米津玄師、DA PUMP、あいみょん…国民的ヒットと日本の難題

そして世界では何が起きていたのか
2018年、音楽やエンタテインメントの世界では何が起きていたのか? 2019年はどうなるのか?  国民的ヒット曲、紅白歌合戦、エイジアン・カルチャーの勃興、ストリーミングサービスの定着……『日本代表とMr.Children』共著者の宇野維正さんと『ヒットの崩壊』著者の柴那典さんが語り尽くす。

2018年を代表する「2つの国民的ヒット曲」

柴 今回は2019年の音楽やエンタテインメントがどうなっていくかを語り合おうと思うんですけど、ちょうど1年前の対談では、「2017年には国民的ヒットがなかった」ってところから話を始めていましたね。一転して、2018年は2つの国民的ヒット曲が生まれました。

宇野 米津玄師の「Lemon」とDA PUMPの「U.S.A.」ね。

柴 ビルボードの年間チャートも、YouTubeの「トップトレンド音楽動画」も、カラオケランキングも、CDの売り上げ枚数を元にしたオリコンのチャート以外ではありとあらゆるヒットチャートで「Lemon」は2018年の1位でした。

宇野 そのオリコンも、2018年12月24日付からようやくCDの売り上げとデジタルダウンロードとストリーミングの3要素を合算した「オリコン週間合算ランキング」を発表するようになった。

「Lemon」は年間18位、「U.S.A.」は年間61位。ヒットの実態とオリコンチャートのチャートの乖離はもう何年も前から言われてきただけど、今後はそれも少しは解消されていくだろうね。

柴 出ないんじゃないかと思われていた紅白でも、米津玄師は徳島の大塚国際美術館で素晴らしいパフォーマンスを披露しましたね。

宇野 紅白って、良くも悪くも渋谷のNHKホールのステージという縛りの中でおこなわれてきたイベントじゃない? でも、近年は中継での出演という方法によって、ステージ上で他の出演者と横並びになることを回避する出演者が増えている。

そこにはアーティストのパワーや交渉力を見せつけられるような感じもあって、ちょっとムズムズするところがあったんだけど、あのくらい圧倒的なものを中継で見せてくれたら文句のつけようがないよね。

柴 米津玄師だけでなく、Suchmos、あいみょん、星野源と、新しい時代を象徴するアーティストたちがいずれも視聴者に強い印象を残したのが今年の紅白でした。

宇野 そうそう。桑田佳祐、ユーミン、サブちゃん揃い踏みのフィナーレの絵面があまりにも強烈だったせいか、「平成が終わったというよりも昭和が終わった感じ」みたいに揶揄する声も上がったみたいだけど、ちゃんと新世代が爪痕を残してくれた紅白だった。

確かに「平成最後の」という感じはなかったけど、SMAPも安室奈美恵ももういないわけだから、そのコンセプトは最初から無理があったよね。

柴 同局の番組『おげんさんといっしょ』のキャラを借りていたとはいえ、放送中に星野源が「これからの紅白は、紅組も白組も、性別関係なく混合チームでいけばいいと思う」と言ったのも、紅白歌合戦という番組コンセプトの根本にもかかわる重要な問題提起でしたよね。

宇野 昨年はトータス松本、今年はエレカシ宮本浩次と、紅白の前にわざわざ男性シンガーとのデュエット曲をリリースして、紅組でも白組でもないイレギュラーなかたちで出演してきた椎名林檎の意思を、星野源は言葉にしてみせた。

これは今年のサザンやユーミンにも言えることなんだけど、昔は「出ない」ことがアーティストにとってのカウンターだったわけだけど、今は「出た」上で紅白という巨大な日本的慣習への批評性をどう示すかという流れになってきてる。

近年、紅白が面白くなってきているのは、まさにそれが理由じゃない?

柴 Suchmosの「クサくて汚ねえライブハウスから来ました。Suchmosです、よろしく」という宣言も、まさに番組の外からではなく、その中でカウンターを示すものでした。

宇野 そう。NHKが「出してあげる」ものではなく、アーティストが「出てあげる」ものでもなく、番組とアーティストが互いにメリットのあるそういう風通しがいい関係性を今後も築いていくことができれば、紅白にも未来はあるのかなって。

逆に、ものすごく違和感があるのは、毎年11月末頃に紅白の出演者が発表される時に、そのリストに名前のない出演者が「落選」と報じられること。特に昨年、「BTS落選」って文字をネットニュースで見た時は頭がクラクラした。演歌歌手じゃないんだからさ(笑)。

柴 まあ、それはNHKサイドの問題というより、それを報じるメディア側の見識の浅さなんでしょうけど。

宇野 それにしたって、みっともなさすぎるよね。結局サザン側が公式に否定をする事態にまで発展したけど、「桑田佳祐はサザンより後に紅白出演を発表した米津玄師に激怒している」みたいなあからさまなフェイクニュースも紅白には多い。

これまでそういうくだらないものは無視すればいいとされていたけど、そうとも言っていられなくなってきたのがここ最近の大きな変化だよね。いつまでもそういうサイトを放置している社会や、そういうフェイクニュースをクリックしている読者の責任も見過ごせないよ。

あいみょんは「ストリーミングの時代」以降のスター

柴 2018年、最もブレイクしたアーティストを挙げるなら、間違いなく、あいみょんになると思います。2017年のファーストフルアルバム『青春のエキサイトメント』の時点で才能は感じていましたけれど、正直、ここまでの躍進は予想していませんでした。

宇野 星野源の「恋」に続いて、2018年の米津玄師の「Lemon」もあいみょんの「今夜このまま」も野木亜紀子脚本ドラマの主題歌ってことにはちょっと驚かされるけど、ドラマ本編に主演もしていた星野源は言うまでもなく、米津玄師もあいみょんも、既に状況的には十分に温まっているところでダメ押し的にドラマ主題歌が加速させたかたちだった。

ただ、縁起をかつぐって意味でも、みんな次の野木亜紀子の連続ドラマの主題歌を狙ってるんだろうね。ちなみに、野木さん本人のツイートによると2019年は仕込みの年で、今年中に世に出る作品は1本もないらしいけれど。

柴 星野源、米津玄師、あいみょんについては、タイアップの効果もさることながら、アーティストの才能と楽曲の力というのが何より大きいですよね。

宇野 うん。特に星野源と米津玄師は、日本のメインストリームで活躍しているミュージシャンの中でも海外のカルチャーを貪欲に吸収しているという意味で際立った存在で、実際にそれを自分の音楽にも随時反映させてきた。

今の日本では現在進行形の海外のポップ・ミュージックの文脈がきちんと理解されていないとしても、潜在的に「みんなが聴きたい音」というものはあるわけで、それをちゃんと踏まえて作っているから支持をされているという側面は重要だと思う。

関連記事