自己啓発書などでは、「なりたい自分になろう」というようなメッセージをよく見かけます。たしかに人間には、多くの可能性があるものです。

しかし、だからといって、なりたいと思ったらなんにでもなれるというわけではないと『なれる最高の自分になる』(小宮一慶著、ディスカヴァー・トゥエンティワン)は指摘しています。

けれども、あるとき気づきました。すべての人がなれるものがある、それは「なれる最高の自分」だと。なれる最高の自分を目指すことが、自己実現ということではないかと。

そして、ほとんどの人が、なれる最高の自分を知らないまま、人生を送っているのではないかと。(「はじめに」より)

著者自身、なれる最高の自分を目指す途上にあるといいます。しかし一方にあるのは、還暦を迎えた自分には、「なれる最高の自分になる方法」を分かち合う役割があるのではないかという思い。そこで本書においては、そのために知っておきたいことをまとめているというのです。

①なれる最高の自分になるには、

 つねにそれを意識して、具体的な目標を持つこと。

②なれる最高の自分になるためには、

 人から評価されるだけのアウトプットを目指すこと。

③なれる最高の自分になるためには、いまの自分の殻を破ること。

(「はじめに」より)

伝えようとしているのは大きく分けてこの3つであり、書かれているのは、これらのための「原理原則」。なお、ここでいう「原理原則」とは、ビジネスパーソンには基礎力として、「思考力」と「実行力」の両方が必要だということ。そしてビジネスパーソンは、その基礎力を高める必要があるともいいます。

きょうは第3章「なれる最高の自分になるための方法」から、いくつかの項目をピックアップしてみたいと思います。

なれる最高の自分は、具体的なアウトプットで示す

「なれる最高の自分」を目指すことに反対する人は少ないでしょうが、ただ口に出すだけでは自分のペースで自己満足しているだけにすぎません。それを具体化、特にアウトプットで示さない限りは誰にも評価されず、単に「がんばっている」と言うだけの人と同じだということ。

「なれる最高の自分を目指して」インプットに励むこと自体は、決して間違ってはいないでしょう。でも、そこに近づいているかどうかを決めるのは、具体的なアウトプットのみ。「どんなアウトプットをどれだけ行ったか」「そのアウトプットが人からそれだけ評価され、ひいては世の中にどういう貢献をしたか」ということが大切だというわけです。

そう主張する著者は、「幸せ」は自分で決めるもの、「成功」はまわりの人や社会が評価するものだと思っているのだそうです。つまり成功とは、第三者の評価だということで、それを得るにはアウトプット以外にないという考え方。

いちばんいいのは、まわりの人や社会に貢献して成功し、それを通じて幸せになること。なぜなら幸せだけだと、自己満足で終わってしまう可能性があるからです。

人は、具体的なアウトプットを通じて評価されるもの。いいかえれば、アウトプットに焦点を当てたインプットをしなければならないということ。インプットはアウトプットのため、いわば成功のための手段にすぎないということです。(72ページより)

まず、一年後になれる最高の自分を目指す

「生涯を通じてなれる最高の自分を目指したい」と思っても、それがどういう自分なのかをイメージするのは難しいものでもあります。年齢が若ければ、なおさら楽ではないかもしれません。しかし、一年後と考えてみるとどうでしょう?

「一年後になれる最高の自分とは?」「一年後には、具体的にどうなっていたい?」などと考えてみれば、ある程度はイメージできるはずです。しかも、そういう具体的なイメージがあれば、「がんばってます」で終わってしまうことはないといいます。

つまり、アウトプットの具体的なイメージを持つ、ということが大事なのです。そして、最終的には周りの人や世間が評価するレベルのアウトプットを目指すのですが、とにかく、それに向かっての一年後のイメージを持つことです。(74ページより)

そのためには、数字で示すことも必要。たとえば編集者なら、「一年後には10冊の本を出している、そのために、売れそうな作家十人と打ち合わせをしている」といった具合に。つまりはそういった数字が、具体的な目標ともなるわけです。

ちなみに「がんばっている自分にごほうび」と口にする人は少なくありませんが、著者はその言葉を聞くと、「成功しない人だな」と思うそうです。理由は簡単で、「がんばっている」ということを具体化しない限り、なにも達成しないまま、単にごほうびだけが目的となってしまいがちだから。

「自分にごほうび」を否定するという意味ではなく、具体的な達成目標を決め、「それを達成したらごほうび」ということにする必要があるというわけです。そこで著者は、まず一年後の自分について“具体的に”考えてみることを勧めています。いうまでもなく、そこがスタートラインになるからです。(74ページより)

自分のエネルギーの出し方を知る

一生懸命に取り組むことによって、自分の本当の強みや弱みを知ることができるもの。その結果、自分の強みを生かし、本当にやるべきことに集中できるようになり、その分野で成功する確率が高まるということです。しかしそれだけではなく、一生懸命取り組むことには、もうひとつの大きなメリットがあるといいます。

それは、集中していく過程でエネルギーの出し方がわかるようになるということ。逆にいえば必死にならないと、本当のエネルギーの分量もわからず、出し方もわからないわけです。

けれどエネルギーの出し方がわかると、他のことであっても、エネルギーを出そうと思えば出せるようになるもの。もちろん人それぞれ、潜在的に持っているエネルギー量は違うでしょう。

しかし、とにかく一生懸命になることが、自身のエネルギー量を知り、その引き出し方を知る最高の方法だというのです。

それを知っている人の好例が、トップアスリートたち。水泳でもアイススケートでも、自分の限界のギリギリのところを探りながら必死に取り組むことでエネルギーを出し切り、成果(=アウトプット)を上げているということです。

つまりエネルギー、すなわちやる気というのも、引き出すにはコツがあり、筋トレのように鍛えることができるものなのです。それが分からないままだと、何をしていても、ものごとを表面的にこなすことにとどまってしまいます。

それでは、本当の実力を発揮し、ギリギリのところで勝負するということはできないで終わってしまいます。(83ページより)

しかも残念なことに、多くの人が自分のエネルギーの限界を知らないままだと著者は指摘しています。つまりそれは、なれる最高の自分にもなれないでいるということ。

持っているエネルギーを目いっぱい出してこそ、なれる最高の自分になれるもの。だからこそ、意識的にそういう機会をつくることが必要だというわけです。(82ページより)

気に入らない仕事に就いたときこそ精いっぱい働く

自分の強みを生かすことが大切だといっても、必ずしも自分の得意なことを生かせる気に入った仕事をさせてもらえるわけではありません。特に若いうちは、なかなかそういう仕事や職種に就けないものでもあります。また、自分の第一希望の会社に就職できないことも考えられます。

しかし、そういうときこそ、自分の将来を考えて大切に働く時期なのだと著者は主張しています。それは、自分の好きな仕事、強みを生かせる仕事に就く準備をする時期なのだとも。

次に自分の好む仕事に就くために何が必要かというと、それは、目の前の仕事を一生懸命やることです。それで評価を得るのです。 自分が希望しない仕事に就いた場合に、それで腐って、目の前の仕事をいい加減にやると、当然、上司や周りからの評価が落ちます。

そういう場合、上司は「嫌な仕事を適当にやっているから、次は希望の職種に異動させてやろう」などとは決して考えないでしょう。もっとレベルの低い仕事に異動させられることになる可能性が高いはずです。(90~91ページより)

一方、もし自分の希望しない仕事だったとしても、黙々と一生懸命に取り組んでいれば、上司からの評価は高まるもの。そして次には自分の希望する部署、より花形の部署に移動できる確率が上がるかもしれません。

いわば、不向きな仕事、強みを生かせない仕事に就いたときこそ、そこからなにかを得られるくらい真剣に働くことによって道は開けるということです。(90ページより)

自己観照する

松下幸之助さんは、本の中で、「自己観照」ということを書いておられます。 自己観照とは、自分の心を取り出し、身体の外に置いて、自分で観てみる、ということです。客観的に自分の心を観ることです。 内省するということと同じですが、内省と言われると具体的にはどうしたらいいか分からなくて、なかなかできない。

しかし、自分の心を身体の外に出して観察する、と考えると、できるような気がします。自分を客観的に眺めることならできるような気がするのです。 で、自分も結構、ばかなことをいっぱいやっているな、とか、この発言まずかったかな、とか、いろいろ気づくわけです。そして、それを反省する。(96ページより)

なれる最高の自分になるためには、そんなふうに、ときどき自分を客観的に観る訓練をすべき。さらには、自分で自分を笑える人は強いともいいます。

当然のことながら完璧な人などいませんから、客観的に自分を見たとしたら、必ずおかしなところが見つかるはず。逆に自分に入り込みすぎている人は、自分を客観的に見ていないから笑えないというのです。

著者が若いころ読んだ本のなかに、「十のうち二割は冷めた自分、八割は熱い自分」というフレーズがあったそうです。自分に入り込んでいると十割が熱い自分になってしまいますが、二割くらいは、常に冷静に自分を見ている必要があるということ。なるほど、この考え方は、どんな人にも役立ちそうです。(96ページより)




どこからでも読めるように、「なれる最高の自分になる」ために必要なことが65項目に分けて解説されています。また、それらが「原理原則」であるだけに、どのような仕事、組織、立場、年齢の方が読んでも納得できるものだともいいます。

年の初めに気を引き締めるためにも、読んでおきたい1冊です。

Photo: 印南敦史