不確実性と道標としてのコンセプト

y_matsuwitter
11 min readMar 2, 2019

DMMに転職して以降、キャリアについて話してほしいという登壇依頼が多く似た話をする機会が数回あったのですが、その中でもコンセプチュアルスキルというか不確実性との立ち向かい方について先日社内に投稿していた内容をベースにこちらにも記事化しておきます。(ちなみにペパボのあんちぽさんからのリクエストが記事化のきっかけです。)

ちなみに普段キャリア論として話している内容はこちらを参考にしてみてください。

コンセプチュアルスキル

キャリアや長期の目標を検討するとき、そこには

  • 資産(現状自分が持っているスキル・知識・ツールなどのリソース)
  • スコープ
  • 環境要素

が制約条件として存在しています。

自分の持ち物については理解しやすいですね。今自分が置かれている状況で使えるものを考えてみると、そこにはスキルや資本、時間、知識など様々な自分の資産が存在しています。「今ここ」を検討する上で自分の資産を知るということは分かりやすい要素です。資産を無視した状態で目標を検討しても、その目標を達成することは難しいです。

また、スコープも意識する必要があります。例えばそれは個人としての目標なのか、個人だとしてそれはどれくらいの時間軸なのか。また組織だとして、検討すべきなのは1機能レベルのスコープなのか、システムなのか、プロダクトなのか、はたまた事業や経営、社会といった抽象的な領域になるのか。このスコープの意識は、環境要素を検討する上で重要です。

スコープの例:開発者が関わる抽象度のスコープ

環境要素は、正直100%把握することは不可能です。例えば競合の事業状況やメンバーの心理状態、ユーザーの流行り廃り、経済の動向、技術革新など、自分が取り組む領域について影響を及ぼすものは千差万別で、かつすべてを把握・予測することは難しいものです。こうした要素をどこまで知るのかでその事象の結果において、金融で言うところのボラティリティ、ないし確率論的な分散が左右されていきます。これは上記のスコープが広くなるほど作用する要素が多く、不明瞭な環境要因が多いほど向かう先がどうなるかのボラティリティが大きくなり、予想もしない方向に向かうこととなります。

自分がキャリアや目標を立てる際はこの3要素を意識し、自分が見ているスコープ内でどのようなコンセプトを打ち立てるかという工程を意識しています。コンセプトとは、直訳的な意味ではなく、更にその先、向かう先の目標の具体的な構造とそれを成り立たせるべく自分が証明すべき仮説の設定・明確化・取り組み・解決するための枠組み設計を指しています。それが見えれば次はコンセプトを実現していくべく、証明すべき仮説への取り組みのロードマップを引き細かいイテレーションの中でその仮説を証明していくことになります。

そうした考えのもとキャリアや目標を考えていく上で、資産・スコープ・環境の3項目のうち、最初の2つは自身が影響を及ぼしやすく予測しやすいものになります。しかし、環境要因に関しては完全に制御することは叶いません。基本的に各環境要素がどのような値の幅、つまりボラティリティを持っており、それが最終的な事業予測に対してどのような影響を持っているか、何を証明すればその環境要素の振れ幅を確定させることが出来るかを考えています。

前述のスライドの中でもカッツモデルについて触れているのですが、ここで言うコンセプチュアルスキルとはなにか、これを端的に表すと先程あげたコンセプトを打ち出し不確実性の中で適切な変数を充足できるよう証明していく能力だと自分の中では解釈しています。

開発者ポジションとカッツモデル

不確実性との付き合い方

アクションとコンセプトの更新

当然ですが、コンセプトを打ち出す過程で見ている環境要素はすべてをあぶり出すことは不可能ですし、その振れ幅を0に抑えることはもっと不可能です。とすると、コンセプトというものを盲信することは危険だということが容易に想定されると思います。余談ですが逆説的に、より確実性の高いコンセプトを作るためには材料を常に集めておくことが大事ということにもなります。材料集めに関しては、書籍を読む、ニュースへのキャッチアップだけではなく、実際に新しいプロダクトや競合のサービスを使ってみたり、人にあって直に話を聞くことも大事です。

この不確実性と向き合うためにコンセプチュアルスキルと同時に求められるのは、その証明過程で見つかった環境要素とその具体的な事実をベースにコンセプト自体をアップデートしていく能力です。

つまり

  1. 資産・スコープ・環境要素から、明確なコンセプトとそこに至るロードマップを描く。
  2. ロードマップに従い仮説を証明すべくアクションを打ち出し実行する。
  3. アクションの実行から得られた事実を整理、解釈
  4. 事実を元にコンセプトをアップデートし、またそれに合わせてロードマップを刷新し1.に戻る。

ということを繰り返していくことで、より正しいコンセプトを見つけ、道筋を正しい方向に向けていくのです。

この過程では1.~2.におけるコンセプトの盲信と、3.~4.におけるコンセプトへの懐疑とアップデートという相反する感情を持つ必要があります。そうでなければ、コンセプトのアップデートか正しいロードマップを見つけることのどちらかが片手落ちになるためです。ちなみに、矛盾した相反する要素を一人でこなしていくこと自体は非常に難しく、仲間を集めるなり二重人格的な視点が必要になります。最近は若手起業家やDMMの若手経営層に対して情熱と論理という言葉でこの矛盾ある思考を表現してます。

道標としてのコンセプト

比較点としてのコンセプト

不確実性の高い世の中での取り組みを進めるには、まず道標が必要となります。これがコンセプトであり、それが存在することで、コンセプトに自分は向かえているのか、求められている方向性についてどれくらいずれているのか、などをあぶり出すことが可能になります。コンセプトは、不確実性に対処するためのツールとなります。

先日Bizreachの竹内CTOにワインの講義をしてもらった際に、「ワインは差分で理解する」というお話を聞いたのですが、この言葉が端的に表していると思いました。ワインの知識がない状況でワインと言う空間を探索し、自分の好きな銘柄を見つけることは至難の業です。すると、ある程度の知識(ぶどう品種、土壌、地域など)を身に着け空間の構造を把握しつつ、特定のワインを比較点としておくことで効率的な空間探索が可能になります。特定のワインに対して今飲んでいるワインの差分を取ることでパラメタ上の差分とそれが目標変数に与える変化を追うことができ、自分好みのものを探すにあたって着実な道標になるのです。

未来の目標設定やキャリア設定というのは同じ効果を持っていまして、特定のコンセプトとロードマップを設定することで、現状の行動の正しさ、特定方向への深掘りのしやすさを与えてくれます。コンセプトに向かえていない行動、仮説を証明しようとしていない行動を整理可能となるからです。

なので、よく質問される「将来のキャリア、やりたいことが特に無い」という相談については、この思考をベースに「とりあえずまずは見えている範囲で目標を置いてみよう」と伝えています。まず目標を置きつつその方向に向かうことで特定の方向性で効率よく知見を吸収でき、結果効率よくスキルを伸ばすなどに繋がりますし、その過程でスキルが伸びるほど情報は基本的に集まりやすくなり、結果効率的に成長することに繋がります。その過程で方向性自体がそれまでの行動から得られた事実をもとに判断すると間違っているのだという場合にはキャリア自体を見直せばよいのです。

事業成長のためのコンセプトをデザインし証明していく過程で、どうにかコンセプトに近づけられないかということで、現状と未来の差分を追っていくわけですが、そのなかで精緻なタスクリストを見出しつつ、現状のタスクを一部切り捨てていくことや適切な採用など検討していくことが、Product Ownerやengineering manager、経営者には求められています。この全体の絵を描き、チームと共有していくことで開発チームの向かう先は明確になっていきますし、理想までどれくらいの距離なのか見えてくるものかなと思います。

最後に:なぜこの記事を書いたか

この記事を書いた理由として、DMM内の事業成長、組織成長、またメンバー成長が、より大きなものとなるようサポートしていきたいという願いがあります。基本的に現状の延長線で計画を引くことは簡単で目標としても引きやすいのでそこに終止する事が多いものです。例えば現場のアプリの負債状況やチームの状況を合わせていくと今実現可能な機能はある程度見えてきます。その延長に見えてくる事業の成長は不確実性もとても小さいものとなり実行も容易です。しかし、ユーザーにより良い価値を届けるにはどうしたらよいか、またシステム面でいえばどのようなアーキテクチャがあるべきか、メンバーのキャリア的にどこに向かうべきか、より高い収益を上げるにはどうすればよいか、高い目標を目指していくには現状の延長線では難しいケースがほとんどになります。現状の延長線ではともするとコスト削減から始まる縮小均衡に陥る可能性もあり、成長を経験した多くの企業で苦しむのもこの辺だったりします。

(ちなみに自分がDMM.comに入社した理由の1つは、自分が見る限りにおいてコンセプトを整理していくことでどの領域もまだまだ伸びる余地が大きいと思っているからです。その中で今考えうる理想形、向かうべき方向性を構築し、具体的なパスを引けるような開発・事業計画を引くことで以前の複数のインタビューでもお話させていただいた高い成長が実現できると考えています。)

まとめ

とりとめもなく社内のSlackに投稿した内容をまとめてみたのですが、少々長くなってしまいました。ポイントをまとめてみると割とシンプルで、

  • 現状持っている資産、検討すべきスコープ、環境要素に対して適切なコンセプトを打ち出しロードマップを引く。
  • コンセプトとロードマップを置くことで今・ここと未来の比較が可能となりギャップを埋めるアクションが可能になる。
  • ロードマップを進む中で集まった事実を元にコンセプトとロードマップをアップデートし、またロードマップを進むという相反する作業を繰り返す。
  • この作業をどこまで広いスコープで行い、達成に向けて推進出来るかがコンセプチュアルスキル。

というのが自分が言いたかったことのように思います。ただ、まだまだ自分の文書表現が拙く読み返してみると思ったように伝わらない文章になっている部分があります。今後引き続き取り組む中で、よりブラッシュアップできたらそちらもまた発信していければと思います。

興味ある方はぜひ一度DMMに遊びに来てみてください。今後、DMM Tech Visionとのその現状進捗や今後のDMMについてお話できるようなイベントも企画したいと考えています、ぜひご参加ください。

また多くのポジションでメンバーを募集しています。より抽象度の高いレイヤーで課題を解きたい、われこそはというEngineering managerの方やテックリードの方など広く募集しています。

DMM.com 採用 https://dmm-corp.com/recruit/top/

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y_matsuwitter

正座エンジニア。DMM CTO, GunosyおよびLayerX Technical Advisor。早く電脳化させてください。ここには雑に考えた個人的な諸々を投げ込む。