LIXILグループに激震が走っている。プロ経営者の瀬戸欣哉社長からCEO(最高経営責任者)の座を取り戻した創業一族の潮田洋一郎会長が、MBO(経営陣が参加する買収)で日本の株式市場から退出し、さらにシンガポールに本社も移そうとしていることが明らかになった。年間売上高が2兆円に迫る巨大企業の日本脱出計画は、本当にこのまま進むのだろうか。

潮田氏は自らCEOに就き、新たなシナリオを実現しようとしている(写真=稲垣 純也)
潮田氏は自らCEOに就き、新たなシナリオを実現しようとしている(写真=稲垣 純也)

 極めて異例のシナリオだが、潮田氏はどうやら本気だ。業界トップの大企業が東京証券取引所での上場を廃止し、本社をシンガポールに移転するという過去に例がない大転換を進めようとしている。潮田氏はシンガポール取引所(SGX)への新規上場も目論んでいる。

 関係者によると、LIXILグループは昨年、MBO・本社移転・シンガポール上場という一連の計画を検討することを取締役の間で情報共有、すでに検討のためのアドバイザーも雇った。つまり、この計画は潮田氏が独断で進めている話とはもはや言えない。一連の計画に反対していた瀬戸氏をCEOから降ろしたことからも、潮田氏の本気度がうかがえよう。瀬戸氏を退任させるのは、この驚きの計画を前に進める布石だった。

 なぜ日本の株式市場から退出したいのだろうか。根底には市場から評価されていないという不満があるだろう。株価は冴えない。トステムやINAXなど多くの企業の統合で日本最大の住宅資材・住設機器メーカーとなったLIXILだが、潮田氏は「株価はコングロマリットディスカウントに陥っている」と不満を示していた。潮田氏の見立てでは、どの機関投資家も業種を絞った専門的視点に立つようになったため、その分野以外の事業を適切に判断してもらえなくなったという。

 こうした不満を解消するため、潮田氏は当初、会社分割による2社上場を考えたようだ。今のLIXILグループを事業ごとに2つに分割し、1つを国内で、1つを海外で上場させようと検討していたとされる。事実上のLIXIL解体だ。だがバックオフィス部門など、LIXILグループとしてすでに1つに統合されていた部分をもう一度切り分ける事務作業は非常に煩雑で、予想以上に手間取ることがわかった。そこで検討されるようになったセカンドプランが、今の案だ。

 この案をもう少し整理してみよう。東証1部に上場しているLIXILをMBOにより上場廃止にする。その後、本社をシンガポールに移し、SGXに新規上場する、というのが大きな筋書きだ。LIXILの時価総額は足元で約4500億円。潮田氏がMBOをするにはプレミアム(上乗せ幅)を考慮すると最低でも5000億円以上が必要になりそうだ。

MBOにより上場廃止にする案も浮上している
MBOにより上場廃止にする案も浮上している

 だが、このハードルは高くないのかもしれない。MBOに必要な資金をつなぎ融資でいったん調達し、その後すぐにSGXで株式を売り出して回収したお金でつなぎ融資を返す、という芸当も可能だからだ。

 ただSGXに上場する新会社がどんな評価を受けるのかは読みにくい。シンガポールならコングロマリットディスカウントが起きないという保証もない。本来の企業価値は変わらないはずだが、持ち株会社なのか、事業会社なのか、どのような形で上場させるかによっても評価が変わる可能性はある。

 シンガポールに本社を移転すれば、日本よりも法人税率が低いため、節税効果が得られることが想定される。潮田氏自身が現在、居を構えて生活の拠点にしているのもシンガポールだ。

 地域別売上高(2018年3月期実績)をみると、圧倒的に多い日本の次がアジア、そして北米、欧州と続く。LIXILは現時点ではアジア企業であり、欧米市場への上場は考えにくいのだろう。そうなると主要な市場は香港かシンガポールかという選択肢しかない。香港市場の規制の問題などを考えると、やはりシンガポールというのは自然な選択だと考えられる。

■変更履歴
本文中、「取締役会で決議している」は「取締役の間で情報共有、すでに検討のためのアドバイザーも雇った」の誤りです。お詫びして訂正します。本文は修正済みです。 [2019/03/08 16:30]

関連記事:スクープ解説 LIXIL、大転換に渦巻く懸念

このシリーズの他の記事を読む
まずは会員登録(無料)

登録会員記事(月150本程度)が閲覧できるほか、会員限定の機能・サービスを利用できます。

こちらのページで日経ビジネス電子版の「有料会員」と「登録会員(無料)」の違いも紹介しています。

春割実施中

この記事はシリーズ「TOPIC」に収容されています。フォローすると、トップページやマイページで新たな記事の配信が確認できるほか、スマートフォン向けアプリでも記事更新の通知を受け取ることができます。