばれる合成麻薬「MDMA(アメリカ、日本では法律で禁止されている)」を投与して、その反応を研究するという内容でした。MDMAを摂取したタコたちは、人間と同じくそれぞれ他の友タコたちとさかんに絡んだりつるんだりするようになり、くねくね酔ったいきおいで他のタコになれなれしく触りはじめたというのですから、タコも人間も一緒なんですね

この研究のポイントは、タコと人間が大きく異なる点につきると思います。少なくとも進化の経緯が異なり、タコと人間が共通の祖先にたどりつくには5億年はかかるだろうと言われていますから。タコをはじめ無脊椎動物の脳は、わたしたち哺乳類の脳とは大きく異なります。なのに、人間とタコは、MDMAに似た反応を示すのです。

この論文の執筆リーダーであるジョン・ホプキンス大学の神経科学准教授Gül Dölen氏。「(“快感”を感じさせる脳内システムである)“報酬系”といわれる回路がそもそもありません」 と米Gizmodoのインタビューに回答してくれました。「人間とタコは脳の機構がまったく違うのに、それでもMDMAに反応を見せ、同じ効果が現れているということは、この反応は脳ではなく分子レベルで起こっているということを意味します」。

ただし、7杯という実験対象の数はちょっと少なすぎますね。でも、MDMAのようなドラッグがなぜ脳に影響を与えるのかを理解する手かがりにはなりそうです。今やMDMAやその他のパーティドラッグをうつや心的外傷後ストレス障害(PTSD)のような精神疾患の治療に応用しようという動きもありますし。ハイになって病気を克服できるなんて、うれしいじゃないですか。

パラサイト・パラダイス

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Image: CDC Global

寄生生物に体をのっとられるお話は、SFの世界でも現実世界でも、気持ちよいものではありませんね。2018年にもありました。驚愕の寄生ストーリー。

2018年2月、米国疾病予防管理センター(CDC)の研究者たちが目を疑うような論文を発表。報告によれば、オレゴン州でアウトドアにいそしんでいた女性の目に、これまで牛にしか見つかっていなかった線虫が見つかったとのこと。珍しい眼虫ということもさることながら、問題はその数なんです。1匹や2匹なんてあまいもんじゃなく、その数は驚愕の14匹。そんな寄生虫大家族が目の中から見つかったというのですから…お気の毒です。今まで牛でしか見つかっていなかったという目に寄生するこの寄生性線虫、すべて手作業で取り除く必要があったらしく、それはもう鳥肌ものです。なんとこの女性、この特殊な眼虫に寄生された栄えある人類初の女性となったそうです。それはともかく無事でよかったですね。

6月には別の女性に寄生した回虫についての症例研究も話題になりました。なんとこの回虫はこの女性の顔に寄生していたというのですから、それも驚きです。どうも女性の唇と目は大きく腫れてしまっていたたようです。またこの女性はこの回虫が移動する様子をセルフィーで撮影していた模様。後にこの回虫たちは無事に除去されています。

寄生虫に悩むのは人間だけではありません。ミクロの世界には体を乗っ取られてしまう、SF映画も顔負けの寄生虫や寄生菌が本当にいます。アリをゾンビ化して自殺に追い込む寄生菌や、ゴキブリをゾンビ化する寄生バチの存在も明らかになっています。

その他の奇妙なニュース

もちろん、これらは2018年に報告されている奇妙なニュースのほんの一部にしかすぎません。この他にも、いろいろお伝えしましたよね。ロボットベビーのはいはいカーペット実験では、どんなにカーペットが汚いかを見せつけられましたし、南京虫がヒスタミンを排泄して私たちの健康に害を与えているという事実も明らかになりました。シベリアの氷に4万年ものあいだ閉ざされていた虫を復活させたと主張するロシア人や、郵便で送ることを前提として何匹の蚊を注射器の中に一度に詰め込めるかのガチな研究もレポートしました。電子タバコにバイアグラが含まれていたり、シルデナフィル(バイアグラと同様の勃起不全治療薬)で視界が赤くなっちゃって治らなくなったりと、世界を驚愕させたニュースについては枚挙にいとまがありません。(訳者注:個人的には鼻ウナギ現象もぜひリストに加えていただきたい!)

2019年もきっとこれに輪をかけて奇妙なことが起こるに違いありませんよね?