人はなぜ、活火山の近くに住むのか

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  • author Robin George Andrews - Gizmodo US
  • [原文]
  • 岩田リョウコ
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人はなぜ、活火山の近くに住むのか
Image: shutterstock

危ないだけじゃない?って思っていました。

テレビで火山が噴火したニュースを見ながら「危ないから火山の近くには住みたくないよな...」なんて思ったりしますが、でもよく考えたら、どうして火山の近くに住んでる人がいるでしょうか? 専門家のみなさんの意見を聞いてみました。

火山は悪者ではない

火山の近くに住むのはもちろん危ないこと。でも火山の近くに住んでいる人はたくさんいます。なぜならリスクがあっても文化的、そして経済的に住む理由があるからです。一番納得する理由は「多くの人はそこで生まれ育ったから。彼らにとってそこは家だからです」と火山学者のBoris Behnckeさんは話します。

また、ケンブリッジ大学の火山学者のAmy Donovanさんは、「火山がニュースになるのは、火山で家屋が崩壊した時のみなので「火山=悪い」のイメージが付きまとってしまっている」と話しています。

「火山は悪者、と思いがちですが、それは火山の正しい認識ではありません。火山は地質学のホホジロザメみたいなものです」と話すのは、米国地質調査所のSara McBride。火山のステレオタイプ的なイメージは、溶岩が吹き出し、灰が舞い上がり、岩が爆弾みたいに飛んでくる...などとにかく科学的精査なんかない、荒れ狂った感じですよね。

「アニメや映画で溶岩が吹き出してる火山のイメージが私たちの頭にインプットされてしまっていますが実は活発な活動をしている火山というのはあまりないんです」と教えてくれたのはニューヨーク大学の考古学者Karen Holmbergさん。

ほとんどの活火山は数十年から数百年という時間の尺度でも、盛大に噴火することがほとんどないので、火山の近くに住むというのはしっかり道理の通る話なんです。ハワイのキラウエアのリフトゾーンに住むDane DuPontさんは、キラウエア近くに住んでいるのは結構気に入っていて、まさにギャンブルみたいな感じで、50年に一度の火山の噴火に当たるか、フロリダの海岸沿いに住んで毎年ハリケーンに遭うか、どちらを好むかという話だと言います。

しかし、「溶岩については誇張しすぎなところもあります。ゆっくり動き目を引くちょっとセクシーな災害のようなイメージがあります」とも話しています。多くの人が避難した最近のキラウエアの噴火では、オリンピックのプール32万個分の溶岩が流れ出し、700世帯もの家屋を破壊する事態が起こりました。

イーストアングリア大学の火山学者Jenni Barclayさんは、なぜ火山の近くに人が住むのかは、なぜ犯罪や大気汚染がある都会に住むのかという質問とあまり変わらないと言います。どちらも場合も良い点、悪い点があるのです。

火山のリスクを超えるメリットも

「火山の近くに住んでいる人は、偶然そこに住んでいるわけではありません。火山の近くに住むことは運送、貿易、農業などの歴史的に重要なリソースがあるからです」と語るのはジョージア大学の災害管理研究所のSarah DeYoung助教授。例えば、シチリア島のエトナ山を例に見てみましょう。ヨーロッパの一番活発で危険な火山の一つと呼ばれていながらも、山の傾斜地には何百万もの人が住んでいます。イタリアワインの革命児と呼ばれるマルコ・デ・グラツィア氏は、この火山灰の黒い土壌に目をつけエトナ山の傾斜地にワイナリーを作りました

「ワインを作るのは簡単ですが、いいワインを作るのは本当に難しいことです。ブルゴーニュ・ワインのようにエトナはワインメーカーに並外れた上質のワインを作る特権を与えてくれるのです」とグラツィア氏は言います。エトナ山からの溶岩や火山が将来的に崩れてくるのではないかという情報もグラツィア氏はあまり気にしていないよう。良いことと悪いことはセットだと考えているそうです。エトナ山で作られるワインはそんなリスクを上回る味にできあがるため、リスクがあっても続けていきたいとのことです。

ハワイのようにエトナ山も観光にも大きな貢献をしています。毎回噴火が起こるたびに山頂へのケーブルカーが破壊されてしまうのですが、すぐに作り直し、壊れた残骸をみながら観光客はまた新しいケーブルカーで山頂へ登っていくのです。

観光地としての火山

青く光る火山として有名なインドネシアのカワ・イジェン火山。こちらも大きな観光地となっています。地元の人は昔から健康を損ないながらも火山から出る硫黄を掘り、それを売ってきましたが、現在は国立公園になったため、観光客が詰め掛け観光産業化している状態です。

ドレクセル大学の火山学者 Loÿc Vanderkluysenさんは、「かつての採掘者たちはガイドや運搬役となりかわり、硫黄が詰まった重いカゴを肩にのせたまま観光客たちと写真を取ったりしています。「彼らをせめるわけにはいきませんが、硫黄の採掘よりはよっぽど健康的なライフスタイルでしょうし、お金も採掘業よりはいいはずです」と言います。インドネシアは悲しいことに火山の災害が多く、周辺に住む人々の生活を脅かしていることは確かです。

火山を危険と考えるのは「侮辱」

しかし火山は恐れられるだけの存在ではないのです。インドネシアの火山のおかげで、穀物がよく育つ土壌、新鮮な水路、家畜のための野草、綺麗な空気と美しい風景が存在するのです。インドネシアのコミュニティには火山と強い文化的なコネクションがあり、ジャワ島の少数民族テンゲル人は、毎年、火口に山の神へお供え物をする風習があります。

またキラウエア周辺に住んでいる人たちもスピリチュアルな儀式をよく行ないます。キラウエアを創ったのは、人々に畏れられる火山の女神ペレと言われています。ハワイ以外の人には理解しがたいことかもしれませんが、火山の噴火に対して住民は畏敬の念を抱いているのです。去年のキラウエアの噴火の際、車が溶岩に飲まれていく様子が報道されました。しかし、その車の持ち主は車を失ったことを簡単に受け入れたそうです。それはハワイ特有の態度なんだそう。

同じようにニュージーランドのマオリ族の人たちも火山はひとを脅かすもの、とは捉えていないそう。ニュージーランドの人たちにとって一般的に火山を「危険」と考えること自体かなりの侮辱にあたるとのこと。


火山の近くに住むことを強いられている住人もいる

ハワイ大学の火山学者Bruce Houghtonさんによると、もちろん火山へ畏敬の念を抱いておらず、必要があるから住んでいる人も多いのは事実で、例えばキラウエアの傾斜地は噴火で被害を受けるリスクが高いため、土地が安いのです。安いから住んでいる、という人も多くいると言います。

他には悲劇的な結果により火山の近くに住むことを強いられている人たちもいます。カリブ海に浮かぶ火山島、セントビンセント島はヨーロッパから初めて人がやってくるまで島民は海岸沿いに住んでいました。しかし1760年代にイギリスの植民地になってからは、島民がスフリエール火山の方に住まいを追いやられました。1812年、大噴火により火山周辺のプランテーションで働いていた奴隷たちが多く亡くなることがありました。

1902年〜1903年の再びの大噴火のあと、農民奴隷の子孫たちは白人の子孫たちのような生活を建て直すための金銭的な補助がもらえなかったことも。現在でも彼らは火山の北側に住んでいて、島の中でも一番貧しい生活を送っているのです。


火山の存在は、いい意味でも悪い意味でも大きなもの

こういった火山噴火の被害による金銭的な問題で、火山の周辺に住むのをやめて引っ越していく人もいますが、家族や親戚、友達、仕事、そして愛着があるため、引っ越すのは簡単なことではありません。火山噴火の危険があるからと言って、周辺に住む人たちはそれが理由で引っ越していくケースは少なく、逆に噴火があった場合どうするか、政府はどのように援助してくれるかなどを考えることが多いそうです。

世界中の活火山の近くには何百万という人たちが住んでいますが、噴火という悲劇によって家を捨てなければいけない人たちは半分もいません。どこに住んで、どこで育つかは、どんな大人になっていくかに大きな影響を与えます。火山周辺で育った人たちにとって火山の存在は、いい意味でも悪い意味でも大きなものです。彼らにとって火山は人生の一部分なのですから。「火山て危ないのになんで住んでるの?」と最初に思っていた気持ちがすっかり変わりました。