昭和6年に三田光一が念写した世界です。
前回お伝えしたように、1月3日に人類で初めて月の裏側に着陸した、中国の探査機「嫦娥(じょうが)4号」と、そこから発進した探査車「玉兔(ぎょくと)2号」から、写真が多数届きました。月の南極付近はデコボコで岩が多く、薄暗い死の土地だったようです。
月面の向こう側での歴史的な着陸から8日後、中国の「嫦娥4号」が初のパノラマ写真を撮影しました。これは80枚の写真を繋いだもので、緩いギザギザの地平線に転がる岩石やクレーター、そして「玉兔2号」の姿など360度が見渡せるようになっています。
新華社通信は、着陸地点周辺には驚くほど多くのクレーターが点在しており、探査車にとってこれから「大きな挑戦」をもたらすだろうと伝えています。
巨大クレーターの底にいる
皮肉なことに、「嫦娥4号」は太陽系最大級の衝突クレーターといわれる、南極エイトケン盆地のフォン・カルマン・クレーターの中に着陸しました。そこは月面の海抜から6,000m低い場所に位置します。専門用語でいうと、“ジオイド(等重力ポテンシャル面)より下”ということなのだとか。
中国国家天文台の副局長であるLi Chunlai氏は、「月の深みからの情報は、私たちの探求の焦点の1つになるでしょう。パノラマ写真を見るに、探査機はたくさんの小さなクレーターに囲まれていて、本当にスリリングです」と新華社に述べました。
探査機から一番近いクレーターのひとつは、幅20mで深さが4mあるとのこと。中国国家宇宙局(CNSA)のミッション・プランナーは、「玉兔2号」がこうした穴に落っこちないよう用心して操作しなくてはなりません。
電波の届かぬ撮影大会
これらの写真は、中国の中継衛星「鵲橋」を介して送られてきます。月の裏側からだと地球には直接データは送られないので、一度「鵲橋」にパスし、地球に向かってバウンスさせる形になるのです。
そしてCSNAは、「鵲橋」を介して「玉兔2号」だけでなく「嫦娥4号」の機器類の起動にも成功しており、2機らの「双方向の相互撮影」を実行しています。
CSNAのリリースでは、「写真は月空間にて着陸船と探査車の着陸形態が明確に確認でき、2機にある5つ星の赤色旗が目を引きます」と書いています。
非常に重要なことに、これら2機は、デバイスを休止モードに切り替え、月面上の夜を生き延びることができました。2016年に月に降りた「玉兔」は、極寒の気温を処理できず着陸後間もなく活動停止してしまったことがあります。それを踏まえて、CNSAはこれを「完全な成功」と讃え、「いまやミッションは、科学的探査段階に進むことができる」と述べています。
CSNAは新しいパノラマ写真に加えて、「嫦娥4号」が撮った4,700枚以上の画像を使った着陸の動画も発表しました。分析ではこの周辺の塵埃は厚みがあり、Li氏いわく「堆積層が長い宇宙風化を受けており、この地域が古い場所だというの強力な証拠となる」とのことです。
2機はこれから、月面環境、宇宙放射線、そして月面への太陽風の影響についてなど、月面の科学的な情報を集めていきます。これが太陽系の初期の状態について、そして将来の有人船着陸のための貴重な資料となります。中国による宇宙征服の第一歩は、ここから始まるのです。