ハリウッドのアニメ制作の現場ってどんなとこ? 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のアニメーター若杉遼にインタビュー!

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  • author 傭兵ペンギン
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ハリウッドのアニメ制作の現場ってどんなとこ? 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』のアニメーター若杉遼にインタビュー!
Image: © 2018 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

大事なのはものを作りたいという熱意。

アカデミー賞で長編アニメーション賞を獲得した話題作『スパイダーマン:スパイダーバース』。今回は映像面でも凄まじい同作にCGキャラクターアニメーターとして参加した若杉遼さんにインタビュー。

制作の背景から、海外のアニメ制作現場でどうやって仕事を得たのかなど詳しく伺ってまいりました!



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Photo: ギズモード・ジャパン

──今作ではどのような仕事をされたのですか?

若杉遼(以下、若杉):CGキャラクターアニメーターとして、キャラクターのアクションや演技、表情の変化など動き全般を担当しています。アニメーターは今作には180人以上関わってるので「このシーンのここをやったんですよ!」とは見せづらいですが、いろいろなところを少しづつ担当しています。

──180人! 制作期間はどれくらいだったんですか?

若杉:自分は最初別のプロジェクトに関わっていたので、制作の最後の追い込み期間からの参加でしたが、映像部分は全体で1年くらいだと思います。ちなみに途中参加はこの業界ではそんなに珍しいことでもなく、最初は少ない人数で作り始めて、まず動きなどのスタイルを決めてから徐々に人数を増やしていくという形をとるんですよ。

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Image: © 2018 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

──映像がもう凄まじい作品で、立体的な3DCGなんだけど、なんかすごくコミックに見えるシーンがたくさんあって驚かされました。一体あのビジュアルはどうやって作ったのでしょう?

若杉:基本的に映画は1秒で24フレーム(コマ)で制作されるんですが、この映画では同じ絵のフレームを2つづづける、日本のアニメとかではニコマ打ちと呼ばれる方法で作っています。それに加えて、ゆっくり動くシーンなどでサンコマ打ち、ヨンコマ打ちをして、動きのスピード感を変えています。こうするとカクつくわけですが、無駄な情報が削ぎ落とされて、コミックっぽく見えるようになっているんです。

──1シーンを作るときの制作のプロセスってどんな形式なんでしょうか?

若杉:基本的にストーリーボード(絵コンテ)があって、そこでこういう動きを見せたいという要望はありますが、監督から具体的な指示という形はないまま作業に入ります。なので、そこからはスケッチブックに書いたものや、自分で演技を撮影した動画を見せてアイデアを提案するという形になりますね。

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Photo: ギズモード・ジャパン

──そういった提案って監督に直接するんですか?

若杉:基本的にはそうですね。(スタジオはカナダで)監督はアメリカのロサンゼルスにいるので、テレビ電話越しでやりとりをすることがほとんどですが、気になることがあったら直接質問したり、提案したりができる環境です。監督の考えや、想いが直接聞けるのですごくやりやすいですね。

──日本では監督が詳細な絵コンテを切ることも多いですが、海外だと違うんですかね?

若杉:海外のアニメだと基本的にはストーリーボード・アーティストが何人かいて、それぞれがいろんなアイデアを出してみんなで作っていきますね。そこからアニメーターの提案でシーンがカラッと変わることもあるので、本当にみんなで作っている感じです。

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Photo: ギズモード・ジャパン
若杉さんが見せてくれたスケッチブックの一部

──今まで関わった作品と今作で違いを感じるところはありましたか?

若杉:今までの作品はどちらかといえば海外アニメによくある子供向けでわかりやすさを重視していた作品でした。それに対して、今回の作品は結構大人向けで、ストーリーだけじゃなく動きやデザインもわかりやすさよりもカッコよさを大事にしているところがやっぱり違いましたね。そこが海外のコミックファンにも受けているようです。

──今までと違って難しいところはありましたか?

若杉:普通のCGのアニメでは動きをなめらかに見せるために、モーションブラー(カメラで動くものを撮影したときに起こるブレ・残像)を自動的に加えるのですが、今回の映画ではそれをすべて手書きでやったんです。

なので昔の2Dのアニメのように、一つ一つ動きを見せるための線を書いたり、1コマに複数の腕を描いたりしなきゃならなかったので、大変でしたね。

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Photo: ギズモード・ジャパン

──他にも手書きの部分があるんですよね。

若杉:自分の部門とは別のところで、動画が出来上がった後の処理として動画の上に絵を描いたり、色に変化を加えたりしていましたね。

今のCGはソフト側でライティングの処理なんかをするのが普通なんですが、今作は一つの絵としてのカッコよさを優先して、あえて普通だったら光の当たらない所に色を塗るなどの作業をやったようですね。

──まさに海外アニメの最前線で働いていらしゃいますが、どういったきっかけでこの仕事を始められたのですか?

若杉:高校生の頃からハリウッド映画に関わりたいと思ってはいたんですが、正直何やっていいかわからなかったんですよね。それでそのまま大学に進学して、ある時、海外の映画の現場では3DCGアニメーションソフトのMayaというのが使われているのを知ったんです。そこで僕は「これが使いこなせればハリウッドで働ける!」と盛大な勘違いをしちゃったんですよね(笑)。

ただ、大学はアニメの専門学校ではなかったのでMayaの使い方を教えてくれる授業もなく、最初は独学で勉強しはじめました。

──そこから海外の美大に留学し、海外のアニメ会社に就職されてますが、まずは日本の会社でキャリアを積んでから……みたいなことは考えなかったんですか?

若杉:CGをやりたいというより、まずハリウッドで映画に関わりたいという想いが強かったんですよ。子供の頃から『スター・ウォーズ/エピソードI』とか、『ジュラシック・パーク』とかCGをガンガン使う映画を観て育ったので、ハリウッド映画に関わるならCGだろうと思っていました

なので、独学でCGの勉強をして、そこで作ったポートフォリオを海外の美術系の大学に送って、卒業後にアニメ会社に入りました。

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Image: © 2018 Sony Pictures Digital Productions Inc. All rights reserved.

──そこでピクサーにいきなり入るの無茶苦茶すごいですよね。今振り返って、ああいう会社に入れた理由はなんだと思いますか?

若杉:大学生の頃になると具体的にアニメ会社に入りたい、特にピクサーに入りたいという気持ちはありましたね。映画やアニメを観たときに「あ、今の動きいいな。どんな人が作ったのかな」みたいなストーリーとは違う部分が気になったり、1つ目標が定まると自然と情報が集まっていきました。映像だけじゃなく、英語の勉強をしてるときも、とにかく大学にいる間はそうやって敏感になることができました。多分そういう情報収集が活きたんだと思います。

ただ、ピクサーに入れたのは本当にギリギリのところでした。まずインターンとして入るんですが、大学の2年間インターンの希望を出しても通りませんでした。それで卒業する年になって就職活動をしてたんですが、どこからも声がかからない状態になってしまいました。

なので日本に帰ろうと思っていたんですが、母親に連絡したときに「記念受験みたいな感じで、また(ピクサーに)出しておきなさいよ」と言われて、また希望をだして見たら、今度はインターンとして入れるようになったんですよ。

──ちなみに今作は手書きの部分があったりと、理想のビジュアルを実現するために難しいところがたくさんあったようですが、今所属していらっしゃるソニー・イメージワークスの現場の雰囲気ってどんな感じなのでしょうか?

若杉:『スパイダーバース』はすごく楽しい作品でしたが、忙しくなってギスギスし始めるところはありました。それでもみんなプライベートの時間を大事にして、仕事ときっちり分けているので、変なプレッシャーも感じず働くことができます。クリエイティブな仕事をする上でこの辺りはすごく重要なことだと思っていますね。

──みんな普通に家に帰れているのですか?

若杉:基本的にはみんな8時間の労働時間でやっています。もちろん制作の後半では多少の残業はありましたが、スタジオに寝泊まりして作業なんてことはないですね。

──そんな海外の現場でプロとして働きたい人向けの学校をオンラインでやられていますが、教えていて難しいと感じることはありますか?

若杉:アニメーターなどの特定の職業につきたいという目標はあるけど、特に作りたいものがないという人が若い人に結構いるところですかね。目指す職業につくためにはこういうキャリアを積まなきゃいけないみたいなある意味で優等生的な考えを持っているのはいいのですが、海外のアニメーターの仕事で大事なのはアイデアを出すことなので、技術とは別にクリエティビティが大事になってきます。

自分の学校としては基礎的な部分から体系的に教えはしますが、大事なのはものを作りたいという熱意ですからね。

──今働いている中で、CGの技術以外で特に役立っている経験って何ですか?

若杉:大学生の間にやっていた塾講師のバイトですね。当時は時給がよかったからやってたんですが、今思い返すと塾で人に教えた経験が、学校をやったり講演をしたりするときにも役にたつのはもちろん、アニメーションの現場でも客観的な目線で「どうやれば上手く伝えられるか」を考えることができるようになっているのは今活かせていると思いますね。


とにかく凄まじすぎて衝撃を受けるビジュアルを作り出したのは、自由で盛んに意見がやり取りされるクリエティブな現場だったんですね……! あと、カッコよさを重視しているというのは、本編を見るとかなりうなずけます。

『スパイダーマン:スパイダーバース』はアカデミー賞の長編アニメーション賞を獲得するのも当然どころか、なんなら作品賞も狙えたんじゃないかというくらいの傑作。スパイダーマンというヒーローの核を考えさせられる熱いストーリーと、独特のビジュアルに夢中になること間違いなし。このアニメのスタイルは、今後の作品でずっと参考にされていくだろうと思わせる一本です。

ちなみに、今回お話してくれた若杉遼さんが、同じく今作に参加した藤原淳雄さんと始めたオンライン・アニメスクールの「アニメーションエイド」のページはこちら。本格的に海外アニメの現場で働くことに興味のある人はチェックしてみてはいかがでしょうか。

映画『スパイダーマン:スパイダーバース』は現在全国で公開中。

Video: SonyPicturesJapan/YouTube

Source: 映画『スパイダーマン:スパイダーバース』 | オフィシャルサイト, YouTube