ペットボトルを机に置いてください。出来たらあなたは合格です。

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ペットボトルを机に置いてください。出来たらあなたは合格です。

 これから最終面接が始まる。

 観葉植物が並んでいる小綺麗な廊下で、僕は呼ばれるのをじっと待っていた。膝の上に置く拳に汗がじわじわと滲む。ここまで来るのにどのくらいの手間と時間がかかったことか。

 僕はスーツのポケットから小さな鏡を取り出し、ネクタイが曲がっていないか確認する。次にジャケットのボタンを見て、一番下がちゃんと外れていることを確認する。最後にポケットのフタを中へとしっかりしまう。ばっちりだ。

 数学科の僕の就活は酷く難航していた。まず、アピールすべきポイントが見つからない。同じ理系でも化学や生物などの実験系の分野は「こういう研究をしました」「新しい事実を発見しました」などの自分の結果がある。しかし、数学科は往々にして研究結果を持たない。厳密には、3、4年大学に通ったくらいでは研究までたどり着けないのだ。

 数学科では、ひたすら教科書や論文を読み、先人たちの知恵や知識を頭に蓄える。その作業にとんでもない時間を費やす。1日10時間以上、1つの問題に向き合うこともザラだ。考えて考えて、ようやく少し分かった気になれる。研究の段階にたどり着けるのは、そうして5、6年経った時だ。

 そんな僕に学生時代に頑張ったことといえば、勉強しかない。そして、それを好意的に捉えてくれる面接官はそれほど多くはない。大抵は「勉強しかしなかったの?」と小馬鹿にしてくる。勉強すらまともにできないやつが馬鹿にするんじゃない。僕が勉強したことを話しても1ミリも理解できない癖に。

 ただ、そう文句も言っていられない。5社、10社、15社と、不採用が増える度に不安と苛立ちが募っていった。

 そんな僕の救世主となったのが就活マナーだ。就活マナーには就活で上手くいくポイントがたくさん詰まっている。例えば、身だしなみ。茶髪、長髪、寝癖はNG。襟足を揃えて清潔感を出すことが重要だ。スーツのボタンは真ん中だけ止めて、一番下は外す。ポケットのフタは室内ではしっかりと中にしまう。

 こうしただけで面接官の印象は随分と良くなった。面接官はまずそういった見た目を重要視する。前にテレビ番組で一般人とモデルどちらを採用するかという企画があったらしいが、圧倒的にモデルが採用されたらしい。それだけ外見は大切なファクターだ。

 就活にはマナーという不文律があり、それを守っているかどうかを雇う側は見ている。僕はそのコツを掴み、今日、最終面接までたどり着くことが出来た。

 おそらく後2、3分で僕たちのグループが呼ばれるだろう。廊下には僕の他に3人の就活生がいた。

 僕は椅子に座りながらゆっくりと深呼吸をする。キシリトールの香りが口から鼻へと抜ける。もちろん歯磨きに口臭対策はばっちりだ。仮に海苔が歯に付いてたとなったら重大なマナー違反だからだ。

 ふと、観葉植物を見ると、鉢の下に透明な容器が見えた。目を凝らすとそれがペットボトルであることが分かった。容器はくしゃっと変形しているのでどうやら捨てられているようだった。

 僕は非常に迷った。そして、熟考の末にペットボトルを拾いに立ち上がった。おそらくこれはゴミだろう。誰かが忘れた可能性もあるが、潰されていることからそれはない。ただ、中身が半分残っているのが気になる。どちらにしろ、拾った以上、これを適切に対処するのがマナーだ。

 僕は廊下を見渡しゴミ箱を探す。窓の付近にそれはあった。面接会場でペットボトルを拾った時のマナーを思い出す。1. まだ中身がある場合、もったいない気持ちを感じながら、水道に捨てる。中身をしっかりと水ですすぐ。2. ペットボトルからラベルを剥がし、ラベルは燃えないゴミに捨てる。3. ペットボトルのキャップを外して、キャップ入れに入れる。4. ペットボトルはなるべく体積を最小にし資源ゴミに捨てる。

 完璧だ。汚れた手を水道で洗いながら僕は思った。面接官が見ていたら100点を僕にくれただろう。ハンカチを取り出して手を拭く。もちろんハンカチはグレーの単色でマナー通りだ。そのまま足音を立てずに移動し待合席に戻る。

「次のグループの方、入ってください」

 1、2分してようやく僕たちは呼ばれた。順番に就活生が中に入る。ノックの回数は3回。2回だとトイレを意味しマナー違反だ。お辞儀の角度は45度。それより大きくても小さくてもいけない。

 面接会場には、椅子が4つ。その前に木の机が4つ分置いてあった。僕たちは指示された後にほぼ同時に失礼いたしますと言い座る。

「それでは右端の方から3分ほどで入社後の抱負も含め自己紹介をしてください」

 面接官の1人が機械的な声で言った。他の5人くらいの面接官は僕たちをじっと見ている。 

「〇〇体育大学、体育学部体育学科の〇〇〇〇です。私は高校時代からラグビーをしており体力には非常に自信があります。御社に入社後は自慢の体力を生かして……」

 僕から見て一番左の大柄の男が自己アピールを始めた。体ががっちりしていて、体育会系らしい。飲み会では重宝されるタイプだ。酒が全然飲めない僕とは大違いだ。

 3分が経ち、面接官が次の人に指示する。小柄の男が流暢に自己アピールを始めた。

「〇〇大学、文学部日本文学科の〇〇○○です。私は落語研究部に所属しており、プロの落語と一緒に寄席を開いたこともあります。まあ、落研と言ってもこの面接は落として欲しくないのですが……」

 小柄の男は冗談を交え、面接官の笑いを誘う。失礼のない範囲で道化を演じて印象を良くする。部下として可愛がられるタイプだ。不愛想で口下手な僕とは大違いだ。

 3分が経ち、また面接官が次の人に指示する。爽やかな男が自己アピールを始めた。

「〇〇大学、経営学部経営学科の〇〇○○です。私はボランティアサークルの副部長をしており、部長を支えつつチームをまとめる潤滑油のような役割を果たしました。他には簿記2級、 FP技能検定2級、ITパスポートなど50以上の資格を取得しており、器用なところが長所であり……」

 爽やかな男は透き通るような声で、面接官を魅了する。どんなことでもできる器用なやつ。男にも女にも好かれるタイプだ。コミュ障で勉強しかできない僕とは大違いだ。

 そして、ついに僕の番がやってきた。僕は何度も練習してきたことを思い出し、落ち着いて自己アピールを始める。

「〇〇大学、理学部数学科の〇〇○○です。私は数学を勉強してきました。数学というと三角関数など役に立たないというイメージが強いと思いますが、ご存知のように実は三角関数というのは私たちの生活に密接に関係しており……」

 相手が知らないような話をする時にはコツがある。あたかも相手が知っているように話すのだ。恥をかきたくない面接官はうんうんと分かったふりをして頷く。そうやって面接官をこちらの味方につける。

 無事、3分の台詞を言い終わることが出来た。後は、面接官のいくつかの質問に答えることだろう。大丈夫。これも何を聞かれてもいいように数百のパターンを用意してある。

 そう心の準備をしていると、事務らしき人が入ってきて、僕たちの前の机に一枚の書類が置かれた。面接官から出てきた言葉は思いもよらぬものだった。

「みなさんの前に置かせて頂いたのは、内定通知書です。そこにサインをすると内定が確定します」

 確かに書類には「内定通知書」と書かれている。面接官は続ける。

「1つ注意ですが、重要な書類ですので、机の上には飲み物は置かないでください」

 重要な書類以前に、面接中に飲み物を机に置くのは重大なマナー違反だ。ここにいる者は誰1人そんなことしないだろう。

 僕たちはカバンからペンを取り出す。指示されてなくても就活会場に筆記用具を準備するのはマナーだ。僕たちは面接官からの指示を待つ。

「サインの前に、皆さんに1つ課題を出します。それを解決をした人だけがサインをすることが出来ます」

 どうやらこれが本当の最終課題らしい。さて、どんな課題が来るのか。どんなことが来たとしても、マナーを熟知した僕の敵ではない。

 面接官は、機械的な口調で課題を言った。

「ペットボトルを机に置いてください。出来たらあなたは合格です」

 その意味を理解するのに僕は10秒ほど時間がかかった。いや正確には言葉として認識をしただけで、その趣旨については何ら理解をしていない。

「ペットボトルを置くというのは、文字通り、置くということでしょうか?」

 体育会系の男が手を挙げ、面接官に質問をした。面接中に私語をすることはマナー違反だが、不可解な質問に衝動的にしてしまったように見えた。

「はい。机にペットボトルを置くという課題です。事前に通告したように、皆さんはペットボトルの飲み物を持参しているはずです」

 確かに、最終面接を告げるハガキにそう書いてあった。100回ほど繰り返し読んだので1文字ずつ正確に記憶している。

「では、早速、右端から順に回答していただきます。制限時間は1分とします」

 面接官は冷静に体育会系の男を指して言う。体育会系の男はぎこちない動きでカバンからコーラを取り出した。

 僕は予想外の事態に動揺をいかに隠すかに集中していた。面接で狼狽えないことはマナー中のマナーだからだ。そして、体育会系の男の方が僕より遥かに動揺しているだろう。

 体育会系の男はピタリとして動かない。心中お察しする。意味分からないからだ。先ほど、面接官は机の上に飲み物を置いてはいけないと言った。なのに、今、ペットボトルを置いてくださいと命令している。明らかな矛盾であり理不尽だ。どうすることが正解なのか、皆目見当がつかない。

 感覚としてもうすぐ1分なんじゃないかと言う時、体育会系は大きく動いた。彼はペットボトルのキャップを外し、中のコーラを一気に飲み干す。コーラはみるみるなくなり、数秒で空のペットボトルができた。そして、そのまま勢いよく机に置いた。男は、自分の行動を弁護するかのように話し始める。

「机に置いていけないのは、飲み物だったはずです。これは、空のペットボトルであり飲み物ではありません」

 男の声は上ずり、ゲップが出るのを我慢しているように見えた。面接中にゲップはマナー違反だからだ。

 僕たちは面接官をじっと見る。これが正解なのか、それとも不正解なのか。面接官はゆっくりと口を開いて言った。

「合格です。指示をよく聞く理解力。臨機応変に飲み物を処理する対応力。素晴らしい。別室に案内しましょう」

 体育会系の男はありがとうございますと45度のお辞儀をした後、隣の部屋に連れて行かれた。ここが面接会場でなければガッツポーズをしそうなくらい満面の笑みだった。

 順番が最初じゃなくて良かった。僕は心底そう思った。面接会場で飲み干すなんて行為、僕には出来なかっただろう。第一、面接会場で飲食なんてマナー違反だからだ。

 だが、これで前例は出来た。僕の番が来たら同じように中身を飲んでしまおう。彼には感謝しなければならない。

「ここで1つ訂正をします。机には、飲み物はもちろん、ペットボトルを置いてはいけません。それでは次の方、ペットボトルを机に置いてください。出来たらあなたは合格です」

 そんな僕の企ては見事に崩された。同じ手法を取ることはもう出来ない。ペットボトルを置いていけないのに、置いてください。そんなの無理に決まっているじゃないか。

 落語研究会の男は沈黙している。面接会場に静寂が訪れる。そして、ようやく男は口を開いた。

「すみません、ペットボトルを持参するのを忘れてしまいまして、お借りすることは出来ないでしょうか?」

 僕は驚愕した。僕が驚いたのは、彼が持ち込むべきものを忘れたことでも、それを無礼にも借りようとしていることでもない。彼が確かに机の下にペットボトルを隠し持っているということだ。彼は明らかに嘘をついている。

「どうぞ。こちらをお使いください」

 面接官の1人がペットボトルを持ってきて、落語研究会の男の前の机に置いた。彼はニヤリと笑い、こう言い放った。

「机にペットボトルを置かせて頂きました。もちろん、はペットボトルは置いてはおりません」

 面接官は沈黙する。それは採点しているようにも見えたし、男の弁明の続きがないことを確認しているようにも見えた。やがて、機械的に口を開けて言う。

「合格です。指示の隙間を突く柔軟性。それを行動に移す実行力。素晴らしい。別室に案内しましょう」

 落語研究会の男はありがとうございますと45度のお辞儀をした後、隣の部屋に連れて行かれた。ここが面接会場でなければ陽気なお囃子の音がしそうなくらい満面の笑みだった。

 上手い。僕は素直に感動していた。面接会場で持ち物を借りるなんて行為、僕には出来なかっただろう。そんなのマナー違反だからだ。

 同じ方法は僕には出来ない。なぜなら、自分のペットボトルを既に面接官にがっつり見られてしまっている。そして、それは隣にいる男も一緒のはずだ。どうすればいいかと、内心ヒヤヒヤしているに違いない。

「それでは3番目の方、ペットボトルを机に置いてください。出来たらあなたは合格です」

 落語研究会の男が去って、すぐに面接官は指示を告げた。さあ、爽やかな男はどう対応するのだろうか。

「出来ました」

 面接官が話し終わり、数秒もしないうちに男はそう言い放った。

「?何が出来たのでしょうか」

 面接官が爽やかな男に質問する。当たり前だ。意味が分からない。

「失礼しました。ペットボトルを机に置くことが出来ました」

 ここで、ようやく僕は状況を理解した。理解したと言っても、やっと何が起きているか把握しただけで、何が起きたのかは皆目検討がついていない。今、爽やかな男の机の上にはペットボトルが置いてあるのだ。

「いつペットボトルを置いたのですか?」

 今まで冷静だった面接官が口早に男に問いかける。爽やかな男は、その透き通る声で言った。

「私は置いておりません。これは皆さんが私が置く瞬間を見ていないことから明らかだと思います。私は手品検定2級を持っておりまして、この手のことは非常に得意なのです」

 面接官は平静を取り戻し、落ち着いた声で合否を告げた。

「合格です。解決法を生み出す器用さ。それを本番で実現できる軽快さ。素晴らしい。別室に案内しましょう」

 爽やかな男はありがとうございますと45度のお辞儀をした後、隣の部屋に連れて行かれた。ここが面接会場でなければ黄色い歓声が聞こえそうなくらい満面の笑みだった。

 どうすればいんだ。僕は焦燥感に駆られていた。僕には、体育会系のような度胸もないし、落語研究会のような柔軟さもないし、爽やかのような器用さもない。ただ、勉強することが好きなだけな鈍臭い男だ。

 面接会場には就活生が僕1人となり、今までにない沈黙した空気が流れる。泣いても笑ってもこれが最終面接であり最後の課題だ。

「それでは最後の方、ペットボトルを机に置いてください。出来たらあなたは合格です」

 まだ何1つ解決方法が浮かばない。

 見えない速さでペットボトルをおけばいいのか。これはペットボトルではありませんと言い張ればいいのか。いっそのことペットボトルを燃やすか。どれもダメだろう。もう家に帰りたい。就活なんて辞めたい。僕には面接で合格することが、社会で生きることが向いていなかったんだ。

 生きたいという感情と死にたいという感情が交互に脳内をぐるりぐるりと回る。置いてはいけないというペットボトルを置くという矛盾が、僕の脳をじゅうじゅうと焼く。

 そして僕は、手に持ったペットボトルを机へと叩きつけた。

 面接官はまったく動じず、冷たい声で僕に詰問した。

「ペットボトルを机に置いてはいけないと指示したはずです。これは重大なマナー違反ですよ」

 その顔は能面のようにも見えたし、鬼面のようにも思えた。僕はゆっくりと深呼吸をした。そして、返事をした。

「マナー違反ではありません。私はペットボトルを机に置いていないのです」

「何を言っているのですか。あなたはたった今、置いたではありませんか」

「いえ、置いていないのです」

 僕は震える声を抑えて、はっきりと強調する。面接官は黙って、僕の言葉に耳を傾ける。僕は説明を続ける。

「仮に私と机との距離を20cmとしましょう。私がペットボトルを机に置くには、ペットボトルはその中間地点10cmの地点を通る必要があります。10cm地点を通過した後は、さらにその中間地点5cmの地点を通る必要があります。5cmの後は2.5cmの地点、その後は1.25cm、0.625、0.3125…というようにペットボトルは無限の地点を通過しなければなりません。しかし、現実は有限であり、それは不可能です。よって、私はペットボトルを置いていないのです」

 面接官は真剣に僕の話を聞いている。こんなに真面目に聞いてもらうというのは就活中で初めてかもしれない。

「しかし、ご覧いただいているように、机にペットボトルは置いてあります。つまり、ペットボトルを置いたという状況と置いていないという矛盾した状況が両立しているのです。ご存知のように、これは数学でゼノンのパラドックスという古くから知られた逆説で……」

 僕は夢中で解説する。まるでそうしなければ死んでしまうかのように、ペラペラと口を動かし続けた。生きるための最後の糸に何としてもぶら下がりたいという気持ちだった。

 どのくらい時間が経ったかは分からない。僕は呼吸を忘れていて、口を止め一度、大きく息を吸った。その際の沈黙を面接官はそれを終わりと解釈したのか、小さい咳払いをする。

 僕は反射的にそれが合否の判定を告げる前触れだということを理解した。そして、それは実際そうだった。

「合格です。指示の矛盾を矛盾で対応する独創性。そして、それらを支える豊富な知識。素晴らしい。別室に案内しましょう」

 こうして僕は隣の部屋に移動した。そこには、他の3人が椅子に座り待っていた。ようやくここまで来たのだ。張り詰めた緊張が解け、僕は今までにない安堵感を味わっていた。

 最後の最後で僕は勝ったのだ。何に勝ったのか、それはよく分からないが、この充実感が勝ったことを僕に教えてくれる。

 面接官が僕たちの前に立ち、咳払いをする。そして、祝福の言葉を述べた。

「みなさん、合格おめでとうございます。みなさんは来年度から我が社の一員となります。入社までの期間は内定者として自覚のある行動を……」

 面接官は淡々と説明を続ける。僕たちは有り難くその言葉を頂戴していた。そして、面接官は再び咳払いをした。

「最後に、重要なこととして、みなさんに言っておくべきことがあるのですが……」

 何か他に注意すべきマナーだろうか。僕は脳内でメモを取る準備をする。

「わが社は明日で倒産します。それでは皆さまのこれからのご活躍をお祈りしております」

 面接官はそう言って立ち去ろうとする。

 僕たちは何が起きたか分からず、唖然としていた。体育会系の男が手を挙げて質問する。

「と、倒産というのはどういうことでしょうか?」

 面接官が答える。

「文字通り会社がなくなるということです」

「つまり、私たちはどうなるのでしょうか?」

「会社がないので入社することは不可能でしょうね」

「それではなぜ、今までの面接はなんだったのでしょうか?」

「はあ……」

 面接官は呆れたように体育会系の男を眺める。そして、面接官の男は言った。

「最終面接までいらした皆さんを、面接もせずに帰すのはマナー違反だと思いまして」

 次の面接グループが待っているため、指示通り僕たちは速やかに部屋を出た。面接前と同じように小綺麗な廊下に観葉植物がずらりと並んでいた。

 僕は手に持った飲みかけのペットボトルをくしゃりと潰し、そのまま床へと放って投げた。ペットボトルは無気力に転がり、観葉植物の鉢の下で止まった。それは面接前に見たものとよく似ていた。

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