銭湯、天ぷら、レモンサワー。体に溜まっていく毒と、それでもネットが大好きだという話:【特集】ネットと銭湯サウナ
「私たちはネットで知らない間に“負の感情”を蓄積しており、それをどこかで発散させる機会が必要だ」――御朱印集めが好きなライター・ちぷたそさんによる、銭湯サウナエッセイ。
ある日仕事が行き詰っていた私は、元住吉にある小さな銭湯を初めて訪ね、そのまま帰りに駅前の天ぷら屋で晩酌セットをキメていた。4種類の天ぷらに、3種類から選べるアルコールが一杯付いて590円という神価格だ。
天ぷら屋は銭湯に行く前に周辺を検索して見つけておいたお店で、目の前に置かれた無機質なバットに揚げたての天ぷらを置いてくれる。こういうスタイルは博多ではよくある形式なのだそうだ。
初体験のししゃもの天ぷらをかじり、入浴後の乾いたのどにレモンサワーを流し込んだ時、「天国はここにあった」と何やら悟りの境地に至った。
もともと銭湯は好きだった。高校生時代はわざわざ着替えを学校に持ってきて放課後に銭湯巡りを楽しんでいたこともある。しかし当時の目的は「お風呂に浸かること」ではなかった。スマホもない時代、“入ってみなければわからない未知の場所”として銭湯に憧れを抱き、半ばミーハー感覚でのれんをくぐっていたのだ。
純粋にお風呂を楽しむことができるようになり、とうとう帰りに一人で晩酌まで決め込んだ今、銭湯・サウナ好きを公言している編集さん・ライターさんの顔が浮かんでは消えた。なるほど、みんなこんなに最高な思いをしていたのか。風呂+酒の最強コンボは、大人になったからこそ嗜める娯楽だ。この醍醐味に気付けて良かったような、もっと早く気付いておきたかったような。そんな気持ちでのどをうならす。
銭湯では交互浴をしたくて水風呂にもチャレンジしているが、なかなか全身浸かれない。最初は足の先、次はひざまで、と段階的に水風呂と仲良くなろうと頑張っている。そんな奮闘の最中、ある日ふと、「ひょっとして銭湯と神社は似ているのではないか」と思い立った。というのも私の趣味には「神社参拝」、「御朱印を頂く」というものがあり、現在精力的に私を神社に向かわせる原動力となっているからだ。
神社と銭湯、一見共通点はなさそうだがどこが似ているのかというと、「どちらもネットから離れられる」そして「清められた感じがする」点だ。
私はインターネットが大好きだ。大好きな娯楽でありながらごはんも食べさせてもらっているので、私のような人間はネットに繋がっていないと文字通り生きてはいけないだろう。
しかし、インターネットは楽しいと同時に私を疲れさせるものでもある。毎日目にする炎上やトラブル。それに同業が活躍しているのをまぶしく思い、自分自身と比べてしまう劣等感に似た気持ちが嫌でも湧きあがってくる。会社に属している時は、仕事のできるできないは同じ部署の人に対して劣等感を感じる程度で済んだ。だが、インターネットには仕事がすごくできる人たちがごろごろいて、その中にはずっと前から文章が好きで憧れていた人たちもいる。そういう人たちの背中を一生懸命追いかける日々は、時にとてもしんどくなる。
以前ライターの友人と、「私たちライターはネット上を回遊して、少しずつ毒を自らの体に溜める回遊魚」という話をした。私たちはネットで知らない間に“負の感情”を蓄積しており、それをどこかで発散させる機会が必要だ、という話だ。
その場所に適しているのが「銭湯」、そして「神社」ではないだろうか。
当たり前だが銭湯はスマホを持ち込めない。それは逆にネットから意図して離れることができる機会でもある。また大きなお風呂に浸かるのは気持ちがいい。「今日仕事ぐらいしかしてないな」という日、いいことがまるでなかった日の最後に銭湯に行ってみる。銭湯それぞれのお風呂の工夫を感じながら長く浸かると心もほぐされていくし、「あーなんか今日いい一日だったのかも」という気持ちにすらなる。
神社はスマホを持ち込めるし、境内の写真を撮ってSNSに上げることもできる。今やハッシュタグ「#御朱印」は、インスタグラムで投稿数が右肩上がりに増えている注目ワードとなっている。神社という神域でもネットから完全に離れることは出来ない。それでも、参拝しているその瞬間ばかりはスマホから離れられる。スマホを手放し、二礼二拍手一礼し、手を合わせたまま神様と……というか、しばし自分自身の心と向き合うことができる。それは短い時間だが私の心をすっきりさせてくれる。
銭湯も神社も帰ってくる時には、行く前の自分とは違う、清められたような気持ちになって帰ってくる。この両者のあり方はどこか似ているんじゃないか。どちらも、探してみると実は近くにあったりして気軽に楽しめる現代人の強い味方なのだ。
ちなみに冒頭で触れたのは、元住吉の銭湯「橘湯」→「博多天ぷらなぐや」という、ダメな一日を最高に幸せな日に変える魔法のコースだ。お風呂入った後にあぶらのにおいがついてしまうのがネックなのだが、一風呂浴びた後のサクサク揚げたて天ぷらとレモンサワーの極楽感は一度体験してみて欲しい。
【告知】サウナイキタイのインタビューも収録 ねとらぼ同人誌「ねとらぼん 特集:ネットと銭湯サウナ」配布のお知らせ
ねとらぼでは1月19日に二子玉川ライズで開催される「第4回ウェブメディアびっくりセール」で、初の同人誌「ねとらぼん」を頒布します。
テーマは「ネットと銭湯サウナ」。昨今人気に火がつき始めた銭湯とサウナ、そのブームの広がりにネットがどのように関わっているのか、コラムやエッセイ、インタビューなどさまざまな記事で見つめる一冊となっています。
総括コラムはヨッピーさん、銭湯サウナをテーマにしたエッセイは中川淳一郎さん、姫野桂さん、ちぷたそさんなど、ねとらぼがお世話になってきたライターが寄稿。インタビューでは初のサウナポータルサイト「サウナイキタイ」の創始者2人に開設経緯と「ネットから断絶されたサウナ」「そのサウナ愛をまたネットがつなぐ」話を語ってもらいました(詳細記事)。
64ページで1冊500円。ねとらぼのサイト上でも一部の記事をピックアップして連載形式で掲載中です。
- 銭湯を流行らせるには「ウニ推しおじさん」になれ―― 銭湯神ヨッピーが語る、ネットで「水風呂推しおじさん」が増える理由
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