セブンイレブンの24時間営業をめぐり、店舗とチェーン本部の対立が注目を集めている。大阪府の加盟店オーナーが営業時間を短縮したところ、チェーン本部のセブン-イレブン・ジャパンに契約違反を指摘されたという。日経ビジネスは2017年10月30日号の特集「最強『社会インフラ』 コンビニ大試練」で24時間営業をめぐる厳しい現実を報じた。それから1年超が経過しても、状況はあまり変わっていないようだ。

24時間営業をめぐり注目を集めるセブンイレブン
24時間営業をめぐり注目を集めるセブンイレブン

 「私の経営手法って『加盟店ファースト』なんですよね。加盟店オーナーさんが『セブンに加盟してよかった』と感じていただけない限りは、本部だけが収益を上げて良しとするビジネスでは絶対ありませんから」

 セブン-イレブン・ジャパンの古屋一樹社長が2017年秋に話していた言葉だ。すでに当時、日本国内における人手不足の深刻化が叫ばれるようになっていた。だが古屋社長は「セブンイレブンとして、24時間営業は絶対的に続けるべきと考えています」と語り、その後、こう付け加えもした。「社内で見直しを議論したことはありませんし、加盟店からもそんな声は全く出ていないですね」

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 ここ数年、人手不足を重要な経営課題と認識したコンビニ以外の小売業や外食業は、24時間営業の見直しを急いでいる。そんななかで最大手コンビニチェーンの首脳だけが強気の姿勢を貫けるのは「深夜帯の売り上げがまんじゅう1個だけでも、本部は黒字になる」(都内のコンビニ加盟店オーナー)というカラクリが存在するからだ。

 日本のコンビニ店舗のほとんどは、「株式会社セブン-イレブン・ジャパン」「株式会社ファミリーマート」といったチェーン本部ではなく、その本部とフランチャイズ契約を結んでチェーンに加盟する独立事業主(加盟店オーナー)が現場を担う。

 特集内の記事「揺らぐ成功モデル」の記事でも解説したように、チェーン本部は粗利益の一部をロイヤルティー(経営指導料)として加盟店から受け取ることで稼ぎを得ている。チェーン全体で蓄積してきた経営ノウハウを加盟店に提供したり、売り上げアップにつながる商品を開発したりすることの対価という位置付けだ。

 ロイヤルティーが粗利益に応じて計算されるというのがポイントだ。粗利益は店舗売上高から商品の仕入れ原価を差し引いたお金であり、人件費がどんなに高騰しても、チェーン本部に収めるロイヤルティー額は変わらない。アルバイトやパートの採用も雇用主である加盟店の責任だ。深夜帯のスタッフ確保が困難を極めても、どうにか集めるために時給の引き上げを余儀なくされても、本部の稼ぎには直接影響しない構図になっている。

「加盟店とこれまで以上に一体感」

 そもそも、「コンビニバイト」という概念が変わりつつある。

 若い世代のあいだでは「週ごとの勤務ローテーションに縛られたくない」と考えるひとが増えている。特定の店舗で決められたシフト通りに働くのではなく、「ヒマなのでひと稼ぎしたい」と思い立ったとき、「本日18時から」といった具合に単発バイトを募集している店舗に赴き、その日限りのスタッフとして働くようなスタイルも増えている(コンビニ50店舗を渡り歩く「ハイパー店員」)。店舗側からみれば通常スタッフが風邪などで欠勤した場合に緊急的に募集する人員なので、時給は高めに設定せざるをえない。

アルバイトやパートの採用は加盟店の責任
アルバイトやパートの採用は加盟店の責任

 もっとも、業界を見渡せばすべてのチェーンが24時間営業に固執しているわけではない。ファミリーマートは一部店舗で営業時間を短縮したり、深夜帯は駐車場に置いた自販機で必要最低限の商品を販売したりする実験を進めている。下のリンク先記事にもあるように、京都市の実験店舗を訪れると、午前1時には店員がロールカーテンを引き下げ、外看板の明かりを消すのを見ることができる。「コンビニが閉店時間を迎える」様子は、24時間営業に慣れきった消費者には新鮮な光景だ。

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 ファミリーマートの沢田貴司社長は日経ビジネスの取材に対し、「いろいろな技術を駆使すれば深夜帯は無人にできる気がしています」と答えている。「24時間は続けますよ。続けるんだけれども、そこに店員がいるか、いないかは別」という姿勢だ。

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 単純に24時間営業を取りやめるのでは、サービスの質としては後退感が否めない。社会の変化により24時間営業の維持が難しくなるなかで、しかしサービスの低下を回避するためにはどうすればいいのか。各コンビニチェーン本部には独自の知恵が求められている。

 セブンイレブンの古屋社長はインタビューで、こうも語っていた。

 「本当に良い店を作らない限り、もうお客は来てくれません。そのためにもチェーン本部と加盟店には、これまで以上の一体感が求められています。とても大事な時期に入ってきたと認識しています」

 「マラソンと一緒ですよね。マラソンって序盤はみんなわーっと走り出して、誰でもいい走りをします。けれど相手を抜くチャンスが訪れるのは、苦しくなってきてからです。変化の大きい時代こそ踏ん張りどきです」

 2017年秋に古屋社長の上記インタビューを掲載した直後、記者のもとには複数のセブンイレブン加盟店オーナーから感想が寄せられた。「本当に加盟店ファーストを志しているのなら、ああいう発言はできないはずだが」という趣旨だった。変化の大きい時代こそ踏ん張りどき……。古屋社長はいま、自らの言葉の重みをかみしめているに違いない。

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