アメリカと日本のアニメーションが混ざり合う――『スパイダーマン:スパイダーバース』アニメーター・Hiroya Sonoda氏インタビュー

「何をしてもいい。とにかくカッコよくしてくれ!」

アメリカと日本のアニメーションが混ざり合う――『スパイダーマン:スパイダーバース』アニメーター・Hiroya Sonoda氏インタビュー
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2019年3月8日より、全国で公開が始まった『スパイダーマン:スパイダーバース』(以下、『スパイダーバース』)。オリジナルのスパイダーマンである、ピーター・パーカーの死というショッキングな物語から始まり、複数の次元からやってきた、様々なスパイダーマンたちの冒険を描いたアニメーションだ。

本作の特徴は、他の次元からやってきたスパイダーマンを表現するために、主人公それぞれのデザインやアニメートが異なることだ。メジャータイトルでありながら、アバンギャルドな表現も多く含んだアニメーションである。そんな本作がどんなふうに制作されたのかを、『スパイダーバース』に参加したアニメーターであるHiroya Sonoda氏(@Mike_sonohilo) にうかがった。

「何をしてもいい。とにかくカッコよくしてくれ!」と言われた制作現場


――『スパイダーバース』、アカデミー賞の長編アニメーション賞を受賞、おめでとうございます!

Hiroya Sonoda(以下、Sonoda):ありがとうございます!

――『スパイダーバース』では複数の次元から主人公が集まる世界を描いていますよね。次元ごとにキャラクターデザインも、アニメートも異なっているアニメを、Sonodaさんはどんな風に制作されていましたか?

Sonoda:最初にアニメーションを制作する前、“キックオフ”っていう、ディレクター、アニメーション・スーパーバイザーと集まるミーティングがあるんです。すごくスタイルが異なるキャラクターが何人かいたので、どういうものをディレクターが欲しかったりするのかを確認していくんですね。

それから“リファレンス”という、制作にあたっての参考動画が用意されます。キャラクターを描く前に、きちっとそれを見て「この映画はこんなイメージだよ」と、ディレクターが思い描いているものを共有していました。

――SonodaさんはTwitterで「予告編のここのショット担当してましたー!」とツイートされていますよね。道路上のアクションで、一瞬アメコミ的な表現になる面白いシーンを描くときに気を付けた点はいかがでしょうか。

Sonoda:構図はすごく意識しましたね。すごく綺麗で、みんながカッコいいと思うような構図を作るように心がけました。あそこだけ少しスローになり、みんなの印象に残りやすいシーンだったので。

――今回の『スパイダーバース』は3Dアニメーションですが、まるで日本のアニメーションのような、3コマ打ち(※)のアニメートが印象深いです。アメリカの普遍的な3Dアニメーションと違い、きびきびしたアニメートで新鮮でした。

(※3コマ打ち 1秒間に8枚で動かす、日本の商業アニメ―ションで基調となる動画枚数。よく「ヌルヌルした動き」と評されるアニメートは、1秒間に24枚で動かす1コマ打ちと呼ばれる。ディズニーのアニメーションや、初期の東映動画はこちらを基調にしていた。)

Sonoda:特に海外ではすごく珍しい試みだと思いました。アニメートするのに1コマ打ちと2コマ打ちがあるんですが、これを統一というか、ルールとして決めずに、「アニメーターの方で好きにやっていいよ」っていうふうになっていました。

――えっ!アニメーターそれぞれの裁量で各シーンが描かれる作り方をされていたと。

Sonoda:そうですね。あまりにもカクカクしすぎるアニメートになったときは、ディレクターやアニメ―ション・スーパーバイザーから「ちょっとここは1コマ打ちにして」って言われるんですけども、ほぼほぼアニメーターに任せてました。スーパーバイザーからは「何をしてもいいけれど、とにかくカッコよくしてくれ!」って言われました。

――そのお話を聞くと、日本のアニメーションで著名なアニメーターさんが自分のテクニックを存分に発揮する、いわゆる作画アニメの現場みたいにも感じますね。『スパイダーバース』は日本のアニメーションみたいだと感じるシーンが多いです。

Sonoda:あーなるほど!日本のアニメーションはすごく意識して、研究しましたね。僕は日本の会社でも仕事をしていて、日本のアニメっぽい表現をやっていました。なので、『スパイダーバース』は馴染みがあって、やりやすい仕事のひとつでした。

――アメリカと日本のアニメーションがきれいにミックスされてますよね。制作中、日本のアニメや、その他、世界のアニメで影響を受けた作品はありますか?

Sonoda:僕が影響を受けたのは『NARUTO」ですね。1フレームごと送って観たり、すごく研究しました。あとは『ルーニー・テューンズ』です。『スパイダーバース』の主人公のひとり、ブタみたいな見た目のスパイダー・ハムがすごくポニョポニョした感じなので、スカッシュ&ストレッチ(※2)がすごく効いた、『ルーニー・テューンズ』の雰囲気を入れてほしいと言われましたね。

(※2 “Squash & Stretch”――アニメーションの基本原則の一つ。肉体やボールのように弾力のある物体が動くとき、その勢いに合わせて物体の形も変える手法。たとえばボールが地面にバウンドする瞬間、真球の形ではなく、楕円型に押しつぶされてから跳ね返ることで、勢いを表現する。『ルーニー・テューンズ』はそれを、極端に表現したアニメーション。)

日本からカナダへ移り、アニメーションを作るということ

――Sonodaさんは2014年に『アメイジング・スパイダーマン』のファンアートをTwitterをアップしていますよね。今回の『スパイダーバース』を制作できたのは、念願がかなったものだったのかな、と思ったりしたんですよ。

Sonoda:いやー、本当にそうですね! カナダに来る前に『アメイジング・スパイダーマン』を見て、「カッコいいなー!」と感じたんです。いつかスパイダーマンの映画に携われたらいいなあと思って、カナダへ行きました。

――あらためてSonodaさんが海外で働くようになった過程は、どのような形なのでしょうか。

Sonoda:日本の大学を卒業し、ゲーム会社で働いたのちに、フィリピンにある語学学校に3カ月いました。そのあとカナダに移住し、現地の語学学校へ通っていました。そこで自分の作品を、アニメーション制作会社に送っていたんです。そして制作会社から「うちに来ないか? 面接したいんだけど」というメールが来て、キャリアがスタートした感じですね。

――カナダでアニメーションを制作をするようになり、お仕事とライフスタイルはどのように両立されていますか? ビデオゲーム業界の話ですが、以前カナダ在住のゲーム制作者が仕事とライフスタイルの双方を充実させるトークセッションをお聞きしました。アニメーションではどんな感じなのかうかがえれば。

Sonoda:たぶん海外では、アニメーターという職業がリスペクトされているのだと思います。お給料もちゃんともらえますし、許可が下りないと残業ができなかったり、残業もそこまでする必要もなかったりする時もあります。そういう時はみんな、家に帰って自分の趣味の時間を過ごしているのかな、と思います。

あとは1日8時間を働ければ、何時に出社してもいいという形です。だいたいの出社時間は決まっているんですが、たとえば「残業を2時間やってほしい」と言われたときも、朝いつもより2時間早く出社して、定時に帰ることもできるんです。

――ワークスタイルも一人一人の裁量でやりやすいんですね。『スパイダーバース』がアニメーターそれぞれの裁量で作られていたことも含めると、そんな自由さも映画に出ている気がします。

Sonoda:そうだと思いますね。逆にみんな趣味や休日でちゃんとリフレッシュして、また会社で仕事を始めるので、クリエイティブな部分が思いつきやすかったりするのかな、と思います。

日本とアメリカのアニメが混ざり合う現在


――Sonodaさんが最も影響を受けたアニメーションや、もしくはアニメーターさんはいかがでしょうか。

Sonoda:僕は『モンスターズ・インク』に一番、影響を受けたと思います。あのアニメを観て、この業界に行こうかなと思うきっかけになった作品です。アニメーターでは、日本では吉成曜さんと、すしおさんですかね。

――昔のガイナックスや、TRIGGER系のアニメーションがお好きなんですね。

Sonoda:『フリクリ』が大好きです! Twitterにアップした、Blenderで作ったキャラクターもカンチをちょっと意識しながら作ったんですよ。

――わかる気がします(笑)!最近の海外のアニメーションやビデオゲームに触れていても、日本のアニメーションのクリエイティブとどこか混ざり合ったものを見かける印象があります。実際の制作現場でも、日本的な表現が入っている印象はありますか。

Sonoda:僕も同じように、日本の要素が入ってきているなあと感じましたね。たぶん日本で仕事をされていた方が、海外に行きやすい環境になって、そういうキャラクターデザインやアニメーション制作で、以前よりも日本人の方と関わることが多くなったと思います。

あと、いま働いている人たちは日本のアニメを観て育ったという方が多いです。仕事のとき、チャットで僕が知らないようなアニメを「このアニメ知ってる?」って言われたりするくらい、広く観ているんです。みんなも同じように日本のアニメを研究していて、仕事に取り入れているのかな、と思いますね。

――日本人も海外で働きやすくなったとのことですが、Sonodaさんの身の回りでも日本人アニメーターは増えていますか?

Sonoda:本当に多いですね。ここ2、3年で増えたと思います。僕がソニー・ピクチャーズ・イメージワークスに入ったときは、日本人アニメーターは4人だったんですけど、今は8人になりましたし、他の会社さんでも日本人を呼んでいるんです。

けっこう、現地で働かれている方が情報を発信していて、それを読んだアニメーターが「海外に行ってみよう。挑戦してみよう。」と思う方が増えたのかなと思いますね。

――最後になりますが、Sonodaさんは『スパイダーバース』に関わって、どんなタイトルと感じましたか。

Sonoda:僕は『スパイダーバース』が人生で初めて、制作の初期から参加したプロジェクトなので、本当に思い入れの強い作品になりました。主人公であるマイルズの心情や葛藤を丁寧に描き、いままで見たことのない、スタイリッシュなビジュアルと、迫力のアクションが描かれています。老若男女問わず、大きなスクリーンで観てもらえれば!

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