インタビュー

ヤマトらしい美術を「愛」と「根拠ある理由」で支える「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」美術監督・谷岡善王さんインタビュー


2019年3月1日(金)から劇場上映されている「第七章『新星篇』<最終章>」をもって「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」全七章が堂々完結を迎えます。ヤマト直撃世代である羽原信義監督を筆頭に、ヤマトと縁の深いスタッフが揃って作品を作り上げていますが、美術監督として作品を支える谷岡善王さんもまた「愛」をもってヤマトに挑むスタッフの1人。しかし、最後は「愛」が必要だとはいえ、その前提としてしっかりと理由を説明できるような根拠を持って絵作りに取り組んでいます。

今回、谷岡さんにインタビューする機会が得られたので、美術監督としてのお仕事について、そしてヤマトについて、いろいろなお話をうかがってきました。

宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち
http://yamato2202.net/

株式会社美峰
http://www.bihou.com/

Q:
この「宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」で、谷岡さんが担当するお仕事の範囲はどういった部分ですか?

美術監督・谷岡善王さん(以下、谷岡):
「美術監督」というのは背景の管理をする仕事です。その前に、まず「背景」というのは、アニメーションの画面内で「動かないもの」を主に作る仕事というとわかりやすいと思います。たとえばキャラクターの後ろにあるビルや山、「ヤマト」でいえば宇宙などを描く仕事です。その背景をまとめてどういう方向に持っていくか、背景の品質を一定以上のレベルに管理するというのも美術監督の仕事です

Q:
第一艦橋の内部などのように、ヤマト自体が背景になるという事例もあるんですよね。


谷岡:
そうですね。ヤマト艦内もキャラクター以外は背景として描いています。艦内通路や機関部の波動エンジンといったところも含むので、機械類も背景として描くことがあります。

Q:
背景は手描きがメインなのですか?

谷岡:
基本はデジタル作業で、Photoshopによる手描きです。第一艦橋のように、何度も登場するような場所の場合はあらかじめ3Dモデルを作っておいて、それを該当するカットで必要な形に切り出して、2Dでレタッチして仕上げるということもしています。

Q:
谷岡さんの仕事としては「美術ボードを作成して背景スタッフさんに振り分ける」とパンフレット等に書かれていましたが、自身でも描かれることはあるのですか?

谷岡:
キーとなる部分は「クオリティの基準となるもの」を出す必要があるので描きます。また、上がってきたものについては納品レベルに合わせるために手を加えているので、私が実際に手を動かして作業する部分が少なからずあります。

Q:
キーとなる部分というのはどう選ぶのでしょうか?

谷岡:
もちろん「ここ、やりたいな」と思う場所もありますが(笑)、「基準になるものを作る」という前提をもとに選んでいます。ヤマトの場合、架空の星を描くこともありますので、そういったところは自分で描くことでスタッフに「これはこういうものだよ」と伝えられるようにしています。自分が理屈を理解していないと、スタッフに説明することができないですから。

Q:
名作のリファインということで、美術的に意識したことなどはありますか?

谷岡:
過去のデザインを継承している部分は確かにありますが、「2199」のときと同様に設定から根本的に変わっている部分があるので、「リファイン」というよりは「リビルド」かなと。一度、ヤマトの要素をばらしてから現代の形に組み直すという形です。「2202」だと時間断層という新たな設定も加わっているので、副監督の小林誠さんのアイデアやビジュアルも踏まえたものを考えています。旧作のイメージを持っている方もいるので、あまりイメージの乖離はしないように組み直しています。

時間断層


Q:
具体的に過去の作品と違うところはどういった部分ですか?

谷岡:
一例は「ズォーダーの間」です。「さらば」では、地球の善に対してズォーダーは悪という構図があったと思いますが、「2202」では「考え方の違い」「意識の違い」という視点で語られているので、善悪ではなく思想の違いみたいなところを出しています。都市帝国の内部も、「さらば」では王室っぽく作られている部分がありましたが、まったく異なる文化圏のものとして描くようにしました。


Q:
谷岡さんが考える、「ヤマト」たらしめる部分、変えてはいけない部分はどういったところでしょう?

谷岡:
「イメージ」ではないかと思います。たとえば「波動エンジンや波動砲のボルトはオレンジ色」とか……。


Q:
ああー、わかります。

谷岡:
あれが赤や白になると別物になってしまいますよね。過去の作品で強烈に決まっている色というのがあるので、そこはいじらないようにしています。

Q:
ヤマト的に見える色、多い色というのはあるのですか?

谷岡:
やはりグレーが多いですね(笑)

(一同笑)

谷岡:
グレーのバリエーションが多いと思います。アンドロメダにしてもグレーですし、他の艦(ふね)もグレーなので、そこで差を付けるようにしています。たとえば、床や壁のパネルラインに沿って、パネルごとに色を変えてみたりしています。あとは質感ですね。ヤマトとアンドロメダのように新旧の艦が出てくるので、これは羽原監督からの要望でもあるのですが、ヤマトの艦橋はわりとマットな質感にして、金属感はあるもののつやは減らしています。一方、アンドロメダの艦橋は新造艦なので、ハイライトが多くピカピカで映り込みも多いです。それぐらいのニュアンスをつけて、新旧の差を出しました。


谷岡:
「2202」の第一話では古代が「ゆうなぎ」に乗っていて、あとアンドロメダ、そして司令室がカットバックで出てきます。そこで新旧の比較になるので、「ゆうなぎ」はハイライトを抑えたマットな質感に、アンドロメダと司令室は新しく作られたものなので、ピカピカの質感になっています。

「ゆうなぎ」艦橋


ちなみに、最新鋭艦である「銀河」艦橋はこんな感じ。


Q:
旧作でも、そういった色の使い方はされているのでしょうか?

谷岡:
復活篇ぐらいまで来ると金属感を強めに出しているケースもあるかなと思いますが、最初のシリーズは全体的にマットな質感だと思います。

Q:
それは、金属的な色の出し方が昔は難しかったなどの事情があるのでしょうか。

谷岡:
そういうわけではないと思いますが、時間的な部分で、アナログからデジタルに移行して、いろいろな作業の時間短縮ができるようになったというのはあるかもしれません。昔は物理的に絵の具で描かなければいけないので、絵の具を混ぜて色を作ったり、塗った絵の具を乾かしたりする時間が必要です。そこにハイライトを入れるとなると、色を塗った後に乾いてから描く必要があって工程が増えます。工程が増えるということは時間がかかるということなので。一方で、デジタル作業には絵の具を作る時間も、乾かす時間も不要なので、踏み込んだところまでできるようになったというのはあると思います。

Q:
「2202」には「地球」「ガミラス」「ガトランティス」と3つの勢力が出てきます。ガミラス人の肌の色は青、ガトランティスは緑と、ぱっと見て色の違いがありますが、美術的にはどういった違いがあるのでしょうか。

ガミラス星の壊れたバレラスタワー


谷岡:
まず、地球は「なるべく僕らが見慣れているもののちょっと先」というイメージをしました。ガトランティスとガミラスに関しては、描いていくうちに掴めてきた基準があります。ガミラスだと「ガミラス大理石」というのがあるんです。ガミラスの艦艇で、艦橋などに模様の入った黄色いパネルが使われていますよね。あれはガミラスの勢力圏内で採れた材料が使われているということで統一されています。ガトランティスは「これはどういう材質が使われているんだろう」と考えて、僕の中で「甲殻類の殻のような質感」ということをもとにイメージを膨らませていこうかなというのがありました。たとえば、ゴーランド艦の床はちょっと粒々のすべり止めがあるんですが、これは蟹の甲羅の表面のような感じをイメージしました。

Q:
それぞれに「色」だけではなく「質感」でも違いを出しているということなんですね。

谷岡:
そういうことです。それが大まかに文化、思想の違いに見えてくれればいいなと。

Q:
そういった、いわゆる「設定」の部分も谷岡さんが考えられているのですか?

谷岡:
主な設定については小林誠副監督が、羽原監督と細かく打ち合わせをして作っています。たくさんの設定画があり、その設定をどう使えばいいのかという説明書をつけてくれているので、それをもとに実作業に入っています。さらに細かい部分まで設定が必要になるという場合には、社内にいる美術設定の青木(薫)が描き起こして、背景に反映させています。

Q:
いろんな人の力が加わって美術は完成していると。

谷岡:
そうですね。あくまで、僕からいきなり生まれるわけではなく(笑)、監督のイメージを小林さんがビジュアル化し、そこに僕が空気感などを加えて、最終的な画面に近いものができあがるという流れです。

Q:
小林さんの設定はかなり細かくできている状態なのですか?

谷岡:
場所にもよりますが、たとえば「滅びの方舟」や都市帝国は小林さんが3Dモデルと詳細な設定を作られていて、立体的にどういうものかわかる状態になっています。線画で描かれた設定の場合は「こう使って欲しい」「こうすればカッコいいんじゃないか」と、説明書にイラストと提案が入っていました。


Q:
設定には色はついてるのですか?

谷岡:
その時点では色はついていないですが、中には色のイメージもメモされているものがあります。

Q:
色のイメージがないものは谷岡さんで作り上げられると。

谷岡:
いったん監督から色のイメージをうかがって、それを美術ボードにしてチェックしてもらい、OKが出たら背景作業に入るという形です。

Q:
ヤマトといえばグレーというお話でしたが、ガトランティス側だとおどろおどろしい色も多いですよね。

谷岡:
ガトランティスに関しては「ズォーダーの間」の美術ボードが最初に上がりました。あれは、最初に小林さんのほうで簡単に色を出してもらっていて、ガトランティスの基準になりました。そういった、キーになる部分に関しては小林さんがラフで色をつけてくださっています。

Q:
それをもとに発展させていくと。

谷岡:
背景に落とし込むために、自分なりに「なぜこの色なのだろう」と理屈をつけていきました。理由付けをするのは、たとえば引きだとなんとなく絵として収まっていても、寄ったときにその色である理由がなければ入れられないということがあるからですね。「オレンジ色に光っているのはなぜなのだろう」とか、そういうことも1つ1つ理由付けして、自分の中で落とし込んでいきます。それをしないとスタッフに伝わらず、アップの絵になったときに「単に引きの絵から切り取っただけ」のものになってしまうので、「なぜこんな色なんですか?なぜこんな材質なんですか?」と聞かれてもできるだけ答えられるようにというスタンスで作っています。

Q:
美術監督さんはもちろん絵が上手い方なのだとは思っていたのですが、作品に対する読解力というのも必要になってくるんですね。

谷岡:
むしろ、そこが一番かもしれません。シナリオや絵コンテ、レイアウトを読む力ですね。「このカットでは何を見せたいのか、何を語らっているのか」というのを読み取って反映させていくことが必要だと思います。アニメーションの絵は1枚ではなく連続してつながっていくので「流れ」というのを大切に、ということです。ある一枚の絵として、キャラクターに注目してもらうということであれば背景は弱めにということになりますが、その後の動きがあって背景にも目を向けてもらわなければならないなら、そういう意図を出す必要があります。そういうことをレイアウトから読み取って作業するようにしています。

Q:
谷岡さんが描かれる「美術ボード」というのは、どれぐらいの速さで仕上がるのですか?

谷岡:
ものにもよるのですが、第七章のキービジュアルのようなものだとだいたい1日です。普通の背景美術の場合、僕らは新人のときから1日に3枚~5枚は描いています。それは、先輩からそのように教わったというのもあるし、それぐらい描かないと生き残っていけないというのもあるのですが(笑)、アニメーターの方と同じように数を描くのが大事です。ヤマトの場合、込み入った絵が多いので、第一艦橋のレタッチとかだと3~4時間ぐらいですかね……。このビジュアルの場合は描くサイズが大きいので時間がかかっているという感じで、基本は「1日以上は描けない」というところです。

Q:
まさかこれほどの絵を1日で仕上げておられるとは思いませんでした……。

谷岡:
むしろ「どういうものにしようか」と考える時間の方が長いかもしれません。監督からイメージはいただいていたのですが、仮で色を作ったりしつつ、どうしようかなと1~2時間ぐらい考えて、過去の「さらば」の本を見て「そうだ!こうだった!」と気持ちをアゲながら(笑)

Q:
手を動かす作業もですが、頭を使う時間もかなりかけられている?

谷岡:
ボードの場合は、実作業より考えている時間の方が長いかもしれません。簡単な色のボードであれば、実作業は1時間もかからないんですけれど、どういう風にするかを考えるのに2~3時間は使っていたりします。資料を読んだり、コンテやシナリオを読んで流れを読みこうした方がいいかなと考えたり……そっちに時間を割いています。

Q:
今回、全七章立てですが、美術ボードはどれぐらい描かれたのですか?

谷岡:
枚数は……話数ごとに数が上下しますが、ラフも含めると300枚から400枚ほどはあると思います。

Q:
それは他作品と比べて多いですか?

谷岡:
多い方だと思います。特に第四話、ヤマトが海中から発進する話数はキャラクターの心情変化や時間経過が丁寧に描かれていたので、シーンごとに簡単な色味ボードをほぼほぼ作りました。ヤマトが海底へ出ていって海上へ出るまで、一連の流れについて「これなら納得してもらえるだろう」というものを目指して、細かく色を作って検討しました。

Q:
ご自身で美術としてこだわったシーン、印象的なシーンはどういったところですか?

谷岡:
第十一番惑星は面白いなと思いました。小林さんからざっとした色味はもらっていて、それが緑色の惑星ということだったんです。


谷岡:
なぜ緑色なのかというと、人工太陽が地球では発生しないような色で照らしているからなんです。斉藤たちがいたスタジアムは地球の光源で照らしているので普通の色味なんですが、それ以外のところは人工太陽に照らされているから緑色だと。つまり、異なる文化の存在を示しているということで、そういったことがストーリーの意図とも演出意図ともマッチして面白いなと思います。


Q:
美術のお話を聞いて改めて本編を見ると、こだわって描かれているところがさらに見えてきますね。

谷岡:
「2202」は、全部細かく語りすぎていないところが映画らしくて個人的にいいなと思っています。見返しているうちに気付きがあるという、そういう仕掛けを福井さん、羽原監督、小林さんが練り込んでいて、僕らとしてもそれを拾っていくのはやっていて楽しい作業でした。

Q:
ヤマトならではの難しさを感じる部分はありますか?

谷岡:
そうですね……「架空のものが出てくる」というところだと思います。架空のものだけれど、そこにちゃんとキャラクターがいて生活ができる場所になっている。ウソになりすぎない、ウソに見えないような存在感の作り方、でしょうか。先ほど挙げた第十一番惑星でいうと「なぜ、そのように見えているのか」という理由付けです。SFならではの、架空のものをそれらしく見せて「観ている人が入り込めるように上手にウソをつく」というのがヤマトの難しさだと思います。そして、これは大前提でもありますが「ヤマトに見えるようにする」、お客さんが「ヤマトを観ているんだ」と思えるように持っていくということです。それは理屈ではなく、自分自身もヤマトを好きなので、見聞きして蓄積してきたものをどれだけ出せるかというところで、最終的には感覚、パッションの部分があります(笑)

Q:
色だとか理屈だとかではなく(笑)

谷岡:
スタッフに伝えるために理屈は必要ですが、いまこうして話をしていて、「そこは気持ちだな」と改めて思いました(笑)。ヤマトをヤマトらしくするには「愛」です。ヤマトを観るとき、作品がいいかどうかは「愛があるかないか」というのが判断要素だと思うので、そこは絶対に抜いてはいけないものだと思います。最初に「2202」で作業したのは、「さらば」のオマージュポスター(第一章の前売券特典)だったのですが、打ち合わせで羽原監督から「これをやって欲しいんです」と言われて「これをそのままやるんですか?怖いんですけれど」と素直に伝えました(笑)。すると、羽原監督も「僕も怖いです」とのことで、それで「真正面から向き合うんだ」と覚悟を感じました。そこで腹をくくったというか、ヤマトを愛をもってやるのが今回の使命だなと思いました。

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http://yamato2202.net/news/1481076867.html


Q:
谷岡さんは「宇宙戦艦ヤマト2199」の第11話・第15話での美術の手伝いからシリーズに参加されて、「星巡る方舟」で美術監督を担当し、本作でも引き続き美術監督を担当されています。「2202」への参加が決まったときの第一印象はどういったものでしたか?

谷岡:
「本当なのかな?本当にやるのかな」ということと「自分でいいのかな」ということでした。「2199」のお手伝いや「星巡る方舟」は、ヤマトの中でもオリジナル要素の強い部分だったので、過去の映像をリメイクするというのはこの「2202」が初だったので、「あの名作に自分が手をつけていいのだろうか」と緊張しました。うれしさ半分、怖さ半分ですよね。それで最初のお仕事であるオマージュポスターについて打ち合わせをしたとき、羽原監督も怖いんだとおっしゃっていたので、覚悟が決まったというところです。

Q:
谷岡さんはもともとヤマトシリーズが好きで、特に「さらば」は一番繰り返して観てきた作品かもしれないとお話をされていました。

谷岡:
2時間ぐらいでまとまっていて見やすいということもあって、一番観ている作品だと思います。最初に出会ったのは「Ⅲ」で、それから「永遠に」「完結編」と観て最初の作品へぐるっと回っていきました。その中でも「さらば」はドラマもあって好きでした。

Q:
谷岡さんは1980年生まれで「Ⅲ」は幼稚園のとき再放送していたものに出会い、絵を描くようになったとのことなのですが、いったい、「ヤマトⅢ」の何が幼稚園児を引きつけたのですか?

谷岡:
絵の格好良さ、美しさ、音楽……幼かったのでストーリーの要素はわからなかったですが、ビジュアル要素と音楽という、いわゆるヤマトの主要な要素に心を掴まれました。

Q:
ビジュアル要素に掴まれたということは、お絵かきではヤマトを描いていたのですか?

谷岡:
テレビの再放送で観ていたのですが、当時はビデオデッキも普及していなくて「録画して繰り返し観る」ということができなかったので、ヤマトの姿をもう一度見たいと思ったら自分で絵を描いて再現するしかなかったという、昭和でアナログなお話なんですけれど(笑)。自分でヤマトを描いては「これはあのシーン、これはこのシーン」と、次の放送までそれで楽しんでいました。

Q:
すごい……!

谷岡:
親に「完結編」のレコードを買ってもらって、それを聞きながらライナーノートの絵を見て映像を想像するとか、していましたね。とにかく、絵も音楽も、ヤマトを原体験として楽しみました。

Q:
それはもう、頭に刷り込まれてしまいますね。「ヤマト英才教育」という感じですね。

谷岡:
完全に刷り込みですよね(笑)

Q:
中学生ぐらいで一気にヤマト沼にずぶずぶとハマっていったというお話がありました。小学生時代にいったん離れていた反動みたいなものですか?

谷岡:
ヤマトは小学校に上がる前に一度離れて、小学校ではゴジラとか東宝特撮が好きになったんです。

Q:
特撮好きに!(笑)

谷岡:
もう、オタクの王道みたいなところを進んでいって(笑)、また中学生でヤマトに戻ってきたという感じです。ちょうど中学生のときにOVAの「YAMATO2520」がリリースされたんですが、そのシリーズが始まる前に出た「ヤマト わが心の不滅の艦(ふね) -宇宙戦艦ヤマト胎動篇」というメイキング的なビデオが大好きで、繰り返し観ていた覚えがあります。「アニメーションってこう作られているのか」とか具体的に描かれていたので。


Q:
ちょうど、「マクロスプラス」などの作品とも重なる時期ですよね。

谷岡:
OVA全盛期という感じでしたね。でも、その中でも……ヤマトでしたねえ。やはり、魂に訴えかけるものがあったのかもしれないです(笑) 節目節目にヤマトがあるというか、原体験としてヤマトが植え付けられて、その合間にいろいろな趣味があったとしても、またヤマトを観ることで新たに開花したり……。改めて、影響を与えられてきたのだなと感じます。

Q:
多感な中学生の時期に新しいヤマトが出てきたら、そりゃ沼に沈まざるを得ないですよね(笑)

谷岡:
ヤマトって、ビジュアルも音楽も最先端を捉えていたと思うんです。「YAMATO2520」ではシド・ミードと出会えたというのは大きかったです。代表作の「ブレードランナー」も大好きなんですが、観るきっかけになりました。デヴィッド・マシューズの音楽もすごくよくて、その方の率いるマンハッタン・ジャズ・オーケストラを聞くようになり、さらに僕自身がジャズのビッグバンドに入るほどの「植え付け」がありました(笑)

Q:
節目節目に存在したヤマトが、さらに谷岡さんの道を広げていったということなんですね。なんてすごい……。

谷岡:
与える影響力が大きいですよね。それだけエネルギーが詰め込まれているんだと思います。どこを取っても、誰かしら何かしらに影響を与えるというのは、ヤマトならではの力ではないだろうかと思います。

Q:
そうやって進んでいく間も、絵はずっと描いておられたんですか?

谷岡:
シド・ミードさんの影響を受けてマネをしてみたり、漫画のようなものを描いてみたりもしました。ちょうど「YAMATO2520」は「新世紀エヴァンゲリオン」が放送されていた時期と重なるので、エヴァも観ていましたし、模写もしたりしていました。

Q:
このお仕事に進まれたきっかけは、美術系大学で、先輩が卒業制作でアニメを作ることになり、その手伝いで背景をしたことだったと第六章パンフレットのインタビューに掲載されています。なにか、背景美術の仕事に進むと決めて、やるようになったこと、心掛けたことみたいなのはありますか?

谷岡:
いま所属している美峰に入る前に、別の会社に挑戦して落ちたことがあるんです。そのとき、美術の仕事で求められているのがどういうことなのか理解できていなかったと思ったので、アニメーション専門学校に改めて通ってアニメーション美術で求められているスキルを学び直しました。絵を描くにしても、自分は美術系の大学だったので「自分の絵を描く」ことが第一だったのですが、アニメーションでは監督の要望をビジュアル化することが重要で、人と絵を合わせることも必要になってきます。それを経て、美峰に入りました。

Q:
先ほど話があったように、美術監督という職業は「絵の上手さ」はもちろん、レイアウトやコンテを読み解く能力も必要になってくるとのことなのですが、そういった能力はどうすれば養われるのでしょうか?

谷岡:
1つは「映像を観る」というのがあると思います。それと、映像の仕組みを知ることでしょうか。大学時代に実写映画を撮っていたことがあり、その頃に使っていた教科書や授業の資料には映像の基本的な事が詰め込まれていました。アニメの仕事をするにあたって改めて映像の勉強をする際、それらがとても役に立った覚えがあります。1枚絵に関しては、写真から学ぶことが多いですね。

Q:
映画というと、さきほど「ブレードランナー」の名前が出ていましたが、いろいろご覧になるんですか?

谷岡:
そんなにたくさんというわけではなくて、中学生ぐらいのときからレンタルビデオ屋さんで週に1本ぐらい借りて観ていたぐらいです。もちろん、そのころは勉強の材料としてではなく、単純に楽しむために観ていました。ただ、好きな作品は繰り返し観ることが多く、そのときに「これはどうやっているのだろう?」と気付いたことが、あとで映像を作るときの肥やしになったのかなと思います。たとえば「2202」のオープニングは、小学生のころに観ていた東宝特撮っぽさがちょっと含まれています。

Q:
十数年越しで「あのときのアレをやってみよう」と。

谷岡:
メカのカッコいい見せ方とか、ライティングとか、「アレはここで使ったらいいんじゃないかな」とかですね。

「英雄の丘」と夕陽


Q:
身に着けた知識という点では、先ほど出てきた「ガミラス大理石」だとか、あるいは光の色の見せ方といった部分は、自分がこれまでに身に着けたものをフル動員して生み出していくのですか?それとも、作品に合わせて改めて資料を読み込んで考え出すのですか?

谷岡:
普段から「気になることを調べる」という姿勢なのが、どの作品に対しても生かされているのかなと思います。スタッフにも言っているのは、たとえば「信号機の高さ」や「ブロック塀のブロック1つの大きさ」を身に着けておくと、いざ作品中に出てきたときにウソがなくなるということです。その際は、自分を定規にしたほうがよいよ、と。ブロックであれば、自分の腕の長さと比べてどれぐらいの大きさだったか把握しておけば、背景を描くときにウソではないものを描くことができるようになります。

Q:
ああー……なるほど。

谷岡:
マグカップでも、手で持ったときにどれぐらいの大きさで、手の中にどのように収まっているのかを把握しておくということです。

Q:
日常のすべてが観察対象で、そして背景美術に生かされている……。

谷岡:
そして、「なぜ雲は白く見えるのか」「なぜ空は青いんだろう」とか、不思議に思ったことなら調べるということです。

Q:
なるほど。インタビュー前に待機場所にちょうどいろいろな資料や文献が保管されていたので、美峰ではこうした過去の資料の積み重ねが作品に活かされているのかと感じました。お話にあったように、ヤマトには「架空の星」もいろいろと出てくるので「そこにも理由付けを!?」と驚きました。

谷岡:
ほとんどの理詰めは物理的なところからです。たとえば出てくる星の大気が白っぽく見えるなら、水蒸気に光が乱反射することで白っぽく光って見えているということなので、その星の大気中には水分がなければいけません。水分があるなら、もしかしたら川があるかもしれない。大気があるならこういう成分が含まれているから、空の色はこう見えるのではないだろうか……と。そういったときに指針になるのは、やはり物理的なものです。

Q:
「架空の星」であっても、我々が理詰めで追究していけば到達できる理屈で描かれている。

テレザート星と岩盤


谷岡:
これはヤマトに限らなくて、たとえばカラー写真が残っていない江戸時代や昭和初期を題材にした作品をやるときも同じように考えています。当時はロウソクやガス灯だから、光に照らされる範囲は現代よりも狭く、暗めになるだろう、といった感じですね。

Q:
電灯のイメージそのままで描いてはいけないということですね。

谷岡:
そういうことです。そうやって理屈づけをしていってようやく絵が完成します。

Q:
こうして見せてもらっている1枚の絵には、そういった知識がギュッと詰め込まれているということなんですね。ヤマト以外の話まで、いろいろとありがとうございました。

インタビューに答えてくれた谷岡さん。手にしている沖田十三像は、銅像っぽい見た目ですが3Dプリンター作成の像に着色したものです。


宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち」は劇場上映2週目。3月15日(金)からの入場者プレゼント(3週目)のキャラ原画・キャラ設定画は「永倉志織」「斉藤始」「さらば宇宙戦艦ヤマト<森雪>」です。

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