1920年代のアメリカで、ドライブスルー型のスーパーが試されていた

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1920年代のアメリカで、ドライブスルー型のスーパーが試されていた
Photo: Science and Invention (Novak Archive

車社会ならではの発想。

ドライブスルーと言うと、ファストフードを思い浮かべてしまうものですが、かつてアメリカにはドライブスルー型のスーパーなるものが存在していました。しかし、クルマに乗ったまま食事を注文するのと、食料品を買うのとではわけが違ったようで…。


今はAmazon(アマゾン)、Walmart(ウォルマート)、Target(ターゲット)、FreshDirect(フレッシュダイレクト)そしてInstacart(インスタカート)といった企業間で食料品デリバリーの覇権争いが行なわれている時代。ですが、その昔、クルマが食料品ショッピングの最も近未来的な手段とされていた時代がありました。具体的に言うと、以下で説明されているような1920年代のドライブスルーショッピングのことです。

自動車が発明されたのは1890年代でしたが、平均的なアメリカ人たちがこぞって買い始めたのは1920年代になってからのこと。当然ながら自動車の台頭は、自動車事故による死者の急増とものすごい交通渋滞(L.A. Times(ロサンゼルス・タイムズ)いわく、1923年の夏にはロサンゼルス市内ダウンタウンのたった6ブロックを移動するのに30分かかったとか)など多くの問題を生み出しました。しかし、その時代にはドライブスルーの小売店のように、おもしろいイノベーションも現れたのです。

テクノロジー雑誌『Science and Invention』の1928年12月号には、下記の近未来的なショッピング体験のイラストが掲載されていました。自動車が実際に進歩的な交通手段とみなされていた時代の観点から見てみるのは何だかいいものですね。

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Photo: Science and Invention (Novak Archive

おかしな話ですが、この新店舗のデザインが計画されていた場所について同誌は明らかにしていません。アメリカ国内のどこであってもおかしくなかったんです、本当にね。そうはいっても、Richard Longstrethによる名著『The Drive-In, The Supermarket, and the Transformation of Commercial Space in Los Angeles, 1914-1941』から学んだことによると、車中心の空間におけるイノベーションの多くはこの時代のロサンゼルスで起きていたとか。それがたとえ一年を通じて気候が良いだけの理由であってもです。

1928年に発行された雑誌『Science and Invention』より。

スーパーに入りたいドライバーは右側にあるエントランスに向かい、減速して徐行します。セダンの窓かツーリングカーの片側、もしくは何であれ彼が所有するマシンから手を伸ばし、お望みの食料品を選びます。そのほとんどは、当然ならが便利なパッケージにくるまれています。食料品はトレーに置かれて、購入者の望むままローラーコンベヤー上を移動します。

雑誌には、どのようにトレーが置かれていたかを示す写真が掲載されていました(画像の左下に注目)

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Photo: Science and Invention (Novak Archive)

この閉鎖された空間で、中に並ぶ全車両から出る排気ガスはどうなる?と思われているかもしれません。雑誌の記事ではその点についても考えられていると述べています。

換気についてはスーパーの設計者たちが対処済みなので、ドライバーがこの点を心配する必要はありません。巨大な排出ファンが、あらゆる一酸化炭素ガスの蓄積を散らすために絶えず気流(冬場は暖められている)を提供。したがって、ドライバーは食材選びに望むだけの時間をかけられます。

…なるほど。

でもこのコンセプトは短命に終わりました。その理由?多くの障壁を生み出したからです。もし自分の前のクルマがたくさん時間をかけていたら、他のみんなはただ待つしかありませんからね。

Richard Longstreth著の書籍『The Drive-In, The Supermarket, and the Transformation of Commercial Space in Los Angeles, 1914-1941』より

利用客が運転席に座ったまま店員に発注するタイプのドライブスルー型スーパーもありましたが、招きかねないボトルネックのせいでこのやり方は広まらなかったようです。そのうえ、ほとんどの利用客が買い物中はクルマから離れる方を好むという従来の社会通念が保たれていました。客の流れをさばくため、自動車の循環をサポートして、駐車したクルマを見張る従業員のいたスーパーもあったのです。

1928年刊行の『Science and Invention』にあった記事は、この障害への回避策があったと強調していました。人々がただ歩いて店を回れたのでは、そもそもの意図をくじいてしまったように見えます。

一方、歩行者はカウンターから自分で給仕でき、回転テーブルはいい具合に整えられていました。歩行者もドライバーもドライブスルー型スーパーを出る際には、彼らの購入品は出口でレジ係にチェックされ、そこで支払いをします。真向かいには肉売り場があるため、レジ係が商品をチェックしている間に、肉屋は注文を処理できます。

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Photo: Science and Invention (Novak Archive

ドライブスルー型の食料品ショッピングが実現したのは1920年代だけではありません。1950年代もまた、クルマ中心の小売のアイデアにとってはおもしろい時代だったのです。企業やイラストレーターらは異なるタイプのドライブスルー型スーパーを予想しました。

驚いたことに、未だにドライブスルー型ショッピングを近未来的だと考えている人たちもいますが、このコンセプト動画から分かるように、CGアニメーションのフェーズからは抜け出せていません。

Video: Wise Wanderer/YouTube

では今の時代での大きなハードルは何なのか?それは920年代の時と同じ、たくさんの人が行列を進むうえで、クルマという手段はあまり効率的でないからです。何トンもの金属とプラスチックに囲まれずとも、人々がクルマから出て空間を歩いていく方が理にかなっています。

それでも自動車が普及し続けるかぎり、こういったコンセプトは現れ続けるはず。ミレニアル世代はクルマを殺そうとしているらしいですが、まだ実現には至っていません。ドライブスルー型のスーパーは何も新しいコンセプトではないのです。幾度となく話題に上がっている空飛ぶクルマでさえも、まったく新しいコンセプトではないんですから。

Source: Amazon, YouTube, Chicago Tribune