胸熱なだけに、惜しい!!
キヤノン初となるフルフレームミラーレスカメラ、EOS Rが発売されました。ギズモード・ジャパンのハンズオンではかなりの好感触でしたが、米GizmodoのBrent Rose記者がしばらく使ってみたところ、思わぬ部分がいろいろ気になってしまったみたいです。どのへんがアレなのか、以下どうぞ!
僕が初めて手に入れた高価なカメラはキヤノンの6D、それは2013年のことでした。僕は現実のベストバージョンを見せてくれるようなキヤノンらしい色合いやレンズのシャープさが気に入ったし、6Dは入門編フルフレームカメラの中でも一番手頃でした。でも僕は徐々にミラーレスこそ未来じゃないかと思うようになり、その流れになかなか乗らないキヤノンにしびれを切らして、2015年にソニーに乗り換えました。それでも僕は、キヤノンのレンズやそれによって描かれる色を懐かしく思い続けていました。
それから4年近く経った今、キヤノンはついに重い腰をあげ、初のフルフレームミラーレスカメラ・EOS Rを打ち出しました。僕は(2010年代後半のガジェットライターには珍しく)ワクワクして、はたしてEOS Rは僕がキヤノンのエコシステムに戻るきっかけになりうるか?と期待していました。
でもレビューの結果残念ながら、そうはなりませんでした。撮れる写真は素晴らしいんですが、このカメラは、2〜3年くらい前に発表されるべきだったんです。
EOS Rとは?
まず基本から見ていきます。EOS Rはフルフレームミラーレスカメラで、フルフレームとはイメージセンサーが35mmフィルムとだいたい同じくらいという意味、ミラーレスとは、一眼レフみたいに光を反射するミラーを内蔵していないということです。画素数は3030万画素と、競合の間に妙にはさまった数字です。ここで競合とは、ソニーのα7 III(2400万画素)・α7R III(4240万画素)、ニコンの新しいZ6(2450万画素)・Z7(4575万画素)のことです。
キヤノンはこの機会に新たなレンズマウントを打ち出しました。新しいRFシステムは従来より口径の大きい内径54mmのマウントで、フランジバック(レンズの裏から撮像素子までの距離)は20mmと短くなっています。つまり光はより多く入り、レンズからセンサーまでの距離はより短くなったので、フォーカス性能に貢献しているはずです。
また今回発表されたRFレンズはどれも、フォーカスリング・ズームリングに加えてコントロールリングなるものを搭載しています。それは絞りやシャッタースピード、ISO、露出補正をコントロールリングに割り当てることができるんです。マウントアダプタも4種類あり、従来のレンズもクオリティを落とさずに使い続けられるよう配慮しています。レンズ同様のコントロールリング搭載モデルとか、可変式NDフィルター付きモデルもあります。
美しき写真たち
新レンズを装着したEOS Rで撮ってみると、たしかにすごくキレイな写真が撮れます。試したのはキヤノンの伝説的万能レンズの新バージョン(24-105mm f/4)と、新しい50mm f/1.2です。特に50mmの方は、僕が今まで使った中でも最高のレンズのひとつです。撮れる写真はカミソリのようにシャープ、かつ繊細なボケが得られます。撮れた写真を全部Adobe Lightroomで見てみたんですが、50mmで撮ったものの中には「おお、これは絶対編集ナシ!」と思えるようなものがたくさんありました。ただ後で詳しく書きますが、このレンズに手ブレ補正が入ってれば完ぺきだったのですが…。
RF 24-105mmレンズは本当に万能で、ズームとか絞り値をどう設定してもシャープです。さっそくカリフォルニア州マリブのビーチで撮りはじめてたんですが、その翌朝がちょうどあの山火事が起き、全域に避難勧告が出されました。EOS Rはそんなリアルで高負荷な状況にも耐え、そのまま記事化できるくらいの写真を撮ることもできました。以下の写真はそのとき撮ったものです。
このカメラで撮れる色はまさに僕の記憶にあるキヤノンの色で、懐かしさで胸がいっぱいになりした。すべてが鮮やかで、リアルに見えます。ダイナミックレンジもちゃんとしてるし、影の部分にも十分な情報を残しているし、ハイライトも飛んでいません。おかげで編集する場合にもいろいろやりようがあります。もちろんダイナミックレンジに関してはソニーやニコンのフルフレームカメラにはかなわないとか、編集の柔軟性という意味でもその手のカメラの方が2、3段階上とかはあるかもしれません。それでもEOS Rはかなり良い線だと思います。ISO感度を高くすると多少ノイズが出ますが、ISO 6400でもまあまあ使えるレベルでした。編集したものは以下、見比べてみてください。
EOS RはデュアルピクセルAF(オートフォーカス)を採用しており、実際使ってみてもすごく速かったです。すごいのはAFポイントが5655点もあり、撮れる領域の横88%、縦100%をカバーしてるってことです。これは他に並ぶものがありません。また特定のモード(たとえば「顔+追尾優先AF」)では、被写体の瞳のカメラから近い方に自動でフォーカスさせることができます。ソニーの瞳AFほどじゃないんですが、すごくうまく機能しています。
ボディの魅力も
カメラ本体に関しても良い点がいくつかあります。まずグリップにこだわる人なら、EOS Rのがっちりした厚みがすごく気に入るんじゃないかと思います。というのは、ぼくはそんなに気になりませんが、ソニーのカメラはグリップが浅いと言う人たちもいるんです。あとは自撮りをよく撮っている人なら、バリアングル液晶モニターがありがたいことでしょう。モニターは3.15インチ・210万画素で、ソニーのものより若干大きくてシャープ、ニコンのZ7と同じくらいです。EVFも明るくくっきりしていて、上部のパネルには撮影の設定とかバッテリー残量、あと何枚撮れるといった情報が表示されます。
液晶モニターはタッチ式で、ソニーのとは違ってUIとしてちゃんと機能しています。直感的に使えるメニューの流れの中で、スクリーンのタッチも自然に使えます。この点はニコンも同様で、僕としてはなんでミラーレスで大幅にリードしてきたソニーがこの点だけいまだに後追いなのかが謎です。
EOS RのバッテリーライフはまあなんとかOKで、撮影可能枚数はCIPA基準で370枚なんですが、これはソニーのα7 IIIとかα7R IIIよりはるかに少ないです。ただしエコモードにすれば450枚と、ある程度改善します。
…と、ここまではだいたいラブレターでしたが、良くないところって何でしょう? 正直、これ以外の全部です。さてどこから行きましょうか…。
操作系に違和感いろいろ
このカメラの設計には、違和感を感じるところがたくさんあります。まずカードスロットがひとつしかない点は、これだけでもプロの写真家だったら買わない理由になってしまうと思います。というか、プロだったらこれダメなんじゃないかと思う部分がたくさんあるんです。
各種ボタンの配置も疑問です。メイン/サブふたつのダイヤルが両方カメラ上面にあり、人差し指を大きく伸ばさなきゃ届きません。背面の右上には瞳AFとAFポイントのボタンがありますが、これらは親指から遠すぎるだけじゃなく、手がよく触れる部分にあるので、うっかり押してしまうことがしょっちゅうありました。
あとはAFポイントを動かすためのジョイスティックもないし、十字キーでも動かせません。じゃあどうするかっていうと液晶上でやってね、という考え方なんですが、つねにEVFをのぞきながら撮ってる人にはすごくやりにくいです。
それからソニーのカメラにある、ISO感度を素早く直したり写真をスクロールするのに便利なスクロールホイールもありません。というかキヤノンのもっと下位の機種にもあるんですが…。ただこちらに関しては、RFレンズに付いてるリングでISO感度やらをコントロールできるよ、ということになっていて、たしかにアリだなとは思います。実際やってみると、ISOを変えようとしてついフォーカスリングを回してしまうとか、その逆とかがよく起こったんですが、慣れの問題かもとは思います。
まとめていうと、必要以上に手順が多い気がしました。それは、このクラスのカメラでは標準になっている専用のモードダイヤルがないからです。全体的に、カスタムボタンがありません。一方で電源オン・オフはそれ用のダイヤルがあるんですが、この位置がすごく左寄りにあって手が届きにくいばかりか、触ってもオンオフが確認できません。それでいてモードダイヤルがあるべきスペースを占拠していて、ほんとにどうしてこうなったんでしょうか?
そして背面右上のマルチファンクションバーです。これは小さな、固定された、タッチ式パネルで、ISO感度とか(デフォルトではこれ)ホワイトバランス、フォーカス、ディスプレイ、オーディオ(動画撮影時)などなどを操作するためのバーです。これがひどいんです。うっかり触って意図しない動作してイライラっていうお決まりのパターンはもちろんですが(ロックしてるときですらこの事案が発生しました)、ちゃんと使おうとするとさらにイライラ倍増です。意図した通りに操作するのがとにかく難しくて、ISOを変えようとすると(僕はだいたいフルマニュアルで撮るので頻繁にやります)、まずバーをアンロックしてから、僕がしたい設定より高いまたは低い設定で撮ってしまい、再度うっかり変更してしまい、結局まだやりたい設定ができないという展開です。一方僕がいつも使ってるソニーのカメラでは、親指でスクロールホイールをカチカチするだけ、2秒で設定完了です。
手ブレ補正の欠落、4K動画の落とし穴などなど
もうひとつ大きいのは、本体に手ブレ補正がないことです。手持ちで撮るとき(僕は80%がこれ)、特に暗めの環境では、すごく大きな違いがでます。キヤノンのレンズのいくつか、たとえば24ー105mmには、手ブレ補正が内蔵されてますが、僕の気に入った50mm f/1.2にはありません。ソニーにもニコンにも本体に手ブレ補正があるし、レンズに内蔵されてる場合も本体側で補正されればさらに倍です。これがないのはかなりの痛手です。
そして、動画です。そもそもキヤノンは5D Mark II以来「一眼レフで良質な動画を撮る」というコンセプトを切り開いた張本人であるだけに、ここで追い越されてるのがすごくつらいです。4K動画は30fpsで撮れますが、それを実現するために画像をごっそり1.75倍クロップしてしまいます。他と比べると、もっと小さいAPS-Cセンサーのカメラだって1.5倍クロップまでです。つまり24mmレンズを事実上42mmにしてるのと同じで、基本的に4Kは広角では撮れないってことになります。画角だけじゃなく、光も失われてしまいます。もちろん撮れた4K動画のクオリティが低いってわけじゃなく、鮮やかでシャープであることに変わりないのですが、「レンズの画角を活かすには1080pにするしかない」っていうのは残念すぎて、僕も含めて多くの人にとって買わない理由になってしまうと思います。
EOS Rの動画の問題点は他にもあります。できた動画にはローリングシャッター効果(カメラをパンしたとき被写体がゼリーみたいに揺れる)が多く見られます。やっぱり本体に手ブレ補正が入ってないことが、手持ちで撮るとありありと感じられます。手ブレ補正のある24 - 105mmレンズを使っているときでさえ、この欠点が目立ってました。また120fpsのスローモーション動画を撮るとしたら、解像度は720pまでになります。比較すると、たとえばGoPro Hero 3なら、720pの120fpsは2012年にできていました。ソニーとニコンは今や1080p120fpsになっています。
まだ問題は続くんですが、少し良いことも言っておくと、キヤノンの顔追尾機能は僕が使ったことのある中でももっとも速くスムースです。f/1.2(フォーカスが合う領域が小さい)でカメラに向かってササッと近づいたり離れたりを繰り返しても、EOS Rはちゃんと顔を認識し続けていました。それはすごいんですが、問題はフォーカスするときカチっと音がするんです。それも、たくさん。フォーカスが調整されるたびに、超音波でお母さんを探す子イルカみたいにカチカチ言い続けるんです。こういう音がしようがしまいがカメラ内蔵のマイクはどれもひどいので、動画撮影のときは外付けマイクを使うべきなんですが、この音のせいでEOS Rでの動画撮影には外付けマイクが必須になります。
まとめ
そんなわけで、このカメラは僕からは誰にも勧められない代物です。ポテンシャルは見えていて、特に50mm f/1.2のレンズとかすごくきれいに撮れるだけに残念です。無視できない問題がありすぎです。だって他のカメラでは、ここまでの欠点がなくてもすごく良い写真が撮れるんです。フルフレームミラーレスカメラのベストはやっぱりソニーのα7R IIIで、α7 IIIがそれを遠からず追っている感じですが、後者はEOS Rよりずっとお手頃なんですよね…。
とはいえもっと大きな目で見て、EOS Rをキヤノンの新たな第一歩として考えれば、ダメではないとは思います。そしてこのカメラの次の世代に向けた下地はできているのも見えます。その「次」がなるべく早くやって来ることを期待したいです。