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メディアが立ち上がる時 東京新聞・望月記者を守れ、と記者たちが叫んだ夜

官房長官の記者会見は「政府に都合の良い広報の場と化していないか」。

政府が官房長官の記者会見で、記者の質問の制限や妨害を行い、市民の「知る権利」を奪っているとして、抗議する集会が3月14日夜、首相官邸前で開かれた。

参加者の多くが、メディア関係者だった。市民の知る権利や、表現の自由、言論の自由を守るために声を上げた。

その中に、当事者である東京新聞の望月衣塑子記者の姿があった。なぜ首相官邸に抗議したのか。彼女は何を訴えたのか。

集会の名は「FIGHT FOR TRUTH」。日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)が主催した。新聞、民放、出版の各労連などメディア関連の労働団体でつくる組織だ。

抗議集会のきっかけは、2018年12月26日に遡る。

この日の菅義偉官房長官による定例会見で、望月記者が、沖縄県の米軍普天間基地の、名護市辺野古への移設工事に関する質問をした。

「埋め立て現場ではいま、赤土が広がっております。どう対処するのか」

首相官邸では1日に2回、官房長官による記者会見が開かれている。官房長官は、政権の要であるとともに、スポークスマン役でもある。

この会見を主催しているのは、首相官邸にある記者クラブ「内閣記者会」だ。

その記者会に対し、首相官邸の報道室は、上村秀紀室長名で、望月記者の質問を「事実誤認」で「問題行為」と断定したうえで「事実を踏まえた質問をしてほしい」などと申し入れる文書を出した。

さらに、政府は2019年2月15日、質問が「誤った事実認識に基づくものと考えられる」とする答弁書を閣議決定した。

菅氏は望月記者の質問について「取材じゃないと思いますよ。決め打ちですよ」と発言。望月記者が質問を始めると、司会役の上村室長がマイクを握り「簡潔にお願いします」「簡潔にお願いします」と質問を妨げるかのように、何度も繰り返した。

会見という公の場で、政府側が特定の記者を標的とするかのような行動に出るのは、異例だ。

望月記者は2017年6月、加計学園問題で「首相のご意向」と書かれた文書が存在した問題で、当初は「怪文書」と言って取り合おうとしなかった菅氏に23回に渡って質問を続けて食い下がり、文書の公開につながった経緯がある。

新聞労連などでつくるMICは、政府側の動きを「政権に都合の悪い質問をする記者を黙らせようとしている」と強く警戒した。

立ち上がった記者ら

一連の動きを受け、MICは2月18日、抗議の声明を発表し、申し入れ文書の撤回を求めた。

声明では、まず辺野古沖で「赤土が広がっていることは、現場の状況を見れば明白」と指摘し、「それをもとに記者が記者会見で質問することは自然な行為」と訴えた。

そして、首相官邸側の対応を「意に沿わない記者に『事実誤認』のレッテルを貼る卑劣な行為」と批判した。

記者会見とは市民の「知る権利」を保障する場

MICは、続いて記者会見の意義を説明した。

「記者会見は、記者が、会見場に直接足を運ぶことができない市民に代わって、様々な角度から質問をぶつけ、為政者の見解を問いただすことによって、市民の『知る権利』を保障する場です」

「にもかかわらず、記者の質問内容にまで干渉する首相官邸の行為は『取材の自由』や全ての市民の『知る権利』を奪うものであり、断じて容認できません」

望月記者に対する首相官邸の一連の行動は、森友・加計学園問題を皮切りに始まったとして、「メディアの現場で働く私たちは、不公正な記者会見のあり方をただちに改め、市民の『知る権利』を奪う記者弾圧をやめるよう、首相官邸に強く求めます」とした。

壇上に立った望月記者

3月14日、MICが首相官邸前で開いた集会には、報道関係者や市民が集まった。そこに、望月記者も姿を現した。

「メディアが権力に厳しい質問ができなくなったとき、民主主義は衰退します」

望月記者は壇上でマイクを握った。

首相官邸での記者会見では、望月記者だけでなく他社の記者にまで妨害行為が拡がっているといい「この状況を看過することは絶対にできません」と訴えた。

「政府に都合の良い広報の場と化していないか」

「いち記者の質問の背後に、会見に参加できない多くの声なき市民や記者たちの思いや疑問があることを全く想像できていないのか。愕然としました」

「官邸会見が政府にとって都合の良い広報の場と化していないか。1年半以上にわたって見続ける中で、日々私が感じていることです」