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階段や段差を楽々乗り越えられるカート「UpCart」はどのようにして成功を収めたのか?

by Min An

旅行の荷物を運んだり大量の物資を運んだりする時に使うカートは、一般的に車輪が2個しかないために階段や段差の上り下りが難しいもの。そんな不都合を解消するために複数の車輪を付け、階段や段差をスムーズに上り下りできるようにしたカートが「UpCart」です。UpCartを開発するスタートアップ「TriFold」の共同創業者兼CEOが、その成功秘話について述べています。

How Two Unlikely Partners Invented the UpCart and Went Viral on QVC -
https://starterstory.com/stories/how-two-unlikely-partners-invented-the-upcart-and-went-viral-on-qvc

TriFoldの共同創業者兼CEOのMichael Reznik氏によると、TriFoldは人々のモビリティを向上させ、より生産的な生活が送れるようになることを目標としています。UpCartの製品群は階段や凸凹した地形を楽々移動できる折り畳みカートであり、2015年の販売開始から爆発的な売り上げを記録しているとのこと。


実際にUpCartを使っている様子を撮影したムービーがこれ。

The UpCart Original Stair Climbing Cart: The Must Have Household Item!


UpCartのアイデアを持っていた共同創業者のLeonid Khodor氏はRaznik氏の父親と同じ年齢であり、Khodor氏がUpCartのアイデアをRaznik氏に語ったのも、Raznik氏の父親の誕生日パーティーで一緒にお酒を飲んでいる時でした。エンジニアであるKhodor氏はUpCartを発明したはいいものの、どうやってビジネスに結びつけたらいいのかわからなかったそうです。しかし、Khodor氏が作った簡単な試作品や実際に動かしているムービーを見たRaznik氏は、「UpCartには多くの使い道がある」と直観しました。


Khodor氏と連絡先を交換した後も下調べを続けたRaznik氏は、Khodor氏とビジネスを立ち上げたいと家族を説得し、2013年2月にTriFoldが設立されました。当時のRaznik氏はフォーチュン500にランクインする企業で経営コンサルタントとして働いていましたが、以前から起業したいという考えは持っていたとのこと。しかし、過去に起業を考えたタイミングで運悪く株式市場の大暴落が発生したため、その時は断念してしまったそうです。

TriFoldを無事設立までこぎ着け、平日の日中は企業で働くかたわら、夕方と週末はTriFoldに捧げる生活をRaznik氏はスタートします。「『ビジネスを成功させるには人生の全てを捧げなければならない』とアドバイスする人もいますが、妻や2人の子どもを持つ私にはそんなことはできませんでした」とRaznik氏は語り、結局2016年12月までの約3年半はそれぞれの仕事を両立させていたとのこと。


製品のデザインはKhodor氏がCADを使って行いましたが、試作品のプロトタイプ製造を工場に依頼すると膨大な費用と時間がかかってしまうことから、「大きな賭け」としてプロトタイプ製造プロセスを経ずにいきなり製造ツールなどを作って工場を探し始めたそうです。Raznik氏は調達コンサルタントに依頼して、中国の工場を現地まで視察しに行きました。3つの工場から見積もりを取り、製造ツールの費用を100%負担することと引き替えに、少ないロット数での製造を請け負ってくれた工場に製造を依頼したとのこと。なお、アメリカの工場に依頼していたら少なくとも3倍のコストになっていたはずだとRaznik氏は語っています。

しかし、この段階で「TriFoldの初期資金が尽きてしまう」という問題が発生しました。当時は誰もがハイテクやバイオテクノロジー、モバイル市場などへの投資を考えていた時期であり、ローテクであるUpCartにはなかなか出資が集まらなかったとのこと。クラウドファンディングプラットフォーム・Kickstarterでの資金調達も失敗に終わってしまいましたが、折よくエンジェル投資家との関係を築くことができたため、どうにか目標であったラスベガスで開催される国際ハードウェアショーにUpCartを出展することが叶いました。

ショーが開催されるとUpCartは多くの観衆を集め、「Most Innovative New Concept(最も革新的なコンセプト)」賞を受賞しました。そして24時間テレビショッピングを放送する専門チャンネルの「QVC」において、UpCartのセールが行われることになったとのこと。UpCartは当時まだサンプル品しかなかったため、2015年5月に放送された番組内では「製品の出荷は2015年8月から」との注釈が入りましたが、それでもわずか5分で用意してあった枠が完売したとRaznik氏は述べています。


また、Raznik氏は2015年の終わりにMacBookで製品のPRムービーを製作してFacebookに投稿し、1日20ドル(約2200円)の費用で広告を出しました。するとムービーが750万再生を超える人気を見せ、クリスマスを目前にしてUpCartの在庫が尽きてしまうという事態も発生したとのこと。広告はムービーがベストだと語るRaznik氏は、広告費用の10~20%を「広告のターゲット層を見極めること」に当て、60~70%を「ターゲット層に広告を見せ、さらにコンバージョン率の高い層へ集中すること」に、残りの10~20%を「一度広告を見たけど商品購入にまでは至らなかった層」への広告に当てるべきだとしています。

TriFoldは非常に保守的なキャッシュフローを維持していたそうですが、実際にUpCartを製造して販売する段階に入ると、物理的な製品を取り扱うスタートアップが直面する壁にぶち当たったとのこと。顧客が実際に商品を受け取り、その後で製品の代金を支払うというシステムの場合、場合によっては製品の出荷から数カ月、最大で6カ月もの支払いの遅延が発生してしまったそうです。これによって想像以上の急成長を遂げたTriFoldは、注文が入るとその分キャッシュフローが不安定になるという事態に見舞われてしまいました。

QVCでUpCartが紹介されたことは間違いなくTriFoldの成長に寄与しましたが、一方でQVC経由で購入された商品代金の支払いは非常に遅かったとのこと。早めにキャッシュを手に入れたいスタートアップにとっては、この遅延は厳しいものだったそうです。また、QVCの顧客は商品の返品率も高いことに加え、「TVで見た商品をパクろうとする人々」にも商品のアイデアが届いてしまう点が残念だとRaznik氏は述べています。

by bruce mars

スタートアップを立ち上げて成功を収めるにあたって、Raznik氏は「生涯学習者であること」「自分のビジョンと信念を管理すること」の2点が重要だと考えています。

Raznik氏によるとスタートアップを立ち上げた人は、自分が持っている知識だけでは自信を持って答えられない課題に、毎日無数に直面するとのこと。問題に対処するべく全ての情報を事前に手に入れることは無理であるため、問題に直面したら素早く情報や関連するトピックを見つけ、事実確認をしなければなりません。スタートアップの経営者は素早く学びそれを継続することが重要であり、「生涯学習者である」という精神が重要になってくるとのこと。

また、スタートアップを立ち上げた当初、Raznik氏は多くの人からアドバイスをもらいましたが、その多くは「Raznik、君は間違っている」というものでした。アドバイスをしてきた人々がわざとRaznik氏に不利なアドバイスをしてきたわけではありませんが、成功するために他の企業と差別化して独自の道を歩むスタートアップにとって、他の人からのアドバイスが有益になることは多くありません。そのため、尊敬する人のアドバイスであってもそれを冷静に評価し、自分のビジョンや信念を見失わないことも重要だとRaznik氏は述べています。

by Lukas

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in メモ, Posted by log1h_ik

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