音楽フェスの大失敗を描く2本のドキュメンタリーが、「インターネットの病」を浮き彫りにした

インフルエンサーたちによる“拡散”で、超高額チケットの95パーセントが48時間で売り切れた豪華音楽フェスティヴァル「Fyre Festival」。その前代未聞の大失敗を描いたドキュメンタリー作品を、NetflixとHuluのそれぞれが制作・公開した。2本のドキュメンタリーが同時に公開されたことは何を示唆するのだろうか。そして“大失敗”から時を経たいま、再考すべきエンゲージメントのルールとは。
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前代未聞の大失敗に終わった豪華音楽フェスを企画したジャ・ルール(左)とビリー・マクファーランド。PHOTOGRAPH BY NETFLIX

よくできた話には悪役が必要だ。最近の記憶にあるなかで最もよくできた話のひとつが、スーパーモデルも参加するバハマでの贅沢な時間を約束していた音楽フェス「Fyre Festival」(ファイア・フェスティヴァル)の大失敗[日本語版記事]である。

このあまりに見事な失敗ぶりを受けて、くだんの“大失敗”に関する2本のドキュメンタリー映画が2019年1月中旬に公開された。しかも同じ週にである。

責められるべきは主催者かインフルエンサーか

Netflixが公開した『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』と、Huluの『Fyre Fraud』(日本未公開)は、いずれも同じテーマを扱う。つまり、リッチなミレニアル世代をターゲットに派手な宣伝を繰り広げた末、見るも無残に失敗した祝宴についてだ。しかし、この大失敗の責めを誰が負うべきかについての両者の結論は、やや異なるものだった。

『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』が焦点を当てたのは、ビリー・マクファーランド。このフェスの運営元であったFyre Media(ファイアメディア)の代表であるラッパーのジャ・ルールのビジネスパートナーであり、彼とともにすべてを企画していた人物だ。

これに対して『Fyre Fraud』は、さらに踏み込んでいる。宣伝に加わったすべての者に責任があると指摘しているのだ。

いずれの主張にも、十分な根拠があると言えるだろう。マクファーランドはどちらのドキュメンタリーにおいても、資金も時間もなくなりそうななか、次第に規模が膨れあがっていく豪華なフェスティヴァルを強引に推し進めた人物として描かれた。

一方で、フェスを宣伝した人々(主にソーシャルメディア上のインフルエンサーたち)はInstagramで、実態について何の保証もない無名のイベントを売り込んだ。

2本の同時公開が示すインターネットの病

しかし、いずれのドキュメンタリーも最終的には、真の悪者はインターネットによって増幅されたある心理現象だと結論づけた。それは「FOMO」、つまり「fear of missing out(取り残されることへの不安)」である。スマートフォンを握りしめてInstagramにとりつかれる、多くの人々の心理状況を定義づける概念だ。

それぞれの作品は、フェスの参加者たちが抱いた「ソーシャルメディアにいる大勢の美しい人々」が約束した体験に、進んで飛び込みたいと思った彼らの意欲を批判すると同時に、また別のFOMOがあることも描き出している。

それは、Fyreの破綻を見て、その不幸を喜ぶ気持ちの上に築かれるFOMOだ。

このFOMOは、かつてFyre Festivalが危機的状況に陥ったときに一度起きたことだが、NetflixやHuluが今回のドキュメンタリーを競うように公開したことに伴い、再び発生している。より多くを求めるストリーミング時代だからこそ、起こり得る現象だ。

いまや、世界で最も素晴らしいといえるドラマの数々が、ネット上で公開されている。そうしたなか、この前代未聞の大失敗についてのドキュメンタリーが制作されるのは至極当然のことだといえる。

しかし、1本のみならず2本のドキュメンタリーを求める視聴者の欲求は、ソーシャルメディア上のインフルエンサーを追いかけてFyre Festivalへの参加を決めた人々と同じぐらい、破綻の様子を見たがっている人々がいることを示している。

インフルエンサーたちの影響力

Fyre Festivalが突如として注目されたのは、2017年1月のことだった。モデルでインフルエンサーのケンダル・ジェンナーが、自身のInstagramで、フォロワー1億人に対して同フェスの告知を行ったのだ(現在は削除されているが、この投稿に際し彼女に25万ドル=約2,760万円が支払われたと報じられている)。

ほかにも、ベラ・ハディッド、エミリー・ラタコウスキーやヘイリー・ボールドウィンのようなモデルやインフルエンサーたちが、自身のアカウントで「#fyrefestival」のハッシュタグをつけて宣伝した。

投稿の多くは目を引くオレンジ色の正方形が入ったシンプルなものだったが、何百万という「いいね!」を獲得した。こうして、コーチェラ・フェスティヴァルとバーニングマンが合わさったような、最もホットで贅沢な最新の音楽フェスとされたFyre Festivalにまつわる、いくつものニュースを生み出すサイクルが形成されていった。

とはいえ、本当に宣伝効果をもたらしたのは、1分40秒のコマーシャルだ。それは100万人のインフルエンサーのアカウントから絞り出された果汁が、上質のバルサミコ酢のようになるまで濃縮された、としか説明できないような動画だった。

信じられないほど青い海を横切る数々のヨット。白い砂浜に物憂げに横たわる引き締まった体のモデルたちは完璧な構図で映しだされ、花火や、一流ミュージシャンによる演奏が約束された。主催者たちが謳った通り、全てが「贅沢な体験」であるかのように見えた。

もう少し具体的に言えば、Fyre Festivalは「不可能の境界線上に」存在する、「かつて麻薬王のパブロ・エスコバルが所有していた島」で、「最高の食事とアート、音楽と冒険」が楽しめる、夢のような体験だと謳っていた。

なんだか訳の分からないマーケティングに聞こえたとしたら、それはまさにそうだったからだ。CMのディレクターを務めたブレット・キンケイドは『FYRE:夢に終わった史上最高のパーティー』のなかで「『夢とヴァケーション、そしてコンセプトを売る』ためのものだった」と、そのCMについて説明している。さらに別の人物は、主催者たちは「人々が欲しがるヴィジョンを売っていた」のだと語った。

そして、これは実際に売れた。Netflixのドキュメンタリーによれば、発売開始から48時間でチケットの95パーセントが売れたという。チケットの価格は1,500ドル(約17万円)から25万ドル(約2,760万円)だった。

一部では、この「限界を超える前代未聞の体験」をするチャンスを逃すまいと決心した人は10,000人を上回ると推測されている。「Fyre Fraud」のなかで、ソーシャルメディア・ストラテジストは次のように語る。「Fyre Festivalが証明したのは、影響力とはリアルなものだということだ」

悪名高き「サンドイッチの写真」が示したこと

しかし、さらにリアルだったのは、巨大フェスティヴァルを開催するにあたってのロジスティクスに関する悪夢だった。どちらのドキュメンタリーも、その惨事を極めて詳細に描いている。

わずか数カ月という短期間ですべてを計画した主催者たちは、次々と問題に直面した。

パブロ・エスコバルが所有していた土地の管理人と衝突した結果、フェスの開催地を別の島へと変更を余儀なくされた。変更先のエグズーマ島では、同じ週末に大規模なレガッタ(ボートレース)が開催されることになっていたため、島の限られたインフラには負荷がかかっていた。

インフルエンサーたちが宿泊するためのヴィラは準備が不十分で、フェスの参加者の大半が泊まる「ジオデシックドーム(半球形の構造物)」は、実際には災害時用のテントだった。しかも、前夜の雨で水浸しになっている始末だ。

参加者たちが島に到着したとき、彼らが目にしたのは泥だらけの乱雑な建設現場だった。そして、多くがインフルエンサーである彼らは当然のことながら、そのすべてをInstagramに投稿した。

しかしネット上で拡散され、Fyre Festivalの化けの皮を剥いで実態を露呈させたのは、たった1枚の写真だった。いまや悪名高き、“チーズサンドイッチ”の画像だ。

PHOTOGRAPH BY NETFLIX

「(メディアで)言及されず、見過ごされてきたと思うことがあります。Fyre Festivalを築きあげたのは、影響力のあるモデル数人の『オレンジ色の正方形ロゴ』の投稿でした。その化けの皮を剥いだのは、フォロワーおよそ400人程度の青年が投稿した『トーストにチーズが乗った1枚の写真』のトレンド入りだった、ということです」

Netflixのドキュメンタリーでこう語るのは、ミック・パルシュッキ。Fyre Festivalのソーシャルメディアマーケティングを手伝うべく雇われた、ジェリー・メディアの最高経営責任者(CEO)だ(ジェリー・メディアが、Netflixのドキュメンタリー制作陣とも提携していることは注目すべき点である)。

エンゲージメントの“ルール”

マクファーランドは、こうしたすべてにおいてわかりやすい悪者という印象だ。20代の「テック系起業家」を自称していたマクファーランドは、この“大失敗”のあとも詐欺行為を続けた。グラミー賞授賞式のような、なかなか入場できないイヴェントのチケットを、所有していないのに販売していたのだ。最終的には、Fyre Festivalに関する2件の通信詐欺で有罪の判決を受け6年間の懲役を言い渡された

インフルエンサーたちも印象悪く描かれている。こうした人々が、主催者たちの絵空事だったフェスティヴァルを増幅させた張本人だからだ。集団訴訟の被告として「氏名不詳」の100人が名を連ねている理由の一部も、そこにある。

裁判を起こした弁護士のベン・メイセラスは、『Fyre Fraud』のなかでこう語っている。「写真を投稿して、ハッシュタグでそれが広告であることを示さなかった場合には、ある程度の責任を負います。そうしたメッセージを、インフルエンサーたちに対して発信したかったのです」

インターネット上では、責任という縛りから簡単に逃れられるように思えることもある。マクファーランドは『Fyre Fraud』のインタヴューのなかで、「インターネットにルールなんてない」と発言している(ちなみにこのインタヴューのために制作側が彼に報酬を払ったと報じられている)。

しかし、最近ではそうした風潮は問題視されるようになった。インターネットの世界は、少なくとも20年にわたって「ワイルド・ウェスト(開拓期の西部=無法地帯)」と呼ばれてきたが、この場所はいまやさまざまなかたちで耕されている。そして悪党たちは、少なくともオンラインや長編映画のかたちで、さらし者にされている。

米連邦取引委員会(FTC)は、インフルエンサー文化に特化したガイドラインを作成し、人々がプロダクト・プレースメント広告をいかに識別可能なものにすべきかをまとめている。結局のところ、たとえインターネットにルールがなくても、社会にはルールがあるのだ。


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TEXT BY ANDREA VALDEZ

TRANSLATION BY MIHO MORI/GALILEO