Apple、CESに出展してないのに異様な存在感を放つ

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  • author Adam Clark Estes - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
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Apple、CESに出展してないのに異様な存在感を放つ
Image: PICRYL via Gizmodo US

ハードウェアからサービスへ、大きな戦略転換。

Apple(アップル)はCESには出展しないのが恒例で、発表はすべて自前のイベントで行なうことで知られています。でも今年はある意味、いやふたつの意味で、彼らは顔を出しました。ひとつはCES会場、ラスベガスコンベンションセンターのモノレール駅の前にドンと掲げられた壁画広告。年一回のガジェット祭りのかたわらで、プライバシーへの意識の高さをアピールしました。

Apple、意識お高めの広告でプライバシーをアピール #CES2019

皮肉の一貫でしょうか。今年もラスベガスで開催される、家電見本市「CES(コンシューマー・エレクトロニクス・ショー) 2019」。Apple(アップ...

https://www.gizmodo.jp/2019/01/apple-ces-ad.html

もうひとつは見た目はそんなに目立たないんですが、いろいろな面でインパクトは大きいです。何かっていうと、これまでAppleハード限定だったプラットフォームが他メーカーのTVに搭載されることが発表されたんです。具体的には、LG、Samsung、ソニーの世界トップ3社、そしてVizioのTVが、AirPlay 2に対応するんです。Vizioの場合は後方互換性もあって、Vizioの「SmartCast」OS搭載のTVなら、今後のソフトウェアアップデートで自動的にAirPlay 2対応になります。

Apple TVを買う必要がなくなる

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Image: Apple
AirPlayのWebページ(US版)。Appleのサイトでは見慣れないロゴが…

つまりこれからは、スマホ上でiTunesを開いてちょっとタップすれば、iTunesでレンタル/購入した映画をLGやSamsung、ソニー、VizioのTVやディスプレイで見られるようになるってことです。動画コンテンツに限らず、写真や音楽だって、AirPlay 2が使えるものなら何でもTVで見たり聞いたりできるようになります。

そういう意味では、GoogleのHDMIドングル「Chromecast」と似てますが、AirPlayはAppleデバイス用に作られているってことと、別途数千円のドングルを買う必要がないってことが違います。そしてこれからは、AirPlayのために150ドル(日本価格1万5800円)のApple TVを買う必要もありません。

ただ、今回発表されたTVのOSが、AppleのOS(tvOS)になるってほど大きいことじゃありません。AirPlay 2対応=Apple TVの代替、ってことでもありません。AirPlay 2への対応は、TVがAppleデバイスのセカンダリディスプレイに簡単になれるってことです。例外的に、Samsungの場合TVに直接iTunesを搭載しているので、iTunesのコンテンツをTVで見たいとき、iPhoneとかiPadを経由する必要すらありませんが。

iTunesアプリ搭載のスマートTV、Samsungからやってくる!#CES2019

AirPlay 2もいけますよ。ハードウェア事業よりもサービス事業の好調さが伝えられるApple(アップル)ですが、その動きがさらに加速するかもし...

https://www.gizmodo.jp/2019/01/samsung-smart-tv-itunes.html

でもこの発表の裏には、さらにもうひとつ興味深い部分があります。これら新しいTVはAirPlay 2だけじゃなく、ホームオートメーションのHomeKitにも対応するんです。つまりSiriに「TVをつけて、『ミッション:インポッシブル/フォールアウト』を再生して」なんて頼めば、その通りやってくれるんです。

Appleの執着は、ハードウェアからコンテンツへ

Appleは今、世界中のリビングルームの覇権を賭けた争いにおいて、その戦い方を一新したようです。AppleがTVを作るんじゃないかっていう噂は長い長い間流れてきましたが、彼らはこのタイミングで自前のハードウェアへのこだわりを捨て、ソフトウェアさえ届けられればハードウェアは他人のでもいいっていう考えにシフトしたように見えます。

Apple TVというハードウェアはそれなりに成功してきましたが、Appleは今エレガントなソフトウェア機能を打ち出し、それを何百万台という他社製TVの上に搭載させたんです。それらのTVはAppleが販売/管理するコンテンツのディスプレイとなり、またはHomeKit対応スマートホームデバイスのハブともなっていきます。Appleがストリーミング動画サービスに進出するというも信ぴょう性が高いので、将来的にはそのコンテンツもそのTVで見られるようになりそうです。

折しもAppleが直近の売上予想を下方修正して、投資家もファンもがっかりしてたところでした。Appleは中国におけるiPhoneの売上鈍化を指摘し、これまで柱となってきたiPhone事業が停滞し始めてることを認めました。一方Appleのサービス事業、つまりiTunesやApp Store、iCloud、Apple Musicなどは成長を続けていて、その先にはまだ見ぬ新サービスもたくさんあるはずです。Appleのコンテンツを数ある他社製TVに流せればサービス事業はさらに絶好調、というシナリオは簡単に想像できます。各TVメーカーのAirPlay・HomeKit対応は、一見さらーっと発表されてましたが、実はその裏でAppleが「勝負はもらった」ってささやいてたんです。

AppleがCESの会場近くに出した壁画広告はもっとわかりやすく目立ってて、CESのメイン会場を出入りする人たちを文字通り見下ろしています。とくにGoogleがモノレールにGoogle アシスタントのラッピング広告を出してるので、まるで「Googleとは違いますよ」って言ってるようにも見えます。たしかにiPhone上のデータは、Androidデバイスのフリーダムな世界と違って、Appleらしい独自のやり方でiPhone上で保護されるようになっています。「広告ベースで、個人のデータを売って稼いでる会社なんか信用しちゃダメですよ」と言ってるかのよう。ただAppleも、Googleみたいにサービスをいろんなデバイスに入り込む方向に舵を切ろうとしています。この決定が後々Appleをどう変えていくのか、その点も興味深いです。

というわけで、CES 2019にAppleのブースは存在しないにもかかわらず、Appleはその存在感を強く主張しています。これからAppleのコンテンツを視聴できるTVがどんどん増えていき、Appleはそのサービスを売る方法をさらに編み出し続けることでしょう。Siriはこれからも便利だったりそうじゃなかったりするんでしょうが、ボイスコントロールの方法はそれだけじゃないし、別にOKです。だってAppleはもう、「ユーザーが何らかの方法で戻ってくるなら、全部Appleで固めなくてもいい」っていう考え方になったんですから。

Source: Apple, Samsung