西論

「魂の殺人」に目が曇ったか…司法の大失態、「正義の危うさ」自覚せよ

【西論】「魂の殺人」に目が曇ったか…司法の大失態、「正義の危うさ」自覚せよ
【西論】「魂の殺人」に目が曇ったか…司法の大失態、「正義の危うさ」自覚せよ
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 女性が集合住宅の一室で、同居する親族男性(72)に強姦(ごうかん)された-と大阪府警に訴えたのは平成20(2008)年夏のことだ。当時14歳の少女だった。

 女性は小学生のころから性被害に遭っていたと説明した。男性は無実を訴えたが逮捕され、大阪地検は強姦2件、強制わいせつ1件の3事件で起訴する。女性の証言に加え、3事件を目撃したとする女性の兄の証言もあったからだ。1、2審、最高裁でも男性は無罪主張を一蹴され、23年に懲役12年が確定、服役した。

 しかし26年、女性が親族や弁護人に「証言は嘘」と告白。当初、実母から何度も「やられたやろう」と問い詰められて虚偽の被害を訴えたが、実母と疎遠になったことを機に、真実を打ち明けようと思い立ったという。兄も実母や警察の顔色をうかがって女性の嘘に合わせていたと吐露した。

 同年9月、弁護側が裁判のやり直しを求めて大阪地裁に再審請求。地検が再捜査したところ、女性に性的被害の痕跡がないとする当時の診療記録が見つかり、無罪を確信した地検は同11月に男性を釈放した。地裁は今年2月の再審開始決定を経て10月の再審公判で無罪を言い渡した。

 刑事司法の使命は冤罪(えんざい)を生まないことだ。被害者と目撃者の証言という直接証拠があったとはいえ、警察、検察、裁判所がそろって虚偽を見抜けず、無実の人に約6年の勾留・服役を強いたのだ。司法の大失態である。

偏見と思い込み

 冤罪を見抜く機会はあった。強姦されたとき、泣き叫んだという女性の証言に、男性側は「狭い家の隣室に他の家族がいたのに不可能だ」などと不自然な状況も訴えた。女性や兄の証言の変遷も指摘したが、1審判決は「弱冠14歳の少女が強姦被害をでっちあげることは非常に考えにくい」、兄の証言も「でっち上げるメリットがない」といずれも信用性を是認した。

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