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'19年ソニーは「感動価値を浸透」。8K液晶、中国、高級スピーカーも準備中

ソニーはCES 2019に合わせ、同社専務でAV機器を担当する子会社である、ソニービデオ&サウンドプロダクツとソニービジュアルプロダクツの社長でもある高木一郎氏の記者向けラウンドテーブルを開催した。

ソニーの高木一郎専務

例年開催される社長ラウンドテーブルは、吉田憲一郎社長が多忙であることを理由に、今回は開催されていない。変わって高木氏のラウンドテーブルが開催されることになったわけだが、高木氏は、現在のソニーの「コンシューマプロダクツ」の多く(スマートフォンとカメラ以外)を担当する人物でもある。高木氏の口からは、テレビなど各種製品の状況と今年の展開などが語られた。

CES 2019のソニーブース

「CREATIVE ENTERTAINMENT COMPANY」を旗頭にする吉田新社長

高木氏の口からはまず、今回のCESでの発表の概要と方向性が説明された。

高木氏(以下敬称略):今回のCESでは、社長の吉田が「CREATIVE ENTERTAINMENT COMPANY」という新しいコンセプトを打ち出しました。過去には「エンタテインメントとエレクトロニクスが融合していない」と揶揄されることもありましたが、いまは経営的にも非常に融合できています。

ブースの雰囲気も例年とは変えて、エンタメとエレキの融合、「Community of Interest」(共通の趣味・関心を持つ人たちの集まり)という考え方ででブースが構成されています。その雰囲気を感じていただければ、と思います。

開幕前プレスカンファレンスに登壇した吉田憲一郎社長兼CEO
新コンセプト「CREATIVE ENTERTAINMENT COMPANY」が打ち出された

2018年には「商売的には4Kが中心、8Kについては感動価値を感じていただけるものができたら」という提案をさせていただいていましたが、「これならばソニーとして、ブラビアとして発売できるところまで来た」と判断し、(8K液晶TV Z9Gの)発表に至りました。

オーディオについては「360 Reality Audio」に注力しました。これは「音場」の技術ですね。2013年以降、プレミアムオーディオの領域を広げたいと考えて「ハイレゾ」をプロモーションしてきましたが、同時に並行して、「音場」という新しい体験を提示します。技術でまだ新しい価値を提供できるのだ、これを普及及させたい、という意気込みでいます。

8K液晶テレビBRAVIA「Z9G」

ソニーの軸は今後も「音質や画質」。それを追求し続け、そこから感動価値を浸透させていけるのでは、と考えています。特に360 Reality Audioは、体験してはじめて価値がわかるものです。ぜひブースへおいでいただき、体験していただければと思います。

8Kへの対応は「サイズ対策」、8Kコンテンツ制作には言せず

記者からはまず「8K」展開についての質問が飛んだ。

高木:8Kはなかなかコンテンツが出てきません。4Kですら最近ようやく増えてきたところです。ですから、(ネイティブ解像度の)コンテンツがない限りは、アップスケールの技術がキモになります。アルゴリズムとそれを実現するデジタルプロセッシング技術が完成したので、それをひとつの軸にして8Kの製品を発表しました。この春に「どの市場でいくらで」といった部分を改めて発表します。

有機ELでの8Kについては、デバイスのアベイラリティ(調達可能性)の問題です。ディスプレイデバイスに依らず「デジタルプロセッシング」で価値を出す、とかねてからお話ししてきましたが、使えるデバイスが手に入り、大画面にはふさわしい画質が実現できれば検討することになります。

今特に北米と中国では、大画面の価値が伸びています。日本では物理的に部屋に入るのか? という問題があるので、同じように支持されるかはわかりませんが。

8Kのテレビは発表されたものの、昨日のプレスカンファレンスでは、発表したテレビが「8Kである」ことを強くアピールしなかった。その意図を高木氏は次のように説明する。

高木:ショーによっては商品のコンセプトを中心に説明しますが、今回は「Community of Interest」を中心にしました。今回のブース構成は、360 Reality Audioと8Kにフォーカスしています。会場でそれらを体感していただだければ、エレキ事業の軸がどこにあるかがわかっていただけるはずです。

コンテンツについて、当面8Kは考えていません。「8Kを作ります!」と言えるわけではないので、(ソニーピクチャーズ側からプレゼンする関係もあり)あまり言及しませんでした。現状、弊社で積極的に8Kのエコシステムを作ろう、という話ではありません。もちろん、ソニーピクチャーズを含め、制作側と話はしていますが、制作側の意図や予算の問題もあるでしょう。8Kでの制作はこれからスタート地点という認識です。

国内ではもちろん、NHKは大乗り気ではあります。弊社としても、業界の一員としてやるべきことはやりますが、そういうフェーズです。

NHKでは8Kでの撮影に、レンズ1つで1億円のものを使っていて、なかなか大変な投資です。どうするのが感動価値になるのか、それを考えることも、我々の課題です。

4Kテレビは予想通り、'19年は高級スピーカーも

2018年のテレビ市場はどうだったのか? 高木氏は「基本的には想定通りに進展した」と話す。

高木:テレビは、中国市場は減速しているものの、他は堅調。特に有機ELは順調です。アメリカの2,000ドル以上の市場では、有機ELの製品でもシェアがとれています。ここは予定以上です。ヨーロッパも好調ですね。

大画面市場は液晶が中心です。もともと液晶と有機ELは「両方とも売っていきたい」ということで計画していましたが、その通りに進展できました。

特にヨーロッパは有機ELが多く、液晶より評判が高まっています。中国・アメリカでは大画面の「Z9F」を軸に好調。地域ごとに液晶か有機ELかの色分けができはじめている状況です。

4K液晶テレビ「KJ-75Z9F」

日本市場では昨年、4K・8K新放送がスタートした。ソニーはチューナー内蔵テレビをまだ販売していないが、ビジネスの状況はどうだったのだろうか?

高木:日本の販売店の店頭では「放送が開始されたこの機会にぜひ」という打ち出しでやられているので、世相的には4K放送=4Kいよいよ、という雰囲気作りができたと思います。

弊社の4K対応チューナーの売れ行きは予想以上で、一部品切れでご迷惑もおかけしています。チューナーとテレビ同時の購入も予想以上にあり、スタートは予想を超える売れ行きです。

テレビの機能という意味では、昨年来「音声アシスタント連携」がテーマになっている。今年も、アップルの「Siri」に対応する「HomeKit連携」が追加された。また、総合的に家電を提供する韓国系の家電メーカーは、テレビと白物家電との音声連携をウリにしている。その対応はどうなのだろうか?

高木:弊社の調べによると、少なくとも日本国内では3割の方が使っています。主に、番組検索や録画検索などが用途です。概ね意図通りに、マジョリティとはいえないものの、「この機能が便利だ」と思う方が使っている状況です。

スマート家電連携は、正直まだ道半ばだと思います。私どもはオープンに、「便利なものは搭載していく。便利じゃない、と言う人が多いならなくなる」という発想です。私個人としては、便利に使っています。

アップルへの対応の話についても、顧客価値として「あるものはどんどん採用」というシンプルな話です。アップルからの売り込みがあったかどうかは……まあ、業界全体での秘密、ということにしておきましょう(笑)

音声アシスタント・AI対応と同様、CESのトレンドといえるのが「5G」だ。今回はスマートフォンなどの製品の発表はなかったが、ソニーとしても「期待している」と高木氏は言う。

高木:5Gは、基本方針としては、非常に期待しています。音楽や映像の次元がひとつ変わるでしょう。吉田も「ライブ」をキーワードにしていませんが、5Gが普及するとライブで映像・音楽を楽しむ世界は一気に普及すると予想しています。

5G時代のコンテンツ・ハードウエアのありかたはグループ全体で推進する予定で、具体的な内容を言うこはできませんが、タイミングなどを見ながら徐々に進めていきます。

では、テレビ以外の製品の売れ行きはどうだろうか?

高木:特に世界中で、ノイズキャンセルヘッドフォンがよく売れています。特に高機能な「WH-1000XM3」は、全世界で非常に売れました。これはソニーとしてもエポックメイキングな出来事です。

「WH-1000XM3」

ウォークマンなどのオーディオも、アジア、日本も含め好評をいただいています。特に中国、株安で消費は厳しくなっていますが、前年比3割・4割アップ。特に高価格なものが売れています。

「DMP-Z1」のような高級ポータブル製品はそこまで多く売れる商品ではないですが、ソニーとしての「音作り」のブランディングには貢献していると評価しています。

それから、2019年には「高級スピーカー」の製品化を準備しています。いつ販売かは言えませんが、やります。

「DMP-Z1」

360 Reality Audioはフォーマット独占の利益ではなく「イニチアチブ」を重視

8Kと並び、ブースでのアピールの中心となったのが、新オーディオフォーマットである「360 Reality Audio」だった。こちらのビジネスモデルとして、ソニーはどういう形を想定しているのだろうか?

高木:360 Reality Audioについては、コンテンツの制作や流通、クライアント開発などのエコシステムが重要です。制作のための技術サポートをしていく中で収益を得ていくことはできると思います。とはいえ、ビジネスモデルはこれからつめていく最中です。我々としては、エコシステムではリードしていきたいと思っています。

正直、がめつくお金を稼ぐ意識はないんです。広く使っていただき、業界に浸透していけばいいと思っています。その結果、ハードウエアが売れることで収益が得られる。リーディングカンパニーはソニーだ、という認識が広がればハードのマーケットシェアにもつながり、ビジネスの柱になると思っています。

360 Reality Audio

ハイレゾはハイレゾ、360は360で、当面展開していきます。ハイレゾは高音質、360 Reality Audioは音場体験、新しい広がり感のある体験価値として、ハイレゾと違う価値として打ち出していきます。

おそらく、ゆくゆくは360 Reality Audioのハイレゾ版もできて、融合していくのだと思います。しかし、今は先のことはわかりません。

平井前社長がいなければ「デジタルシフト」は実現せず

昨年ソニーは、社長が平井一夫氏から吉田憲一郎氏に変わった。ソニーブースのイメージも落ち着いたものから、少々派手なものになった。製品を軸にした展示と発表であったものが、アーティストやコンテンツも全面に出るものに変わっている。このことはやはり、社長変更が影響しているのだろうか?

高木:「今年はこういう趣旨でやってみた」としか私たちからは言えません。平井はたまたま、ああいう「1人でやるプレゼン」が大好きだった、ということかもしれません。ですがあまり深い意味はないです。あくまで、「私たちがなにを考えているのか」を具体的に示したかった、という結果です。

やはり軸はテクノロジーです。エンタメもテクノロジーなくして発展していきません。それが伝わったかはわかりませんが、みなさんにご判断いただければ、と思います。

エンタメとエレキの融合は、1989年9月にコロンビア・ピクチャーズを買収して以来の悲願だった。だがこの30年、うまくいった期間の方が短い。この数年でようやく軌道に乗った印象だが、なぜいまうまくいくようになったのだろうか。

高木:カルチャーとして、エンタメとエレキの融合が難しい時代が長かったのは事実です。タイアップしても連携にはある程度の限界があり、エレキとエンタメが独自に営業を行う風潮でした。

その間には、ソニーが非力だった時代もあり、エンタメとエレキの間がさらに広がった時代もあったのは事実です。

しかし、平井体制になって「エレキの復活」を旗頭にしました。そして、技術を軸にエンタメを強くして、商品企画の内容も含め、エレキとエンタメで切磋琢磨できる……ということ融合できたんです。

そういう意味では、平井がいなければ、エレキとエンタメの融合は、ここまで進まなかったのでは……ということもできます。

今は、音作りにしろ絵作りにしろ、現場では、商品づくりの前段階から話し合うのが普通になっています。クリエイターに近づく、制作の現場に入りこむことがソニーにとって必要ですし、これからもやっていきます。そして、創作意欲に貢献できたら、ということがひとつの目標です。

高木氏は、「エレキとエンタメの融合」にとって、パッケージメディアからのパラダイムシフトが大きな役割を果たした、という事実を指摘する。

高木:時代の流れは当然あります。30年前は、エレクトロニクスの技術も制作現場にそこまで影響するものでなかったですし、コンシューマに提供するためのフォーマットや解像度もパッケージメディアが決めていました。

しかし、パッケージメディアから解放され、いろんなフォーマットが出てきたことで変わりました。圧縮技術などの選択肢がデジタル配信によって広がりました。パッケージがなくなったことがビッグバンになり、今につながっていると思います。

ソニーにとっての「チャイナリスク」は?

現在、米中関係に暗雲が立ちこめている。CESはアメリカのイベントだが、中国での生産力がなければ成り立たないものであり、多数の中国企業が参加している。

だが、今年は特に中国プレスの姿が少なく、ブースにも空きが見えた。中国系企業とプレスが直前に来場を取りやめたのではないか……、そんな噂がプレスの間を飛び交っている。

ソニーにとっての「チャイナリスク」はどう見ているのだろうか。

高木:製造拠点を中国においているカテゴリもあり、注目しています。リスクヘッジについても、通常考えられる施策はすぐに打とうとしています。

中国では現在、可処分所得が変化しています。年初年末と株安が顕著で、3割も可処分所得が落ちています。

幸いにも弊社は数量売ることを前提にした商売をしていないので、数が売れなくても価格をキープしていくことはできます。

もちろん、輸出して関税が倍になる、25%になる、というカテゴリについては考える必要はあるでしょう。