SamsungのMicroLED技術はなんかガッカリ。スゴいんだけどね… #CES2019

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SamsungのMicroLED技術はなんかガッカリ。スゴいんだけどね… #CES2019
Image: Adam Clark Estes/Gizmodo US

数年先の技術に興奮するのは難しい。

最先端のガジェットを多く開発しているものの、イマイチ振るわないSamsung(サムスン)。CESでも最新のテレビ技術を披露しましたが、そこに漂うのは若干のガッカリ感。米GizmodoのAdam Clark Estesは、「こんなにクールなデモなのに、なんで?」と自問自答します。


コンシューマ・エレクトロニクス・ショー(CES)の前夜には、「今年はSamsungの年ではない」という雰囲気が漂っていました。SamsungはMicroLED技術を搭載して去年よりサイズを小さくしたThe Wallを披露しましたが、「どう違うの?」と考えた人は一人ではありませんでした。その答えは、変な話ですが、すべてであり何もです。

Samsungの新しい75インチMicroLEDディスプレイは、概念を実証するための概念を実証するために存在します。ラスベガスのアリアホテルで4時間行なわれたショーケースで、SamsungはMicroLED技術がスケーラブル(製品のサイズを大きくしたり小さくしたりできる)で多目的に利用でき、実現可能であると力説しました。このテレビの基本技術は、昨年にベガスでThe Wallコンセプトとして披露されました。去年の146インチディスプレイはMicroLEDタイルで構成され(MicroLEDについては後述)、どんなサイズやアスペクト比にもできるモジュラー式テレビだと喧伝されました。MicroLEDタイルは理論上、つなげることでいくらでもディスプレイのサイズを変えることができるのですが、デモンストレーションは行なわれませんでした。

しかし、今年はデモを行なったのです。より小さいバージョンのThe Wallだけでなく、縦に細長いMicroLEDディスプレイや、バラバラに分離できるディスプレイも同時に公開したのです。また、219インチとさらに大きくなったThe Wallも公開されました。こちらは世界でもっとも解像度の高いデジタルビルボードに見えます。これらのデモはMicroLEDの可能性と、Samsungがそのモジュラー性をどう利用したいのかを示しています。あくまでコンセプトとしてですけどね。

縦に細長いディスプレイを誰が欲しがるのかという疑問はありますが、まずMicroLED技術について語りましょう。現在のテレビ市場は、発光ダイオード(LED)によって後ろから照らされた液晶ディスプレイ(LCD)が主流です。アルファベットがややこしいので、これらはLEDテレビと呼ばれています。他にも、ナード達が大好きな有機EL(OLED)テレビも存在します。これら二つの大きな違いは、LEDテレビは後ろから光をフィルターに当てて色を出すのに対し、OLEDはそれそのものが色つきの光を発光していることです。

MicroLEDは、この二つのコンビネーションと言えるアプローチなのです。バックライトの必要なしに赤、緑、青の光を出すものの、OLEDのような有機物が必要ないので、劣化しにくいのです。また、エネルギーの消費効率も良いので、モバイルデバイスのデザイナーにも魅力的です。MicroLEDが魅力的なのはそれだけではありません。OLEDディスプレイ特有の深い黒を出しながら強い光度を持ち、よりスリムで省電力なのですから。

かなり詳細を省きましたが、そういったマニア好みの情報があるから、SamsungはCESのテレビショーケースをMicroLEDに費やしたのでしょう。去年も確かにThe Wallを披露しましたが、今年はMicroLEDをスケーラブルにする野望を明らかにしたのです。それに今年は、小さくなったThe Wallだけでなく、つなぎ合せることでさまざまな形や大きさにできる小さなMicroLEDパネル、Windowsも公開しました。イベントの一箇所で、SamsungはMicroLEDディスプレイがいかにしてさまざまな解像度のディスプレイで高画質の映像を実現しているかをデモンストレーションしていました。一つのパネルを取り外して別のパネルを取り付けられる横長のディスプレイや、オーディオパネルを取り外しできるもの、他にもSamsungのスタッフが、マグネットによってつながったパネルの一部をはがしたりするものもありました。それらのデモを見る限り、確かにモジュラーなシステムに見えます。

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Image: Mike Damanskis/Gizmodo US

ただ、そんなクールな磁石付きMicroLEDディスプレイですが、実際に販売する予定は一切発表されませんでした。モジュラーディスプレイがそもそも実際消費者向けであるかどうかも不透明です。CESのフロアで交わした会話を元に考えると、Samsungはただ単純にMicroLED技術を磨き上げていることと、モジュラー構想に真剣であることを知らしめたかっただけなようです。クレバーな人は、Samsungがこの技術をモバイル環境でどう活かすかを考えていると思うかもしれません。Appleも独自のMicroLEDディスプレイに秘密の研究所で取り組んでいるとの情報もあるので、そう考えるのは自然と言えます。

SamsungはMicroLED構想を一般の人たちに広めようとしていますが、同時に他のテレビもリリースします。The WallやWindowのプレスリリースの影に隠れていますが、2019リリース予定の98インチモデルも含んだ8K QLEDテレビの情報もあります。マンハッタンのアパートのリビングルームを完全に占拠してしまう大きさですが、MicroLEDパネルで作られた219インチのThe Wallに比べれば子どものようなものです。

Samsungのテレビショーケースに漂う落胆の雰囲気は、正直何より興味深いものです。OLEDのデモが数年前に行なわれたとき、きっと同じような気分になったのではと思います。クールな新しい技術だけど、私たちが日常的に使うガジェットにいつ、あるいはどういう形でやってくるのか誰もわからないからです。Samsungは75インチのMicroLEDディスプレイがいつ販売されるのか明言していませんが、長期的な目線で見ている側からすればそれは些細な問題です。

MicroLED技術は、数年後には私たちのスマートフォンやウォッチに使われている技術かもしれません。その頃には、家の壁についているテレビだって、同じ技術で形や大きさを変えられるようになっているのかもしれません。クールだけどよくわからない。CESって、そもそもそういうイベントじゃないですか?