2018年のサイエンスの世界で起きたことまとめ

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  • author Ryan F. Mandelbaum - Gizmodo US
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  • Kaori Myatt
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2018年のサイエンスの世界で起きたことまとめ
太陽に近づくパーカー太陽探査機 Image: NASA

サイエンス系盛りだくさん〜。

まとめてみると、2018年は特に注目のイベントが多かったですよね。米GizmodoのRyan F. Mandelbaumがこの1年を振り返りサイエンス系記事のまとめをしてくれました。あの事件もこの事件も、まるで昨日のことのようですよ。


電光石火の速さで一年が過ぎましたよ。

宇宙のこと、地球のこと、2018年はこれまでになくサイエンス関連の話題がつきない年でありました。わたしたち人類が与える環境への影響や人類におこっている変化など、次から次へといろんなことが研究・調査されてきました。

科学者たちは息つく暇もなく新しい論文を発表してくれましたね。新しい理論や発表はときに凡人の理解や想像を粉々にうち砕いてくれます。科学とは、理解の追求であり、実験やテストを繰り返し、最先端のツールや機械を使ってこの世界に横たわる「真実」をわたしたちの目の前に差し出してくれます。小さな積み重ねを続けることにより手に入れることができた壮大なストーリーや新しい発見の数々、そんな研究者たちの2018年の業績の数々を、ここにまとめてみました。

2018年にニュースの見出しを飾ったサイエンス関連トピックの集大成です。これらの成果のうちにはまだ見ぬ未来の科学の世界を形づくる基礎となるものもありますよ。

火星フィーバー

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Image: NASA

2017年の終わりごろ、トランプ米大統領は通称「ゴー・バック・トゥ・ザ・ムーン」文書に署名。これは火星探査をするなら、その前にまず月を探検するようにとNASAに指示する司令でした。ですが、その司令もかすんでしまうほど、2018年は火星が注目を浴びた年になりました。火星探査機からはいろんな調査報告があがってきましたよね。

まず、欧州宇宙機関(ESA)が打ち上げた火星探査機マーズ・エクスプレスは火星の南極点の地表下に液体の状態の水を発見しています。火星探査機「キュリオシティ」は35億年前の有機物と思われる分子を発見(生命体の可能性を示唆)。さらに火星のメタンガスの量が季節により上下していたことを示す痕跡も見つかり、これらを分析すると、火星は今まで想像されていたものを超える活動をしていた星だったということになります。

しかし発見はそれだけにとどまりません。 NASAのMars 2020計画とESAの ExoMarsミッションは、それぞれ探査機の次のミッションの着地点を発表しています。NASAのInSightが無事にタッチダウンしたのはつい先月のことですが、火星の平地に腰を据え、地震ならぬ火星震の動きを観察しています。初の火星の地平線が映った鮮明な写真をタッチダウンから数時間後にに送信。地球からロマンを抱きつつ見守るわたしたちに、火星と土星の美しい写真も届けてくれましたね。

ただ、火星表面はすべてが文字通りバラ色ではなかった模様です。5月に始まったらしい砂嵐は、火星全体を覆い尽くす猛嵐と化してしまいました。探査機「キュリオシティ」は幸いなことに難を逃れたようですが、太陽光を動力とする探査機「オポチュニティ」は光が得られず冬眠モードになってしまい、ぴくりとも動かない時期が長く続きました。NASAは2019年1月まではオポチュニティとの交信努力を延長して続行することを決めています。どうなるんでしょうかね〜。ハラハラしますね。

宇宙を去りゆく探査機たち

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ハッブル宇宙望遠鏡
Image: NASA

「オポチュニティ」の運命やいかに。しかし、2018年はわたしたちが固唾を飲んで見守ってきた宇宙ミッションが、ミッションの完了や失敗により、はからずも終焉を迎えた年にもなりました。「ケプラー」は、2009年に地球のような惑星を太陽系外に探すためにNASAが宇宙に送り込んだ宇宙探査機でした。2013年の不具合により、一度は「死亡」が伝えられたものの奇跡の復活を遂げます。復活後もK2ミッションをこなし、総合して9年の探査歴に輝かしくも2700個の太陽系外惑星の発見という花を添えてくれました。大変残念ながら、2018年に燃料切れによりNASAに引退を宣言されてしまいます。復活後も最後まで活躍してくれましたね。これと同時期に、2007年に開始されたDawnミッションで活躍した宇宙探査機「ドーン」は、小惑星ケレスの軌道を周回していましたが、こちらも燃料切れでミッションは黄昏を迎えます。

NASAのフラッグシップミッションであったハッブルチャンドラX線観測衛星もまた幕を閉じます。 ジャイロスコープの不具合により、セーフモードでの起動を余儀なくされた後、残念ながら老朽化していることを認めざるを得なりました。両機とも修理が施され、「ハッブル」は再起動されスイッチをオフにしてオンにするなどの作業が行なわれてきたのです。

また、宇宙を去った者としては、制御を失った中国の人工衛星「天宮1号」の大気圏再突入が記憶に新しいのではないでしょうか。 最悪の事態が想像されましたが(大惨事となる可能性は低かったものの)結果的に天宮1号は人口密集地からはるかに離れた太平洋上に落下しましたね。

国際宇宙ステーションにも転機が訪れます。NASAがなんと国際宇宙ステーションの民営化を発表。さらに、つい最近、穴があいていることが発覚したばかりですが、その原因が追求されてきました(ロシアには人災と糾弾されましたが)。国際宇宙ステーションの乗組員の間に抗生物質に耐性のある新型耐性菌が発見されたというニュースもありましたね。ソユーズの飛行船打ち上げ失敗後に2人の宇宙飛行士は必死の緊急脱出を決行したときには、今後どうやって宇宙にいけばいいんだとわたしたちは途方に暮れましたね。でもご安心ください。NASAは常に未来を見越しています。すでにNASAはボーイング社の CST-100 StarlinerとSpaceXによる宇宙船でISSに行くことになっている民間乗組員を発表しています。

楽しみな新ミッション誕生

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TESSミッションで最初に送られてきた写真
Image: NASA/MIT/TESS

ミッションに失敗したり、制御不能に陥ったりと、つい、これからの人類の宇宙についての研究の可能性が閉ざされてしまったかのような暗い気分になりましたね。でもご安心ください。NASAは驚愕のパーカー太陽探査機を打ち上げ、2019年には太陽のように明るい希望の光をもたらします。パーカーは溶けることなく太陽に接近し、太陽の表面とコロナを観察します。2018年4月NASAのTESSは300光年のかなたにある系外惑星を見つける旅に出発しました。そして、もうすでに最初の惑星を見つけているようです。2017年に開始したNASAのオシリス・レックスミッションでも、ターゲットである小惑星「ベンヌ」の写真がぞくぞくと送られています。また、冥王星を探査していた探査機「ニューホライズンズ」はカイパー・ベルトにある天体「Ultima Thule(ウルティマ・トゥール)」(通称 MU69)を接近飛行(フライ・バイ)する予定です。このフライ・バイは2019月のお正月というのですから新年からめでたい話です。

宇宙航空研究開発機構 JAXA(ジャクサ)と欧州のESAもそれぞれミッションを抱えています。「はやぶさ2」は無事ターゲット小惑星リュウグウとランデブーきれいな写真を送ってくれました。投下された着陸機たちは地表に着陸。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と欧州宇宙機関の共同プロジェクト BepiColombo(ベピ・コロンボ)は水星へゴー。ESAのESAの宇宙望遠鏡「ガイア」は航空宇宙史上に残る、めくるめくような壮大な「宇宙地図」を作成してくれました。

このときアメリカ議会ではNASAの未来を計画しましたね。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げは2021年まで延期されました。これによりNASAは延期の原因を報告しています。議会は公聴会を設けてその理由を聞き取っています。一部ではこの巨額なコストが予想されるその資金について心配する声もあがっています。

バイオハッカーとDNAスキャンダル

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Image: Ben Greenfield

場所を変えて地球では、2018年も人類は人体への挑戦を続けてきました。バイオハッカーの台頭です。手痛い失敗も犯していますが...。2018年にはバイオハックやDIYバイオとよばれる、素人の生物学的研究が流行しましたね。まず自分の幹細胞を自分のおトゥイントゥインに注射しておっきくしちゃおうというバイオハッカーが出現、自己申告では一応成功したと言い張っています。また、アーロン・トライウィックというバイオハッカーが自宅で手作りしたヘルペスウィルスをカンファレンスで聴衆が見守る中自分に注射し、後に感覚遮断タンク内で死亡されているのが発見されたという痛ましいお話もありました。これは細胞やウィルスなんかを自宅で手作りする際には気をつけたほうがよいという警告ですね。いや、手作りしないでください。

遺伝子治療などさまざまな応用に期待が寄せられていた遺伝子編集技術CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)が予想以上に有害である可能性があるという報告は衝撃をもらたしましたよね。胎児の遺伝子を操作する倫理について大きな議論が繰り広げられました。中国でゲノム編集によって生まれた双子の女の子については大きくニュースの見出しを賑わせましたね。世界の科学者がこの中国人科学者を非難糾弾しています。またこの科学者は別の女性もゲノム編集した胎児を妊娠していることを暴露したことでも世界の怒りとひんしゅくを買っていましたよね。また中国で猿のクローンが報告され、世界を驚愕させています。

また自宅でできるDNAテストも人気を集めましたが、祖先や遺伝子疾患のリスクを調べるはずのテストが正確ではないことがわかり、ユーザーの怒りを買いました。またDNAテストにおいては、テストした遺伝子データのリークというスキャンダルも世界を震撼させました。一般に公開されている遺伝子データベースを使って警察では連続殺人犯を逮捕していますし、テストキットの販売などに関わる会社においてはDNAデータの取り扱いにはより一層厳しい管理が要求されています。

飲酒も喫煙もまだまだ体にはよくなさそう

アメリカ食品医薬品局(FDA)はティーンへの電子タバコの急速な普及に警鐘を鳴らしました。これを受け、どうも本物のタバコの喫煙が少なくなったらしいのですが、決して健康によいわけではなく、電子タバコにも常習性があり、疾病との関連も報告されています。FDAはティーンの電子タバコの普及がコントロール不能なほどセンセーショナルとしており、報告によれば、人気の電子タバコメーカーJuulは、ティーンが使用していることを認識していたようですが、電子タバコをテイーン向けに販売しているという容疑でFDAが抜き打ちで家宅捜索しています。電子タバコが体に悪いときいてがっかりしたあなた。体に悪いのはタバコだけではありませんよ。飲酒についても新たな研究結果が報告されています。アメリカ国立衛生研究所(NIH)では健康な実験参加者に毎日飲酒させる研究実験を突然中止して物議を醸しました。また、心臓への悪影響がおよぶ飲酒量が予想されたよりも少なかったという報告も愛飲家を落胆させました。またアルコールには安全なレベルは存在しないなどという報告も。世界保健機関(WHO)は、飲酒が世界の5パーセントの死亡原因となっていることも報告しています。おいしいんだけどね... お酒。

自然災害の年

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Image: Earther/YouTube

2018年は自然災害が相次ぎ、自然災害の年となったといってもよいと思います。 カリフォルニアの山火事、Carr Fire(カー火災)は、この夏、7月から8月にかけてカリフォルニアの広範囲を焼きつくしました。これはカリフォルニア史上に残る最悪の自然発火の火災となり、8人の死亡者を出してしまいました。その後、Woolsey Fire(ウールジー火災)とCamp(キャンプ火災)も勃発。 キャンプ火災はカリフォルニア最悪の火災となり、死亡者数も記録的で、被害も広範囲にわたりました。いずれもすでに鎮火していますが、死亡者数は88を数え、キャンプ火災では、200人が依然行方不明となっています。地球温暖化と消化活動の発達により森林の密度が高まったこと、また人々が森林近くにまで住宅地を広げていったことも、被害が広がる原因となったとされています。またトランプが落ち葉かきに熱心なフィンランドを引き合いに出し、落ち葉かきしない国民が悪いと言わんばかりの発言には、みんな怒り心頭でしたよね。

ハワイ島のキラウエア火山噴火も怖かったですね。あのトロピカルなハワイの島に迫り来る溶岩灰を爆発させ、住民を恐怖に陥れています。噴火はハワイの海岸線を変えるほどの規模でした。火山の噴火活動はハワイに住む人々にとっては大変な災害でしたが、ハワイの島自体が火山の噴火により出来上がった経緯を考えると、避けることのできない現象なのかもしれません。

また大西洋ではハリケーン・フローレンスが猛威をふるいました。ノースカロライナ州を中心に歴史に残る降雨量を記録。大きな爪あとを残していきました。ハリケーン・マイケルはフロリダの町をひとつそっくり破壊しつくしましたね。 このハリケーンもまた地球の温暖化が原因のひとつとされています。

科学者はひきつづき気候変動の悪影響について警告

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Image: Getty

今年発表された複数の調査では、気候変動の悪影響が指摘されています。各国が集まった政府間機構である「気候変動に関する政府間パネル」は、2度から1.5度地球の温度が上がることにより人口の減少につながり、2050年までには億単位で人口が減少してしまうというリスクについて指摘しています。 これにより生態系が脅かされるとし、温暖化を1.5度抑えることは大変に難しいことであるということも、ここに報告されています。

また、国際エネルギー機関(International Energy Agency)の報告によれば、二酸化炭素の排出量はさらに増えているとされ、これからもさらに増加することが予想されるとしています。これは、合衆国が石油の採掘に水圧破砕法を用いていることと、中国の石油輸入量がこれまでになく増加していることも原因となっています。感謝祭の週末に、合衆国政府は全米気候評価報告書を発表しています。気候の変動が経済に大きな影響を与えることを示唆するものでした。それでもトランプは報告書を軽視しており、引き続き地球温暖化に関する知識の少なさを露呈させていましたね。ふう〜。

科学者が一致団結

2016年の米大統領選は科学者を刺激しました。2017年の科学者の抗議デモのきっかけにもなりましたね。またそれを起点として、「500 Women Scientists(500人の女性科学者の会)」や非営利団体「314 Action(アクション)」といった科学者グループも結成されています。今年、1000人を超える科学者たちが合衆国とメキシコの国境で移民の家族を離れ離れにすることに反対する文書に署名しています。

この波は議会にまで波及しています。科学者や科学関連のバックグラウンドを持つ人たちが下院議員に立候補し、多くの選挙区で当選する事態となっています。ヘルスケア関連や環境変動にする政策でその本領を発揮しています。科学者が政治に参加したことにより、議会の改善につながっているかは不明ですが、科学者の専門知識を政治に活かせるのは確かなことです。

人類の歴史を塗り替える発見

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17万5000年から20万年前のものと思われる人間の顎の骨を含む化石
Image: Gerhard Weber (ウィーン大学)

2018年は人類の早期歴史を塗り替える事実が発見された年にもなりました。人間は15万から20万年前のアフリカ人の女性のミトコンドリアから進化したというミトコンドリア・イブのアフリカ単一起源説が唱えられてきましたが、どうも話はそんなにシンプルではないことが分かってきました。既存の研究を分析したところによれば、人類はどうもアフリカの複数の地域から進化したようです。

また、人類がアフリカを起源としてあちこちに移動したという説にも疑問が投げかけられています。科学者がおよそ史上最古となる人間の顎の骨をイスラエルで発見したのです。この骨はこれまで最古と考えられたものよりもおよそ5万年も前のものと思われ、17万5000から20万年前のものであると推察されています。さらに不可解なことには、アフリカから1万4500kmも離れた中国で石器を発見しているのです。この石器は130万年から210万年前のものとされています。 これはホモ・エレクトス(以前のホモ・サピエンス)という古代人類のものではないかとされています。 アルジェリアでも240万年前の石器が発見され、これにより、ヒト科の動物がアフリカ全土に散らばっていたことと、以前考えられていたよりもずっと古くからアフリカ大陸を移動していたことがわかりました。

また7万3000年前のものとされる人類最古の絵画の発見もまた衝撃をもたらしています。これは南アフリカの洞窟で発見されたもので、シルクリート礫岩を文具に用い、岩に書き付けていたとされています。

スティーブン・ホーキング博士の逝去

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Image: Sion Touhig/Getty

物理学者であり、科学の伝道者でもあったスティーブン・キング博士が76歳でこの世を去りました。ブラックホールの専門的研究と科学について一般向けにも科学の解説書を著していることでも知られています。博士が宇宙のはじまりについての理論を説いた論文を書き終えたばかりのときの訃報でした。多くの物理学者が天才ホーキングの死を悼んでいます。

ここには書ききれないほど...

2018年はサイエンス界隈の記事が特に濃密だった年でした。ここには書ききれないくらいです。このほかにもニュートリノを地球に向けて放射しているのはブレーザーという天体であることが特定されたとか、トランプ大統領が独立した「宇宙軍」の創設を協議しているとか、イーロン・マスクがTesla宇宙に送り込むことになったとかいうニュースもありました。はたまた、タコにエクスタシーを与えてどんな結果になったのかというようなはちゃめちゃな実験もありましたね。

さて、2019年にはどんな研究が飛び出してくるのでしょうか。これからも科学記事をお楽しみに。