IBMが発表した量子コンピューターは、スペックこそ低いけど、敷居も低い #CES2019

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  • author 岡本玄介
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IBMが発表した量子コンピューターは、スペックこそ低いけど、敷居も低い #CES2019
Image: TechCrunch

導入する会社や研究所は、これのために一部屋用意せねばなりませんね。

ビジネス向けコンピューターでおなじみのIBMより、CES 2019で量子コンピューターの「IBM Q System One」の発表がありました。

IBM Qを正しく呼称するなら、統合型汎用近似量子コンピューター。難しいですが、分解するというと、研究所の外で、単体で動作する、汎用量子コンピューター。かつコンパクトで、企業が購入して商用利用できるので、量子コンピューターの敷居を下げる可能性も秘めているのです。

Video: IBM Research/YouTube
外装デザインは、デザインスタジオのMap Project OfficeとUniversal Design Studio

量子コンピューターは、使い方次第ではスーパーコンピューターよりも演算能力が高く、新薬の発見、経済サービス、AI運用などに期待されています。有名な例では、セールスマンが営業先を回るのに一番効率のいいルートを計算する「巡回セールスマン問題」がありますが、古典コンピューターなら総当たりで計算する場面で量子コンピューターは力を発揮します。

量子コンピューターは安定して動作させるために、巨大な冷却システムが必要です。そのため、一般的には研究室といった大掛かりな施設が必要でしたが、IBMは量子科学と工業デザインの粋を結集し、2.7m四方の1システムにまとめあげたのです。

IBM Q System Oneの中身は、大きく分けて5つのコンポーネントで構成されています。

・再現性があり、予測可能で高品質な量子ビットを得るために、安定で自動較正されるように設計された量子ハードウェア

・継続的な低温および、孤立した量子環境を提供する極低温工学

・多数の量子ビットを厳密に制御するためのコンパクトな形状の高精度電子機器

・システムの健全性を管理し、ユーザーのダウンタイムなしにシステムのアップグレードを可能にする量子ファームウェア

・古典的な計算を安全なクラウド・アクセスとハイブリッドな実行を提供するための量子アルゴリズム

これによって、ビジネスやサイエンスの分野でも、先進的な量子コンピューターによる演算処理ができるように……とはいえ、このコンピューターで使えるのは20量子ビットと、量子コンピューターにしては小規模な量子ビット数。たとえばカナダの企業D:Waveが作る大型の量子コンピューターは、2,000量子ビットの能力を持っています(とはいえ、D:WaveとIBM Qは動作原理が異なるため単純比較できない)。また、古典的なコンピューターでも現実的に演算できる範囲内で、パワー不足なのです。

ですが何事もはじめが肝心。これが第一歩としてIBMは自信を持っています。

2.7m四方のボックス型ケースのなかに、冷却のために13mmのホウケイ酸ガラスで密閉した空間を作り出し、現実的に安定させています。また位相ノイズと量子デコヒーレンスによる振動干渉を避けるべく、アルミとスチール製のフレームでガッチリとガードされています。

CES会場にはレプリカが展示されているとのこと。もしも「ぜひ我が社にひとつ!」という方は、IBMと提携しなければいけません。まずはこれを手に入れて、徐々にアップデート/アップグレードしながら、使っていくのも良いかもしれません。

2018年1月9日 19:00追記:読者の方から、量子ゲート方式のIBM Qと、量子アニーリング方式のD:Waveの量子ビット数を比較しても無意味なのではないか、との指摘を受け、注釈を加えました。量子アニーリング方式の量子コンピューターは最適化問題に特化した動作方式です。

Source: IBM, IBM News Room, YouTube, TechCrunch