新卒の83%が年収760万円!給料前借りで通える無料大学ラムダスクールの就職率が驚異的

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  • author satomi
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新卒の83%が年収760万円!給料前借りで通える無料大学ラムダスクールの就職率が驚異的
学長 Image: Lambda School/YouTube

学生借金地獄アメリカに救世主現る?

アメリカ人が抱える学生ローンは増えに増えて1.5兆ドル(約1628兆円)。日本の教育無償化にかかるお金(政府試算で年1.5兆円)の100年ぶんに相当します!

卒業時のローンが1人平均22,000ドル(約238万円、政府統計)もあって、当然返せるわけもなく16%は債務不履行、危ない人も含めたら30%が借金地獄に陥っています(政府の追跡調査より)。

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アメリカの学生借金は1.5兆ドル。日本の教育無償化予算の100年ぶん!
Image: Market Watch

そこでなんとかしようぜってことで、未来の給料の前借りだけで無料で通える大学「ラムダスクール(Lambda School)」がサンフランシスコに誕生。卒業生の83%が半年以内に新卒年収7万ドル(約760万円)の仕事に就くという驚異的就職率を達成し、大きな注目を集めています。

インカム・シェアリング・アグリーメント(ISA)

大学に通うといってもラムダスクールにはキャンパスなんてお金のかかるものはありません。授業は全部オンライン。今は30週間ひたすらコードを学び続けるブートキャンプなどのコースがあり、学生1,000人強が受講中です。学費は30週間で2万ドル(約217万円)なので、ちょうど学生ローン全米平均より少ないぐらいですけど、納め方がユニークで、次の2つから選べるんです。

A)全額前払い(無利子)

B)給料前借りで全額無料(ISA)

Bを選んだ学生は、初任給5万ドル(約542万円)以上の就職が決まったら、最初の2年間は月々のお給料の17%を返済に充てて返す約束です。母数が借金じゃなくて給料というのが、学生ローンとの違い。こういう所得前借りの新しい契約モデルを英語で「Income Sharing Agreement(ISA)」と呼びます。導入を検討する大学も少しずつ増えています。

年収5万ドル以上の大人に育てないと大学は1銭も回収できない

「え? でもそれって卒業後すぐ大金持ちになったら返済額がすごいことになるんじゃ…」と思っちゃいますけど、ラムダではそういう可能性も想定して、返済には3万ドル(約325万円)という限度額を設けています。それ以上はいくら稼いでも大学に天引かれる心配はありません。

「でも逆に安月給の仕事に就いたら結局借金地獄になるだけなんじゃ…」と心配になりますが、そこがラムダのすばらしいところで…

5年以内にいい仕事が見つからなかったら学生ローンはチャラでいい

…という取り決めなんです…! つまり大学はどんな手を使ってでも使える人材に育てないと授業料を1銭も回収できない魔契約!!!! そりゃ指導にも熱が入りますわ…宿題サボられたときの本気度が違いますよね…胸ぐら掴んでぶんぶん振り回してしまうかも。オンラインなことも忘れて。

ちなみに就職後に失業したら、天引きされる給料自体ないので、ローンの返済も一時休止となります。いちいちすばらしい…。

大学の学生を見る目が変わる

このシステムで大学の何が変わるのか? NY Timesはこんな風にまとめています。

インセンティブが上がる側面

1)絶対中退しない目的意識のある学生だけ合格にする

2)仕事で使えることしか教えない

3)就職相談がめちゃ熱心

4)採用後もクビにならないようアフターケアまで熱心


負の側面

1)貧乏でもノーブルな学問は対象から外れる。例)ロシア文学

学長は元モルモンの使徒

Video: Lambda School/YouTube

今の大学の問題点を、ラムダスクール共同創設者兼CEOのAusten Allred学長(29)は次のように話しています。

大学はどこも授業料は全額キャッシュ。しかも前払い。あとは野となれ山となれで、どこにでも通用する人材を育てないと食っていけないという危機感がない。痛み分けがないと、よい結果は出せないと思う。

がつがつしているように聞こえますが、Forbesによると、もともとはユタ出身。モルモン教の総本山プロボの名門私立大ブリガム・ヤング大学に進学したのだけど2学期通っただけで「授業が遅すぎて何ひとつ学んでない気がして」中退し、モルモン教の伝道をしてウクライナを回った面白い経歴の人です。いわれてみれば、田舎でスーツで回ってる白人2人組のモルモンっぽいですよね。ユタのちっちゃな町で立ち上げたウソ検証サイトは失敗し、サンフランシスコに出てきてオンライン金融の仕事をやっているときに、ユタとサンフランシスコで給料が天地ほども違うことに驚き、

ユタの田舎にもサンフランシスコの子と同じぐらい頭のいい子がいるのに、就職の道がない。

…と気づいてはじめたのがラムダスクールです。

無料で出願7千件が殺到→有料で閑古鳥→前借り爆誕

同じくブリガム・ヤング大を中退してブートキャンプでコードを学んだ経験者の友人Ben Nelsonさん(27)に声をかけ、ふたりで1か月の無料プログラミング入門コースを2017年に開講したら7,000件もの出願が殺到。キターー!!と手ごたえを感じ、12週間1万ドルの有料コースを開講したらぱったりと出願が途絶え、「みんなお金ないのね…」と別の手ごたえを感じ、「じゃあ、1,000ドルだけ前払いにして、残りの9,000ドルは就職してからもらったお金で返せばいいよ」ってことにしたら100人ちょい出願が集まりました。

教育ローンのリスクを減らしてやるだけでこんなに集まるんだと驚き、何かとんでもないことに気づいた気がした。

Forbesに話してます。祈れよ、さらば救われん。

投資させてくれというメールが殺到

そうとわかれば、やることは簡単です。今話題のSAIを料金体系に組み込んでみました。するとYコンビネーター(Airbnbなんかで大成功しているVC)の目に留まって、昨年10月にシード資金400万ドル、続くシリーズAで1400万ドルが集まって、今月8日にはシリーズBでピーター・ティールの弟子のGeoff Lewis氏、Google Ventures、GGV Capital、Vy Capital、アシュトン・カッチャーなどから評価額1億5000万ドルで3000万ドルの資金がわっと集まちゃった。これを元手にこれまでのコードとデータ解析だけのコードスクールから、人手不足が深刻なサイバーセキュリティ、看護師にもコースを拡張することが決まりました。一気に大学らしくなりますね。

シリーズBでは「投資家回りは全然しなかった」そうで、1日に何十件も投資させてくれっていうお願いのメールがあちこちから舞い込んできて大変だったみたい。そりゃそうだ。Yコンビネーターが、この北米大陸が沈みそうな学生ローン地獄の救世主になるかもしれない人をついに見つけたんだから伝令はシリコンバレーの隅々までひと晩で回ります。なんせ1.5兆ドル。この山が消えたらほんと偉業なんてもんじゃない。田舎を回るモルモン教徒を見る目も、変わってしまうかも。

授業はめちゃハード

Video: Joshua Fluke/YouTube

受講生はどんな感じなのかなーと思ったら、追跡している動画がありました。やっぱり普通の大学が4年で教えることを7か月で教えるわけだから授業はめちゃハード。テストも鬼で(80点採らないとパスできない)、脱落しそうになる瞬間も多いみたい。無料だし。ここでは Reactのテストで40点で、もうダメだと思ったけど、周囲の人に励まされて、子どももいるし、あきらめるというオプションはなくて、なんとか気持ちを立て直してがんばった、という在校生Patrickさんの前日の話が紹介されています。動画の下に「卒業後150ドルもらえる割引クーポン」が紹介されているのでアフィっぽいけど、折れそうになる学生はこういうの見て少し元気になるんでしょね…。

リアルライフシナリオ

Video: CodingPhase/YouTube

こっちのおにいちゃんはダラダラ~としゃべってますが、計算機をまじめに押して、リアルライフシナリオで大学の取り分をそろばん勘定していますよ。自分のオンライン無料講座のPRなのですが、アメリカの就職環境がよくわかるので少し翻訳しておきますね。

ラムダ行く人は年収5万ドルぐらいはもう取ってる。5万ドル目指してラムダ通う人間なんていない。新卒年収は6~7万かな? 6万だとすれば大学の取り分は11,050ドル。2年で22,100ドルの計算。


でも2年も同じ会社いるわけないよね。どっか8万の会社に転職する。フロリダとかド田舎じゃない限り、アメリカのコード書きは1年目が6.5~7万ドルで、2年目は1~2万ドル増えるのが相場なので、オフラインのブートキャンプ(ここではDevMountainの授業料を表示)と比べると、けっきょく2倍、下手すると3倍になっちまう計算だ。


まあ、しかし、ブートキャンプはすすめない。大学のコンピュータ学部卒業しても就職がない、しょうがない、ブートキャンプでも行くか!ってなる人いるけど、あれはやめたほうがいい。大学出てんだから家で十分だ。ブートキャンプって寮があったりして大学っぽくしてたりするじゃん。そういうの経験したことない人はいいけど、また大学やってどうするって俺なら思うね。どうせネットで調べられることしか教えないんだし。CSSでもJAVAでもほんと基本やってるだけで仕事は見つかるんだから。indeed.comで「HTML」で検索してごらんよ。ほらね?ネットの独学で十分だよ。

コメントには「ブートキャンプと内容が違うので比べるのは無理ある」、「一番内容が近いTuringよりはラムダのほうが安い」という声も。利子が嫌なら、ほかと同じように前払いすればいいのだし。要は、いま目の前にお金がない人にローンをすすめるか、SAIをすすめるか、という違いですよね。で、どちらをすすめるかによって大学も学生も全然向き合い方が違うし、未来も変わる、と。お金のストラクチャーを変えることでメンタルを変えるってことなので、金額だけ見比べるととても大事なところを見誤るような気がします。もちろん無料が一番だけど!

NY Times, Forbes